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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十六章 異世界生活編11 そろそろノンビリできるよね編
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24 勇者が現れた


< ナナシ視点 >


ゆうしゃあらわれました。』


ある日の夕方。

ソファーでくつろいでいたら、頭の中で【多重思考さん】にそう言われた。


ん? 勇者?

ファンタジーモノには付き物の勇者だけど、この世界には魔王なんて居ないから勇者なんて必要無いはずだ。それとも、何処どこかに魔王があらわれちゃったのかな?


そんな事を考えていた俺に、【多重思考さん】が言う。

『いかがいたしますか? 魔王様(●●●)。』

『何で、俺が魔王なんだよ! 俺は魔王なんかぢゃねぇよ!』

本体ほんたいさん(=ナナシのこと)の他に誰が居ると言うのですか。ふぅ、ヤレヤレだぜ。』

『失礼な事を言うなや! それと『ふぅ、ヤレヤレだぜ。』もなっ!』

『”ツノ付きカチューシャ”は既に用意してありますのでご安心ください。』

『『ご安心ください。』もなにも、そもそもそんな心配なんてしてねぇよ! あと、どうしてそんなモノを作ったし!』

『魔王にはツノが付き物ですので。【森の破壊王】に相応ふさわしい素晴らしい物をご用意いたしました。』

『俺は魔王なんかぢゃねぇって言ってんだろ! あと、【森の破壊王】でもねぇよっ!』


思わず声に出してツッコんでしまいそうだったので、俺はかくに移動してそこで話を聞くことにしました。



ケイティさん一言ひとこと断ってから、【転移】でかくにやって来た。


心を落ち着ける為にゆったりとした動作でソファーに腰掛け、「ふぅ。」と一息ひといきついてから【多重思考さん】に訊く。

「で? 勇者って?」

『【勇者】の【称号】を持った、ただの日本人っぽいです。』

「えっ? 日本人なの?」

『名前と容姿からして日本人の様です。髪も黒いですし。それと、ステータスを見てみると、ただの普通の人っぽいです。チートどころか、一つも【スキル】を持っていませんし。』

何だそりゃ?

一体いったい、どういうことなんだろう?


【勇者】の【称号】を持っているらしいけど、チートもスキルも無いそんな勇者が何の役に立つんだろう?

まぁ、魔王が何処どこかに居るというのなら、その勇者に協力して倒さないでもないけどね。

勇者に魔王を倒してもらえば、俺に【魔王】の【称号】が移ってしまうなんてこともないだろうしな。(←タイトルマッチか何かなのかな?)


「その勇者って、今、何処どこに居るの?」

『森から現れ、今は、あの”デッカイ木”の近くの道を歩いています。』

ああ。俺が最初に居たところに在った、あの”デッカイ木”か。


勇者の近くに【目玉めだま】が居るそうなので、俺はその【目玉めだま】を通して勇者の様子をうかがうことにしました。



< 勇者視点 >


「………デッカイ木だな。(呆然ぼうぜん)」


森をやっと抜けた俺は、森から少し離れたところにえている巨大な木を呆然ぼうぜんながめながらそうつぶやいた。


それにしても本当にデカイ木だな。さすがファンタジーだ。

そんな事を考えた俺は、森に来る前に出会った”神”と名乗った人たちの事を思い出した。



気が付いたら、俺はしろな空間に立っていた。


状況がサッパリ分からなかった。


そんな俺に、いつの間にかその場に居たガタイのいい男の人が状況を説明してくれた。

その男の人は『地球の在る世界』の神とのことで、俺はそのひと所為せいで死んでしまったのだそうだ。

「スマン。スマン。別の世界に送ってやるから、そこで残りの人生を楽しんでくれ。ガッハッハッ。」

そんな事を言われたのだが、情報を頭の中で処理し切れなかった俺は、ただ、「はぁ。」としか言えなかった。


情報を処理し切れないまま立ち尽くしていると、女性が一人現れた。

まるで、デスマーチ中か何かの様な疲れ切った顔をしたその女の人は、俺が送られる『別の世界』の神とのことだった。


「何か希望は有るか?」

ガタイのいい男のひとにそう訊かれたので、俺は、こんなラノベみたいな状況になった時に言うべきだと思った自分の希望を言ってみた。

すると、それを聞いた女のひとが、めんどくさそうに俺に向かってサッと手を振って何かをした。

その直後。


俺は何処どこかに落ちて行ったのだった。



そして、気が付いたら、今度は森の中に立って居た。


………あれ?


自分が想像していたのとは大分だいぶ違っていた状況に、俺はまどった。

こういうのって、お城とか教会とかで「おおっ、勇者様っ!」ってなる流れじゃなかったっけ?

あわてて俺は確認する。

そういうラノベで読んだ通りに。


「ステータス、オープン。」


そう言ってみると、目の前に自分のステータスらしき物が表示された。

ファンタジーだなぁ。

それを見た俺は、『本当に『別の世界』とやらにやって来たんだなぁ。』と、あらためて思ったのだった。


それはさておき、今は、重要な事を確認しないといけないな。

目の前に表示されているものを上から順にザッと見ていく。

名前や年齢、HitPointなどが書かれている。

そして一番下に、俺が願ったものが書かれているのを見付けた。


【勇者】


「よっしゃ!」


どうやら俺は、ちゃんと俺が希望した通りに”勇者”になれたらしい。

やったぜ。


でも、どうして、森の中なんだ?

そう考えて気が付いた。

そうか。”勇者召喚”じゃなかったからか。


俺は、召喚されてこの世界に来た訳じゃない。

”神”と名乗ったひとたちに、この世界に送られたんだった。

だから、やって来た場所がお城とか教会とかではなかったんだな。


でも、俺は勇者なんだ。

この世界で最強の男として大活躍して、お姫様と結婚して王になるんだ。

うんうん。


俺はバラ色の未来を想像して、お姫様と出会うべく最初の一歩を踏み出したのだった。



俺は、バラ色の未来への最初の一歩を踏み出し、その体勢のまま固まる。


どっちに行ったらいいんだろう?


その体勢のまま、左右を見る。

どっちを見ても木しか見えない。

森の中だ。

………どうしよう?


どうしようか悩んだが、取り敢えず、最初の一歩を踏み出した方向に二歩目を踏み出し、そのままその方向へ歩いて行くことにした。



森の中を少し歩き、木の間に日が差しているのを見掛けた。

取り敢えず、太陽の方向へ行ってみることにするか?

まわりには、それしか目印になる物なんてないし、同じところをグルグルと回ることになってしまうのはけたいしな。

そうしよう。

俺は、日が差してくる方向を意識しながら森の中を歩くことにした。



一時間ほど歩いたら、みちらしき場所に出た。

雑草が沢山たくさんえてはいるが、森の中を先まで見通せるここは”みち”で間違いないだろう。

よかった。

少し高くなった太陽の位置から考えると、どうやらこの道は東西方向に走っている様だ。

さて。どっちに行ったらいいのかな?

でも、どっちに行ったらいいのかなんて、俺に分かる訳がないよなぁ。


木の枝を拾って、これが倒れた方向に向かう事に決めて、レッツトライ。

パタリ

東に向かうことになった。



夕方。

「………デッカイ木だな。(呆然ぼうぜん)」


森をやっと抜けた俺は、森から少し離れたところにえている巨大な木を呆然ぼうぜんながめながらそうつぶやいた。


ファンタジーな木を見て、これまでのファンタジーな出来事が頭の中をよぎったのだった。


森を抜けることが出来た。

だが、ここからは、街らしきものも村らしきものも見えない。

取り敢えず、行けるところまで行ってみるか…。

そう思って、俺は再び道を歩き始めた。



森を抜けて30分ほど歩いたら、かなり暗くなってしまった。

明かりなんて何処どこにも見当みあたらないので、そう時間が掛からない内にくらになってしまいそうだ。

道から少し離れた場所へ移動して、そこで寝ることにしよう。

道で寝て、車にかれでもしたら嫌だからな。


道から少し離れた場所に腰を下ろす。

「ふぅ。」

腰を下ろしたらドッと疲れを感じた。

今日一日でかなり歩いたしな。



この世界に来て勇者になれたものの、俺が思っていたのとは大分だいぶ違った。

そもそも、死んでしまった事にもびっくりしたな。神さまに会った事も。


でも、せっかく勇者になれたんだ。

大活躍してこの国のお姫様をゲットして、王になろう。ラノベみたいに。

そうとも。

俺は勇者なんだ。


「俺は、この国のお姫様(●●●●●●●)をゲットして、この国の王になるんだ。ラノベみたいに。はっはっはっ。」


疲れと謎の高揚こうよう感の所為せいなのか、思わず口に出してそう言ってしまう。

自分のその行動に恥ずかしくなった俺は、『明日は街を見付けるぞ!』と決意しながらその場で横になり、目を閉じた。



彼が口に出した、その不用意な一言ひとこと

それによって、彼は、ある者に”敵”と見做みなされる事となった。

だが、彼がその事を知ることはなかった。

彼が、明日の朝、この場所から遠く離れた場所で目を覚ますことになる事も。



< ナナシ視点 >


”敵”をサクッと排除した。


地面に横になって目を閉じたところで【スリープ】の魔法を掛けて、ケイニル王国の王都の近くに【転移】させてね。


彼には、望み通りにお姫様をゲットしてもらおう。隣の国のお姫様だけど。

まぁ、それ以前にお姫様に会えるかどうか分からないし、そもそも隣の国にお姫様が居るのかさえ、俺は知らないんだけどねー。(鼻ほじー)


俺の”敵”である彼が、隣の国のお姫様をゲットしようが、野垂のたにしようが、俺にはどうでもいいことです。

【スキル】を何も持っていないという話だったから、普通に生きていくのにも苦労するかもしれない。

きっと、彼とは二度と会うことは無いだろう。

うん。


俺の頭の中で、『勇者の敵は、やっぱり魔王ですよねっ!』って誰かが異様に盛り上がっていやがりましたが、もちろん、そんなものは全力でスルーしましたっ。



その日の夜。

ベッドの中で、『あれ? 『彼とは二度と会うことは無いだろう。』って、何だかフラグっぽくない? 大丈夫かな?』って、少しだけ心配してしまいましたが、きっと大丈夫でしょう。

【勇者】の【称号】を持つだけのただの普通の人なんて、生きていくのも大変だろうし、この国の王宮に居る俺と会う機会なんて有る訳が無いよね。

そうだよね。

彼とは二度と会うことは無いし、俺も魔王ではないのです。

ええ。

何の心配もいらないよね。


そう納得した俺は、グッスリと眠ったのでした。



(設定)

(【森の破壊王】って?)

正しくは【森の破壊者】。ナナシの持つ【称号】の一つ。

【製作グループ】が森を切り拓き広大な花畑を作ったことで、この【称号】が付いてしまった。


(勇者)

日本人。男。19歳。ただの大学生。

異世界召喚モノのラノベは読んだことがある模様。

この世界に来ることになってしまったが、【スキル】を何も持っていないし、ステータスの値も普通の人と同程度。

ただ【称号】に【勇者】と書かれているだけの、普通の人。


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