03 剣術大会03 決勝戦 衝撃(笑撃)の先鋒02
剣術大会の決勝戦。
その最初の試合は、あっという間に決着が付いた。
王宮騎士団のチームの先鋒が、相手にロングソードを鞘ごと投げ付け、ぶちのめすことで。
チームの大将を務めるワイトは、そんな彼に向かって怒鳴るのだった。
< 王宮騎士団 副団長 ワイト視点 >
俺は、勝ち残りで舞台の上に残っている頭のおかしな男に向かって舞台の下から怒鳴る。
「ちゃんと剣を使わんか!!」
「? 使いましたよー?」
まるで、俺の方がおかしな事を言っているかの様に、そう言い返してくる頭のおかしな男。
ロングソードを鞘ごと相手に投げ付けるのは『使う。』って言わねぇんだよ!! そんなことも分かんねぇのか!!
この様な場面でなければ、舞台の上に駆け上がって鉄拳制裁しているところだ! 奴にはいつも躱されて、当てられたことなど一度も無いが。
俺は、今にも舞台の上に駆け上がろうとする自分の足をグッと両手で押さえ付けながら、奴に向かって怒鳴る。
「ちゃんと剣を使え!! 投げ付けるのは禁止だ!!」
「? それ以外に役に立つ使い方ってありましたっけー?」
あの野郎は、そう言い返してきやがった。心底不思議そうな顔をしながら。
テメェは、俺の忍耐力を試してやがるのかっ!!
我々王宮騎士団の証で魂とも言えるロングソードに、何たる侮辱かっ!!
厳しい訓練の果てにロングソードを使いこなしてこそ、胸を張って王宮騎士団の騎士だと言えるというのに!!
俺は、ミシミシと鳴る指を腿にめり込ませて、舞台の上に駆け上がろうとする足をグググーーッ!と押さえ付ける。
くそう!
あの頭のおかしな男には何を言っても無駄だ! 頭がおかしいのだからなっ!
だが、今は、奴に勝ち続けてほしい。既に舞台の上に上げてしまったのだしな。
それに、これまで、あの頭のおかしな男しか、あのおかしな技を使うおかしな奴らに勝てていないのだ。さっきのアレの是非はともかく。
「とにかく! 剣を相手に投げ付けるのは禁止だ!!」
これだけは、奴にしっかりと言っておく。
せめて、これだけは、奴に徹底させなければなっ!
対戦相手の次鋒が舞台の上に上がり、奴と距離を空けて相対する。
二試合目が間も無く始まる。
「始め!」
審判の試合開始の声と共に、相手が駆け寄って来る。
一方、奴はその場から動かずに待ち構える。両手をダラリと下げたまま、腰に下げたロングソードに手を伸ばすことなく。
「何をしている?! 剣を抜け!」
俺は、そう怒鳴った。
だが、奴は両手をダラリと下げたままで、ロングソードに手を伸ばそうとしない。
相手がロングソードの間合いの内側まで入って来た。
だが、それでも奴は両手をダラリと下げたままだった。
そんな奴に対して、相手が腕を掴みに来る。
その手を、奴はパシリと手で払う。
払う。払う。
「何をしている! 剣を抜け!!」
俺は、もう一度、そう怒鳴った。
シュッ!
「ガビャ?!」
バッタリ
「それまで!」
相手の次鋒の男が、これも仰向けになって倒れた。
奴に、アゴを下からすくい上げる様に殴られて。
二試合目も奴が勝った。
腰に下げているロングソードに手を伸ばすこともなく。
俺は、舞台の上に勝ち残っている頭のおかしな男に向かって怒鳴る。
「剣を使わんか!!」
「………………。」
奴はこちらを向いたが、何も言わずに無言だ。
だが、その表情を見ると、内心で俺の忍耐力の限界を試す様なセリフを言っている事は間違いないだろう。
俺は、またもミシミシミシッ!と鳴る指を腿にめり込ませて、舞台の上に駆け上がろうとする足をグガガガーーッ!と押さえ付けた。
あの野郎。
後で、絶対に鉄拳制裁してやる!
次の試合も、その次の試合も、俺が舞台の上に上げた頭のおかしな男が勝った。
相手のテンプルの辺りを打ち抜く、派手な蹴り技で。
これは、『剣術大会』の決勝戦だというのに……。
あの野郎、剣術大会の決勝戦で我々王宮騎士団の代表として戦っているというのに、剣を使うどころか、手すら使わないとはどういうことだっ!
さんざん『剣を抜け!!』と言っていた俺への当て付けかっ!
やはり、あの野郎には鉄拳制裁が必要だなっ!
だが、あの野郎は、あのおかしな技を使うおかしな連中を倒し続けてくれた。我々王宮騎士団の代表として。
それはいい。
それはいいのだが、あの野郎の戦い方は、王宮騎士団の騎士として、どうにも納得し難い。
イライラする。ムカムカする。心が大きく掻き乱される。
これは、我々王宮騎士団がその実力を国中に知らしめる為の『剣術大会』の決勝戦だというのにっ!!
舞台の上に、対戦相手の大将が上がるのが見えた。
あいつを倒せば、我々の優勝だ。
だが……。
このまま、あの頭のおかしな男が大将まで倒して優勝してしまっていいのか?
あの野郎は、絶対に剣を使わないぞ。
この『剣術大会』の決勝戦が、このまま一度も剣が抜かれること無く勝敗が決してしまって、本当にいいのか?
いや! いい訳が無い!
ここは俺が出て、我々王宮騎士団の真の実力を知らしめなければならないだろう!
俺様の美しく力強い剣技を披露してな!
あの頭のおかしな男でも圧倒できる相手なのだ!
所詮は領軍の兵士。我々王宮騎士団の敵ではなかったのだ!!
そうとも!
俺は、一体、何を恐れていたというのだ!!
俺は、我々王宮騎士団の真の実力を自らの手で見せ付けるべく……。
力強く立ち上がった。
次回、衝撃の大将戦!
いや、笑撃の大笑戦?




