15 5日目 公爵家サイド ギルドマスター視点 森の中
森の手前で野営した翌朝。
日の出と共に出発した。
森に入り、真北に向かう。
オークどもの集落に着くのは明日だ。
移動して疲れた状態でオークどもと戦いたくはないから、今日はなるべく距離を稼いでおきたい。
皆同じ考えなので、無駄口を叩かず黙々と足を動かしている。
大した魔物に遭うこともなく、昼になった。
昼食の休憩を取る。
かなり距離を稼げたと思う。
みんなの顔にも笑顔が見える。
休んでいたら、”ドーーーーン”という音が聞こえた。
皆が緊張した表情になる。
音が聞こえたのは、東の方角からだった。
あの方角にもオークの集落が在ったはずだ。
相手側の魔術師が魔法を使ったのだろう。
他にオークの集落に向かっている冒険者なんて、今は居ないからな。
さっきの音は【ファイヤーボール】だろうか?
かなりの威力が有りそうな音だった。
さらに、”ドーーーーン”、”ドーーーーン”と、音が聞こえた。
相手側には、高レベルの魔術師が居る様だ。
そう言えば、相手側の情報はほとんど無かったな。
情報と言えば、『転移魔法を使えるかもしれない魔術師が居る。』くらいだったか。
高レベルの魔術師が居るのは羨ましいな。
…”無い物ねだり”をしても、仕方が無いか。
居る者たちで出来る事をするだけだ。
号令を掛けて、移動を再開する。
皆、黙々と足を動かす。
斥候の男が、俺のところに向かって来るのが見えた。
何か問題が起きたのか?
「東からオークが来ます。数は約20。」
東に在ったオークの集落が壊滅させられて、逃げて来たのか?
あるいは、追い立てられたか?
俺たちへの妨害として、これをしたのかな?
だとしたら、相手側の魔術師は、なかなか”イイ性格”をしている。
指示を出す。
「東からオークどもが来る。数は約20。そのまま進め。出来るだけ戦闘を避けろ。」
右後方にベテランのパーティーと弓兵を配置し、そのまま進む。
しばらく進むと、右後方にオークどもの姿が見えた。
ヤツらはこちらに気付くと、追い掛けて来た。
チッ。戦闘は避けられないか。
指示を飛ばす。
「オークだ! ここで迎え撃つ!」
態勢を整え、オークどもを迎え撃った。
オークどもを全滅させた。
怪我人が出たが、ポーションで回復させた。
足留めされた事が痛いな。
休憩していると、また”ドーーーーン”、”ドーーーーン”と、音が聞こえた。
オークどもと戦闘している時にも、1回音がしていた。
また、オークどもを追い立てているのだろうか?
クソがっ。
少し休んでから、再び真北に向かって進んだ。
しばらく歩くと、右から警告が飛んで来た。
「オークだ!」
「数は?!」
そう訊き返しながら、焦りを感じる。
斥候はどうした?!
「数、約15。すぐそこです。」
「迎え撃つ! 態勢を整えろ!」
態勢を整えてオークどもを待ち構えていると、背後から、”ドガッ!”、”うがっ!”と、音が聞こえた。
振り返ると、オークが2体と、一回り大きいオークが1体居た。
そいつらが俺たちの背後から襲い掛かっていた。
不意打ちだった為、蹴散らされる冒険者たち。
だか、数が少ない。囲めば大丈夫だ。
「囲め! こちらの方が数が多い!」
囲むことにより、落ち着きを取り戻していく冒険者たち。
東から来たオークどもに対しても、壁を作り囲んで対処する。
一回り大きい”オークジェネラル”が手強かったが、すべて仕留める事が出来た。
今回は、不意打ちもあった為、犠牲者が複数出た。
ギルドカードを回収して遺体を埋めた。
少し場所を移動して、休憩する。
怪我をした者たちにポーションを与える。
こんな場所でのオークジェネラルとの戦闘など、想定外だ。
大抵、オークキングと一緒にいるヤツだ。
オークキングが討ち取られて、逃げて来たのだろう。
一緒に倒しておいてくれればいいものを。
「はぁ。」
溜息が出た。
オークどもとの戦闘の所為で、予定よりも距離を稼げていない。
期日が元から厳しい依頼だ。
予定外の足留めは痛い。
日没まで、出来るだけ距離を稼いでおきたいものだ。
休憩しているところへ、斥候が一人やって来た。
先行させて、安全確認をさせていた者だ。
予想以上に疲弊している俺たちを見て、驚いている。
「集落への到着は、明日の昼過ぎになるかもしれません。」
そう言われた。
オークの集落の近くで野営などしたくはない。
これ以上の遅れは許されないな。
号令を掛けて、移動を再開した。
あれ以降は何事も無く、日没までの間に距離を稼ぐ事が出来た。
野営の準備をする。
既に横になっている者も、それなりに居る。
皆、疲れている様だ。
食事をして、テントに入って横になると、俺も直ぐに寝てしまった。
夜中。
”ドーーーーン”という音で、飛び起きた。
テントの中で、音の響き方から距離と方角を探る。
近くはないが、遠くもない。
差し迫った脅威ではない。かな?
しかし、あの音がした後に、二度オークどもと遭遇したのだ。
寝てなどいられない。
クソがっ。
テントから出て、周りを見回すと、不安そうな顔をしている者が多かった。
「見張りの者は十分に警戒しろ! それ以外の者は出来るだけ休め!」
そう言って俺は、テントの中に戻る。
緊張した顔で俺がうろついていたら、誰も休めないからな。
テントの中で座り、周囲に意識を向ける。
ざわめきが引いていくのが分かった。
俺は、朝までそのままで過ごした。
オークも他の魔物も出なかった事にホッとした。