08 ナナシ、お風呂場を改造する01 再びの「【アナザーワールド】。(キリッ)」
朝食と朝食後のお茶の時間の後、俺は隠れ家のお風呂場に来た。
昨夜、王妃様から検討を要請された、洗い場とカランを設ける方法を検討する為にね。
俺は、浴槽が左右に一つずつ在るだけのシンプルなお風呂場に立ち、全体を眺めながら考える。
少し変わった浴槽の配置である為、正面の奥に何も無い壁が在る。
そこには、二人分くらいの洗い場を設けられそうだ。
それだけではもちろん足りないから、お風呂場の真ん中に低い壁を作り、カランを取り付けて洗い場を設けよう。
向かい合う形で2列十人分くらいのものが作れそうだから、これで十分だろう。
そうやって洗い場の配置を考えていたのだが、一番の問題は、カランから水やお湯を出す為に壁の中に管を通す必要が有ったり、その管に圧力を掛けなければならない事だったね。
そうそう。
もちろん、オボエテマシタヨ?(←ダウト!)
うっかり先走り過ぎたので、ちょっと落ち着いて考えようか。
そもそも、王妃様のお願いって『王宮にお風呂場を作って。』だったよね。
で、ここのお風呂の特殊さを説明して諦めてもらおうと思ったら、王妃様の往生際が悪くて、カランから水やお湯を出す方法を検討することになっちゃったんだったね。
そうそう。
まず最初に、その方法の検討をしないといけなかったんだね。
何処に洗い場を設けるのかなんて、その後だよねー。
改めて考える。
壁の中に通した管に圧力を掛けて水とお湯を出す方法を。
圧力を掛けるのが何気に面倒だよね。壁の中に管を通すのも、もちろん面倒だけど。
一番簡単な圧力の掛け方は、高い位置に貯水槽を設置して、水の位置エネルギーを利用して圧力を加える方法だろう。
でも、もう少し何とかしたいよね。 魔法を上手に使ってね。
どういう風に魔法を使ったらいいのかな?
考える。
うーーむ。
『ふぅ。やれやれだぜ。』
魔法を使って管に圧力を掛ける方法を考えていたら、頭の中でそんな声がした。
【多重思考さん】には何か良いアイデアが有るのかな?
訊いてみる。
「【多重思考さん】には何か良いアイデアが有るの?」
『少し前に作った『ドリンクサーバー』の仕組みが、そのまま利用できると思います。』
ドリンクサーバー?
そういえば、少し前にドリンクサーバーを作ったけど…。
アレに何か利用できるものって有ったっけ? 冷蔵庫代わりに割と勢いで作ったので、どんな仕組みだったのかよく憶えてないや。(てへっ)
『ふぅ。やれやれだぜ。』
もう一度、【多重思考さん】に言われた。(イラッ)
『ここに取り出したるは『ドリンクサーバー』。ベベン。』
少し前に俺が作ったドリンクサーバーを宙に浮かせ、【多重思考さん】が”バナナの叩き売り”みたいなことを言い出した。
それを黙って聞く。
少しイラッとしながらね。
『巨大な『ドリンクサーバー』を作って大量のお湯を溜めておき、そこから【ゲート】を使ってカランからお湯を出す。ベベン。』
取り敢えず、その『ベベン。』を止めようか。ウザイから。
『そうすればイイ感じに圧力が掛かるし、そもそも壁の中に管を通す必要も無い。ベベン。』
だから、その『ベベン。』がウザイとさっきから…。
そんな事を思いながら、【多重思考さん】が言った内容を頭の中で考える。『ベベン。』以外の。
考える。考える。
…あれ? すごく良くね?
『お手軽、簡単。これが今なら超特価。お買い得だよ、お客さん。ベベン。』
「誰が、お客さんかっ。」
あと、その『ベベン。』がウザイって言ってるだろうがっ。ひとの話を聞けよっ。
それはそれとして。
俺は、【多重思考さん】に言われた内容を頭の中で考える。『ベベン。』以外のな。(←しつこい)
確か『ドリンクサーバー』は、”ガワ”を作って内部に【異空間作製】の魔法を掛けて、さらに【断熱】の結界やら【コールド】やら【ゲート】やらの魔法陣を貼り付けたんだったよね。何となく思い出してきたぜ。
そして、中に水を入れておくと冷やされて、蛇口から中の冷えた水を出すんだったね。
そうそう。大分思い出してきた。
思い出した、この『ドリンクサーバー』の仕組みを利用して、お風呂場で使う場合を考えてみる。
大量のお湯を入れる”ガワ”を作るのは大変だから、『ガワ+【異空間作製】』ではなく【アナザーワールド】で空間を作るか。
お湯用と水用の空間をそれぞれ作り、【クリエイトホットウォーター】と【クリエイトウォーター】の魔法陣をそれぞれ貼り付け、カランと繋ぐ為に【ゲート】の魔法陣をカランの数だけ貼り付ける。
そして、お湯用の空間には【断熱】の結界を張る魔法陣も貼り付けておく。
カラン自体は、ただ壁に取り付けておくだけで済み、壁の中に管を通す必要も無い。
溜められた大量のお湯で圧力が掛かることによって、イイ感じでカランからお湯が出るだろう。
うん。かなり良いね。(笑顔)
お風呂に入っている途中でお湯が足りなくなってしまうと困るから、お湯は余るくらい作る方向で行こうかな?
だけど、作り過ぎてしまうと、それはそれで問題が起こりそうだ。
作られたお湯で空間がいっぱいになってしまったら、高い圧力が掛かってしまって、カランからすごい勢いでお湯が出てしまうだろう。
そんな事になってしまわない様に、お湯の作り過ぎを防止する仕組みが必要だろう。
この隠れ家の洗面所の壁に取り付けてある『水を出す魔道具』は、【鑑定】で残っている水の量を調べてから【クリエイトウォーター】で水を作っていた。
でも、それって魔晶石を使った魔道具なんだよなぁ。
今回の場合、魔道具ではなく魔法陣だけで済ませたい。【アナザーワールド】内に魔道具を設置すると、その魔道具のメンテナンスが面倒だからね。
魔法陣だけで済ます良い方法ってあるかな?
魔法陣だけで済まそうとすると、複数の魔法陣を組み合わせて、お湯が上限値を超えない様に小細工をすることになるのかな?
だけど、魔法陣の数を増やすと、その分、魔力の消費量も増えてしまう。あまり魔力の消費量を増やしたくないなぁ。【アナザーワールド】で作った空間内の魔力量がどのくらい有るのか分からないしね。
いっそ、お湯を出しっぱなしにしておくか? 浴槽へお湯を入れる蛇口をずっと開けっぱなしにして。”掛け流し”ってことでね。
そうしておくのが一番安全かな。小細工をしない分、魔力の消費量も増えないしね。
うん。
これでいこう。
よし。
それぢゃあ、改造に取り掛かろう。
洗い場とカランの方は【製作グループ】に丸投げし、俺はお湯と水を溜めておく空間作りに取り掛かる。
【アナザーワールド】で作る空間は作り直しができないから、よく考えてから作り始めることにしよう。
作る空間は二つ。お湯用と水用だ。
水はあまり使わないから小さい空間で足りるだろう。
だけど、お湯用の空間はどのくらい必要になるのかな?
先ず、お湯を使う量を考えてみるか。
お湯の量は、浴槽に入れる分と、その同量くらい有れば足りるのかな?
カランからお湯を出して使っても、その間に魔法でお湯を作り続けるんだから、足りそうな気がするな。
だけど、カランからお湯を出す為に圧力を掛けるのにもお湯が必要になるんだから、常にある程度は溜めておかなければならない。
その事を考えれば…。
教室の半分くらいの量のお湯を溜めておかないと不安かな?
そのくらいの量のお湯を頭の中で想像しながら考える。
まぁ、このくらいの量が有れば足りるだろう。
作る空間は、少し余裕をもって、教室一つ分くらいの空間を縦長にして作ることにしょう。
大体の大きさは決まった。
だが、作り直しができないから、他にも考慮しておかないといけない事が無いか考える。
閉じた空間の中に作り出したお湯が残り少なくなったら、空間内部の気圧が下がってしまうな。
いや、お湯を作った時点で気圧が上がることになるから大丈夫か。
いやいや、一番最初にある程度の量のお湯を溜めておくから、その状態よりも水位が下がれば気圧は下がることになるな。
空間内部の気圧が下がってしまうのはよくないよな。
カランからお湯を出す為の圧力を、その空間内に溜めたお湯を利用して作るんだからね。
どうすればいいのかな?
空間を大きく作っておけば気圧の変化量を減らす事ができるから、空間を大きく作るか。教室を縦に三つ重ねたくらいの大きさで。
そのくらいの大きさの空間を作ることに決め…。でも、もう少し考える。
お湯を溜めた後に、調整や確認の為にその空間に入ると、お湯の中に出てしまうことにならないかな?
なるよね。
ブクブク言っている自分の姿が、頭の中に思い浮かんだ。(苦笑)
どうやって対策しようかな?
天井近くにキャットウォークでも作るか?
いや、もっと床面積がほしいな。俺の安全の為に。
天井から2mくらい下の位置に床を作るか。下の様子を確認できる様に端の部分を切り欠いた床を。
そんな感じの床を作っておけば大丈夫だろう。
でも、そこへ行った時にお湯が沢山有ったら、気圧が高そうだね。耳がキーンとしそうだ。
もう少し空間を大きくしておこう。教室を縦に五つ重ねたくらいに。
他に考えておかなければならない事は、もう無いかな?
無いよな。
よし。
では、作る空間は、『お湯用』が教室を縦に五つ重ねた大きさ。
『水用』は少し小さく、教室を縦に三つ重ねた大きさ。
天井から2m下の位置に、端を切り欠いた床を作る。
こうだね。
よし、やるぜ。
先に、小さい方の『水用の空間』を作るか。
頭の中で作る空間をイメージをして…。
「【アナザーワールド】。(キリッ)」
…ちょっと、カッコつけてしまいましたが、これは仕様ですので仕方が無いのです。ええ。
さて。
これでイメージ通りの異空間が作れたはずだ。
早速、目の前に浮いている黒い楕円形を潜って、中に入ってみる。
入った先は、前に作った時と同様に、真っ白な空間だった。
天井が低いのは、天井の近くに作った空間に狙い通りに来られたからだろう。
床を見ると、一方の壁際に切り欠きがある。これもイメージ通りだ。
切り欠きに近付き、慎重に下を覗き込む。
覗き込むと、下にも白い空間が在った。
底までの距離は、二階建ての建物が入りそうなくらいある。
大体、狙い通りの大きさだね。うむうむ。
【フライ】で飛んで、切り欠部分を通って底まで降り、周りを眺める。
ふむ。
床も壁も真っ白だ。
それは前に作った時と一緒なんだけど、壁に横線でも引いておいた方が良かったかもしれないね。水位が分かる様に。
そんな事を考えていたら、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
『線を描くのは【製作グループ】がやりますので、もう一つの空間をお願いします。』
アッハイ。
目の前に出した黒い楕円形を潜って、隠れ家のお風呂場に戻った。
今度は『お湯用の空間』を作る。
さっき作ったのよりも底が深い空間をイメージする。
頭の中でしっかりとイメージをして…。
「【アナザーワールド】。(キリッ)」
…ちょっと、カッコつけてしまいましたが、これは仕様ですよ?(←誰に言ってるんだよ)
さっきと同様に、作った空間の中に入って確認する。
こちらも、ちゃんと出来た様です。
うむうむ。(←満足げ)
『後は我々でやっておきます。(キリッ)』
そう、頭の中で声がした。
どうやら【製作グループ】の誰かの様だ。
そろそろお茶の時間になるだろうし、後は任せようかね。
「ぢゃあ、よろしくね。」
『はい、お任せください。(キリッ)』
空間から出た俺は、隠れ家の北の畑を少し眺めてから、王宮の部屋に戻りました。
寄り道をしたのは、(キリッ)に少しイラッとしたからです。
ちくせう。




