02 剣術大会02 決勝戦 衝撃(笑撃)の先鋒01
< 王宮騎士団 副団長 ワイト視点 >
『いずれ役に立つ時がある。』
そう国王陛下に言われたので王宮騎士団に籍を置いているという、よく分からない男が騎士団に居る。
陛下の口利きなのだ。きっと何処かの貴族家の者なのだろう。
そいつが頑なに家名を言わないので、何処の家の者なのか誰も知らないのだがな。
王宮騎士団に籍を置いてはいるものの、あの男の扱いには少し困っている。
王宮騎士団の制式装備であり魂とも言えるロングソードの素晴らしさを理解できない頭のおかしな男で、ロングソードを習熟する訓練に参加しようともしないばかりか、一日中、屋内訓練場に篭もって格闘術の訓練をしている。
陛下の口利きでなければ、とうの昔に追い出されていただろう。
だが、今回はちょうどいい。
決勝戦の相手の、剣も使わずにおかしな技ばかりを使うおかしな奴らには、こちらも、頭のおかしな奴をぶつけてやろう。
奴が、陛下の御前で無様な真似を晒してくれれば、追い出す為の説明をする手間も省けるしな。
訓練着のまま連れて来られたソイツに、先鋒の奴が着ていたデカいプレートメイルを慌ただしく被せる様に着せて、ロングソードを帯剣させる。
何も事情が分からないままブカブカのプレートメイルを着せられて、キョロキョロと周囲を見回しているソイツに、副将から状況を説明させる。
状況を説明させている内に試合開始の時間になってしまい、十分な指示を出せないまま、ソイツをこれから始まる決勝戦の舞台に送り出すことになってしまった。
舞台の上でも相変わらずキョロキョロしているソイツの姿に呆れていると、対戦相手の先鋒の男も舞台の上に上がった。
舞台の中央で審判を挟んで両者が並び、貴賓席にいらっしゃる国王陛下御一家に向かって一礼する。
舞台の下の我々も一列に並んで一礼し、いよいよ決勝戦が始まる。
俺は、アイツが『無様な真似を晒す』ことに八割、『勝つ』に二割くらいの割合で期待しながら、舞台を見上げる。
舞台の上で相対する両者の姿を見て……。
俺は、対戦相手が使う、あのおかしな技を打ち破る方法を、何も思い付けていなかった事を思い出した。
い、いや、我々は王宮騎士団最強なのだ!
これまで、厳しい訓練に明け暮れてきたのだ!
そんな我々が、領兵ごときに負けるものか!
そ、そうとも。
我々が、領兵ごときに負ける訳など無いのだ!
俺は、自分にそう言い聞かせるようにして、不安な気持ちを吹き飛した。
舞台の上では双方の先鋒が距離を空けて相対し、観客たちは声を潜めてその様子を見詰めている。
会場が静まり返るなか、俺も押し黙って、審判が試合開始を告げるのをジッと待つ。
「始め!!」
その、審判の試合開始を告げる声と共に、歓声がドワッ!と上がった。
サッ ブンッ!!
バキャッ!
「ガハッ!」
バッタリ
試合開始早々。
駆け寄って来た対戦相手の男が、バッタリと仰向けになって倒れた。
舞台の、ちょうど真ん中あたりで。
審判の『始め!!』の声と共に上がっていた歓声が止み、再び会場が静まり返った。
舞台の上で起こった、その”あまりの出来事”に。
「…………。ハッ。そ、それまで!」
ビックリして呆然と立ち尽くしていた審判がそう声を上げて、この試合に決着が付いたことを宣言した。
その審判の声を……。
俺は、眩暈を覚えながら聞いていた。
奴が勝った。
急遽、俺が先鋒として舞台に上げた、頭のおかしな男が。
対戦相手の、おかしな技を使うおかしな奴に何もさせずに。
それどころか、相手がロングソードの間合いに入る、そのはるか前で。
だが、俺は、眩暈が止まらない。
『俺の副団長の地位は、もうダメかもしれない。』と、そう思って。
勝ったのはいい。
そう。
勝ったのはいいんだ。
だが……。
いくらなんでも、”勝ち方”ってものがあるだろう!
だが、誰が想像できる?
ロングソードを……。
我々の王宮騎士団の証で魂とも言えるロングソードを……。
鞘ごと相手に投げ付けて、ぶちのめすだなんてっ!
そんなの、誰が想像できるって言うんだよっ!!
これは、剣術大会の決勝戦なんだぞっ!
我々王宮騎士団が、その実力を如何なく発揮して、国中に我々の実力を知らしめる為のっ!
それなのにっ!!
俺は、鞘に入ったままのロングソードを拾い上げる頭のおかしな男の姿を、色々な感情を押さえ込みながら眺めていたのだった。
(設定)
(着せられたプレートメイルがブカブカだった件について)
本来の先鋒の男の体格が大きかった為にプレートメイルがブカブカでした。ワイトが言うところの『頭のおかしな男』の体格は、標準的な大きさです。
(王宮騎士団とグラム王国軍の剣の呼称の違いについて)
軍では「長剣」、「小剣」と呼称していますが、王宮騎士団では「ロングソード」と呼んでいます。だって、その方がカッコイイからっ。
軍では「長剣」を、その扱い難さから兵士に使わせていません。その為、王宮騎士団が何と呼称していようとも気にならないのです。
グラム王国軍の最高指揮官でもあるククラス侯爵は、王宮騎士団が使う剣を「長剣」ではなく「ロングソード」と呼称していますが、内心では『ロングソード(プー、クスクス)』と思っています。
軍では、「長剣」ほどの長さの剣はすべて「両手剣」にしていて、盾と併用する時は両手剣を片手持ち。あるいは短槍を持たせています。