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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十七章 剣術大会とメイド大乱
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05 メイド大乱01 発覚。来た、見た、走った

(お詫びと、おしらせ)

投稿、再開します。

中断してしまい、申し訳ありませんでした。

この章の最後まで毎日投稿します。既に予約投稿済みですのでご安心ください。


(人名)

ケイト

王宮のメイド。最強格の一人。『鉄壁てっぺき』のふたを持つ。

ナナシの護衛を、クーリと交代でつとめている。

メイドにファンが大勢おおぜいおり、『ケイト親衛隊』なるものが存在する。

剣術大会が行われているこの日は非番。


カタリナ

王宮のメイド。ケイト親衛隊に所属。

ケイト親衛隊には、前身ぜんしんの『ケイト育成会』の頃から所属。


ローズ

王宮のメイド。ケイト親衛隊に所属。

カタリナとは同期。(メイドもケイト親衛隊も)


カレン

王宮のメイド。ケイト親衛隊に所属。

ケイト親衛隊にはファンクラブ化が進んでから加入。しゅんそく


「何だか……、ケイト様っぽい。」


剣術大会が行われている会場の観客席の一角いっかく

決勝戦を観戦していた王宮のメイドの一人が無意識にこぼしたそのつぶやきに、近くに居たメイドたちはハッとなった。


それは、のちに『メイド大乱たいらん』と呼ばれることになる騒動のまくけであった。



< 王宮のメイド カタリナ視点 >


私たちは、今、剣術大会を観戦している。

王宮騎士団が主催しゅさいする王宮騎士団のための大会だ。

普段なら観戦しに来ることなど無い。

だが今回は、ぜんに『ククラス侯爵領からりょうぐんの代表としてやって来る者たちが面白おもしろたたかかたをする。』という情報が作戦部からもたらされていたので、こうして私たちは観戦しに来ていた。


なるほど。

確かに、ククラス侯爵領からやって来た者たちは面白おもしろたたかかたをする。

対戦相手のかたひじの関節をはずして戦闘不能にするそのたたかかたは、私がやらないたたかかただった。

速攻型の私は、一撃で意識を刈り取るたたかかたをする。

だが、らちな貴族のボンボンなんかを相手にする時は、こういうのもいいかもしれない。

一撃で意識を刈り取ってしまうよりも、関節をはずしてやって長い時間痛い思いをさせてやったほうが教育がはかどるだろうしな。



ククラス侯爵領からやって来た面白おもしろたたかかたをする者たち。彼らは決勝戦までがった。

きっと、決勝戦でも彼らが勝つのだろう。長剣を振り回す王宮騎士団の連中とはあいしょうが良いしな。

あの様な剣を使わないたたかかたをする者たちに剣術大会の優勝をさらわれて、王宮騎士団の連中がどんな顔をするのか今から楽しみだ。


そんな事を考えながら決勝戦を観戦していたのだが……。

その一試合目で予想外の出来事が起きた。

優勝候補(笑)の王宮騎士団の代表チームの先鋒せんぽうが、長剣をさやごと投げ付けて相手を倒してしまったのだ。

その、あまりの出来事に、会場がしずまりかえった。

私もおどろいた。

よりによって王宮騎士団の代表として出場している者が、この『剣術大会』の決勝戦のたいで長剣をさやごと投げ付けて相手を倒してしまうとは……。

だが、負けたくない一心いっしんで長剣の一番良い使つかみちを必死に考えた結果、『あつかにくい長剣なんて相手に投げ付けるのが一番だ!』と、その事実にやっと気付いたと考えてしまったら、吹き出すのをこらえるのが大変だった。(プルプル)


決勝戦の二試合目。

この試合では、長剣を相手に投げ付ける事はしなかった。

さすがに『あれはない。』と周囲の者たちにめられたのだろう。

チームの大将たいしょうらしき男が顔をにして怒鳴どなっていたのが、ここからでも見えたしな。プププッ。


長剣を投げ付ける事はしなかったが、二試合目も王宮騎士団の代表チームの先鋒せんぽうが勝った。

腕をつかみに来る相手の手をはらけながら、すきを突いて相手のアゴをアッパーで打ち抜いて。

確かに、ああして腕をつかみに来る相手にはアッパーが有効だな。向こうからやって来てくれるのだから、そこにタイミングを合わせるだけでいいのだしな。

でも、長剣を使わないのはどうしてなのだろう? 『剣術大会』の決勝戦に王宮騎士団の代表として出場しているのにな。

だが、あの男が長剣を使おうとしないのも理解できる。

長剣は振ったあとに大きなすきができてしまうし、対戦している相手はそのすきを突くことで勝ち上がってきたのだからな。

まぁ、王宮騎士団が主催しゅさいする王宮騎士団のための大会で、王宮騎士団が制式せいしき装備としている長剣の使えなさを彼ら自身の手でアピールするのも、また一興いっきょうだけどなっ。ププププッ。


三試合目。

この試合も王宮騎士団の代表チームの先鋒せんぽうが勝った。

今度はハイキック一発で。

なかなかごとなハイキックだった。

王宮騎士団にも、あれ程の使つかが居たのだな。

あいわらず長剣を使わない事には笑ってしまうが。プププププッ。


あー、そろそろ腹筋ふっきんが痛くなってきた。

見ているだけの私に、これ程までのダメージを与えてくるとはっ。

やるな、王宮騎士団(笑)!(プルプルプルプル)


そんな事を考えてプルプルしていた時……。

私の耳にそのつぶやきが聞こえてきた。


「何だか……、ケイト様っぽい。」


その『思わずくちからこぼれた』といった感じの小さなつぶやき。

それを耳にした私は、無意識にうしろをかえっていた。

そのつぶやきは前のほうから聞こえてきた。それなのにうしろをかえったのは、本当に無意識だった。


だが、かえった先に……。

観戦していたはずの作戦部の課長たちの姿が見えない事に気が付くと、私はそこに向かって走り出していた。



私よりも先に走り出していたらしい同期のローズが、課長たちが座っていたイスに手を当てるのが見えた。

そして、こちらをかえって言う。

「もう冷たい!」

それを聞いた私は、走るいきおいをそのままに観客席の通路をがる。

出口へ向かいながら、途中で確認の為に遠くにあるひん席を見る。

すると、そこには国王陛下しか座っておられなかった。

王妃様も姫様もナナシ様も、そこにはいらっしゃらなかったのだ。


それを見て、私は確信した。


先ほど、たいの上でごとなハイキックを相手のテンプルに打ち込んでいた”彼”は、ケイト様の関係者だ。

それも……。

おそらく兄か弟だ。

今思うと、横顔が似ていた気がするし。


ケイト様に兄弟は居ないはずだった。

願望のもったそんなうわさが立つたびに、何のうらけも得られないまま消えていったのだから。これまでに何度も。


だが……。

たいの上に勝ち残っている”彼”がケイト様と無関係であるならば、課長たちも王妃様もこの会場から立ち去ったりはしていなかっただろう。

『イスが既に冷たかった』ということは、課長たちは”彼”がたいがった時にこの会場から立ち去っていたのだろう。ときおなじくして王妃様たちも。

これまで巧妙こうみょうかくとおしていたケイト様の兄弟の存在が、私たち『ケイト様親衛隊』の者たちにバレてしまうと考えて。


めなければならないだろう。”彼”の正体しょうたいを。


走りながら、私は考える。

めるなら誰がいい? 誰なら(つか)まえられる?

ナナシ様もいらっしゃらなかったので、王妃様はナナシ様の転移魔法でこの会場から立ち去ったにちがいない。

ならば、一番(つか)まえやすいのは、執務室に居るはずのメイド長か?


そんな事を考えながらもずっと走り続けていた私は、会場を飛び出した。

そして、私のとなりを走る同期のローズと走りながら話し合う。

「メイド長を(つか)まえよう!」

「あと、作戦部長も!」

”彼”の正体しょうたいを知っていそうな幹部たちの中で、会場に居た作戦部の課長たちには既に逃げられてしまっている。

逃げられた課長たちよりも、会場に来ていなかったメイド長と作戦部長のほう(つか)まえやすいだろう。

その二人なら、間違いなく”彼”の正体しょうたいを知っているはずだしな。


私とローズは走り続ける。

背後からさらに10人ほどが駆けて来る気配を感じながら。


走り続ける私たちに、しゅんそくのカレンが追いついた。

彼女に、走りながら指示をする。

「私たちは、メイド長と作戦部長を押さえに行く!」

「はい!」

「親衛隊員に声を掛け、王妃様と姫様とナナシ様の部屋に向かわせろ! あと、メイド1部にも!」

「! はい!」

「『ふたちを取り込めるだけ取り込め! それと、第11食堂を押さえろ。今日は使う予定が無い。そこに本部を置け!」

「はい!」


走りながらさらに打ち合わせを続けた私たちは、走るいきおいをゆるめぬまま建物に飛び込む。

そして、目的地を目指して階段をがった。 



途中でローズとカレンとわかれて、私はメイド長の執務室へ向かって走る。


執務室の前で急停止。ノックをしてからガバッとドアを開けて中に入る。

メイド長は……、居ない。

執務机の向こうでひまそうにひかえていた護衛のメイドに訊く。

「メイド長はどちらに?」

「王妃様に呼ばれて席をはずされています。」

くっ。遅かったか。

だが、できるだけ情報が欲しい。

執務室ここでメイド長をそくできなかった事にあせりながら、だいなことをもう一度訊く。

「どちらに?」

「ここに来たメイドに、一言ひとこと暗号めいたことを言われて……。私たちにはここに残るように言ってから、お一人でここを出て行かれました。ですので、何処どこへ行かれたのかは分かりません。」

ぬう。

だが、暗号が使われたらしいということは『想定していた重大な事態が起きた』ということだ。

これで、ますます”彼”がケイト様の兄弟だといううたがいがつよまったな。


私は執務室から飛び出すと、本部を置くように指示した第11食堂に向かった。



階段をりて廊下を走り、第11食堂に飛び込む。

食堂内にはケイト様親衛隊の隊員が数人居て、壁際かべぎわに立てた衝立ついたてに大きな紙を貼り付けているところだった。

私は、そんな彼女たちに向かって言う。

「メイド長は所在不明! 王妃様から呼び出し! それと、暗号が使われた模様!」

「おおっ!」、「暗号が?!」、「これで、ますます……。」、「今回は間違いないのでは?」

そんな声が上がるなか、一人がハケにインクを付けて貼られたばかりの大きな紙に書く。『メイド長 所在不明 王妃様から呼び出し 暗号が使われた模様』と。


暗号が使われたことにケイト様の兄弟の存在を確信して盛り上がる隊員たち。

そんな彼女たちをながめつつ、私は呼吸をととのえながら他の情報が来るのを待つ。

すると、作戦部長を押さえに向かっていたローズがんで来た。

「作戦部! 幹部全員所在不明! 作戦部長は王妃様から暗号で呼び出し! 課長たちは戻って来ていない!」

「はいっ。」

その情報も大きな紙に書き加えられた。


作戦部長もつかまえられなかったか……。

そして、メイド長も作戦部長も王妃様から暗号を使って呼び出されている。

どうやら、今回は本当に”当たり”らしい。

何としても誰かをつかまえて、”彼”についてめなければっ。


我々が執務室に行くよりも先に王妃様に呼び出されてしまっていて、メイド長も作戦部長もつかまえられなかった。

だが、その呼び出した王妃様は何処どこにいらっしゃるのだろうか?

私たちが会場からここまで走って来たにも関わらず、それよりも先に呼び出すことが出来ていることを考えれば、王妃様はナナシ様の転移魔法でこちらに戻って来たとみて間違いないだろう。

転移魔法は何処どこにでも行けるほど便利な魔法ではなかったはず。ならば、王妃様はナナシ様の部屋にいらっしゃる可能性が高いだろう。

そう考えた私は、ナナシ様の部屋に向かったはずの隊員たちが情報を持って来るのを待たずに、そこへ向かうべく本部を出た。


本部を出て、すぐ。

向こうから廊下を走って来るメイドの姿が見えた。

隊員が何か情報を持って来たのだろう。

壁際かべぎわに寄って彼女を通してやり、私はその場で、彼女が報告する内容に耳をかたむける。


「隊長発見! 王妃様のっ、部屋の前!」


それを聞いた私は、王妃様の部屋に向かってした。

隊長(=ケイト様親衛隊の隊長=作戦部作戦三課の課長)ならば、”彼”の正体しょうたいを知っているはずだ。隊長は、ケイト様の従姉いとこでもあるのだしなっ。


私は、隊長に会って”彼”の正体しょうたいめるべく、王妃様の部屋に向かって廊下を走るのだった。


(設定)

(『ケイト親衛隊』の名称のらぎについて)

『ケイト親衛隊』と『ケイト”様”親衛隊』が混在していますが、『ケイト親衛隊』が正式名称で『ケイト”様”親衛隊』は隊員たちが呼んでいる名称です。


(裏話)

”普通でないメイド”を統括とうかつしているメイド1部の部長も、ケイトの兄弟の存在を把握している可能性があります。

そのメイド1部の係長級には『ケイト育成会』に所属していた武闘派の先輩たちが多く居て、その先輩たちに、今のファンクラブと化しつつある『ケイト親衛隊』はよく思われていません。

カレンがカタリナから「あと、メイド1部にも!」と言われた時の返事が、「! はい!」となってしまっていたのは、『え? 行きたくないんだけどっ!』とカレンが思ったからです。なお、カレンは他の者に行かせた模様。

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