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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十五章 異世界生活編10 魔術師の街の騒動 終編 <勝負の後>
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29 外伝 ある日の作戦部の様子


作戦部長

 王宮のメイド部(名称は”部”だが”団”に相当)の作戦部の部長。

 メイド長に次ぐ組織のNO.2。次期メイド長。


   ◇      ◇


< 作戦部長視点 >


ダンジョンに派遣した部隊が帰って来た。

期待をはるかに上回うわまわる大量の毛皮を持って。

自身の執務机で、報告書と持ち帰った品々の一覧に目を通していた私は、ほほゆるむのを抑え切れなかった。


今回持ち帰ってくれた品の一つ『【ヒール】を常時発動する薄いかわ』は、加工がしやすく色々な物に使えるだろう。

服に加工して護衛をしている者たちに着せれば、継戦けいせん時間が大幅に伸び、仮に襲撃者が現れたとしても相手が疲れるまで守りにてっする事が可能になるだろう。より確実に護衛対象を守り切れる事は間違い無い。

他にも、訓練着に加工するのもいいな。訓練時間を目一杯めいっぱい使える様になって、メイドたちのさらなる強化に繋がるだろう。

うむうむ。


上機嫌でそんな事を考えていたら、私と同様にホクホク顔をした作戦2課長が、私の前に来て言う。

「フフッ。ウチのアンナは凄いでしょう。」

…なるほど。

これもアンナの持っている不思議な能力(●●●●●●)のおかげか。


部隊をダンジョンに向けて送り出した際、それと入れ違いになる様に、ダンジョンでの戦闘訓練を終えたアンナたちが帰って来た。

そして、ダンジョンに送り出した部隊が帰って来た時には、これまでダンジョンで出たと聞いたことが無かった品々を、大量に持ち帰って来たのだ。

これはきっと、『アンナが関係すると、何故なぜか事態が想像を超えた良い状況になる』という、彼女の持つ不思議な能力のおかげだったのだろう。


その事には納得したのだが、他に不思議に思った事が有ったので、彼女に訊く。

「そのアンナをまたグラアソに行かせるそうだが、新人の割に”外での仕事”が多過おおすぎないか?」

そう。前の任務でアンナには、グラアソの街の魔術局に潜入調査をおこなわせており、その最中さなかに予定に無かったオークキングの討伐に参加し、危ない目に遭いながらも無事に帰還した。

王宮に帰還後、すぐに魔物相手の戦闘訓練の為にダンジョンに行かされ、今は休暇に入っているのだが、そのアンナを、休暇が明けたら再びグラアソに行かせると聞いている。

そばに置いておくと、何だか殴り掛かってきそうで怖いからね。」

そんな事を言う、作戦2課長。

「…何をしたんだ?」

ケイト親衛隊みたいな奴が他にも居るのは困るんだが?

「別に何もしていないんだけどね。」

「一度、ちゃんと話し合っておけ。」

「それはヤダなぁ。絶対殴り掛かってくるよ。あれは。」

「絶対、何かやってるだろ。部下の不満を解消してやるのも、上に立つ者の仕事だぞ。」

「だからグラアソに行ってもらうことにしたんだよ。」

「ん? どういう事だ?」

今、グラアソにはケイト親衛隊の者たちを派遣している。割とよく有る”いつもの任務”と、彼女たちの”ガス抜き”の為に。

彼女たちと交代する要員の一人としてアンナをグラアソに行かせると聞いているのに、ケイト親衛隊の者たちみたいなあばれそうな奴を派遣させられるのは困るんだが。

「アンナにはこれまでメイドらしい仕事をあまりさせてなかったからね。ちょうどいいからグラアソに行かせて、領主様を護衛させながらメイドらしい仕事をさせようと思ってね。」

確かにアンナは、作戦2課に異動になってからは”外での仕事”が多かった。”普通のメイド”として王宮にやって来たアンナが『おかしな事ばかりやらされてる。』とか思っていてもおかしくはない。

「やっぱり、一度、ちゃんと話し合っておけ。」

「それはヤダ。絶対殴り掛かってくるよ。」

「お前の仕事だ。なんとかしろ。」

そう言っておく。

『いっぺん、殴られとけ。』とは、言わないでおいた。

言っても言わなくても、結果は変わらない気がしたしな。




グラアソのダーラム侯爵邸へ交代要員を送り出した日の翌日。

まだ昼前だというのに、グラアソでの任務を終えた者たちが帰還したと報告を受けた。

午後になると思っていたのだが、随分ずいぶんと早く帰って来たんだな。

不思議に思ったのだが、グラアソとの間の街道は綺麗に整備されていたのだったな。

きっと、馬車を飛ばして帰って来たのだろう。

今日は他に仕事が入っていないのだしな。


昼過ぎに、作戦3課の課長が私の元にやって来た。

「今回の作戦は上手うまくいきました。」

そう言って差し出された報告書を彼女から受け取り、しっかりと目を通す。

ケイト関連の問題への対処を専門にしている作戦3課は、実働部隊がケイト親衛隊の者たちだ。やり過ぎると何が起こるか分からない。

今回の作戦の対象はクララ・ダーラム侯爵だったので、おかしな事はしていないはずだ。だが、それでも報告書に目を通すのは不安だ。


報告書にジックリと目を通す。

やった事は、クララ・ダーラム侯爵に言い寄る貴族のボンボンたちを、彼女の目の前でぶちのめしただけだった。

それはそれで問題は有るのだが、おかしな事はしていなかったので、少しだけ安心した。

だが、そのぶちのめした人数を見て意識がとおのきかけた。(フラッ)

人数が多過ぎるだろ…。

「やり過ぎだろ…。これでは苦情への対処だけでもかなりの手間が掛かってしまったのではないか?」

「その”苦情への対処”も込みで、その人数です。」

「………………。」

つまり…、クララ・ダーラム侯爵に言い寄る貴族のボンボンたちをぶちのめし、さらに苦情を言いに来た者たちもぶちのめした。という事か…。

おいおい…。


やり過ぎだと思う。思うが、これでもまだ大人おとなしいほうだからなぁ…。(遠い目)

ケイト親衛隊の者たちには、以前、ケイトにちょっかいを掛けた伯爵令嬢に激怒して、その伯爵家を潰した前科が有るのだ。犯人の特定にはいたっていないから、親衛隊がやったのかどうかも、その手段すらも不明なままだが。

それと比べれば、確かに『大人おとなしい』と言えるだろう。比較対象がアレでは、まったく気休めにはならないが。


遠い目をしている私に、作戦3課長が言う。

「今回は、ケイトが懲罰房ちょうばつぼうに入れられた事をいまだに不満に思っていた者たちを派遣しましたので。”ガス抜き”をする必要があったのだから仕方がありません。メイド長からも同意を得ています。」

そう、肩をすくめながら彼女は言う。

不満のぶつけ先がメイド長になる恐れがあったのだから、そりゃあ、メイド長の同意は得られるだろう。


今回の作戦について、不満は有る。

だが、ケイト親衛隊の隊長でもある彼女も、隊員たちに振り回されているがわだからな。私たちと同様に。

そう思うと、しかりつける気持ちにはならないな…。


「はぁ…。」

私は無意識のうちに、溜息ためいきを一ついた。


ドバン!

「隊長! ちょっと来てください!」

私が溜息ためいきいていると、ドアをいきおいよく開けて数人の者たちが入って来た。

そして、作戦3課長の腕をつかんでして行った。

あわただしいな。

まぁ、話は終わっていたから別にいいが、どうしたというのだろうか?

彼女たちは、今日グラアソから戻って来たばかりの者たちだったと思うが…。

散々(さんざん)グラアソのダーラム侯爵邸でストレスを発散してきたはずなのに、元気なものだな。


そう少し呆れながら、私は自分の仕事を片付けた。



翌日。

メイド長からの呼び出しを受けて、メイド長の執務室に向かう。

行くと、そこには作戦3課長も居た。

ケイト親衛隊関連の話で確定だな。きっと、グラアソでの件だろう。


私がメイド長の前に立つと、すぐにメイド長が言う。

「あのかわを使って作られた装備品の支給を、作戦3課は一番最後にします。」

あー、グラアソのダーラム侯爵邸での件でばつを与える事にしたんだな。まぁ、そうなるのも当然か。

「昨日、ケイト親衛隊の者たちがメイド1部の部長のところに押し掛けたそうです。」

あれ? 違う話か? でも、どうしてメイド1部に? 交代に不満を持っていたなんて話は聞いてなかったぞ。

「ケイトがナナシ様の護衛に戻った事を不満に思った者たちが押し掛けたんだそうです。」

あー、そういえば、彼女たちをグラアソに派遣している間に、そうなっていたんだったな。

久しぶりに戻って来たのに、ケイトと訓練が出来なくなっていると知らされれば、そりゃあおこるか。

メイド1部に押し掛けた者たちが何をしたのかが気になるな。まだ何も言われてないし。

さわいだだけで、そこでは何も起こりませんでした。」

私が考えている事を読んだメイド長にそう言われて、安心した。

「あそこには、親衛隊の先輩たちも居ますし。」

それもそうか。あそこにはケイトを育てた者たちが居るんだ。あばれたところで返り討ちにあっていただけだろう。

「もう少し気概きがいがあってもいいと思うのですけどねぇ。」

いやいや、それはそれで問題でしょ。それとも”おしおき”されてほしかったのかな?

…きっと、ソレだな。

「ケイトとクーリを交代でナナシ様の護衛にてることにしました。親衛隊の息抜きになる様な事を何か考えておいてね。」

”息抜き”というか、”ガス抜き”ですよね?

でも、今、彼女たちにやらせる事なんて何か有るかな?

ダンジョンに行かせるのも一つの手だが、毛皮やらを取りに行かせて、それで作られる装備品が支給されるのが一番最後だなんて知られたら、かえってあばれ出しかねない。

街道の整備の手伝いなんかさせれば、ストレスを溜めるだけだし。

何も無いなぁ。今は。

何も思い付かなかった私は、ふと、思い付いた軽口かるくちたたく。

「いっそのこと、ソーンブル侯爵にでもぶつけちゃいますか?」

どうせ、子飼こがいのバディカーナ元伯爵とシタハノ元伯爵の為に、国王直轄領となった元シタハノ伯爵領を狙っているのだ。何かコトを起こされる前に、こちらから仕掛けてしまうのも手だろう。

まぁ、冗談だけど。

「その時はアンナを呼び戻す様に。私の話は以上です。(ニッコリ)」

えっ? あれっ? 本気?

じょ、冗談ですよね?

戸惑とまどいながらも一礼いちれいして、私たちはメイド長の執務室をした。


廊下を歩きながら考える。

ソーンブル侯爵にケイト親衛隊をぶつける件。計画書を書いて提出したらそのまま通ってしまいそうだった。

そんな事は無いよな? 大丈夫だよな?

酒に酔ってうっかり計画書を書いてしまわない様に、気を付けておこう。


そんなどうしようもない事を考えながら、私は自分の執務室に戻ったのだった。



(設定)

メイドさんたちを毛皮を取りにダンジョンに行かせた件と、前の話のダーラム侯爵邸での『ぶちのめし祭』と、ケイトをナナシの護衛に戻した件の、作戦部での裏話でした。

『『ぶちのめし祭』の作戦部での裏話』は、前の話と一緒にするつもりで書いていたのですが、『クララ視点の「どうして」シリーズ』はクララ視点での話のみで構成していましたので、それにならって別にしました。

それだけでは短かったので、他の二つとあわせて一つの話にしました。


(前の話の補足)

前の話の『ぶちのめし祭』は、作戦部作戦3課による『クララ・ダーラム侯爵にメイドへの恐怖心を植え付けてケイト様をあきらめさせよう作戦』でした。

その作戦は、クララに言い寄って来た貴族のボンボンたちを、ひたすらクララの目の前でぶちのめし続けることによって、その目的を達しました。

最後にアンナが駄目押だめおしをする事になったのは偶然です。作戦2課長がアンナに殴られたくなくてグラアソに派遣した結果、たまたまそうなっただけです。

この作戦終了後、クララ・ダーラム侯爵の身辺警護は、『作戦部作戦3課』から王宮内と同様に『メイド1部』に引き継がれました。そこにアンナが加わっている形です。


(作戦部 作戦3課と課長について)

作戦3課は、ケイト関連の問題への対処を専門にしている部署です。

そのおもな仕事は、ケイトに言い寄ってくる人たちにケイトをあきらめさせることです。

作戦3課の実働部隊は、ケイト親衛隊の隊員たちです。

以前、ケイトにれた伯爵令嬢がケイトをだまして誘い出しデートを決行。その事にケイト親衛隊の者たちが激怒し、親衛隊の一部の者が暗躍あんやくした結果、その伯爵家が消滅してしまう事件が起きました。

その事件を受けて上層部は、ケイト親衛隊を野放のばなしにしておくことは危険だと判断して、ケイト親衛隊を作戦部に組み込む形で作戦3課が作られました。

こうすることによってケイト親衛隊を作戦部の監視下で行動させる事が可能になり、貴族家が消滅してしまう様な大きな事件が起きるのを避けられる様になりました。ちなみに、小さな事件は起きていますが容認されています。ガス抜きとして。

作戦3課の課長はケイト親衛隊の隊長でもあります。ですが、隊長も親衛隊の隊員たちに振り回されています。


(ケイト親衛隊について)

ファンクラブ的な側面が強いのですが、ケイトの練習相手をつとめたり、その練習相手を育成いくせいしたりするのがおもな活動内容です。今のところは、かろうじて。(苦笑)

設立当時の名称は『ケイト育成会』で、その名の通り”ケイトの育成”を目的に、ケイトの10歳年上の従姉いとこが立ち上げました。(その従姉いとこは今も『ケイト親衛隊』の隊長であり、作戦3課の課長でもあります)

ケイトの育成が終了し、『ケイト育成会』はその役目を終えたのですが、練習相手をつとめていた者たちの多くが存続を希望。『ケイト親衛隊』と名称を変えて存続することになりました。

ですが、ファンクラブ化が加速してしまい、ケイト親衛隊の隊長も振り回されてしまっています。


(作戦部 作戦2課と課長について)

作戦2課は、主に武力を行使する作戦を担当している部署です。

毛皮を取りにダンジョンにメイドを派遣した作戦も、この作戦2課の担当でした。

アンナの肩書きは『作戦2課長付き』で、作戦2課長の命令で色々なことをさせられています。アンナが以前言っていた『憎いあんちくしょう』は、作戦2課長のことです。

アンナが魔術局に潜入調査をさせられていた件は、本来は諜報活動を担当する作戦1課の仕事でした。ですが、作戦2課長がアンナをねじ込みました。身の危険を感じて。

作戦2課長は、特殊な能力を持つ者を見付け出す才能にけた、ちょっと変わった人で、アンナもマリアンヌも作戦2課長が発掘しました。


(アンナの持つ不思議な能力について)

アンナの持つ不思議な能力は、『アンナが関係すると、何故なぜか事態が想像を超えた良い状況になる。』というもの。

王女シルフィがナナシと出会うことになった一件。それと、クララがクラソー侯爵家を継ぐことになってダーラム家の再興にいたったり、魔術師ギルドの消滅、シタハノ伯爵領が国王直轄領になった件も、アンナのおかげであると上層部は思っています。

また、魔術局への潜入調査を終えて王宮に帰還したアンナを、森の中でオークに苦戦したと聞かされて戦闘訓練の為にダンジョンに派遣していたので、その直後に、ダンジョンから特殊な毛皮を大量に持ち帰ることが出来た件も、アンナのおかげだと思われています。偶然なんですけどね。

王女シルフィがナナシと出会うことになったあの作戦。シルフィが参加するあの様な作戦に王妃様の許可が下りたのは、実はアンナの存在があったからなのです。(と、これを書いていて思い付きました。(←本当))

あの時はシルフィが行方不明になってしまい、アンナは気が気ではなかったですし、クララの護衛としてオークキングの討伐に参加した時には死に掛けましたし、アンナはろくな目に遭ってませんねー。

アンナは、作戦2課長を殴ってもいいと思います。まだかなっていませんが。

そのストレスは、クララに言い寄って来た貴族のボンボンたちを殴り飛ばすことで発散中です。


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