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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十六章 異世界生活編11 そろそろノンビリできるよね編
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17 ナナシ、馬車の魔改造を終わらせる。そして、まったくの別物へ


昨日、携帯電話を取り敢えず完成させた。

だが、まだ検討しなければならない事とか実装しなければいけない機能とかが有る。

呼び出し音とか、相手が話し中だった場合の対応とか、通話を終了した事を判別して【ゲート】を解除する機能とか。

他にも、まだ気付いていない問題がいっぱい有ったりするだろう。

今日はそれらの検討しようと思う。


そう思ってソファーでくつろぎながらアレコレ考えていたら、頭の中で【多重思考さん】から報告が。

『馬車の魔改造について、ひと区切くぎりついたので報告します。』

ほう。

馬車の魔改造は、心地ごこちの改善を目指して、中古で買った馬車にサスペンションを取り付ける改造を【製作グループ】に頼んでいた。

だけど、馬車の魔改造を頼んだ後に、さらに色々な物を【製作グループ】に丸投げしまくっていた所為せいで、完成が遅れに遅れてしまっていた。

先日、『ダーラムさんに協力してもらって心地ごこちの確認をしている。』という報告を受けていたが、とうとう完成した様だ。

でも、さっき『ひと区切くぎりついた』って言っていたね。

完成した訳ではないのかな?

まぁ、とにかく報告を聞いてみることにしよう。


『サスペンションですが、ちょうど良い加減のスプリングをなかなか作れず、どうにも上手うまくいってません。また、スプリングと合わせるオイルダンパーも油が沸騰ふっとうしてしまって実用化が見込めない状況です。』

あらら。

『ベアリングは機能している様なのですが、抵抗が減った事と重量が増した事によってブレーキが必要になってしまい、そのブレーキにも問題が有りまして…。』

そう言って、さらに報告が続く。

『自転車のブレーキの様な物を作って馬車に取り付けてみたのですが、ブレーキワイヤーがすぐに伸びてしまって、ワイヤーを使う方式は一時断念しました。木材を使った機構を作って取り付けてみたものの、重量がさらに増えてしまってブレーキに掛かる負荷も増大。問題ばかりで、新しく作った部品の耐久性にも不安があり、もう、心地ごこちを改善するどころではなくなってしまいました。あっはっは。』

『『あっはっは。』って…。笑いごとぢゃなくね?』

それとも、『もう笑うしかない。』っていう状況なのかな? 問題ばかりみたいだし。


改めて、言われた内容を頭の中で整理する。

スプリングもオイルダンパーも上手うまくいっておらず、急遽きゅうきょ追加しなければならなくなったブレーキでも問題が発生。さらに、耐久性にも不安がある。と。

うーーむ。

何だか、想像以上に大変な状況になってしまっていたね。見通しが甘かったんだろう。

『サスペンションもベアリングもブレーキも、馬車に適用するのは時期尚早ですね。諦めましょう。』

『諦めましょう。』と、ハッキリと言われてしまった。

その事に少し驚く。

これまで、ほとんどの物を上手うまい具合に作り上げてきた、実績と信頼の【製作グループ】だったからね。うっかり小屋サイズになってしまった魔道具が有ったけど。

いや、アレは別に【製作グループ】の所為せいでああなってしまった訳ではなかったか。


そんな事を考えている俺に【多重思考さん】がさらに続ける。

『そこでっ。馬車の中を異空間化してしまうのがいいと思います。』

『は? 異空間化?』

『そうです。馬車の中を異空間にしてしまえば乗っている人に振動なんて伝わりません。さらに中を拡張してソファーなんかを置けば、そこはまるで部屋に居るかの様な快適空間。部屋でくつろいでいる気分のまま目的地まで移動することが出来ますよ。』

ほう。

俺は、ソファーセットが置かれた快適空間でくつろぎながらお茶を飲んでいる光景を想像する。

なかなか良さそうだね。

『それに、乗っている人が快適なだけではなく、馬車本体への負担と馬への負担も減らすことが出来ます。馬車がいたにくくなったり、一日に移動できる距離が伸びたりします。イイ事ばかりです。』

なるほど。

確かにイイ事ばかりだね。


それぢゃあ、サスペンションはあきらめて、その方法でいきますかね。

馬車にサスペンションを取り付けるのは問題ばかりでづまっちゃっているからね。


そうなると、また『【アナザーワールド】(キリッ)』の出番かな?

『いえ、今回は『【異空間作製】+【空間拡張】』でお願いします。』

おや? 何がどう違うんだろう?

『”ガワ”が必要か、不要かの違いですね。』

ああ、そうか。【アナザーワールド】には”ガワ”が必要無かったね。

『今回は、せっかく”ガワ”が有るのですから使いましょう。壁や天井は”木”ですので、カーテンを取り付けたりするのにごうがいいですし。おかしな空間をかくす為にカーテンを取り付けたいので。』

【アナザーワールド】で作った空間って、壁が石みたいだったからね。あの壁に何かを取り付けるの難しいかもしれないし、確かに馬車を利用した方が良さそうな気がするね。


よし。それぢゃあ、早速さっそく、取り掛かることにしよう。

ずは、改造する馬車を取りに行かないとね。

俺は、ケイティさんとケイトに声を掛けて、馬車が置かれている車庫に向かう。

なんちゃら公爵家(←既に名前を忘れてしまった模様)から俺の物になった豪華な馬車を回収しにね。


ちなみに、車庫へは歩いて移動します。

移動の途中で”あててんのよ”が発生する事を期待してのことです。

心よりお待ちしております。(←おい)


馬車が置かれている車庫に到着した。

”あててんのよ”は発生しませんでした。

ちぇーっ。(←おい)


馬車の整備をしている人たちに声を掛けつつ、俺の持ち物になっている豪華な馬車のところまで行く。

馬車をサクッと【無限収納】に入れて、後は【製作グループ】にお任せです。

よろしく。(←今日も丸投げが雑です)


整備をしていた人たちがポカーンとしている事に気が付いたけど、まぁいいや。

俺がここでやることは終わったので、気にせず、この場を後にします。

背後でケイティさんとケイトが呆れている様な気配を感じますが、気にしなければどうということはないのです。ええ。(←気にしてさしあげようなっ)



午後。

【多重思考さん】に呼ばれて『工房』へとやって来た。

目の前にはあの豪華な馬車が置かれていて、少し離れた場所ではゴーレムが何やらソファーっぽい物をいじってトンテンカンしている。

『馬車の中から座席をはずして床板ゆかいたを張り替えました。ゆかに座席をむ為のみぞなどがありましたので。はずした座席は、足を作り変えて馬車の中に置きます。』

ああ。あのソファーっぽい物がはずした座席だったのか。

でも、せっかくまれていた座席をはずしちゃったのはどうしてだろう?

『【空間拡張】をした際、ゆかがどうなるのか分かりませんでしたので、念の為、床板ゆかいたを張り替えて綺麗にしました。座席は置いておくだけで済みますし。』

なるほどね。


【多重思考さん】にうながされるまま馬車の中をのぞむと、中はガラーンとしていた。

座席がのぞかれれば中が広く感じると思ったけど、意外とそうでもなかった。

元々それほど広い空間ではないから、そんなものなんだろう。


俺は、【多重思考さん】に言われるまま、けっぱなしだったドアの前から馬車の中に向かって【異空間作製】の魔法を掛ける。

次に【空間拡張】の魔法を掛けるのだが、その前に完成後の空間を頭の中でしっかりとイメージしよう。

横幅は四倍くらいに拡張しよう。前方へも二倍くらい拡張して、後方へは四倍くらい拡張しようかな?

『馬車』と考えると広すぎるけど、『部屋』と考えればそれ程でもないだろう。

それと、天井も高くしておこう。このままの天井の高さだと窮屈きゅうくつに感じてしまうからね。


よし。イメージが出来たぞ。

さぁ、やるぜ。

手の平を正面に向ける様に腕を上げ、魔法を発動する。

「【空間拡張】(キリ)」

…『【アナザーワールド】(キリッ)』よりはちょっとだけ力が入らなかったけど、上手うまくいった様だ。馬車の中の空間が広くなっているのが、ここから見えるからね。


早速さっそく、馬車の中に入って中をわたす。

うん。広い。

細長い空間で、『ワンルームマンションの一室』って感じになっている。

床や壁はすべて木材で出来ている様に見えるんだが、増えた空間の分の素材って何処どこから来ているんだろうね?

それとも、この空間の中に入った人の体がちぢんで、空間が広くなった様に見えているだけなのかな?

いや、空間の形が変わっているんだから、それはないか。

まぁ、『魔法さんハンパないっす。』とでも思っておこう。うん。


馬車の中に出来た広い空間を眺めながら、ソファーなんかを置く配置を考える。

そうしていたら、ゴーレムが1体、馬車の中に入って来て、すみっこに洋式便器を置いていった。

そうか。これだけ広ければトイレも置けるよね。それに、部屋の様な快適空間にするのならトイレも必須だね。

そうなると、トイレを囲む壁が必要になるな。

それ以外にも、メイドさんにお茶の準備をしてもらうスペースとかその為の作業台なんかも必要になる。

そんな事を考えると、俺が色々とやるよりもメイドさんたちにお願いした方がいいのだろうか?

いっそのこと、メイドさんたちにすべて任してしまおうかな? トイレの場所とかソファーの配置とか、あと壁を作ったりするのも。

うん。そうしよう。(←丸投げ師の魔の手が、とうとうメイドさんにも)


ドアの近くにゴーレムが置いていった座席の間を通って、馬車の外に出る。

グルリと馬車のまわりを回るが、中の空間が広がったにも関わらず、外観はまったく変わっていない。

そういう魔法だと言われればその通りなんだけど、ホント魔法さんハンパないっす。


御者ぎょしゃ台で作業しているゴーレムが居たので、何をしているのかながめてみる。

どうやら伝声管でんせいかんを取り付けている様だ。

『あれは、伝声管でんせいかん型の電話です。馬車の中は異空間になっている為、普通の方法では会話が出来ませんので。』

そう言われてみればそうだったね。中と外とで普通に会話が出来なくなっちゃうのだから必要になるね。

作っておいて良かったね。電話。

…そういえば、俺の作った電話って、【アナザーワールド】で作った電話交換機室を経由しても会話が出来ていたけど、それって、よく考えたらおかしな気もするな。

まぁ、そういうものなんだと思っておこう。うん。

ホント魔法さんハンパないっす。(←どうやら気に入った模様)



中の異空間化が終わった豪華な馬車を【無限収納】に仕舞い、『工房』から王宮の部屋に帰って来た。

ケイティさんとケイトに声を掛け、今度は馬車を置きに車庫に向かう。


すんなりと車庫に到着。

”あててんのよ”は今回も発生しませんでした。

ちぇーっ。(本日二回目)


中を異空間化した豪華な馬車を車庫に置き、ケイティさんとケイトを連れて中に入る。

座席を素通りして、その奥の広い空間に案内すると、ケイトが声を上げる。

「うわーー。」

「………………。」

ケイトは声を上げて喜んでいるけど、ケイティさんは無言です。

呆然としているご様子です。

ケイティさんも色々と慣れてきたと思っていたけど、まだまだだった様です。

ケイトはきっと天然だね。何も考えていないから不思議になんて思っていないんだろう。


二人に、馬車の中とは思えないこの空間を説明し、ここを部屋の様な快適空間にすべく、ケイティさんに家具の搬入なんかをお願いする。ソファーセットとか、お茶をれる為に必要な物とかをね。

それと、カーテンの手配と取り付けもお願いしておく。


カーテンは、馬車の中をのぞんだ人に余計な物を見せない為に取り付ける。普通の馬車と思ってもらう様にね。

この馬車が評判になって注文が殺到するなんてことになったら面倒だからね。

そんな事を気にするくらいなら作らなければいいだけなんだけど、作れたら作っちゃうよね?(←誰に言ってるんだよ)

あと、必要に応じて壁も作ってくれる様にも頼んでおきます。トイレもあるしね。


こうしてこの日、丸投げ師の魔の手がケイティさんにまでおよんだのでした。

てへ。



部屋に戻って来た。

色々な物を手配しに行ったケイティさんに代わって、ケイトがお茶をれてくれています。

片腕で2体のジタバタするペンギン型ゴーレムを抱きかかえながら片手でお茶をれるのは、マナー的にどうなんだろうね?

それと、1体は床に置いて歩かせておいてほしいんだけど…。

そう言ったところで、きっとケイトは聞かないんだろうね。

「はぁ。」

何だか溜息ためいきが出た。


ケイトがれてくれたお茶を飲んでくつろいでいると、頭の中で【多重思考さん】に訊かれた。

『サスペンションを取り付けたほうの馬車はどうしましょうか? 【製作グループ】がダンジョンでヒャッハー!したり、ダーラムさんを乗り物酔いにする以外、ろくに役に立ちませんでしたが。』

『それらは『役に立っている』とは言わないだろう。どうして除外したし。』

それと、【製作グループ】がダンジョンでヒャッハー!してたのか…。

ダンジョンには人をヒャッハー!させる何かがあるのかな? 【多重思考】たちは人ぢゃないけど。

【火属性魔法グループ】と【風属性魔法グループ】もヒャッハー!してたしな。いや、あれは元からだったかな? もうよくおぼえてないや。


『新しく作った部品の改良とか耐久試験とかに使いますか?』

うーん。どうしようかなぁ。問題ばかりで実用化が大変そうな気がするんだよなぁ。

でも、せっかく作ったんだから、実用化に向けてさらに改良してもらったり耐久性の確認とかしておいてもらおうかな。

サスペンションはどうなるか分からないけど、ベアリングはきっと何かに使うことになるだろうしね。その内、王妃様が『自転車作ってー。』とか言い出すかもしれないし。

『分かりました。では、その様にしておきます。』

『でも、大丈夫? さっき『【製作グループ】がダンジョンでヒャッハー!してた』とか言ってたぢゃん。耐久試験をするとなるとダンジョン内でやるんだよね? ダンジョンにはなっちゃって大丈夫なの?』

『あっはっは。』

『いやいや、『あっはっは。』ぢゃなくってさ。』

『………………。』

『………………。』


俺は前言ぜんげんを撤回して、魔改造した馬車を【無限収納】に仕舞っておくように指示しました。

封印決定です。

でも、ベアリングの耐久試験だけは別の形で進めておいてもらうことにします。



翌日の朝。

馬車見学ツアーが行われました。

シルフィと王妃様と大臣と一緒に、内装工事中の馬車の中を見学しました。

シルフィはいつも通り『さすがナナシさんですね。』って感じだったんだけど、王妃様は少々微妙な表情をしていらっしゃいました。

きっと自分の馬車の改造を依頼したいけど、それに使うお金が無いんでしょう。

予算が残ってないことはよく知ってます。削り切った張本人ですので。(てへ)


部屋に戻って、あらためて依頼の話をします。

最初にシルフィの馬車を。次に王様の馬車を改造するんだそうです。

取り敢えず、その二台とのことです。

王妃様がチラッチラッと何かを訴える様な目で俺を見ていましたが、スルーさせていただきました。

かねの切れ目がえんの切れ目なのです。嘘だけど。

別にえんを切ったりはしませんよー。シルフィがカワイイので。(テレテレ)

ですから、王妃様。俺にスルーされたからといって『むーーー。』って表情で俺を見るのはめてくださいねー。


その後、『むーーー。』って表情をした王妃様の無言の圧力は、昼食の時間になるまで続きました。


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