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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十六章 異世界生活編11 そろそろノンビリできるよね編
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25 外伝 魔王の服とでっかいペンギン


< 【多重思考さん】視点 >


”ツノ付きカチューシャ”は素晴らしい物が出来上がりました。


鹿シカのツノをイメージして作られたソレは、美しいもくき、【森の破壊王】でもある魔王様に相応ふさわしい逸品いっぴんとなっています。


ですが、そういえば、魔王らしい服って有りませんでしたね。

勇者が現れたのです。勇者と相見あいまみえる時の為に魔王らしく見える服を作っておきましょう。


【製作グループ】では服を作れませんのでふくに製作を依頼しましょう。

ですが、どう言って作ってもらったらいいんですかね?

取り敢えず、【製作グループ】にデザインを考えるように指示を出し、私はふくに製作を依頼する方法を考えることにします。



数日後。

魔王様の服のデザインが決まりました。

ローブに軍服っぽさを加えた、なかなか良いデザインだと思います。

うっかり、フードの付いた服をデザインしてしまって、あわててやり直すというミスをしてしまいましたが、良いデザインが出来上がったと思います。


後は、ふくに製作を依頼するだけです。

依頼する口実こうじつや手段は、既に考えています。

デザインが決まった今。後は、実行するだけです。


私は魔法を掛けます。

本体ほんたいさん(=ナナシのこと)に。

体の制御を奪うと同時に。


『【スリープ】。』

『あ?!』


本体ほんたいさんを【スリープ】の魔法で眠らせた私は、本体ほんたいさんの体を操作してふくのミリィさんを呼び出し、製作を依頼しました。


出来上がってくるのが楽しみです。



< ナナシ視点 >


【多重思考さん】に【スリープ】を掛けられて眠らされてから数日が()った。

だが、【多重思考さん】が俺を眠らせて、その間に何をしていたのかは、いまだに分からないままだ。


そんなある日。


「失礼しまぁぁす。」


ふらふら ヘロヘロ

モスッ


ふらふらと部屋にやって来た誰かが、抱きかかえていた、自身の体よりも大きな物体をモスッと床に置いた。

「イイモノが出来上がりましたよ。(ニコリ)」

そう笑顔で言いながら、その大きな物体の向こうから姿を現したのは、やや疲れた顔をしたふくのミリィさんだった。


俺が『ミリィさんに何か頼んでいたっけ?』と疑問に思っていたら、頭の中で『注文通りのイイ出来です。』なんて言う【多重思考さん】の声が聞こえてきた。

どうやらあの物体は、【多重思考さん】がミリィさんに製作を依頼した物の様だ。

俺が知らないということは、先日、俺が【多重思考さん】に【スリープ】を掛けられて眠らされていた時に依頼をしたのかな?

【多重思考さん】を追及する事は今は後回あとまわしにして、俺はその物体を見る。

大きなペンギンだ。

俺の身長とたいして変わらないくらいの大きさがあり、コートの様なすその長い服を着せられている。

その服には軍服っぽさを感じる。だが、ボタンをめずに前が大きく開けられている為、白くてモフモフしたおなかがコートからはみ出しまくっている。

かたい印象のある服の割にはげんがまったく無い。ヤンキーが学ランの前を全開にしているみたいにも見えるしね。

げんの代わりにそこに有るのはモフモフだ。

思わず抱き着きたくなるモフモフだね。


と、そう思った時には、既に俺は抱き着いていた。(モフモフ)

この大きなモフモフ攻撃は破壊力がスゴイです。


むはーー!(モフモフモフモフ)


モフモフを堪能たんのうしている俺のすぐそばからミリィさんの声が聞こえてくる。

「抱き着くとあたたかく…。」、「モフモフが…。」、「ペンギン課長…。」とかなんとか言っているみたいですが、それらはそのまま耳をどおりして行きます。

本当にモフモフは最高だぜっ。


むはーー!(モフモフモフモフ)



ミリィさんが持って来たこの大きなペンギン型ゴーレムは、部屋に置いておくことになりました。

【多重思考さん】がどうしてこんな大きなペンギン型ゴーレムを作らせたのかはまったく分からないけど、それはまぁいいや。

モフモフぶんが不足した時にすぐに補給できる事を喜ぼう。うん。

大きなモフモフは大正義だしなっ。


むはーー!(モフモフモフモフ)



こうしてモフモフのとりこになったナナシ。

彼は、【多重思考さん】の製作依頼の本命が”服”のほうであった事や、その服が『魔王ナナシの服』であった事に、まったく気付かないのであった。



< ミリィ視点 >


「ただいま帰りましたー。」


「おかえりー。」、「おかえりー。」


配達はいたつえてふくに戻った私は、先輩たちの「おかえりー。」の声を聞きながらエイラさんの作業部屋に向かいます。


ですが、作業部屋の中に置いておけずにドアの外に置いておいた、私が楽しみにしていた”モフモフ”の姿が見えません。


む。


少し離れたところに人だかりがありました。

私はそこに急いで向かいながら、むらがっている先輩たちに言います。

「コラー! 『ペンギン課長』のモフモフは私のだー!」

私がそう言うと、人だかりの一番外に居た先輩の一人がこちらを向き、私をとどめながら言います。

「ま、まぁ待ちなさい、ミリィ。モフモフは何処どこにも逃げないわ。」

そんな先輩に私は言い返します。

「私のモフモフ時間が減ってしまいます。今現在、減っている状況です。」

「この素晴らしいモフモフは、ふくみんなの財産よ。」

「ナナシ様関連の予算は国から出ているので、このモフモフはふくの財産という訳ではありません。」

「ぐっ。」

「早く退いてくださいよ。配達で疲れてモフモフぶんが減っているんです。誰も手伝ってくれなかったですしっ。階段をのぼるの大変だったんですよ? 前が見えなくてっ。」

「そ、それは…。で、でも、グラストリィ公爵のところへの配達なんて、おそおおいし…。」

「そんな事を言って、私が配達に行っている間にモフモフモフモフしていたんですよね? みんなでモフモフモフモフしていたんですよねっ?! 私が配達に行っている間に!(ズズズイッ)」

「そ、それは…。(タジタジ)」

その先輩はタジタジになりつつも、私の前から退こうとはしてくれません。


この先輩と話していてもらちきませんね。

ふっ、仕方がありません。

私だって、いつまでもしたのままではないのです。(ギラリン)


とっかん!」

うらうらうらうらぁぁぁぁぁー!


「うわっ?! ミリィが切れた!」

「えっ?!」、「なにっ?!」、「このモフモフは誰にも渡さないわ!」、「『ペンギン課長』はウチの課長にするんだ!」、「ダメよ! ウチのよ!」、「どうして、あの可愛かわいかったミリィがっ?!」、「きっとエイラの悪影響よ!」


ドッタンバッタン ドッタンバッタン


この大きなモフモフをめぐる騒動は、席を外していた部長が戻って来るまで続いたのだった。



あの出来事の後、多くのモフモフたちが先輩たちの手で自作されました。

あちらこちらに大きなペンギンのぬいぐるみがちんし、製作途中のまくらが積み上げられている様子は、以前のふくの光景とは大きくことなっている気がします。

まぁ、私は仕事とモフモフが有れば、それでいいのですが。


今日も私はナナシ様のところへ向かいます。ゴーレムの骨格を受け取りに。


出掛ける前に『ペンギン課長』を十二分にモフモフモフモフしてから。



(設定)

(でっかいペンギン一号)

『魔王ナナシの服』を製作する事を目的に、【多重思考さん】がナナシの体を操作してふくのミリィに製作を依頼して作られた大きなペンギン型ゴーレム。

みつに計算されて作られたゴーレムの骨格に、エイラが綿わたと毛皮でつつんで製作。それに、【製作グループ】が作成したデザイン画の通りにミリィが作った服が着せられている。

服の前のボタンを一つも留めることが出来ていないが、これは、ボテッとした体形たいけいのペンギン型ゴーレムにナナシ用に作られた服を着せているからである。

こんな面倒な事をしたのは、『魔王ナナシの服』を『でっかいペンギン一号の服』と誤認させることで、ナナシに捨てられてしまうのを防ぐ為である。

でっかいペンギン一号はゴーレムなので自律歩行が可能だが、ナナシの部屋に『ぬいぐるみモード』でちんし、毎日モフモフを提供している。


(でっかいペンギン零号(『ペンギン課長』))

でっかいペンギン一号の試作として製作された大きなペンギン型ゴーレム。

当初、製作する予定は無かったのだが、製作依頼を受けたミリィから「これまでのものと大きさが全然違うので試作が絶対に必要です!」と言われて、急遽きゅうきょ、ゴーレムの骨格をもう一つ作って製作された。

完成後、エイラの作業部屋に『ぬいぐるみモード』でちんしている。服を着ていない為、常時全方向へモフモフを提供している。

その存在感から『ペンギン課長』とミリィに名付けられた。

現在、ふくでは、『ペンギン課長』に魅了みりょうされた者たちの手により多数の大きなペンギンのぬいぐるみが自作され、作業場のいたところちんしている姿が見られる。


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