01 剣術大会01 準決勝の舞台で
(大会の説明 人名など)
剣術大会
王宮騎士団が主催する大会。
王女シルフィの結婚式と、その少し前に起きた王宮騎士団の不祥事などで一時開催を見送られていたが、今回、国王御一家の御臨席の下、開催されることになった。
会場は、王宮の敷地内に在る王宮騎士団の大きな訓練場。
試合形式は五人対五人の団体戦。勝ち抜き戦形式で相手チームの全員を倒した側が勝利チームとなる。
武器は何を使用しても構わないが、刃を潰した物を使用する。
ディレック
ククラス侯爵領軍に所属する兵士。23歳。
今回の剣術大会にククラス侯爵領から派遣されるチームの大将として初めて参加する。
ワイト
王宮騎士団の副団長。38歳。
複数参加する騎士団員のチームの中の最強チームの大将を務める。
前回大会優勝チームの一員。
< ククラス侯爵領軍の代表チーム 大将 ディレック視点 >
ゴキッ
「グアァッ!」
ガチャン ズサッ
俺が対戦相手の騎士の腕を取って肩の関節を外してやると、その騎士は痛みに顔を歪めながら膝をついた。
「……それまで!」
剣を落としてその場に蹲った騎士が立ち上がる気配をみせないのを見て、審判がそこで試合を止めた。
この試合にも完勝した俺たちは、とうとう決勝戦まで勝ち進むことになってしまった。
王宮で開かれている、この『剣術大会』の。
歓声と少なくないざわめきを聞きながら、俺は……。
『俺たち、ここまで一度も剣を抜いていないんだけど、本当にこれでいいのかな?』と、腰に一応下げている小剣を気にしながら、不安な気持ちになるのだった。
俺は、ただの兵士だ。
『自分が生まれ育ったグシククの街を守るんだ。』と、ただ、そう思って領軍に入っただけの。
剣や槍に才能があった訳でもなかった。まぁ、今は少しは使える様になったが。
でも、半年ほど前には、盗賊の討伐に行って相手に何もさせてもらえずに惨敗したことだってあったのだ。
だけど……。
もし、あの盗賊の討伐に行った時に肩の関節を外されていなければ……。そして、その後、領主様に盗賊の生け捕りを直訴していなければ……。
いや、そもそも、盗賊相手に惨敗した時に殺されていたならば……。
俺は、こうして王宮に来ることも、この様な舞台に立つことも無かっただろう。
あの思い出したくもない酷い出来事を切っ掛けに、俺の人生は大きく変わったと思う。
領主様に期待されてこの大会に派遣されたこともそうだが、恋人もできたしな。
この半年ほどの間に自分に起きた大きな変化を何とも言えない気持ちで振り返りながら、俺は、舞台の上で仲間たちと一列に並んで、貴賓席にいらっしゃる国王陛下御一家に向かって一礼した。
そして、貴賓席の手前の席にいらっしゃる領主様が笑顔で拍手してくれているのを見て、ホッとしながら舞台から降りたのだった。
< 王宮騎士団 副団長 ワイト視点 >
アイツらが俺たちの決勝戦の相手かっ!
おかしな技を使いおって! クッソ忌々しい!
奴らはこの剣術大会を何だと思っておるのかっ!
領兵ごときが出しゃばりおって!
領兵など、我々王宮騎士団の引き立て役を務めておればいいのだ!
それなのに、剣も使わずにおかしな技だけで決勝まで勝ち上がりおって!
我々を虚仮にするのも大概にしろっ!!
我々王宮騎士団が主催する、我々王宮騎士団の為の、この剣術大会。
あんな奴らに優勝を攫われる訳にはいかん!
だが、奴らの実力が侮れんことも、また事実。今の試合で大将を務めていた奴の実力は我々が一番よく知っているのだからな。
まさか、何もさせてもらえずに負けてしまうとは……。
お陰でチームの者どもが、負けてしまった時のことを考えてビビッてしまっている。
くそう。
我々は、あんなおかしな奴らに負ける訳にはいかないというのに!
これは、少々マズイかもしれん。
決勝の舞台で万が一にも不覚を取るようなことになれば、せっかくここまで登り詰めた今の地位を失いかねん。
陛下のお傍で説明役をしている騎士団長が、こちらをすごい形相で睨んでいるしな。
だが……。
どうすれば、あのおかしな技を使う奴らをねじ伏せられる?
どうすれば、あのおかしな技を打ち破れる?
一体、どうすれば……。
俺は考える。考える。考える。
決勝戦の開始まで、あまり時間が無い。俺は、焦りながら考える。
だが、奴らのあのおかしな技を打ち破るイメージなど、まったく湧いてこない。
それどころか、先ほどの試合の様に、まったく何もさせてもらえずに敗れるイメージしか浮かんでこない。
あのおかしな技を打ち破るには、一体、どうしたらいいんだっ?
何とかしなければならないんだ!
あの、おかしな技を!
考えて、考えて、考えて……。
俺は、ふと、少し別の事を思い付いた。
『そうだ。おかしな技を使うおかしな奴らには、こちらも、”おかしな奴”をぶつけてやろう。』と。
俺はすぐに、近くに控えていた騎士団員に命じる。
「オイ! アイツを連れて来い! あの頭のおかしな野郎だ! 今すぐここに連れて来るんだ! 急げ!」
俺は、王宮騎士団のお荷物になっている”あの男”を、あのおかしな技を使う奴らに当てる事に決め、すぐに連れて来るように呼びに行かせたのだった。
(設定)
(完勝したと言いつつ、勝ち抜き戦形式なのに大将のディレックまで試合に出ているのっておかしくない?)
この準決勝の試合、ディレックは次鋒として出場しました。大将のところまで順番が回って来てくれないので。
副将が先鋒として出場して三勝した後に棄権して、次鋒として出場したディレックが二勝して完勝しました。
(剣術大会の説明の補足)
”剣術”大会という名前なのに使う武器に制限が無いのは、以前、大会の存在を知った街の衛兵が参加を希望した際に、衛兵の制式装備が短槍であったことに配慮して武器に関するルールを変更したからです。
ちなみに、そこまでの対応をしたのは、国中から広く参加者を集めて騎士たちの強さを喧伝したかったのと、衛兵たちを騎士たちの引き立て役に使えると考えたからです。
(王宮騎士団主催の剣術大会に対するスタンス)
(グラム王国軍の場合)
『王宮の騎士たちに勝っても自慢にならない。』、『参加させた兵士が活躍した結果、変な貴族にからまれでもしたら可哀想だ。』と、兵士を参加させる意思がありません。何のメリットも無いと思われています。見映えを重視する騎士団と、実力主義の軍とが不仲な事も理由になっていますが。
(領主の場合)
領主によって対応が異なっています。参加を希望する者を送り出すパターンが多いのですが、活躍できそうな腕の立つ者を代表に立てて派遣する領主や、腕が立つものの天狗になっている者を『ぶちのめされて反省してこい。』という意図で派遣する領主も居ます。
(お知らせ01)
この章は、毎日更新します。
更新間隔を空けたら見に来てくれる人が減ったので、更新間隔を狭めれば見に来てくれる人が増える気がしましたので。(小学生並みの発想)
この章の次の章はまだノープランですので、この章が終わったら半月から一月くらい更新できなくなると思います。ご了承ください。
『倒れる時は前のめり。』なのです。(←それ、アカンやつやで)
(お知らせ02)
2021.03.15に500,000アクセスを越えました。ありがとうございます。
完走まで頑張ります。