15 ナナシ、電話を作る02 携帯電話を作る…、つもりが、違う物が出来上がる
試しに作ってみた『糸無し糸電話』は無事に完成した。
俺はソファーに座って一息つきつつ、普通の携帯電話を魔法で再現する方法の検討を始める。
これから作る携帯電話の端末にはマイクとスピーカーを別々に設ける。
それは単純に【ゲート】の数を増やすだけだから簡単に出来る。【ゲート】を繋ぐ先を間違えない様に気を付けないといけないけど。
呼び出し先の指定はどうやろうかな?
液晶画面みたいな物を付ける気なんて無いからボタンをポチポチって訳にはいかない。
ダイヤルスイッチやスライドスイッチみたいな物を使って、予め割り振っておいた番号に合わせることで呼び出し先を指定することになるのかな?
まぁ、それらの検討は【製作グループ】に丸投げしよう。俺は電話交換機を考えたいし。
糸電話の様な”1対1”ではない電話を作る為には、電話交換機を作らないといけないからね。
俺は、【製作グループ】に端末を三つ、電話交換機の実験の為に作ってもらうことをお願いして、電話交換機の検討を始める。
相手の端末を呼び出して会話をする為には、電話交換機が必要になる。
電話交換機にさせる仕事は…。
・端末からの呼び出しを受信し、呼び出し先を判別する。
・呼び出し元と呼び出し先との間を【ゲート】で繋ぐ。
この二つを最低限してくれればいいのかな?
他にも、お話し中だった場合の対応とか、通話を終了した事を判別して【ゲート】を解除するとかも考えないといけなさそうだけど、最初はこの二つだけでいいだろう。
そういえば、【ゲート】って常時繋ぎっぱなしにしておかないといけないのかな?
これまで魔道具で使った【ゲート】って、みんな繋ぎっぱなしだったよね。蛇口も糸電話も。
携帯電話は持ち運ぶものなんだから、魔力の消費量は出来るだけ抑えたい。その為には【ゲート】は使う時だけ繋ぐようにしたいよね。
でも、魔晶石に書き込んだ【ゲート】の魔法を発動させる時って、出口側の【ゲート】を作る場所をどうやって指定したらいいんだろう?
携帯電話の端末で【ゲート】の魔法を発動させ、離れた場所に在る電話交換機の近くに出口側の【ゲート】を作る様子を想像しながら考える。
考える。
考えるが、やり方が分からない。
携帯電話の端末から予め決められた場所に【ゲート】を発現させる事は出来るが、持ち運ぶ端末から離れた場所に在る電話交換機の近くに出口側の【ゲート】を作る方法が分からないな。
あれれー。無理っぽくない?
魔法陣を使った蛇口の様に、入り口と出口に【ゲート】の魔法陣を使えば出口側の【ゲート】を作る場所を把握できたりするんだろうか?
そもそも、魔法陣を使えばいいのか。魔力の消費量を抑えたいのだったら。
いやいや、あれは魔力が豊富に有る異空間の中だったから可能だったのだろう。
でも、お風呂場の蛇口って、出口側の【ゲート】の魔法陣は異空間の外だったね。ぢゃあ、大丈夫なのかな?
いや、あれは魔力が豊富に有る異空間の中の魔法陣と繋ぎっぱなしだったから、その事で魔力が賄われている可能性が有るな。
…色々と実験して、確認してみないといけないみたいだね。
そんな事を考えていたところで、ハタと気付く。
そういえば、『糸無し糸電話』って【ゲート】の魔法をどうしてたっけ?
魔晶石に書き込んだ【ゲート】の魔法? それとも魔法陣を貼り付けてある?
あれれ? どっちだったっけ?
思い出そうとするが、思い出せない。
…そういえば、あれは【製作グループ】に丸投げして作ってもらったから、どっちを使っているのか知らなかったね。(てへ)
確認する為に【製作グループ】の誰かに頭の中で呼び掛ける。
『そこんとこ、どうなのー?』(←訊き方が雑です)
『ふぅ。ヤレヤレだぜ。』
失礼な返事が返って来たけど、今回ばかりは文句を言えないね。ぐぬぬん。
『『糸無し糸電話』で使っている【ゲート】の魔法は、魔法陣を貼り付けてます。魔法陣には周囲から魔力を集めるプログラムも含まれていますが、念の為、魔晶石からも魔力を受け取っています。それと【ゲート】は繋ぎっぱなしです。そもそも【ゲート】の魔法は一時停止みたいな使い方は出来ません。発動と解除だけです。』
そうなのか。一時停止は出来ないのかぁ。それは残念だね。
『それと、『糸無し糸電話』が、持ち運んでも【ゲート】が繋がったままでいられるのは魔法陣を使っているからです。』
あれ? そうだったの? それは知らなかったな。
そうだとすると、もしかしてお風呂場の蛇口って、魔法陣を使っていなかったら建物を移設した時に使えなくなっていたってことなのかな?
『そうですよ。ふぅ。ヤレヤレだぜ。』
また『ふぅ。ヤレヤレだぜ。』って言われてしまった。でも、やっぱり文句を言えないね。ぐぬぬん。
俺は、魔法のことをもっとちゃんと知っておかないといけないね。
そう反省する。
でも、丸投げを止めるつもりはありません。(←コイツ、本当は反省してないだろ)
『それはそれとして、携帯電話の端末の試作零号機が出来上がりました。』
もう出来たのか。
そう言われた俺は、少し落ち込む。
こっちは、電話交換機どころか【ゲート】で躓いて、まだ何も出来ていないからね。(しおしお)
そう落ち込んでいると、コトトッとテーブルの上に、木で出来た湾曲した細長い板状の端末が二つ置かれた。
あれ? 端末は三つ頼んでいなかったっけ?
『これは試作零号機です。魔力の消費量を抑える目的で、声を伝える方法を変えた端末を作ってみましたので、その確認をお願いします。』
あー、そういう事ね。
ぢゃあ、早速、確認してみようかね。気分転換にもなるし。
俺は、テーブルの上に置かれた、湾曲した細長い板状の端末を一つ手に取って見てみる。
それは、ボタンも何も無い、ただの湾曲した細長い木の板で、角が丸く削り落とされ、表面が滑らかに仕上げられている。
手に持つと、すっごく手に馴染みます。【製作グループ】が趣味に走って作った事が窺い知れます。(苦笑)
表面を見ると、小さい”耳の絵”と”口っぽい絵”が一つずつ、表面を焦がす事で描かれている事に気が付いた。その部分が、スピーカーとマイクなのだろう。
でも、これで音が出たり音を拾えたりするんだろうか? 何か振動する物がないと音が出ないよね?
それとも内部に埋め込まれているのかな? 見た目は、本当にただの湾曲した細長い木の板にしか見えないんだけど…。
『構造を単純化する為と魔力の消費量を抑える為に、声を伝えるのに光を使うのを止めて、声をそのまま【ゲート】で送ることにしました。こちら側のマイク部と相手側のスピーカー部を【ゲート】で繋ぐことによって。』
ああ。そうか。
そう言われてみれば、確かにそれだけで済むよね。
あれ? 何で俺は、光を使って音を伝えようとしたんだったっけ?
…糸電話を魔法で忠実に再現しようとして、そうなっちゃったのか。
糸電話のイメージに引っ張られ過ぎて、すごく無駄な事をしちゃってたね。
音を伝える方法を頑張って考えたし、イイ手応えを感じていたのにね。(ガックシ)
ま、まぁ、あの『糸無し糸電話』は試しに作ってみた物だから無駄な物が有っても当然ダヨネ。その為の試作だし。うん。ソウソウ。
すっごく無駄な事をしてしまったことに落ち込みながら、俺は、作ってもらった新しい端末を二つ両手に持ち、両方を耳に当てて、右手に持った方のマイク部に向けて声を出す。
「あーー。」
だが、端末からは声が聞こえて来なかった。
あれ?
「あーー。」
もう一度やるが、やっぱり声が聞こえて来ない。
あれれぇ?
一つをテーブルの上に置いて、手に持ったままのもう一つの端末を見詰めながら【製作グループ】の誰かに訊く。
『えーっと、最初に電話交換機を使うタイプの端末を頼んでいたから、まだ【ゲート】が繋がっていないってことかな?』
『ちゃんと二つの端末の間を【ゲート】で繋いでいます。』
そう言われて、何となく端末の”口っぽい絵”が描かれている部分に指を当ててみたら、その指先が消えた。
その光景にビビって、指を戻す。
ビビってしまったが、それが【ゲート】が繋がっていることで起きた現象だと気付いて、もう一度指を当ててみる。指先を差し込む様な感じで。
端末の表面で指先が消えた。
その消えた指先が何処に行ってしまったのかと思ったら、テーブルの上に置いた方の端末の”耳の絵”が描かれている部分から指先が出ていた。
怖ぇ。
指が生えて動いている様子が、軽くホラーです。(ヒィェェ)
転移魔法とかはしょっちゅう使ってるけど、指先だけが別なところに行っている光景は、目の当たりにすると、結構怖いです。
それはそれとして。
ど、どうやら、ちゃんと【ゲート】は繋がっていたみたいだ。(ドキドキ)
でも、【ゲート】は繋がっているのに、どうして声が出なかったんだろう?
”指”が出るのに、”声”が出なかった理由を考える。
声…。つまりは音で、音は『空気の振動』だ。
物は送れるが、『空気の振動』は【ゲート】では送れないってことなのかな?
それならありそうな気がするね。
ちょっと残念だな。【ゲート】だけで声を伝えられれば、構造的にも魔力の消費量的にも助かったのにね。
どうやら、『糸無し糸電話』でやった、光を使って声を伝える方法が正解だったみたいだ。
俺の閃きがすごいね。さすが、イイ手応えを感じただけのことがあります。うんうん。(手の平クルー)
「それを使えば、物が送れるねー。」
いつの間にか俺の斜め後ろに来ていたケイトがそう言う。
あぁ、そうか。これを使えば確かに物を送ることが出来るね。
俺は、ケイトに「そうだね。」と応えつつ、考える。
この仕組みを使えば、遠くに居る人に物を送る魔道具が作れるね。
大きい物を送るのは、途中で魔力が切れてしまうのが怖いから止めてほしいけど、小さくて軽い物をサッと送るのには良さそうだ。
この仕組みを利用して手紙とかを送る魔道具を作れば、喜んでもらえそうな気がするね。
そう思った俺は、『手紙を送る魔道具』を考えてみることにした。電話交換機を考えるのがめんどくさくなったので。(←おい)
たまには寄り道もよかろうなのだっ。
割としょっちゅう脱線していた気もしますが。
でも、『手紙を送る魔道具』を考える前に、端末で遊んでいるケイトから端末を取り上げよう。
指が出たり入ったりしている様子が軽くホラーで、そんな事を目の前でされていたら考え事なんか出来ないからなっ。
ケイトから端末を取り上げて【無限収納】に放り込み、ブータレるケイトを放置して考える。
使う魔法は、【ゲート】の魔法陣を貼り付けるだけだ。
『手紙を送る魔道具』の形状をどうしようか考えていると、よく机の上に置かれている書類を入れる箱が思い浮かんだ。底が浅く、蓋の無い箱だ。
その垂直に立っている板の外側に【ゲート】の魔法陣を貼り付けて、そこに送る手紙を押し付ける感じにしよう。
手紙を受け取る際は、板の内側に貼り付けられた【ゲート】の魔法陣から出て、箱の中に落ちる様にする。
ふむふむ。イイ感じだね。
俺は早速、【製作グループ】に底が浅い箱の製作を頼み、一息つくことにします。
ふぅ。
『『手紙を送る魔道具』のガワが出来上がりました。』
しばらくソファーで寛いでいたら、頭の中でそう言われた。
見ると、頼んでいた底が浅い箱が二つ、ふよふよと空中に浮かんでいた。
早速、それらをテーブルの上に並べて置き、【ゲート】の魔法陣を貼り付けよう。
そう思って、テーブルの上に置いた箱を上から見たら、四方に垂直に立っている板の一枚だけが妙にブ厚かった。
何だこれは?
『その厚い板の側面には、縦に長い引き出しが付いています。魔石を入れる為の引き出しです。魔法陣が集める魔力だけでは少し不安でしたので。』
なるほど。かなり便利な魔道具になりそうだし、もし、職場間の書類のやり取りなんかに使うことになったら一日中使われそうだしね。使う魔力を魔石でも賄える様にしておいた方がいいだろう。
納得した俺は、このブ厚い板の両面に【ゲート】の魔法陣を貼り付けることにした。分かり易いし。
俺は、二つの底が浅い箱に【ゲート】の魔法陣を貼り付けていく。
【ゲート】を通った手紙がちゃんと隣の箱の中に出る様に、魔法陣を貼り付ける場所を間違えない様に注意しながらね。
【ゲート】の魔法陣を貼り付け終えた、二つで1セットの『手紙を送る魔道具』。
魔石も入れて、早速、実験してみる。
【ゲート】の魔法陣を貼り付たブ厚い板が手前に来る様に箱を二つを並べて置き、左の箱の手前の板に便箋を押し付けてみる。
何の抵抗も無く姿を消していった便箋は、右の箱の中に現れ、パサリと箱の中に落ちた。
よし。成功だ。
今度は、今、箱の中に便箋が入った右の箱で同じ事をやる。
先ほどと同様に手前の板に便箋を押し付けると、左の箱の中に現れ、パサリと箱の中に落ちた。
よし。こっちも上手くいったね。
実物を目で見ると、なかなか面白い魔道具が出来上がったね。
うむうむ。(←満足げ)
面白い魔道具を作り上げて満足したところで、ふと、思い出す。
そういえば、俺、携帯電話を作ってたんだよね?
…どうしてこうなったんだっけ?
ま、まぁ、いいや。取り敢えず、コレは王妃様のところへ持って行こう。
ここに置いておくと、ケイトのおもちゃにされてしまいそうだからな。
…まぁ、既にケイトのおもちゃにされてしまっているんですけどねー。
でも、ケイトよ。お前は、よくそうやって気楽に手を突っ込めるな。
手を突っ込んで、その手が隣の箱から出ているのを見て喜んでいるケイトには、正直ドン引きです。自分で作っといて、なんだけど。
『手紙を送る魔道具』を持って、王妃様のところにやって来た。
こたつが置かれている部屋に通されると、王妃様はリリス様と『糸無し糸電話』で遊んでいた。
『仕事してください、王妃様。』って思ったけど、領主の仕事をすべて誰かに押し付けている俺には何も言えなかったね。(←領主代行の名前すら知らない領主がここに居ます)
それはそれとしてっ。
俺は、気を取り直して王妃様に言う。
「携帯電話を作ろうして失敗してしまったんですが、面白い物が出来上がったので持って来ました。」
俺がそう言って、こたつの上に底が浅い箱を二つ置くと、王妃様は首を傾げます。
そうだよね。携帯電話とはまったく形が違うんだから意味が分からないよね。携帯電話の件は必要なかったね。
王妃様の疑問は無視して、サッサと実演を始めます。
王妃様という高位の方への対応としてはアレですが、こたつで『糸無し糸電話』で遊んでいた様子を見せられたら礼儀とかどうでもよくなっちゃいました。
「こっちの箱のこの部分に便箋を押し付けると、こっちの箱の中に出てきます。」
そう言って、実演してみせる。
送る側と受け取る側を入れ替えてもう一度見せてから、便箋を手渡して、王妃様とリリス様にも実際にやってみてもらいます。
「これはいいわね。ちょっと借りていていいかしら?」
「いいですよ。」
ぜひ、そうしてください。俺が持っているとケイトがウザイんで。
背後から『えーー。』って小さな声が聞こえた気がしましたが、きっと俺の気の所為です。
部屋に戻って来た。
俺は、ソファーに座ってダラーーッとします。
何だか、一仕事やり終えた感じがします。
携帯電話の方は、まったくと言っていいほど進んでないけど、今日はもういいや。
俺は、ソファーで全力でダラーーッとすることにします。
「ダラーー。」(←思わず口に出してしまう変な奴がここに居ます)
夕方。
ソファーとの一体感を満喫していたら、シルフィと王妃様とメイド長が俺の部屋にやって来ました。
きちんと座り直して話を聞くと、『手紙を送る魔道具』の依頼でした。
王妃様にお渡ししたのと同じ物を20セット頼まれました。
今は取り敢えずこの数で、後から追加注文があるんだそうです。
それとは別に、ペンダントとかブローチとかで同様の物が作れないかメイド長から訊かれました。
何だかスパイ道具っぽいですね。
多分、出来ると思うし面白そうだから、その依頼も引き受けました。
スパイ道具っぽいやつは、きっと、諜報活動っぽいことをしている人たちに持たせるのでしょう。
それだったら大臣の管轄の様な気がするけどこの場には来ていない。きっと忙しいからだね。うん。
別に、メイドさんたちがスパイめいた事をしている訳ではないですよね? 依頼がペンダントとかブローチだったけど。
ま、まぁ、詳しく訊こうとは思いませんが。
どうやら、『手紙を送る魔道具』は良い評価を得られたみたいです。
うむうむ。(←満足げ)
でも、この様子だと、携帯電話の発表は少し間を空けた方が良さそうだね。
じっくりと仕上げる時間が出来そうなので、後日、完成度を高めてからお披露目しようと思います。




