31 外伝 ダーラム商会02end 新商品を探す。そして…
(人名)
ルーク・ホロワース
ホロワース商会から名前を改めたダーラム商会の商会長。
先日、父親から商会長を引き継いだばかり。
ダーラム商会は王都の西隣の街グラアソを拠点としている。
新しく領主となったクララ・ダーラム侯爵の叔父。
< ルーク・ホロワース視点 >
王都で大臣から畑の世話を頼まれ、グラアソに帰って来た次の日の朝。
昨日、領主邸で別れた後、夜遅くまで帰って来なかった父から、畑関係の担当者と会って話した内容を色々と聞いた。
心配していた土作りの専門家は、国で手配してくれているそうだ。
それと、農民の手配もしてくれているそうなのだが、『働く意欲に欠けた者たち』とのことで、別途、農民を募集する必要が有りそうだった。
彼らの為の住居は、『魔術師ギルド』から接収したものを使わせてもらえるのだそうで、その点はかなり助かる。
だが、畑で作物が収穫できる様になるまでの農民たちの生活費をコチラで負担してほしいとのことで、それなりの出費を強いられることになるだろう。他にも農具を揃える必要もあることだしな。
「何か新しい商品を考えておかなければならないだろう。お前の商会長としての初仕事だ。頼むぞ、商会長。」
「はい。」
父にはそう返事をしたものの、急にそんな事を言われてもな…。
だが、やるしかない。
今は、私がこの商会の商会長なのだしな。
先日、急に商会長にさせられたばかりで、まだ『商会長』と呼ばれても自分の事だと気付けないけどなっ。
商会長としての仕事をこなしながら、新しい商品を考える為に他の街に人を遣って情報を集めさせている。
複数の者から『鍬が品薄になり、価格が上昇している。』という報告が届いた。
『他の街でも畑を増やしているのか?』と思ったのだが、そういう訳ではない様だった。
なんでも、『街道の整備が行われる事を見越して、鍬を買い集めている者が居る。』とのことだった。
なるほど。
先日通った、綺麗に整備された王都とグラアソの間の街道。
あの様な街道が増えれば、我々商人はかなり助かる。
街と街の間の移動時間が短縮されるのはもちろんのこと、馬車の傷みも大幅に減るだろう。それと、運ぶ商品の破損だってきっと減ることになる。
我々商人に、かなり大きな良い影響が出ることは間違いない。
特に、馬車の傷みが減って、馬車を使うコストが大幅に下がることになれば、大助かりだ。
そう考えれば、鍬を沢山用意して領主様に街道の整備をお願いする商人が居てもおかしくはないな。
鍬は良い商品になりそうだが、既に王都との間の街道が整備されたこの街の商会が買い集めたら、要らぬ反感を買うだけだ。
今、ウチが取り扱い量を増やす訳にはいかないな。
しばらくの間、新しい商品になりそうな物を探させたが、コレと言った良い物は見付けられなかった。
そんな時、付き合いのある王都の商会長から手紙が届いた。
なんでも、『ホーリー男爵家の執事から、『ダーラム商会に相談したいことがあるので、紹介してもらえないか。』と頼まれた。』とのことだった。
ホーリー男爵家は”繋がり”が無い家だ。
ホーリー男爵がどの様な人物なのかは知らないが、ホーリー男爵夫人の方は少しだけ話を聞いたことがある。
確か、ホーリー男爵夫人は、王宮のメイド長をしていたはずだ。
王宮のメイド長か…。
先日、王妃様の生家であるハリントン伯爵邸を訪ね、伯爵様ご本人と”繋がり”を得た。きっとその伝手でウチに話が来たのだろう。有り難いことだ。
私は、すぐに馬車を用意させて、王都に向かった。
王都でそこそこ高級な宿を取って、ホーリー男爵邸に向かう。
今日は面会の約束を取り付けるだけのつもりで、門番に挨拶して手紙を渡して帰ろうと思っていた。だが、今回ウチの商会に声を掛けた用件を受け持っているという執事長が、すぐに会ってくれるとのことだった。
門を開けてくれて、そのまま馬車で屋敷の玄関まで向かうことになった。
心の準備をしていなかったので、ただそれだけのことで緊張してしまった。男爵家とは言え、恐らくハリントン伯爵様からの紹介だろうしな。
日当たりの良い廊下を、執事さんの後を緊張したまま歩いて行く。
途中の、日がよく当たる場所に、だらしなく腹を見せて寝ているネコが居て、少し緊張が和らいだ。
執事長の部屋に通された。
執事長に挨拶して、勧められるままソファーに腰を下ろす。
お茶をいただきながら少し雑談をする。どうやら執事長は、ダーラム商会の事をある程度は把握している様子だった。
執事長が絵が描かれた紙をテーブルの上に置きながら、私に言う。
「当家の奥様が、ダーラム商会にこの様な品物の製作と販売をお願いしたいと申しております。」
絵を見ると、『壺』と『置き物』の様だ。
『置き物』の方は、『招き猫』と言う名のネコの置き物とのことだったが、実際のネコとは掛け離れた、顔が大きく、ずんぐりと丸っこい、これまでに見た事が無い形をしたものだった。
それほど可愛いとは思わなかったが、何となく目を引く様な気がした。
その『招き猫』とやらの材質を訊くと、『壺』と同様に陶器とのこと。
ふむ。
壊れ難い形状をしているのは幸いだな。それほど可愛いとは思わないが。
ウチでこれらの物を作ろうとすると、グラアソで食器を作っている工房に依頼することになる。だが、その工房にそれほど余裕は無かったはずだ。
新たに工房を作ろうにも、魔術師たちがグラアソの街から出て行ってしまったことで、住人たち購買力は以前よりも低下している。その様な現状で、新たに工房を作るなんて論外だろう。
うーん。どうしたものか…。
私が悩んでいると執事長が言う。
「王都からグラアソまでの街道が綺麗に整備されました。これからは王都からグラアソに高価な食器も運べる様になります。王都でなければ買えない様な貴族向けの食器は、きっと富裕層に需要が有るでしょう。」
…なるほど。
私が悩んでいる内容を見透かされた事は置いておいて、執事長に言われたことを考える。
王都で買い求めた高価な食器を富裕層向けに宛てれば、工房に余裕が生まれて、新しい商品を作らさせることが可能になる。それに富裕層向けの新商品で売り上げの増加だって見込めそうだ。
うん。悪くない。
手応えを感じている私に、執事長がさらに言う。
「それに、そうして王都から食器の様な壊れ易い商品が大量に運び込まれる様になれば、王都との距離が縮まった様に感じて、より商品の行き来が増えることになるでしょう。これは”商機”なのではないですか?」
!
確かに、その通りだ!
目の前にこんな”商機”があったのに、気が付けなかったなんて!
それに、『王都との距離が縮まった様に感じさせて、商品の行き来が増やす』なんてことは、商人にとって大いにやりがいのある仕事ではないか!
そう思った私は、すぐにでもグラアソに飛んで帰りたい気持ちになった。
だが、まだ話は途中だ。
こんな時こそ、落ち着かなければな。
さらに依頼の詳しい内容と、今後の展開予定なども執事長から聞いた。
すると、先ほどの『ネコの置き物』の方は国外にも販売するつもりでいるとのことだった。
国外にも販売するのなら、もっと東の街で作らせた方がいいのではないだろうか? 王都の西のグラアソではなく。
それとも、我々に製作を依頼する分は、試作的な意味合いなのだろうか?
心配になったので、その事を執事長に訊いてみた。
すると…。
グラアソで作った品物をハーヴ伯爵領とグラストリィ公爵領を通してマロニヨル王国まで運ぶ予定でいるとのことだった。
そして、近々グラストリィ公爵領内の街道整備が、王都とグラアソの間の街道の整備をしたのと同じところに発注される予定があり、その街道整備は、他のどの街道よりも圧倒的に早く終了する見込みになっているとのことだった。
私の想像よりもずっとスケールが大きかった話に驚いていると、さらに執事長が言う。
「これからの国内の東西の流通は、グラストリィ公爵領を通るものが主流になることは間違いありません。」
執事長は、そうキッパリと断言したのだった。
私は、頭の中で想像する。
あの綺麗に整備された街道が、東西に長いグラストリィ公爵領を貫いている様子と、そこを走り抜ける馬車列の姿を。
国内の流通が大きく変わる。
そして、もし、その流通の西の起点をグラアソにすることが出来れば、グラアソの街は大きく発展することになるだろう。
そうなる為に、私は何をすべきだろうか?
私は、頭の中で色々な事を考えたのだった。
私は、すぐにでもグラアソに飛んで帰りたい気持ちを抑えながら契約を結んだ。
せっかく掴んだ、この大きな商機。
ものにしてみせるとも、絶対に!
そう気合いを入れながら、私はこの日の内にグラアソに向けて王都を発ったのだった。
< ナナシ視点 >
部屋で寛いでいると、シルフィとメイド長が部屋にやって来た。
メイド長が俺の部屋にやって来ると、『またネコ関係かな?』と少し身構えてしまうのは、何故なんだぜ?
それはそれとして。
少し前に、俺が王都から西隣の街までやった道路工事。それについてメイド長から、『かなり好評ですよ。』なんて言ってもらえた。
うむうむ。(←満足げ)
満足していると、メイド長からグラストリィ公爵領の街道の整備を打診された。
グラストリィ公爵領と言うと、俺の持っている領地か…。
そう言えば、持っていたね。
べ、別に忘れていた訳ではありませんよ?(←ダウト)
「グラム王国の南部に在る、東西に長いグラストリィ公爵領。その領内を東西に貫く街道を綺麗に整備すれば、商人たちは挙ってその街道を使う様になるでしょう。そうなれば、グラストリィ公爵領は大いに発展します。」
メイド長から、さらにそんな事も言われた。
ふむ。
自分の持っている領地については、これまで何もしていなかった。大臣に丸投げしたまんまで。
そう言えば、行った事すら無かったね。
べ、別に忘れていた訳ではありませんよ?(←だから、ダウトだって)
以前、シルフィの結婚相手に関するゴタゴタに巻き込まれて、その結果、爵位と一緒に手に入れることになった領地。その領地について、あまりにも俺が何もしていない現状は、シルフィをモヤモヤした気分にさせてしまっているかもしれないね。
その領地の発展に繋がるのなら、道路工事くらいはしましょうかね。大して手間は掛からないからね。【製作グループ】に丸投げするだけだし。(←ここでも安定の丸投げです)
「喜んで。」
俺がそんな事を考えている内に、勝手に俺の口からそんな返事が飛び出した。【ネコグループ】の誰かが勝手に俺の体を操作して。
『をい。(怒)』
『どうせ”丸投げ”しかしない人は黙っていてください。(威圧)』
『アッハイ。』
そう言われて、”圧”で押し切られました。
あれぇー。
こうして、また道路工事をすることになりました。【製作グループ】が。
本当に、俺は何もしていないねー。
今回は、”丸投げ”どころか”返事”すらもしていなかったしなっ。
俺の意志ってやつが、蔑ろにされている気がするね。
一体、どうしてこうなってしまったのか…。
解せぬ。
その後。
三日で道路工事が終わり、その事をシルフィに伝えた翌日。
また、シルフィとメイド長が俺の部屋にやって来た。
そして、今度は、王都の西隣の街からハーヴ伯爵領を通ってグラストリィ公爵領に至る街道の整備の”お手伝い”を頼まれた。
その”お手伝い”の内容は、工事する街道の”小石の除去”だけとのことだった。
なんでも、地面を掘り下げたり、その際に出る小石を運んだりするのに、思いの外、苦労しているらしい。
地面を掘ると小石が大量に出てくる。その小石は敷き詰めるのに使うので必要になる物なのだが、その小石が有る所為で、鍬をかなり使い潰してしまっているらしい。
また、集めた小石を運ぶのにも、かなり苦労しているとのことだった。
あー。たかが小石とは言え、沢山集まれば相当な重量になるからねぇ。当たり前のことだけど。
まぁ、地面の中から小石を取り除くのは、【分離】魔法さんで一発だから大した手間ではない。
その程度のことなら、一晩で終わりそうだね。
「分かりました。大した手間は掛かりませんから、今夜中に終わらせますよ。」
そう言ったら、メイド長の表情が少し変わった気がした。なんか拝みだしそうな気がするのは俺の気の所為だよね? 俺の気の所為だよね?!
俺の気の所為だと信じています。
こうして、また道路工事(のお手伝い)をすることになった。【製作グループ】が。(てへ)
その日の夜。
頼まれた”お手伝い”を【製作グループ】がしている。
その様子を、俺は【目玉】を通して眺めます。
『眺める』とは言っても、そこでゴーレムが作業をしているという訳ではなく、街道とその周辺の地面の下から小石を取り除いて、その小石を街道の両脇に置いていくだけなので、ただ小石の山が連続で作られていく様子を眺めているだけです。
パッと見、怪奇現象っぽい不思議な光景です。(苦笑)
どんどんと小石の山が作られていく様子を眺めて、俺は満足します。
これで街道の整備が捗ってくれればいいねー。
街道の整備をする誰かの健闘を祈りつつ、俺はベッドに向かいます。
おやすみなさい。
(その後のダーラム商会)
王都の西隣の街グラアソを拠点とするダーラム商会。
以前、ホロワース商会と名乗っていた当時は、グラアソの街では一番であったものの、広く名が知られている商会という訳ではなかった。
だが、今のダーラム商会は、国中に名を知られる商会になっていた。
グラストリィ公爵領を東西に貫く街道が整備されると、それに逸早く着目し、傘下の商会と共に一気に東部まで至る商圏を作り上げたことによって。
また、グラアソの街を、国内流通の西の一大拠点に変えてしまった、その手腕によって。
また、ダーラム商会が扱う商売繁盛の置き物『招き猫』は、今では商会を代表する商品になっている。
これまでに無かった真新しいデザインの置き物が広く受け入れられて。
また、ダーラム商会にあやかりたいと思った商人たちが挙って買い求めて。
今日もまた『招き猫』を積んだ馬車が街道を走る。
グラアソの街からハーヴ伯爵領とグラストリィ公爵領を通り、マロニヨル王国まで運ばれる『招き猫』。その後、船に乗せられてクライス王国の王都クライスまで運ばれるという。
ダーラム商会の名が『招き猫』と共に大陸中に広まるまで、あと僅かであった。
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