12 ナナシ、コーラの製造の引き継ぎをお願いするも、おおごとになる。そして…
王妃様から、お風呂場を譲り渡した報酬を受け取った。
また大金を受け取ることになってしまった。碌に使い途も無いのにね。
そろそろ本気で、溜まりまくるお金の使い途を考えた方がいいのかもしれないね。
それはそれとして。
ちょうど王妃様にお願いしたい事が有ったので、この場で言おう。
「王妃様、コーラの試作が大体終わったので、コーラの製造を誰かに引き継いでほしいんですが…。」
王妃様にお願いされて作ることになったコーラは、ほとんど完成した。
この後やる事となると、味の改良とかコストダウンとかだけど、それらは別に俺でなくとも出来るし、俺はそんな面倒な事をしたくはない。
俺はもっとノンビリしていたいのです。
「それじゃあ、おやつを作っている部署に引き継がせることにするわ。」
王妃様にそう言ってもらえた。
こうして、コーラの製造は俺の手を離れて、おやつを作っている部署に引き継がれることになりました。
コーラの製造を引き継いでもらえることになった。
それは嬉しいんだけど、そもそも、あのコーラって俺以外でも作ることが出来たっけ?
今更ながら、俺はコーラの製造工程を振り返ってみることにした。
俺がやっていたコーラの作り方は、『炭酸水を作って、そこに砂糖を煮詰めて作ったカラメルと、香辛料を煮出した物を加えて香りを付ける。』というものだった。
炭酸水の作り方は、空気中から取り出した二酸化炭素と水を結界で包んで、ギュッと縮めて圧縮して作っている。
…最初の炭酸水を作るところが、まったく普通ぢゃなかったね。
マズイぢゃん。最初の炭酸水を作るところで、既に製造を引き継いでもらうのに赤信号が灯っちゃってるぢゃん。
”香り付け”という、割と誰にでも出来る事を何度も繰り返してうんざりしちゃっていたから、そのイメージが強過ぎちゃって、炭酸水を作る工程のことをすっかり忘れちゃってたね。ずっと【料理グループ】が作ってくれていたしな。
マズイね。
炭酸水を作るところを何とかしないと、製造を引き継いでもらう事なんて出来ないね。
仕方が無い。魔道具を作ってなんとかしよう。
コーラ作りを誰かに押し付けて俺がノンビリする為にな。(←本音がダダ漏れになってんぞ)
隠れ家にやって来た。
急遽作らなければならなくなった『炭酸水を作る魔道具』の構想を練る為にね。
ソファーに座って頭の中で考える。
炭酸水を作る手順は…。
先ず、空中に結界を張って、その中から二酸化炭素以外を【分離】魔法さんで取り除く。
そこに【クリエイトウォーター】で作った水を加えて、結界をギュッと縮めて圧縮する。
これで炭酸水が出来上がる。
この工程を魔道具で再現する方法を考える。
とは言え、以前作った『洗濯物を乾燥させる魔道具』でのやり方が流用できそうだ。
『洗濯物を乾燥させる魔道具』は、壁に沿って結界を張ることで室内に在るすべての水を【分離】魔法さんで取り除き、洗濯物を乾燥させていた。
それと同様に、張った結界内から二酸化炭素以外を取り除き、そこに【クリエイトウォーター】で作った水を加えてから結界をギュッと縮めて圧縮する。
これでいけるね。
でも、一回目はそれでいいけど、二回目以降は空気中に二酸化炭素が無くなっているから【ウィンド】で空気を入れ替えるてやる必要が有る。これを忘れない様にしないとね。
今の工程を、もう一度頭の中でおさらいする。
ふむふむ。ふむふむ。
これなら魔道具を作れそうだ。
俺が想像していたよりも簡単に出来そうだね。
コーラの製造の引き継ぎが決まってから炭酸水が俺にしか作れない事に気が付いてしまったので、焦ってしまっていたのだろう。
ホッとした俺は、【製作グループ】に魔道具作りを頼んで王宮の部屋に帰ることにしました。
よろしく。(←今日も丸投げが雑です)
午後。
頼んでいた『炭酸水を作る魔道具』が出来たと聞いて、俺は呼ばれるまま『工房』へとやって来た。
『工房』へ来てみると、そこには車庫ほどの大きさの三角屋根の小屋が鎮座していた。
ん? あの小屋は何だ?
『あの小屋が『炭酸水を作る魔道具』です。』
「はぁ?」
【多重思考さん】が言う『炭酸水を作る魔道具』は、俺が想像していたのとは大分違った。また、参考にした『洗濯物を乾燥させる魔道具』ともまったく違っていた。
『『洗濯物を乾燥させる魔道具』を参考にしたとは言え、条件が色々と違いますので。』
【多重思考さん】は、そう言ってから説明してくれる。
『『洗濯物を乾燥させる魔道具』はドアを閉めてから起動する様にしてもらっていました。室内全体を結界で覆う為に壁に沿う様に結界を張る必要がありましたので。』
そうだったね。説明書の注意事項にそんな事が書かれていたね。
『『炭酸水を作る魔道具』では、空気を入れ替える必要がありますので窓は開けっぱなしにしておかないといけません。その為、『洗濯物を乾燥させる魔道具』と同じ事は出来ず、結界を張る場所と大きさを固定することにしました。』
ふむ。
『また、周囲の二酸化炭素濃度が一定でないと炭酸水の炭酸の量が一定にならない為、屋内に設置して運用する事は難しく、また、飲み物を作る設備でもある為、野ざらしにする訳にもいきません。それらを考慮した結果、”屋外に設置する小屋型の魔道具”になりました。』
「うわぁ。」
ただ炭酸水を作るだけぢゃ済まなかったんだね。そして、色々な事を考慮した結果、こんな”小屋型の魔道具”になっちゃったのかー。
「うわぁー。(呆然)」
【多重思考さん】から説明を聞いて、少しの間、呆然と立ち尽くしてしまった。
気を取り直してっ。
俺は、目の前に鎮座する”小屋型の魔道具”を見る。
車庫ほどの大きさの、やや背の高い三角屋根の小屋だ。
正面に両開きのドアが在り、側面のやや奥寄りに窓が四つ、正方形を描く様に配置されている。
俺は小屋に近付き、両開きのドアを開けて小屋の中に入った。
入ったところは、奥行きが2mもない小さな部屋だった。
正面の壁の右端にドアが在り、正面中央からやや左に寄った場所に、幅1.5mで床から1.5mくらいの高さまで壁が取り払われている部分がある。
その上には棚が在り、そこに『洗濯物を乾燥させる魔道具』とよく似た魔道具らしき物が置かれていた。
ふむ。
そこまではいいんだけど、どうして、壁が取り払われている部分に寸胴鍋が置かれているんだろうか?
そう疑問に思っていたら、頭の中で【多重思考さん】が教えてくれた。
『作られた炭酸水は、ここに置かれた容れ物の中に入れられます。』
「何で、寸胴鍋なの?」
『他に適当な大きさの容れ物がありませんでしたので。それと、持ち運びがし易すそうでしたのでコレにしました。』
まぁ、それはいいか。
【多重思考さん】が説明を続ける。
『ここへ来て容れ物を置き、『起動。』とか『炭酸水。』とか言うと魔道具が起動して炭酸水を作ります。作られた炭酸水は、ここに置かれた容れ物の中に入れられます。』
なるほど。
この小さい部屋には他に見る物は無いので、奥に続くドアを通って奥の部屋に行く。
ドアの向こうは、八畳くらいの広さの何も無い空間だった。
本当に何も無く、ただ左右の壁に、それぞれ四つずつ正方形を描く様に窓が配置されているだけだった。
不自然な窓の配置だが、あの窓の配置にはどんな意味が有るんだろうか?
『空気を入れ替える際、右から入れて左に出すのが良いのか、それとも、右上から入れて右下から出すのが良いのか。それらを確認する為にあの様な窓の配置にしました。』
ほう。
『実験してみたところ、右から入れて左に真っ直ぐに出したら良い感じでした。単に、窓を作り過ぎただけかもしれませんが。』
なるほど。そりゃあ、四つも窓が在れば風がよく通るよね。
「そんなオチは必要無いからね?(ニヤニヤ)」
『何事も実験してみなければ分かりませんので。(震え声)』
まぁ、色々と実験していれば、たまにはそんな事もあるよねー。
それはそれとして。
俺は、改めて目の前の何も無い空間を眺めながら【多重思考さん】に訊く。
「でも、こんなに広い空間って本当に必要だったの?」
何も無いので、空間が本当に広く感じます。
『ある程度まとまった量の二酸化炭素を集めようとすれば、このくらいの空間は必要になるのです。』
「そうなんだー。(呆然)」
俺の想像を色々な方向で越えてきましたね、この魔道具は。
ただ、炭酸水を作りたかっただけなのに、どうしてこうなったんだろうね。
「はぁ。」
溜息が出た。
色々な事が有りましたが、こうして『炭酸水を作る魔道具』が完成しました。
精神的に疲れて王宮の部屋に帰ると、そろそろおやつの時間だった。
疲れた体に、おやつで糖分を補給することにします。
ほどなく部屋にやって来たシルフィと一緒におやつを食べます。
王宮のおやつは美味しいです。(笑顔)
シルフィと一緒におやつをパクつきながら、ふと、思い付く。
お金を使う方法を。
『使い途が無いのなら、お金が必要な人に貸してしまえばいいんぢゃね?』と。
そもそも、お金を使うのが目的ではなく、溜め込んでおかずに世の中に流すことが目的だったしね。
おやつを食べながらシルフィと相談して、俺が溜め込んでいるお金の貸し付けをシルフィにお願いすることになりました。
『ナナシ金融』を開業し、貸金業に進出です。
俺はお金を出すだけで、実際に仕事をするのはシルフィですが。
何故か、シルフィが『妻っぽいお仕事!』とか言って、妙に乗り気です。
貸金業で儲ける気なんか無いので、気楽にやってくれていいんだけどね。
まぁ、『我が妻が頼もしい。』とでも思っておくことにしよう。
よろしく。(←丸投げが雑なのは、相手が誰であっても同じ模様)
翌朝。
コーラの製造を引き継いでもらう件について、王妃様とさらに具体的な話し合いをします。
急遽作ることになってしまった『炭酸水を作る魔道具』が、まさかの”小屋サイズ”になってしまったので、それを置く場所も考えてもらわなければならなくなりましたしねー。
いきなり”小屋サイズ”の魔道具を引き渡す事になってしまって、本当に申し訳ない。
瓶や王冠の製造は外に発注するそうですが、その瓶に王冠で封をする為のゴーレムを貸し出すことになりました。
いずれ、もっと簡単な方法を考え出すつもりでいるそうで、それまでの”繋ぎ”です。
きっと、魔道具を作らせて対応しようとすると、また変なものが出来上がりそうで怖かったのでしょう。また小屋を増やされても困るだろうしね。(苦笑)
コーラを作った事に対する報酬とは別に、コーラの試作に掛かった経費も出してもらえるんだそうです。
そう言われて、香り付けの為に購入した香辛料のビックリ価格や、コーラを試作していた時に沢山書いたメモの事を思い出しました。
特に、現時点での完成品の香り付けに使った香辛料の配合のメモは、これを引き渡さないと味の再現が出来ないんだから、忘れちゃダメなヤツだよね。
それ以外にも、これまでに試作したコーラを味見した際の感想と配合のメモ。さらに、香辛料を煮出した物を味見した際の味と香りのメモなど、コーラの試作中に作成したメモをすべて王妃様に引き渡します。
あと、残った香辛料も引き渡します。今後の味の改良で使うかもしれないし、使わなかったとしても厨房で使ってもらえるだろうしね。
それらを引き渡した後、王妃様に、香り付けの為に購入した色々な香辛料のビックリ価格をお伝えしたら、表情がお固まりあそばされました。
うん。イイ反応です。
そのお顔を見れて、俺は満足です。(悪い笑顔)
満足はしたのですが、支払いは少し待ってくれる様に言われました。
思いの外、高額になってしまって、王妃様が決済できる金額を超えてしまったんだそうです。これまでにも俺が作った物を色々とお買い上げいただいていたこともあって。
まぁ、支払いが遅れることくらい、まったく構いません。
普段、お金を使う機会自体がほとんど無いので。
こうして、コーラの製造の引き継ぎが本格的に動き出しました。
コーラ関係の物が俺の手から離れてくれて、俺はホッとします。
王妃様はオロオロしていらっしゃいますが。(苦笑)
後日。
コーラの製造を引き継いでもらった後の話を、シルフィから聞きました。
コーラの試作に掛かった経費や、これから製品化をする際に掛かる費用の捻出なんかに、王妃様が苦労していらっしゃったそうです。
何でも、お風呂場の移設は福利厚生として予算が下りたものの、コーラは嗜好品扱いとなって予算が下りなかったそうです。
その為、付き合いのある貴族や商会などから出資してもらったものの十分な資金が集まらず、『ナナシ金融』からお金を借りたんだそうです。
『ナナシ金融』の最初のお客様が、まさかの王妃様でした。
いや、王妃様はこれまでにも色々とお買い上げいただいていたから、意外でも何でもないか。
しかし、そうなると俺のお金を借りた王妃様が、そのお金で俺に報酬を支払うのかぁ。
その事に『なんだかなぁ。』とか思わないでもないけど、『ナナシ金融』でお金を貸し出す目的は『俺が大金を溜め込んでいることで経済に悪い影響が出ない様に、お金を世の中に流す』ことなので、そのお金を使って何かを作ったことで世の中のお金の回りが良くなって経済に良い影響が出るかもしれないから、まぁいいだろう。
それに、安全、安心な貸し出し先だしね。
王妃様には他にも電話や目覚まし時計も頼まれているので、長いお付き合いになりそうな気がしますねー。(苦笑)
その王妃様、コーラの製品化に向けて原価を下げるべく、香り付けに使う香辛料の配合の見直しをさせているんだそうです。
そして、その味見をさせられていて、うんざりしているんだそうです。
『コーラ飲みたい!』って気楽に言い放ちあそばされた、その報いを受けているのかもしれませんねー。
俺は、上手く逃げ出す事が出来た幸運を、密かに喜んでいるのでした。(笑顔)
(修正 2021.01.08)
誤字報告をいただいた脱字を修正しました。
以前作った『洗濯物を乾燥させる魔道具』の働きを説明している部分を微修正しました。
『ナナシ金融』から王妃様がお金を借りている件のナナシの感想を修正しました。
ついでに、言い回しが不自然だった部分の修正と、ルビの追加をしました。
(追記 2021.01.07)
王妃様に、コーラの試作中に作成したメモを引き渡す様子を追記しました。忘れちゃダメなヤツを書き忘れてしまっていましたので。




