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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十六章 異世界生活編11 そろそろノンビリできるよね編
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13 ナナシ、またおかしな物を作る 『どこ〇も蛇口』


王宮のしき内にあらたにお風呂場が建てられることになり、その会議に呼ばれた。


お風呂場は、俺が魔法で色々としないとどうにもならないのだから、その会議には俺も出席しないといけないよね。

そして、俺への依頼の窓口になっているシルフィも一緒に会議に出席することになり、いつもの様に俺の腕に抱き着いて、一緒に会議室に向かっています。

後ろから付いて来ているクリスティーナさんが”不機嫌オーラ”を出していますが、シルフィが会議に呼ばれたのは俺の所為せいではないので、俺に”不機嫌オーラ”を飛ばして来るのはめてほしいです。(ビクビク)

多少は『やらかした』という気がしないでもないですが、王妃様がのぞんだ事なんですから、お風呂場に関する苦情はすべて王妃様にお願いしたいです。ええ。


会議室の前まで来たら、先にケイトが一人で中に入って行った。

何処どこかで見たような光景だなぁ。』なんて思ったら、前に俺が巻き込まれた”勝負”でのルールの話し合いの時がこんな感じだったね。

ケイトが護衛っぽい仕事をしている光景は久しぶりに見た気がします。

ケイトの腕の中でジタバタしていたペンギン型ゴーレムが、色々とだいしにしていた気がしますが。(苦笑)


ケイトのあとから会議室に入ると、この場には大臣も来ていた。

王宮のしき内にあらたに建物を建てるというのは、やっぱり大事おおごとなんだろう。『それなりに見栄みばえのする建物を建てないといけない。』みたいな”まりごと”とか有りそうだし。

そんな事を考えたら、ふと、ちる事が有った。

かくから王宮のしき内に移設したあのお風呂場。あれが外壁がいへきのすぐ近くの場所に移設されたのは、目立めだたせない為だったのかもしれないね。この国では見掛みかけない建物だったしね。

なるほど。なるほど。

てっきり、メイドさんたちだけで独占するつもりで、メイドさんたちの寮の裏のあんな場所に移設したのかと思ってたよ。

王妃様、うたがってごめんなさい。

…そう思ったけど、その可能性も否定できないか。王妃様のやることだしね。うん。(手の平クルー)

そんな事を考えて微妙なしんきょうになりながら、俺は席に着いたのでした。


会議は、そこそこ地位が高そうな文官ぶんかんさんの司会で始まった。

王宮のしきの図面やあらたに建てる建物の外観図、それと俺が移設したお風呂場をスケッチしたものなんかを机の上に広げながら、お風呂場を建てる場所や、一日当たりの利用者数の予測とか、建物の大きさなんかが話し合われています。

そのへんの話は俺には無関係なので、ぼんやりとながめつつスルーします。

ふと、『ペンギン型ゴーレムを持って来ていればモフモフして退屈をまぎらわせていられたのになぁ。俺の後ろでひかえているケイトみたいに。』なんてことも考えましたが、今更いまさらです。大人おとなしくぼんやりしてます。


その話し合いで、建物を二棟、男性用と女性用を別々の場所に建てる事が決められました。

その様子を『ふーん。』と思いながらぼんやりと聞いていた俺に、建物を建てる仕事をしているらしき人から質問が。

「この二つの入り口の間に在る場所は何なのでしょうか?」

そう言いながら差し出されたスケッチにえがかれていたのは、お風呂場の番台ばんだいだった。

さて。何て答えたものかな?

お風呂自体(じたい)が無いお国柄くにがらで、もちろん公衆浴場なんてものも無いので、『入浴料を徴収ちょうしゅうする人が座る場所です。』なんて言っても理解してもらえないだろう。

また、『男のロマンです。(キリッ)』なんて言う訳にもいかないしね。この会議には女性が何人か居るし、俺の隣にはシルフィも居るんだからね。

何て答えたら番台ばんだいを残してもらえるかを考えて、思い付きで「入浴中に気分が悪くなった人が出た時にすぐに気が付ける様に、見守る人を座らせておく為の場所です。」と答えてみた。

そのてんで、番台ばんだいの必要性を理解してもらえて、番台ばんだいは残る事になりました。

やったぜ!

でも、男性用と女性用で別々の建物が建てられる事が既に決まっているので、番台ばんだいが残ったところでわざわざ異性を座らせる訳がないし、その為に俺が呼ばれる可能性はもっと無いよね。呼ばれたら、逆に驚くよね。

こうして番台ばんだいは残ることになりましたが、『男のロマン』は消え去ったのでした。しくしく。


配管はいかん等は一切いっさい不要と聞いているのですが、どの様な仕組みでお湯をかして、ヨクソウ?に入れるのですか?」

『男のロマン』が消え去った事をひそかになげいている俺に、さっきの人から『お湯を出す仕組み』について訊かれました。

悲しみをこらえながら、サラッと説明します。(←番台ばんだいに意識が行き過ぎだろ)

「異空間を作ってその中に魔法陣を貼り付けてお湯を作り出し、【ゲート】という空間魔法で蛇口じゃぐちつなげてます。(サラッ)」

「「「「「………………。」」」」」

「………?」

なんか、静かになっちゃいました。

まぁ、これからお風呂場を作ろうとしているのに、肝心かんじんの『お湯を出す仕組み』がよく分からないってのは不安だよねー。

でも、実際、今説明した通りなのだから、これ以上の説明のしようって無いよね。

だからと言って、このまま放置してしまうのも可哀想かわいそうな気がしたので、こう言ってあげる。

「新しく作るお風呂場も私が水回みずまわりを担当します。蛇口じゃぐちも含めて。ですので安心してください。」

そう言ったら、ホッとしてもらえました。


ホッとしてもらえたのはいいのだが、一つ心配している事が有ったのでこの機会に伝えておく。こういう機会ってあんまりないからね。

「お湯を作り出すのに使っている魔力ですが、異空間内にどのくらい在るのかサッパリ分かりません。その為、いつか異空間内の魔力を使い果たしてしまった時に、お湯が出なくなってしまいます。その事は記憶にとどめておいてください。」

俺がそう言うと、不安そうな表情をされてしまいました。

不安になられたところで、分からないものは分からないのだからしょうがないよね。それに、こんな大事おおごとにしたのは俺ではないので、俺に責任を求められても『知らんがな。』としか言いようがないからね。

一部に不満そうな表情をする人も居ましたが、大臣が「承知しました。」と言ってくれたので、その話はそれで終わりになりました。

まぁ、他の方法でお湯を何とかしようとするとかなり大変なことになるので、実質『他に選択肢は無い』という状態なんだから、いくら不満に思われようとも了承してもらうしか無いんだけどね。

せめて、俺が対応できる内に魔力が尽きてくれる事を祈っておこう。


「お風呂場の建物の外にも蛇口じゃぐちがあると便利なのですが、設置できますか?」

()るお風呂場の管理をしているというメイドさんから、そういう要望が出た。

蛇口じゃぐちが一つ二つ増えたところで何てことはないし、建物の中だろうが外だろうが関係無いので、その要望をサクッと了承します。そして、新たに建てる建物の外に蛇口じゃぐちが一つ追加されました。

「出来れば、今()るお風呂場の前にも一つ蛇口じゃぐちを増設していただけると助かるのですが…。」 

メイドさんからさらにそう言われたので、それも了承しました。


この後、工期なんかが話し合われて、会議はおひらきになりました。



ガヤガヤと会議室から人が出て行く中、お風呂場の管理をしているメイドさんとこの場に残って、先ほど頼まれた蛇口じゃぐちの増設について話し合います。

メイドさんから意見を訊く為に、紙に、よく公園に設置してあるやつを思い浮かべながら絵を描く。

俺が絵に描いたのは、上に水を飲む為の蛇口じゃぐちがあり、正面にも手洗い用の蛇口じゃぐちが付いているやつだ。

水を飲むやつは求められていなかったけど、こういうタイプも一つくらいあってもいいだろう。どっしりとした外観も安定感があっていいしね。

メイドさんに絵を見せつつ、蛇口じゃぐちの高さの要望なんかを聞いて、大きさを決定。

頭の中で【製作グループ】に『水飲み場』の製作を丸投げして、そのまま現場へと歩いて向かいます。


メイドさんたちと一緒に、メイドさんたちの寮の裏の現場にやって来た。

蛇口じゃぐちを増設してほしいという場所は、先日移設したお風呂場の前と言うよりも、メイドさんたちの寮のほうにより近い感じだった。

少し不思議に思ったけど、ずっとクリスティーナさんの”不機嫌オーラ”を背後から感じていたので、ササッと設置してしまおうと思います。(ビクビク)


【製作グループ】に作ってもらった『水飲み場』をドンッと置く。石を【結合】でくっ付けて作られたソレは、なかなかの安定感です。

蛇口じゃぐちの下に、水を受ける穴を転移魔法で土を退かすことで掘り、その穴に鉄で作られた格子こうし状のフタを置く。

その作業をする一方いっぽうで、【製作グループ】には排水路をつないでもらう。

最後に、お風呂場で使う水をめている異空間に水量監視の為に置いていた【目玉めだま】を使って、蛇口じゃぐちとの間を【ゲート】でつなぐ。

ちゃんと水が出る事を確認して、設置作業終了だ。


作業を終えて振り返ったら、メイドさんたちは呆然ぼうぜんくしていました。

ですが、こういう事はわりとよくある事なのでスルーして、シルフィとクリスティーナさん、それとケイトを連れて部屋に帰りました。



廊下でシルフィとクリスティーナさんと別れ、部屋に帰って来た。

ソファーに座ると、”一仕事ひとしごとやり終えた感”を感じます。

ふぅ。


ケイティさんにれてもらったお茶を飲みながらくつろぎ、ふと、思う。

蛇口じゃぐちってわりと簡単に何処どこにでも設置できるんだなぁ。』と。(←いやいや、お前がおかしいだけだからなっ)

そして、『この部屋にも水が出る蛇口じゃぐちがあったら喜ばれるんぢゃないかなぁ。』なんて考える。井戸でんだ水をここまで運ぶ手間てまが無くなるんだからね。


その思い付きを実行に移すべく、四角柱に蛇口じゃぐちが付いているだけのシンプルな物を頭の中でおもえがく。

そして、ハタと気付く。

『これにを付けると『持ち運び可能な蛇口じゃぐち』っていう、よく分からない物が出来上がっちゃうんぢゃないのかな?』と。

お風呂場の中で使っている蛇口じゃぐちは建物ごと移動させた後でも普通に使えていて、蛇口じゃぐちを移動させても水が出る事は確認済みだからね。

…あれ? ホントに出来ちゃいそうだね。

ケイティさんにお茶をれてもらう時にかすお湯。その為の水を『持ち運び可能な蛇口じゃぐち』から出せれば、きっと喜んでもらえるだろう。

よし。早速さっそく、【製作グループ】に作ってもらおう。

よろしく。(←丸投げが雑なのは、いつも通りです)



しばらくソファーでダラーーッとしていたら、頭の中に【多重思考さん】から報告が来た。

『『どこ〇も蛇口じゃぐち』が完成しました。』

『そのネーミングはどうなのかな?! 某アニメに出てくる『ひみつ道具』にそんな名前の物がなかったっけ?!』

『どこ〇も蛇口じゃぐちー。』

『や・め・ろ! あと、ひとの話を聞け!』

そんな言い合いをしている間に、【多重思考さん】のおんなセリフと共に空中に現れたソレが、ゆっくりと床に置かれた。

ひとの話を聞かない誰かさんのことはあきらめて、床に自立しているソレを見る。

一辺(いっぺん)が30cmほどの四角い木の板のはしに、5cmほどの幅をしたやや厚い板が垂直に立てられ、その上のほう蛇口じゃぐちが一つ取り付けられている。

板の一番上に、横に細長い穴がくり抜かれているのは、持ち運ぶ時にとして使う為なのだろう。

バランスが悪くてうしろに倒れてしまいそうにも見えるが、蛇口じゃぐちおもみを考えれば意外とバランスは悪くないのかな?

ソファーから立ち上がって、床に自立するソレを軽く突いてみた。

少々不安に感じる見た目だったが、バランスは思っていたほど悪くはない様だ。

しゃがんで正面から全体をながめてみると、垂直に立つ板には唐草からくさ模様の様なものがかしりでられていた。

『時間が有れば、もっと手の込んだものをしたかったのですが…。今は、これがせい一杯いっぱい。』

『いちいち、アニメのセリフっぽいことを言わなくていいからっ。』

『本当はりゅうものがしたかったんですよ。あの『ぼうやー、よい子だ、ねんねしなー。』てきりゅうの。』

『そういうのは、もういいから! 本当に!』

変なスイッチが入っちゃった【多重思考さん】がウザイです。(苦笑)


それぢゃあ、コレをケイティさんにプレゼントしよう。

の部分を持ってケイティさんのところまで持って行って、手渡す。

「ケイティ、これは水を出す魔道具ね。お湯をかす時にでも使って。」

「はい。ありがとうございます。(キリッ)」

俺から受け取ったケイティさんは、水の入ったかめの隣に置いて、早速さっそくヤカンに水を入れてみる。

ヤカンに水を入れたケイティさんが、俺になおって言う。

「コレって…。すごくないですか?」

『キリッ』としていないケイティさんは”ちょいレア”です。

「うーん。どうだろう。わりと簡単に出来たよ。」

俺はそう答えます。わりと簡単に出来たし。

ケイティさんが思っていたよりもおどろいていましたが、俺と俺以外の人とで価値観が違う事はわりといつもの事なんで、特に気にはなりません。(←もう少し気にしてさしあげろ)

「………ちょっと、メイド長のところへ…。」

そう言って、ケイティさんは『持ち運び可能な蛇口じゃぐち』を持って部屋を出て行きました。

『どこ〇も蛇口じゃぐち』? 知らない子ですね。


ケイティさんのはいが遠ざかって行くのを感じながら、『思ったよりも、ケイティさんがおどろいていたねぇ。』なんて思いつつ、ソファーのところへ戻る。

ソファーのところへ戻るさいに、窓際まどぎわひかえるケイトの姿が目に入りましたが、そのケイトが、何故なぜか『ヤレヤレ』って表情をしていたのはどうしてなんだろうね?

せぬ。



その後、部屋にやって来たメイド長から頼まれて、あと3つだけ追加で『持ち運び可能な蛇口じゃぐち』を作りました。

あまり沢山たくさん作ってジャンジャン水を使われると困るので、3つだけです。お風呂場で使う水と同じところから水を持って来ているしね。

それと、この手の物は戦争で役に立ってしまうから、あまり作りたくないんだよね。【マジックバッグ】と同様にね。



後日、大臣が困った様な表情をして俺のところにやって来ることになるとは、この時はまったく思っていませんでした。



次回、ナナシは王妃様に頼まれていた『電話』作りに取り掛かります。大臣が困った様な表情でやって来るのはもう少し後のことです。


(修正 2021.01.08)

誤字報告をいただいた脱字を修正しました。

ついでに、ルビの追加と句読点の見直しをしました。


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