11 ナナシ、お風呂場の脱衣所に置く『飲み物用の冷蔵庫』を作る
隠れ家に在ったお風呂場の建物を王宮へ移設した日の翌朝。
俺は『工房』にやって来ました。
これから、お風呂場の脱衣所に置く『飲み物用の冷蔵庫』を作ります。
早速、頭の中で『飲み物用の冷蔵庫』の構造を考える。
正面に引き戸があるタイプの箱型で、高さはお腹くらいにしよう。上に飲み物が置ける様に。
中に棚が三段くらいほしいが、高さ的に無理だったら横幅を大きめにしよう。
そんな事を考えてから、『飲み物用の冷蔵庫』の寸法を決めようとして、ハタと気付く。
冷蔵庫の中に入れる飲み物の容器の寸法を決めないと内部の寸法を決められないんだったね。
だから、先に炭酸飲料に対応した瓶を作らないといけないね。
そういえば、前にドリンクサーバーを作ったのも、瓶の寸法を決める時間が無かったから冷蔵庫作りを断念した結果だったね。
そうそう。
ちゃんと、オボエテイマシタヨ?(←ダウト)
『ふぅ。やれやれだぜ。(呆れ)』
頭の中で、そんな呆れた様な声が聞こえた。
俺は、そんな【多重思考さん】に瓶の進捗状況を訊く。コーラを作ってから、そちらの状況をまったく把握していなかった事を思い出しつつ。
「た、炭酸飲料に対応した瓶って、どうなってたっけ?」
蓋の構造や作り方も含めて、【製作グループ】が再検討してくれていたはずだ。
そうだったよね?(←放っておき過ぎて、ちょっと不安な模様)
『ふぅ。やれやれだぜ。』
「それは、もういいからっ。」
【多重思考さん】がイジメてきます。しくしく。
『これが、【製作グループ】が作り上げた『炭酸飲料に対応した瓶』です。』
【多重思考さん】はそう言って、【無限収納】から取り出した瓶を空中に浮かせた。
俺の『しくしく。』はスルーされた様です。(イジイジ)
それはそれとして。
俺は、空中にふよふよと浮かされている、中にコーラが入っていると思しき瓶を見る。
その瓶は、あの有名な『コーラ瓶』によく似た形をしていた。
『結露して濡れた瓶は、手を滑らせて落としてしまう恐れがあります。ですので、この様な”くびれ”の有る形にしました。こちらの人たちは冷やされた飲み物を飲んだ経験があまり無さそうでしたので”くびれ”は必須だと思います。』
なるほど。そんな事まで考えてくれていたんだね。
【多重思考さん】たちって、俺よりも色々と考えてくれているよねー。
これからもその調子でよろしくお願いします。(←コイツ、今日も相変わらずだな)
俺は、空中にふよふよと浮かされていた瓶を手に取って蓋の部分を見る。
蓋は王冠にした様だ。
『蓋は王冠にしました。ビールでおなじみで信頼感がありますし、構造も簡単ですから。』
なるほど。なるほど。
炭酸飲料へ対応させるのは面倒な気がしていたけど、この王冠を見て安心した。やっぱり信頼感がある方法がいいよね。うむうむ。
安心はしたけど、一応、振って中身が吹き出さないか確認しておこう。
手に持っていた、中身が入った瓶を振る。
数回振ってから王冠の部分に耳を近付けてみる。
中身が漏れる様な音はしていない。
【多重思考さん】に訊いて確認する。
「これって、中身はコーラだよね? 水で薄めた醤油とかぢゃなくて。」
『中身はコーラですよ。それに醤油はまだ見付かっていません。』
そうだったね。むしろ、中身が水で薄めた醤油だった方が嬉しいかったかな?
いやいや、そういう話ぢゃないね。話が脱線し過ぎだよ。
コーラを入れて振っても大丈夫。
さすがです。王冠さん。
うむうむ。
『そして、これが栓抜きです。』
今度は、空中に栓抜きが現れた。
『栓抜きを作り忘れたー。』なんていう”うっかり”を、実は少しだけ期待していましたが、その辺に抜かりは無かった様です。
別に、残念だとか思ってませんよ?(←誰に言ってるんだよ)
空中にふよふよと浮かされている栓抜きを見る。
小さくもなく大きくもないイイ感じの大きさで、木で作られた柄が取り付けられている。
何だか、無駄に高級感を感じさせる作りです。ただの栓抜きなのにね。
さて。
瓶に入ったコーラと栓抜きが目の前に有ると『シュポン!』と開けて飲みたくなってしまうが、それは後にしよう。
今日は『飲み物用の冷蔵庫』を作る為に来ているんだし、コレ、さっき振っちゃったしね。
やるべき事をちゃんとやろう。(飲まないとは言っていない)
飲み物を入れる瓶が完成して寸法が決まったので、それを元に『飲み物用の冷蔵庫』の内部の寸法を決めよう。
中に棚を三段くらいほしいと思っていたのだが、高さ的にそれは無理そうだ。一番下の棚が低くなり過ぎて、瓶を取り出し難くなってしまいそうで。
中の棚を二段に決めて、箱の寸法が決まった。
高さを出す為に箱の下に足を生やすことにしたら、結構な空きスペースが出来てしまいそうだった。
そのスペースは、冷蔵庫に入れる前の飲み物を置くのに使うか? ちょうど良さそうだし。
あと、飲んだ後の空き瓶を入れる為に箱が必要になるから、それを置くのにもちょうど良さそうだ。
何だか、イイ感じの物が出来上がりそうだね。
イイ感じにイメージが出来上がったので、”ガワ”の製作を【製作グループ】にお願いする。
よろしく。(←今日も安定の丸投げです)
数体のゴーレムたちが板を切ったりといった作業をし始めたのを尻目に、俺は、久しぶりに来た『工房』の中を見渡す。
そういえば、前に『馬車の魔改造で場所を取っている。』みたいな事を言われた憶えが有るんだが、その馬車が何処にも見当たらない。
あの魔改造用に中古で買った馬車はどうしたのかな?
『あの馬車は、一応完成して、今は走行実験をしています。』
ほう。
【多重思考さん】にそう言われた俺は、馬車が荒野を走っている情景を頭の中に思い浮かべる。
でも、馬車を走らせようにも馬なんて居なかったよね。試験用に馬型ゴーレムでも作ったのかな?
それと、『馬車の魔改造』って、乗り心地を向上させる為にサスペンションを取り付けるものだったけど、その『乗り心地の確認』ってどうやってやるのかな? ゴーレムでは出来ないよね? それとも出来るのかな?
そんな風に疑問に思っていた俺に【多重思考さん】が教えてくれる。
『乗り心地の確認はダーラムさんにしてもらっています。ダンジョンの中で。それと、馬車を引くのも、ダーラムさんに用意してもらった馬型の魔物を使っています。』
ほう。ダーラムさんにお願いしたのか。
でも、ダーラムさんに気楽に頼み事をし過ぎぢゃね?
『報酬を前払いでお渡ししていますし、ダンジョンの中には娯楽も無いですからね。快く引き受けくれましたよ。』
快く引き受けてくれたのなら、いいのかな?
『昨日は、報酬として前払いしたお酒による二日酔いと乗り物酔いで、ドエライことになっていましたが。』
「おい!」
俺が知らない間に、ダーラムさんがドエライことになっていた様です。
『ちゃんと【ヒール】を掛けて治療しましたので大丈夫です。今は、スプリングとダンパーを調整して再試験中です。ダーラムさんに乗ってもらって。』
「よく、ダーラムさんが今日も協力してくれているね?」
ドエライことになったというのにね。
「脅迫めいた、おかしな頼み方をしたりはしていないよね?」
『そんな事はしていませんよ。ダーラムさんが美味しいお酒を飲もうとすれば、私たちに頼まなければなりません。ダーラムさんにとっては『協力する』一択でしょう。ええ。逃がさへんでぇ。ヒヒヒヒ。』
「『ヒヒヒヒ。』ってなんだよっ?! あと、『逃がさへんでぇ。』も!」
腹黒さを見せる【多重思考さん】が、おかしな事をやらかさないか心配です。
『『試験結果は、後日、報告します。それと、『飲み物用の冷蔵庫』のガワが一つ出来上がりましたよ。』
お。もう出来たのか。意外と早かったな。
それぢゃあ、サクッと魔法を付与して『飲み物用の冷蔵庫』を完成させることにしよう。
ゴーレムたちが作業してくれている『工房』の一画に移動する。
足が生えた『飲み物用の冷蔵庫』のガワが一台置かれていて、その隣では二台目と三台目を製作している様だ。
『取り敢えず、お風呂場の脱衣所に置く分を男湯用と女湯用に一台ずつ作ります。三台目は高級仕様で、少し小さく、お貴族様の暮らすお部屋に合う感じのタイプで、枠に彫刻を施したり、足を猫足にした物を作ります。』
高級仕様って…。たかだか飲み物を冷やすだけぢゃん。
そう思って、『大袈裟だなぁ。』と思ったんだけど、俺の作ったコーラって結構なお金が掛かっていたんだったね。香り付けに使った香辛料がすごく高かった所為で。
結果的に超高級品なコーラが出来上がってしまったから、むしろ高級仕様は中身に合っているのか。
まぁ、【製作グループ】も色々な物を作って腕を振るってみたいのだろう。これまで色々な物を作って腕を上げてきているのだろうし。
まぁ、好きにやらせておこう。
どうせ止めたところで、俺の知らないところで勝手にやるだけだしなっ。俺が把握しているだけマシってもんです。
さて。
作ってもらった”ガワ”に魔法を付与して、『飲み物用の冷蔵庫』を完成させよう。
付与する魔法は、先日のドリンクサーバーで使った魔法と同じだ。
ドリンクサーバーを作った時に付与した魔法を思い出しつつ、作業を始める。
先ず、内部に【異空間作製】の魔法を掛け、そこに【断熱】の結界を張る魔法陣を貼り付け、さらに、出力を弱く抑えた【コールド】を常時発動させる魔法陣も貼り付ける。と。
これでいいんだよね。
手を入れてみると、冷気を感じた。
よし。ちゃんと魔法が発動しているね。
これで、『飲み物用の冷蔵庫』の、完成、ですっ。
やったね。
早速、瓶詰めされたコーラを中に入れて冷やしておく。
きっと、夕方頃にはイイ感じに冷えているだろう。
よく冷えたコーラはメイドさんたちにも喜んでもらえるはずだ。
楽しみだね。
この後、二台目の『飲み物用の冷蔵庫』も完成させ、三台目の高級仕様に彫刻を施す様子を少し眺めてから、王宮の部屋に帰りました。
夕方。
お風呂場へ行って、脱衣所に『飲み物用の冷蔵庫』を設置しました。
ケイティさんに用意してもらったコップや、空き瓶を入れる為の箱なんかも置いておきます。
もちろん、栓抜きを置いておくのも忘れません。
ちなみに、密かに楽しみにしていたラッキースケベは起きませんでした。
ちぇーー。(←おい!)
(設定)
人知れず、ダンジョンマスターのダーラムさんがダンジョンでドエライ目に遭っていました。
ダーラムさんに報酬として渡されたお酒は、先日、ゴーレムを使って市場で買い出しをした際に購入したものです。残弾数がまだまだタップリと有るので、この先、ダーラムさんがどんな目に遭わされるのか心配です。合掌。