07 ナナシ、王妃様にコーラを振る舞う。からの…
コーラの試作を始めた日の夜。
王妃様が『お風呂に行きたい。』と言っていたとのことで、シルフィと一緒に王妃様が来るのを待っています。
王妃様が来ました。リリス様を連れて。
まぁ、その内に連れて来るとは思っていました。
シルフィと王妃様とリリス様と一緒に転移魔法でサクッと隠れ家のお風呂場に来た。
リリス様への説明はシルフィに丸投げして、三人にサクッと【クリーン】を掛ける。こうすれば、後は服を脱いでお湯に浸かるだけだからね。
三人と別れて男湯に向かおうとしたところで、伝え忘れていた事に気付いて、慌てて王妃様に言う。
「王妃様、コーラの試作品一号が出来ましたのでお風呂上がりにお出しします。お風呂から上がったら三人で男湯の方へ来てください。間の壁にドアが有りますので。」
「分かったわ。」
俺は男湯に行き、自分の体に【クリーン】を掛けて服を脱ぎ始める。
ガチャ
ん?
上半身を脱ぎ終えたところで聞こえてきたその音に振り返ると、女湯との間の壁に有るドアが開いていて、王妃様とリリス様がこちらを覗いていた。
俺と目が合った王妃様が言う。
「なるほど。」
「何が『なるほど。』なんですか?! 何が?!」
「気にしなくていいわよ。どうぞどうぞ。(ニヨニヨ)」
「気にしますって! それと『どうぞどうぞ。』ぢゃなくて! 早くドアを閉めてください!」
あと、ニヨニヨするのもやめてください。
まったく。何やってんだよ、王妃様はっ。
シルフィの教育にも悪いので本当にやめてください。
そんな事案がいきなり発生しましたが、この後、マッタリとお風呂を堪能しました。
むはーー。
お風呂から上がり、服を着てから、コーラの試作品一号の試飲会のセッティングをする。
とは言っても、隠れ家で食事をする時に使っているテーブルを置いて、コップを用意しておくだけだけど。
王妃様たちが来るまで庭でも眺めていよう。
縁側に出て、手直しされた『枯山水の庭 ver.2.0』を眺める。
うーーむ。
前のよりかは少しマシになった気がするけど、まだまだって感じがする。何が『まだまだ』なのかはサッパリ分からないけど。
シンプル過ぎて手の加えようが無いし、どうしたらいいのかよく分からないね。
枯山水の庭を見ながら唸っていると、王妃様たちがこちらへやって来た。
ぢゃあ、やりますかね。コーラの試作品一号の試飲会を。
ワインボトルに移して冷やしておいたコーラを【無限収納】から取り出し、コップに注いでいく。
シュワワワーっと、炭酸飲料独特の音がします。
いつもだったら美味しそうに感じる音なんだけど、今日は味見で沢山飲んだので、音を聞いただけでゲップが出そうです。(苦笑)
コーラを知らないシルフィとリリス様に大事なことを伝えておく。
「これは『コーラ』っていう甘くてシュワシュワする飲み物ね。飲むとゲップが出ちゃうけど、そういうものだから気にしないでね。」
「おいしい! もう一杯。」
シルフィとリリス様に大事なことを伝えていたら、早くも飲み終えた王妃様がお代わりを要求してきます。
マイペースだなっ、王妃様はっ。
王妃様のコップにお代わりを注ぎ、俺も一口飲む。
そこそこ美味しいんだけど何か物足りない感じがする。何が物足りないのかはサッパリ分からないけど。
こういうのって難しいよね。
今回のコーラの試作品一号は、シルフィとリリス様には好評だったけど、王妃様からも「何か物足りない。」って言われてしまった。
まぁ、今日から作り始めたばかりだからね。いきなり上手くはいかないよね。
これから少しずつ良くなっていくだろう。多分。
次回作にご期待ください。
三日連続で『お風呂』と『コーラの試飲会』をした。
試行錯誤を繰り返したコーラは、まぁまぁの味になった。と、思う。
お風呂とお風呂上がりのコーラですっかり上機嫌な王妃様は、今は、”マッサージチェア”型ゴーレムを堪能していらっしゃいます。リリス様とシルフィと一緒に。
”マッサージチェア”型ゴーレムは、【製作グループ】がノリで作りました。『脱衣所が殺風景でしたので。』とかなんとか言ってね。
元々脱衣所に置く計画が有った『飲み物用の冷蔵庫』が、飲み物を入れる容器を炭酸飲料に対応させなければならなくなって先送りになったので、その所為でもあるんだろうね。
コーラを作ることになるなんて、まったく思ってなかったからねー。
何が起こるかホント分からないよね。
そんな事を考えていた俺に、超寛いでいらっしゃる王妃様が言う。
「もう、ここに住む。ベッドを置く場所も有るし。」
「いやいや、ダメでしょう。それだとお風呂とベッドしかないぢゃないですかっ。」
「それだけあれば十分よ。」
「そんな訳ないでしょうがっ。ちゃんと頭で考えて言ってください。」
ダメだ、この人。お風呂で脳味噌までふやけちゃったのか? それとも”マッサージチェア”型ゴーレムの所為か?
「じゃあ、王宮にお風呂場を作って。」
あー、やっぱり、そういう話になっちゃったかー。
『何だかイヤな流れだなぁ。』とは思ってたんだよね。
でも、王宮にこのお風呂をそのまま作っても運用できないんだよなぁ。かなり特殊だから。
俺は王妃様に説明する。ココのお風呂の特殊さを。
「王宮にコレと同じ物を作っても運用できませんよ? 私が魔法でお湯を作ってるんですから。お湯を作るのも、お湯を捨てるのも、洗うのも全部魔法です。これらを全部魔法抜きでやろうとすると大変ですよ?」
「魔法なら、魔道具で何とかなるんじゃないの?」
「毎日、沢山の魔石を消費することになりますよ?」
「沢山の魔石…。うっ、頭が…。」
何となく言った俺のセリフに、思いの外、王妃様がダメージを受けていらっしゃいます。(苦笑)
「そ…、それでも何とかしてくれると信じています。」
「簡単に人を信じると怪しい詐欺に引っ掛かりますよ?」
「むーー。」
王妃様の往生際が悪いです。
王妃様とそんな事を話していたら、王妃様の隣で”マッサージチェア”型ゴーレムを堪能していたシルフィが俺に言う。
「私もここでお仕事がしたいですぅ。」
…シルフィ、お前もか。
「ここにはクリスティーナも居ませんしぃ。」
脱力してポワポワした表情で、そんな事を言うシルフィ。
「………呼ぼうか? クリスティーナさん。」
そう言ったら、シルフィにポカポカされました。(ニコニコ)
ニコニコしていたら、王妃様が俺に向かって言う。
「魔法に頼り過ぎない様に薪でもお湯を沸かせる様にするわ。」
あ。その話、まだ続いていたんですか。
俺は王妃様に問題点を指摘する。
「でも、そうすると構造が複雑になったり、水を出す仕組みが追加で必要になってしまったりして大変ですよ。」
「あと、体を洗ってスッキリしたいから、洗い場と蛇口も欲しいわねー。」
王妃様、俺の話聞いていらっしゃいます?
ちなみに俺は『蛇口』ではなく『カラン』と呼びたい派です。どうでもいい話だけど。
でも、カランを付けるのって、すごく大変なんだよねー。
その事を王妃様に言う。
「水やお湯を蛇口から出そうとすると、壁の中に管を通して、さらに圧力を掛けてやらないといけないので、すっごく大変なんですよ。」
その様子を想像して大変さを理解してくれたのか、王妃様がショボーンとします。
俺の話をちゃんと聞いてくれていた様で安心します。ショボーンとしてるけど。
「何とかならないかしらー。(チラッチラッ)」
「………………。」
「………………。(チラッチラッ)」
「…かなり問題が有りますが、一応、検討はします。でも、『一応』ですからねっ。」
「ええ。お願いね。(ニパッ)」
そんな訳で、お風呂場の改造の検討をすることになったのでした。
(設定)
リリス様
王妃様の姉的な人。元メイドで、森で拾った王妃様を王宮に連れて来た人。
(王妃様の「沢山の魔石…。うっ、頭が…。」のセリフについて)
以前、ナナシが作った魔道具を沢山発注し、報酬も”魔石払い”にした所為で、魔石が品薄になる事態を引き起こしてしまいました。




