27end 外伝 ダンジョン内に水場を作ってもらった後のククラス侯爵領の出来事
(ククラス侯爵領について)
グラム王国の東の端の領地。隣国ケイニル王国との最前線。
領地に在る街の名前はグシクク。グシククにはダンジョンが在る。
領主のククラス侯爵は、グラム王国軍最高指揮官を務める。
< ククラス侯爵視点 >
「ふぅ。」
領軍を再編し、上がってきた問題の修正作業を終えた私は、ホッと一息つきます。
グラストリィ公爵にダンジョンの一階層目に水場を作ってもらった後、私は、その水場を守る為に領軍の一部をダンジョン内に駐屯させることにしました。
グシククの街の中に在る唯一の水場なのです。その決断は当然の事です。
ですが、ダンジョン内に兵士を駐屯させた事に安心したのか、時間に余裕のある街の住人たちが『自分たちが使う水は自分たちで確保しよう。』と、ダンジョン内に大勢立ち入るようになってしまった事は予想外でした。
ですが、水で苦労してきた街なのですから、そうした行動をする者が出てしまうのは当然の事だったのかもしれません。『危険だから止めろ。』と言っても止めてはくれないでしょう。
そんな街の住人たちを守る為にさらに兵士が必要になってしまって、結局、領軍の編成に大きな修正が必要になってしまいました。
ですが、その作業も、もう終わりました。
これで、この街に付いて回っていた足枷の一つが消えたのです。
その事を嬉しく思いながら、私は、この街の今後の発展に思いを馳せるのでした。
水場の件がすっかり落ち着き、それからしばらく経ったある日。
『街道で盗賊の被害が増えています。』と、報告を受けました。
何でも、放置することになった井戸の近くに盗賊がアジトを作ってしまったのだそうです。
失敗しましたね。
これまで水を汲みに来ていた兵士たちが来なくなったのですから、そこに居着こうとする盗賊が出てくる事を予測していなければいけませんでしたね。
盗賊たちにとっても水は必要不可欠なのですから。
ですが、やる事が特に変わる訳ではありません。
私は、いつもの様に、討伐隊を派遣する様に部下に指示しました。
後日。
『盗賊の討伐に失敗してしまいました。』と、部下から報告を受けました。
しかも、討伐するどころか、多数の怪我人を出して逃げ帰って来たと言います。
「何をしているか!」
その報告を聞いた私は、思わず、そう怒鳴りました。
隣国ケイニル王国との最前線で、ダンジョンも在るこの領地。
この地を永く治めてきたククラス家は、ずっと領軍の強化に務めてきました。
盗賊ごときに遅れを取るなど、あってはならないのです。
ケイニル王国に知られて領軍の質が低下したなどと侮られるのもマズイですが、こんな事を、普段から関係が良くない王宮騎士団の連中に知られたら、何を言わることになるやら…。
すぐにでも新たな討伐隊を急行させて殲滅させたかったのですが、その気持ちをグッと抑えて、念の為、当事者たちから話を聞くことにしました。
盗賊の討伐に参加した者を10人ほど集めて、彼らから話を聞きました。
聞くと、盗賊たちは碌な武器を持っておらず、木を削り出して自作したと思しき槍を持っていた者が多かったのだそうです。
さらに、防具を身に着けている者が一人も居らず、そんな盗賊たちの様子に少し油断してしまったと言います。
ですが、油断だけが討伐失敗の原因ではありませんでした。
槍を突き出して抵抗する盗賊たちに対して、定石通りに槍をやり過ごして近い間合いに入ったところ、盗賊たちは予想外の行動に出たと言います。
盗賊たちは、すぐに槍を手放すと、腕を掴んできたのだそうです。
そして、その腕を捻ったり、肘の関節を極めたりしながら下から持ち上げる様にされて、肩の関節を外されてしまったのだそうです。
そんな初めて見る盗賊たちの戦い方に苦戦させられ、さらに、逃げた盗賊を追ったところ罠が仕掛けられていて、さらに怪我人を増やしてしまったそうです。
その様にして怪我人を多く出してしまったことで、撤退を決断せざるを得なくなってしまったとのことでした。
今回の盗賊たちは、これまで相手にしてきた盗賊たちとは大分異なる戦い方をする様ですね。
しっかりと対策を立ててから討伐に挑まなければならないでしょう。
私が、万全の準備をしてから討伐に向かう様に指示したところ、討伐に参加した者の一人から要望が出ました。
「おかしな体術を使う者を捕らえたいのですが、許可していただけますでしょうかっ。」
盗賊は死罪と決まっています。それなのに、その様な要望を強く訴える彼の様子が少し気になり、私は、彼に理由を訊きました。
「あの体術を身に付けたいのです。治安維持にも役立つと思いますっ。」
実際、討伐隊が苦戦して撃退されましたしね。その技術を習得できれば、役に立つこともあるでしょう。
それに、我がククラス家の方針も『実力第一』なのです。見映えばかりを重視する王宮騎士団とは違って。
たとえ相手が盗賊であろうとも、優れた技術を持っているのならばそれを手に入れるのを躊躇うべきではないでしょう。
私は、その要望を了承しました。
生け捕りは実力差がなければ難しい為、もちろん『無理をしない範囲で。』と厳命した上で。
討伐隊が街に凱旋しました。
街の住人たちに盗賊の討伐を知らしめるその喧騒を聞きながら、私は執務室で報告書を読みます。
その内容は、凱旋した本隊に先んじて移送されて来た、生け捕りにした盗賊たちから聞き出したものです。
先日苦戦させられた盗賊たちが、これまでの盗賊たちとは大分異なるおかしな戦い方をしていたのは、『武器を頻繁に奪われ続けた為に止む無く編み出したもの』ということが分かりました。
何でも、武器と防具と金目の物を綺麗さっぱり盗まれることが何度もあったのだそうです。
ふむ。
どうやら、盗賊相手に窃盗を働く、凄腕のシーフが居る様ですね。
この情報は国に上げておいた方がいいでしょう。盗賊を相手にしている分には構いませんが、やがて国に被害を及ぼす日が来るでしょうからね。
今回、数人の盗賊を生け捕りにした結果、思わぬ情報が手に入りました。
これまで、こういった盗賊たちの内情を知る機会なんて、滅多に有りませんでした。盗賊たちはその場で討ち取っていましたからね。
今後の対応の仕方を再検討するべきなのかもしれませんね。
後は、生け捕りにした本来の目的である、盗賊たちが使っていた体術の習得ですね。
技術の習得は、すぐに出来るものではありません。気長に成果を待つことにいたしましょう。
あの盗賊騒動から半年以上が過ぎました。
あの時に捕らえた盗賊たちから体術を習った者たち。その彼らの成長ぶりを、私は、今、目の当たりにしています。
彼らと、彼らが習得した体術に感心した私は、ふと、思い付きます。
『これほどの実力があるのなら、近く開催される予定の『剣術大会』に出してみてもいいのではないか?』と。
王宮で毎年開催されていた、王宮騎士団主催の『剣術大会』。
王女様の結婚式と王宮騎士団の不祥事とで一時開催を見送られていたその剣術大会が、近い内に開催されます。
これまで、王宮騎士団主催の『剣術大会』にはまったく関心がありませんでした。
王宮騎士団の上層部にはクズな貴族たちと関係が深い者が多く、そんな貴族たちの考えにドップリと浸かった彼らとは関わりたくありませんでしたから。
それに、出場させた兵士が下手に活躍してしまうと、クズな貴族たちから嫌がらせを受けてしまう恐れだってありました。王宮騎士団には特定の貴族と繋がっている騎士も多く居ますからね。
以前、我々が盗賊の討伐に失敗した時、その事を嗅ぎつけて馬鹿にしてきた騎士団長たちには、今でもムカついています。
ですが、あの時の盗賊たちから学んだ体術を使って王宮騎士団の代表を降して優勝してやれば、きっと痛快な気分になれるでしょう。
幸い、剣術大会では使う武器に制限はありません。何の武器を使ってもいいのですから、武器を使わなくても構わないでしょう。
剣術大会に王宮騎士団の代表として出場する者たちは精鋭揃いですが、見映えばかりを重視する彼らが制式装備としているロングソードには小さくない隙が有ります。
十二分に勝機が有るでしょう。
私は、体術を習得した彼らに領軍の代表として剣術大会へ出場すること。それと特訓を指示しました。
彼らなら、きっと王宮騎士団の代表たちを降して優勝してくれるはずです。
王宮騎士団の騎士団長が顔を真っ赤にして怒り狂う様子が目に浮かびますね。
それを近くで鑑賞してやりましょう。
その時が、今から楽しみです。
ふっふっふっふっ。
間も無く王宮で開催される剣術大会。
ククラス侯爵のこの行動によって、何が起きるのか?
これから王宮で起きる事を予測できる者など、何処にも居ないのであった。
(設定)
生け捕りにした盗賊たちから聞き出した、『武器と防具と金目の物を綺麗さっぱり盗まれることが何度もあった』とは、【多重思考】たちがやったことです。
武器を失った盗賊たちが、この様な”魔”進化をするとは、【多重思考】たちも予想外でした。
なお、いただいた物はスタッフ(=【製作グループ】)が有効活用しています。
次のお話から次章になります。
次章のタイトルは『剣術大会とメイド大乱』です。
剣術大会での出来事を切っ掛けに、メイドさんたちがドッタンバッタンすることになります。
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