04 剣術大会04end 決勝戦 衝撃(笑撃)の大将(大笑)戦。そして…
剣術大会の決勝戦。
優勝候補の王宮騎士団の代表チームと対戦するククラス侯爵領軍の代表チームは、ここまで体術のみで勝ち上がってきた。
剣術大会では異例の戦い方をする、そんなククラス侯爵領軍のチームに対して、王宮騎士団の先鋒の男も体術で応戦した。
王宮騎士団の先鋒の男が四連勝し、残る大将を倒せば優勝が決まる。
だが、先鋒の男がここまで一度も剣を抜かずに勝ち続けたことに、王宮騎士団の代表チームの大将を務める副団長のワイトは大いに不満だった。
『この『剣術大会』の決勝戦が、一度も剣が抜かれること無く勝敗が決してしまっていい訳が無い!』
ワイトは、王宮騎士団の真の実力を自らの手で見せ付けるべく、力強く立ち上がるのだった。
< 王宮騎士団 副団長 ワイト視点 >
ここは俺が出て、我々王宮騎士団の真の実力を知らしめなければならないだろう!
俺はそう決意し、力強く立ち上がった。
俺様が、我々王宮騎士団の真の実力を見せ付けるのだ!
ここまでの恥ずかしい戦い方を吹き飛ばす様な、美しく力強い剣技を披露してな!!
そうとも。
我々王宮騎士団の証で魂とも言えるロングソードで敵を美しく打ち負かしてこそ、我々王宮騎士団の栄光が光り輝くのだ!!
俺は、舞台の上に勝ち残っていた頭のおかしな男を呼び寄せると、棄権させた。
次鋒、中堅、副将にも棄権させて、大将である俺が舞台に上がって行く。堂々とな。
俺様が堂々と舞台の上に姿を現したのを見て、観客たちが歓声を上げた。
うむ。やはり、この舞台は良い。
俺様の美しく力強い剣技を披露するのは、やはりこういう場所でなければなっ!
特に今日は、陛下の御前でもあるのだ!
これ以上の舞台はあるまい!
うむっ!
俺様がっ! このワイト様がっ!
陛下の御前でっ! この観客たちの目の前でっ!
我々王宮騎士団の真の実力を見せ付けるのだっ!
王宮騎士団の副団長であるこのワイト様がっ、鍛え上げた美しく力強い剣技を披露してなっ!!
小賢しい領兵どもには、俺様の引き立て役になってもらうぞ!
決勝の舞台まで勝ち上がってきた事は褒めてやろう。
だが、領兵ごとき、我々王宮騎士団の引き立て役でちょうどいいのだ!
ワッハッハッハッハッ!
対戦相手を圧倒し続け、大将までをも舞台の上に引きずり上げた、ワイトが言うところの『頭のおかしな男』。
ワイトは、勝ち残っていた彼を始め、他のメンバーたちにも棄権させると、自らの美しく力強い剣技で王宮騎士団の真の実力を知らしめるべく、舞台の上に上がったのだった。
この剣術大会、最後の試合が間も無く始まる。
俺は、大勢の観客の目が俺様に集まるのを感じながら、この大会の最後を締めくくる最高の試合が始まる瞬間を待つ。
「始め!!」
審判のその声と同時に、俺様は力強く飛び出した。
そして、その勢いを維持したままロングソードを素早く抜き、相手が間合いに入るや否や、鋭く振り下ろす!
「ぬん!!」
ビュン!!
だが、相手は一歩下がり、俺のロングソードは空を切った。
「ちょこざいな!」
そう口にしながら、俺は、自分の腕に違和感を感じていた。
俺様の鍛え上げられた自慢の剛腕が、まるでロングソードをずっと振り続けた後の様にプルプルとしていたのだ。
何故かは分からぬが、今は、そんな事を気にしてはいられん。
俺は、グッとグリップを握り締め、美しく力強い一撃を振るったロングソードを引き戻す。
すかさず二撃目を……。
と、二撃目を振るう体勢に入ろうとしたところで、相手に右腕をガッと掴まれた。
しまった!
俺が、掴まれた右腕を引き抜こうとするよりも早く、相手は、俺の右肘を極めながら、体ごとぶつけて来る様にして俺の腕を下からグイッと持ち上げてくる。
ぬぐっ?! 肩がっ?!
ゴキッ
「あいったー!」
ガッ グイッ
ゴキッ
「あいったー!」
利き腕の右肩だけでなく左肩も外された。
くそっ!
だが、このままやられはせんぞ!
両肩を外された痛みに耐えながら、俺は蹴りを繰り出す。
だが、これも空を切った。
「おのれ!」
俺は諦めんぞ!
我々栄光ある王宮騎士団が、領兵ごときに負ける訳などあるものか!
俺は、両肩が痛むのを無視して、相手を追いかけた。
観客たちが見詰めるなか、舞台の上で追いかけっこが始まった。
笑い声が上がるなか、審判は試合を止めようかどうしようか悩んでいた。
元気に相手を追いかけ回しているワイトだが、既に両肩を外されてしまって両腕をダラリとさせている。
しかし、彼の右手はロングソードをグッと握ったまま手放しておらず、また、闘志も失っていない。
だが、ワイトに”勝ち”があるとは思えなかった。
『やはり、試合を止めるべきだろう。』
そう思って試合を止めるべくワイトに駆け寄った審判に、ワイトが言い放つ。
「こいつらの様なおかしな戦い方をする奴らを、この剣術大会で優勝させる訳にはいかんのだ!!」
もっとも、ワイトがそんな事を言ったところで、『お前の今の戦い方はどうなんだ?』と審判を呆れさせるだけであったのだが。
ワイトのあまりにもアレな発言に審判が呆れて足を止めてしまった為、舞台の上の追いかけっこは、そのまま続くことになってしまった。
両肩を外されたワイトは、気合いで持ち続けているロングソードを引きずりながら、噛み付かんばかりの形相で対戦相手を追いかけ続ける。
実際、相手に噛み付こうとしているのかもしれない。
そんなワイトを見て、観客たちは大笑いしていたのだった。
貴賓席でこの試合を観戦している国王。その斜め後ろに控える王宮騎士団の騎士団長は、顔を真っ赤にしながらも何処か諦め顔になっていた。
彼は、『もういい。だから、早く終わってくれ……。』と、心の底からそう思っていたのだった。
舞台の上で繰り広げられていた追いかけっこ。
観客たちが大笑いするなか、しばらく続いていたソレが、唐突に終わりを迎えた。
対戦相手を追いかけ回していたワイトが方向転換しようとした際に、気合いで持ち続けていたロングソードに足を絡めて転んでしまったのだ。
ガッ バタッ
「! そこまで!!」
試合を止める機会を窺っていた審判が、ようやく、そこで試合を止めた。
「まだだ!! まだ終わっていない!!」
だが、ワイトはそう言って立ち上がろうとする。
イモムシの様に体をグネグネさせながら。
そんなワイトを、舞台の下で控えていた副将たち三人が舞台の上に駆け上がって取り押さえる。
さらに他の騎士団員たちも加わり、皆でワイトを抱え上げて舞台から降りると、そのまま何処かへと運び去って行ったのだった。
こうして剣術大会の決勝戦が終わった。
剣がまともに活躍する場面が無かった……。それどころか、鞘ごと相手に投げ付けた場面が一番剣が活躍した場面だったという、異例としか言い様がない『剣術大会』の決勝戦であった。
そんな、異例としか言い様がない剣術大会の決勝戦。
観戦していたククラス侯爵は、自身が送り出した代表チームが、大会史上初めて王宮騎士団を優勝者の地位から引きずり下ろした事を喜びつつ、無様な真似を晒した王宮騎士団の副団長に笑いが止まらなかった。
そんな彼は、王宮騎士団の騎士団長のツラを拝んでやろうと、後ろの貴賓席を振り返った。
ククラス侯爵が貴賓席を見上げると、国王陛下に騎士団長がオロオロしながら必死に言い訳をしていた。
その様子を見てククラス侯爵は、『あの無様な副団長の戦いぶりに、一体、どんな言い訳があるのでしょうか? サッパリ分かりませんねぇ。ププププッ。』と、そう腹の中で笑っていたのだった。
そんなククラス侯爵が、ふと、気付く。
貴賓席に国王陛下しか居ないことに。
国王陛下と一緒に観戦していたはずの王妃様と王女様。それと王女様の夫のグラストリィ公爵の姿がそこには無かったのだ。
『おや? いつから居なかったのでしょうか?』
まったく気付いていなかったククラス侯爵はそう不思議に思ったのだが、すぐに気にしなくなった。
ククラス侯爵に見られていることに気付いた騎士団長が、顔を真っ赤にして睨みつけてくる様子が、とてもとても愉快だったので。
国王もククラス侯爵も知らなかった。
王妃様たちが席を外した、その理由を。
それと…。
この時、ケイト親衛隊に所属するメイドたちが王宮内を駆けずり回り、姿を消した王妃様とメイド長たちを問い詰めるべく探し回っていたということも。
(お詫び 更新延期について)
やむにやまれぬ事情により、書く時間が取れません。
毎日更新を宣言しておきながら申し訳ありまりませんが、区切りの良いココで、一旦、更新を停止します。
続きは、八割くらい書き上がっておりますので、書く時間が取れ次第、投稿を再開いたします。
申し訳ありません。




