16 ナナシ、電話を作る03end 携帯電話を完成させる。途中でおかしな物にツッコミを入れながら
昨日頼まれていた『手紙を送る魔道具』を作って引き渡し、報酬も受け取った。
携帯電話を作ろうとしていた最中に出来ちゃった『手紙を送る魔道具』。そっちが一段落したので、本来の携帯電話の検討に戻ることにする。
だけど、それはノンビリやっていこうと思う。『手紙を送る魔道具』が思っていたよりもウケてしまったので。
『手紙を送る魔道具』が俺が思っていたよりもウケたのは、この世界の通信手段である手紙の『相手に届くまで時間が掛かる』という欠点を見事に払拭してしまったからなのだろう。
そんな現状を考えると、今、携帯電話を発表しても周りの人たちの理解が追い付かない恐れが有る。
携帯電話をせっかく作っても『手紙を送る魔道具』よりも評価が低かったらショックなので、携帯電話の発表はもっと後の方が良い気がしてます。
俺はソファーに座って、昨日、頓挫してしまっていた電話交換機の検討を再開します。
だけど、しばらく考えても、昨日悩んでいた問題を解決する方法がまったく思い付かなかった。
そこで俺は気分転換に、携帯電話の端末に”ある機能”を追加する方法を考えることにした。
追加しようと思ったのは、端末を振動させることで呼び出しを報せる機能だ。
昨日頼まれて製作したペンダント型やブローチ型の『手紙を送る魔道具』が何だかスパイ道具っぽかったので、携帯電話の端末に振動で呼び出しを報せる機能をその内に求められる気がしたのでね。
俺が知る携帯電話の端末は、重心の位置が大きくズレた重りをモーターで回すことで振動を発生させていた気がする。
モーターみたいな回転を生み出す物って、【製作グループ】が何か作っていた気がするなぁ。
そう思って【多重思考さん】に訊いてみる。
『回転する物って、【製作グループ】が何か作っていたよね?』
『確かに作っていますが、回転を生み出している物はすべてゴーレムですね。』
あー、ゴーレムか…。
何だか、何かと言えばゴーレムだよね。
『『ゴーレム=機械』みたいなものですからね。』
そうだったね。
しかし、ゴーレムか…。
携帯電話の端末を振動させる程度の事にゴーレムを使うっていうのもなぁ。
『端末そのものをゴーレムにしてしまえば色々と出来る様になりますよ。小さいブロックを集めて端末を作ればクルクル巻くことだって出来ちゃいます。二つ折りなんて目じゃないですよ。』
【多重思考さん】がそんな事を言う。
まぁ、コンパクト化なんて、今はまだ考えなくていいだろう。
【多重思考さん】とそんな話をして、ふと、考える。
昨日悩んでいた電話交換機の仕組みが、ゴーレムを使えば上手くいきそう気がして。
俺は、端末を振動させる機能の検討を【製作グループ】に丸投げして、もう一度、電話交換機の検討に戻ることにした。
再び電話交換機の検討に戻った俺は、頭の中で想像する。
真っ暗な電話交換機室の壁に、各端末と繋がっている【ゲート】の魔法陣が貼り付けられている様子と、そこで待機しているゴーレムの姿を。
端末から電話を掛ける際、呼び出し先の電話番号をスイッチなどで指定することで、その電話番号に対応した”光のパターン”を端末から出す。
電話交換機室の壁に貼り付けられた【ゲート】の魔法陣から出て来るその”光のパターン”を、ゴーレムが目で見て、”光のパターン”から呼び出し先を読み取り、呼び出し先の端末との間を繋ぐ様に【ゲート】を発動する。
こうすることによって、端末同士が【ゲート】で繋がれて通話が可能な状態になる。
これでいけるよね。
声を光に変換してやり取りしているので、”光のパターン”で呼び出し先を指定する為に新たにハードウェアを追加する必要は無い。
異空間を作ってそこを電話交換機室にすれば、そこに置かれたゴーレムは異空間の豊富な魔力によって長い期間稼働し続けてくれるだろう。
うむうむ。
イイ感じだね。
昨日は電話交換機の検討で大分苦労したけど、ゴーレムを使うことにしたらすぐに解決したね。
ゴーレムが便利で本当に助かります。
でも、あまりゴーレムに頼り過ぎると、『ゴーレム=機械』ではなく『ゴーレム=逃げ』になっちゃうかもね。
あまり頼り過ぎない様に気を付けることにしよう。
心構えだけは。(←それが『逃げ』だぞ)
俺は、電話交換機室と『電話交換機ゴーレム』の詳細な検討を始める。
ゴーレムを導入したお陰でサクサクと進みます。
そして、検討を終えた『電話交換機ゴーレム』の製作を【製作グループ】に丸投げしたところで、俺はホッと一息ついたのだった。
【製作グループ】から『電話交換機ゴーレム』が出来上がったと報告を受けた俺は、隠れ家にやって来た。
『電話交換機ゴーレム』を置く電話交換機室を作るのに、王宮の部屋で『【アナザーワールド】。(キリッ)』ってやるのは恥ずかしかったので。(←(キリッ)ってするのを止めれば、それで済んだ話です)
それはそれとして。
【アナザーワールド】は、先日、お風呂場の改造でも使ったばかりだし、大活躍だね。
そんな事を思いながら【アナザーワールド】を発動しようとして、ふと、気付いた。
【アナザーワールド】で作った異空間って、何故か明るかったよね。光源が見当たらないにも拘らず。
電話交換機室として使う場合は、真っ暗な方がいい。
でも、【遮光】の結界で覆って暗くするのはダメだよね。壁に貼り付けた【ゲート】の魔法陣から出て来る光も結界で弾いちゃうからね。
あれれ? ダメぢゃん。
思わぬところで躓いちゃったね。
もっと早く気付いていないといけなかったのにね。
うーーむ。
『真っ暗な空間をイメージしながら【アナザーワールド】を発動してください。それで真っ暗な異空間が作られるはずです。』
俺が困っていると、頭の中でそう言われた。
なんだ。それで済んぢゃうのか…。
さすが魔法だね。
便利過ぎることに、少し呆れてしまいます。
それぢゃあ、言われた通りに『真っ暗な空間』をイメージしながら【アナザーワールド】を発動してみますかね。
気合いを入れ直して、作りたい『真っ暗な空間』を頭の中でイメージしながら魔法を発動します。
「【アナザーワールド】。(キリッ)」
異空間を作り終え、俺は早速、作ったばかりの異空間に入ってみる。
入ってみると、中はちゃんと真っ暗になっていた。
【ライト】の魔法で光を生み出し、作ったばかりの空間内を見回す。
狙い通りの空間が出来ている事を確認した俺は満足します。
うむうむ。
作った空間は、丸い天井をした丸い部屋だ。天井の高さは4mほどある。
この部屋の丸い形は、一台の『電話交換機ゴーレム』で、出来るだけ多くの【ゲート】の魔法陣を視界に収められる様に考えた結果だ。
携帯電話の端末の台数が増えた際、それに対応する為に『電話交換機ゴーレム』を増やしてしまうとゴーレム同士で情報のやり取りをしなければならなくなってしまう。その手間が何となく嫌だったので、こうしました。
いくら端末の台数を増やしたところで、きっと1,000台にも達しないと思うのでこれで足りるはずだ。
作ったばかり電話交換機室の中央に、【製作グループ】に頼んで作ってもらった『電話交換機ゴーレム』を置く。
高さ1mほどの、先端が丸まった円柱形をしたゴーレムだ。
これを設置すれば、後は、壁や天井に【ゲート】の魔法陣を貼り付けて端末と繋ぎ、電話交換機がちゃんと機能するか確認すれば、携帯電話の完成だ。
あと、もう少しだね。
電話交換機室での取り敢えずの作業を終えた俺は、ここまでの出来に満足しながら王宮の部屋に帰りました。
『携帯電話の端末が出来上がりました。』
午後、部屋で寛いでいると、【多重思考さん】からそう報告を受けた。
『とてもイイ端末が出来上がりましたよ。』
そう言う【多重思考さん】の上機嫌っぷりに少し嫌な予感がした俺は、隠れ家で端末を見せてもらうことにして、隠れ家に転移で移動しました。
隠れ家の居間のソファーに座り、早速、出来上がったばかりの端末を見せてもらう。
【無限収納】から取り出され、テーブルの上に置かれた端末を見る。
そして、【多重思考さん】に訊く、テーブルの上で二本足で自立しているそれを見ながら。
「どうして、携帯電話の端末に足を付けたし。」
『せっかくゴーレムにしましたので。自立してくれるので、テーブルの上に置く時に場所を取りません。』
「確かにスマホスタンドとか使っている人が居たけどさぁ。でも、足を付けてまで自立させる必要なんて無いよね?」
『着信があった時、タップダンスをして報せてくれます。また、何処かに置き忘れても、呼べば声を頼りに歩いて来てくれます。』
あれ? 意外と便利だったりする?
足が付いてる事が思ったよりも便利だったので、そっちは一時保留にして、もう一つの気になった事を訊く。
「足は、取り敢えず分かった。可否は別にして。でも、どうして腕を付けたし。」
『走らせようとすると、腕が無いとバランスを取るのが難しかったからです。』
「どうして、走らせようと思ったし。」
携帯電話の端末を走らせる必要性がまったく分からないよ。
『『手紙を送る魔道具』が思いの外ウケてしまいましたので。あの程度の物に負ける訳にはいかないのです。』
そんな理由かよ。
「頑張るベクトルが間違っている気がするんだけど?」
『気の所為です。』
「………………。」
『………………。』
納得できなかった俺は、もう一度言う。
「頑b『気の所為です!』」
気の所為なんだそうです。(←押し切られんなよ)
「はぁ。」
何か言おうと思ったけど、結局、何も言えずに溜息が出た。
俺が溜息を吐いていると【多重思考さん】が続けて言う。
『手に持たせる武装も各種取り揃えています。』
は? 武装?
『ビームライ〇ル、ビームサー〇ル、ハイパーバズー〇にガン〇ムハンマー。それと、何故か本編に登場していない大きなハンマーや薙刀までも。商品展開でスポンサー企業も大喜び。実際にビームが出る訳ではありませんが。』
「ツッコミどころしかなくて、何処からツッコんでいいのか分からねぇよ!」
どう見ても”ツッコミ待ち”だしなっ。
まったく。普通に物を作ればいいだけのに、どうして脱線しているんだか。(←他人の事、言えなくね?)
「はぁ。」
もう一度、溜息が出た。
もう一度、溜息を吐いた俺に【多重思考さん】が畳み掛ける。
『手も足も飾りではないのです。』
「いやいや、そもそも携帯電話の端末に手も足も必要無いからね。」
『偉い人にはそれが分からんのですよ。』
「誰にも分からねぇよ! 携帯電話の端末に手足が必要な理由なんてな! 偉い人もそうでない人も!」
思わずツッコんでしまいました。全力で。
全力でガッツリとツッコミを入れてから【多重思考さん】に言う。
「コレは表には出せないな。」
『えーー。』
「『えーー。』ぢゃねぇよ。こんなの表に出したら王妃様にガイ〇ンな端末を作らされんぞ。」
『…それは危険ですね。』
おかしな大暴走をしていた【多重思考さん】が冷静になってくれた様です。
さすがは王妃様です。褒める気には、まったくなれませんが。
『…お腹の回転ノコギリが危険で。』
「”危険”ってソコかよ。そんなところではなくてガイ〇ンを作らされるところに危機感を持てよ! あと、携帯電話の端末に回転ノコギリを実装しようとすんな!」
ツッコミどころが多過ぎて、本当に大変です。
隠れ家に来て、やっぱり正解でした。
ツッコミに疲れてソファーでグッタリする俺に、【多重思考さん】が端末について説明してくれます。
端末は、小さな木のブロックを沢山集めて作られていて、数種類の木を使う事で、端末ごとに模様が異なるんだそうです。
呼び出しを報せる振動は、端末全体を波打たせる様に動かすことで実現しているんだそうです。
振動のさせ方が、当初の予定から随分と変わっていた。
最初、振動を生み出す為のモーターをどうしようか考えていた時に『ゴーレム』という話が出て来たんだけど、端末全体がゴーレムになっちゃったね。
だが、端末全体がゴーレムになった事で、思わぬ進化があった。
それは、端末が小さなブロックを沢山集めて作られている為、ブロックの一部を数字の形に盛り上げる事で、数字を表示する事が可能になっていたことだ。
また、それと同様にボタンも実現できていた。
ゴーレム化によって一気に俺が知っている端末の形に近付いていた。
手と足が付いているのがアレだけど。
ホント、どうして手と足を付けたし…。
ゴーレム化によって、一気に進化した携帯電話の端末。
でも、この日は完成までには至りませんでした。
端末から手と足を無くすように【多重思考さん】を説得するのが大変で。(苦笑)
翌日。
手と足を無くした端末を【製作グループ】が作り上げました。
電話交換機室に行った俺が壁に貼り付けた【ゲート】の魔法陣と、端末に貼り付けた魔法陣を繋ぎました。
そして、『電話交換機ゴーレム』がちゃんと機能する事を確認して、端末同士での会話にも成功しました。
これで、携帯電話の、完成、です!
やったね。
早速、王妃様のところへ持って行くと喜んでもらえました。
うむうむ。
でも、運用は見送られました。予算が無いんだそうで。
それと、『手紙を送る魔道具』が十二分に役に立ってくれていて、携帯電話は今は間に合っているとのことで。
まぁ、そんなことだろうとは思っていました。
予算が無いことについては、むしろ、心当たりしか存在しないしなっ。
それと、その場で『目覚まし時計も来年以降にお願いね。』って王妃様に言われてしまいました。
予算が無いんですね。分かります。(苦笑)
まぁ、時計の方はまだまだ時間が掛かりそうだし、まぁいいや。
そっちも了承して王妃様の部屋を後にしました。
予想していたとはいえ、ちょっと残念に思いながら廊下を歩きます。
そんな俺に【多重思考さん】が頭の中で話し掛けてきます。
『やっぱり作るべきだったんですよ、ガイ〇ン型端末。』
いや、それはどうだろう?
王妃様が目を輝かせて暴走して、俺に実物大のガイ〇ンを作らせて国が傾く未来しか見えないよっ。
そんな事を考えながら、俺は未だに不満そうな【多重思考さん】を宥めつつ、部屋に戻ったのでした。
(お知らせ)
しばらくの間、更新間隔を5日おき(5の倍数日の更新)にします。
ストックが無くて、アップアップしていますので。
ストックが溜まったら3日おきの更新に戻したいと思っています。




