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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十五章 異世界生活編10 魔術師の街の騒動 終編 <勝負の後>
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28 外伝 「………………。」クララ・ダーラム侯爵


ここはグラアソに在るダーラム侯爵邸。

この領地を母親からいで領主となったクララ・ダーラム侯爵のもとを、今日もまた、一人の貴族のボンボンがおとずれていた。


その貴族のボンボンが、クララ・ダーラム侯爵に向かってはなつ。

「私の妻にしてやろう。慣れない領地経営などウチの…」

ドカッ!!

ゴロゴロゴロ ガッ ドサッ

その貴族のボンボンは、最後まで言い終わらないうちに、ひかえていたメイドにブン殴られ廊下までころがって行き、壁にぶつかってたおした。

その男を、廊下にひかえていたメイドが慣れた手つきで何処どこかにはこんで行く。


その光景は、ここ最近のダーラム侯爵邸では毎日見られているものであった。



< クララ視点 >


今日も、私のもとおとずれたかたがメイドに殴り飛ばされ、意識が無いまま何処どこかへとはこばれて行きました。


「………………。」


私のもとおとずれたかたを殴り飛したそのメイドは、私の執務机のわきに戻って来てひかえます。

何事なにごとも無かったかの様に。


「………………。」


若いとはいえ貴族のかたを殴り飛ばしましたのに、本当に何事なにごとも無かったかの様に戻って来てひかえています。

その様子は、まるで落ちていたゴミをゴミ箱に捨てたかの様に、本当に何事なにごとも無かったかの様です。


「………………。」


イスに座ったまま、しばらくのあいだ固まってしまいましたが、首をギギギギッと動かして、執務机のわきひかえているメイドに訊きます。

「…な、殴り飛ばしてしまうのは、…ど、どうなのかしら?」

「あの様な者をのさばらしておくのは、この国の為になりません。当然の処置です。当然の処置ですので侯爵様には慣れていただきたく思います。」

「………………。」

既に何度も聞いた返答です。

その返答に納得できませんでしたし、この光景に慣れるなんて事も、私には無理だと思いました。


護衛として私の周囲にひかえているメイドたちの行動には疑問を感じます。

ですが、彼女たちは王宮から派遣されて来ているのです。おかしな者が派遣されて来ているとは思えません。

しかし、本当にこれが”当然の処置”なのでしょうか?

私は疑問に思いました。かなり。



もぐもぐもぐもぐ

今日のおやつも美味おいしいです。


私がこの領地の新しい領主として仕事を始めてから、20日ほどちました。

私のもとおとずれたかたが殴り飛ばされるのは、今も相変あいかわらずです。

ですが、最近はその回数が減ってきた気がします。

この屋敷のメイドたちの凶暴さが広く知れ渡ったのでしょう。


王宮から派遣されて来ているメイドたち。

彼女たちは、凶暴なだけではありませんでした。

彼女たちが来てからおやつが美味おいしくなったのです。


おやつが美味おいしくなった事は嬉しいです。ええ。

その事に、昨日までまったく気が付いていませんでしたが。

きっと、毎日執務室で見せ付けられている惨劇さんげき所為せいで、心にそんな余裕が無かったのでしょう。

決して自分が、メイドたちが毎日引き起こしている惨劇さんげきを”日常の風景”だと認識し始めた訳ではないはずです。

ええ。



私がこの領地の新しい領主として仕事を始めてから、30日ほどちました。

最近は、私のもとおとずれるかた随分ずいぶんと少なくなった気がします。惨劇さんげきが起きない日もありますので。

きっと、この屋敷のメイドたちの凶暴さが国中くにじゅうに知れ渡ったのでしょう。(遠い目)


その王宮から派遣されて来ているメイドたち。

明日、人員の交代が行われるのだそうで、私の護衛たちも交代されるのだそうです。

その事に期待を持ちます。

「次は、もっと大人おとなしいメイドさんだったらいいなぁ。」

「………………。」

「と、そんな事を考えていますね?」

私の執務机のわきひかえているメイドの一人が、私に向かってそう言います。

うっかり口に出してしまったのかと思ってあせりましたが、彼女が言ったセリフだった様ですね。

ま、まぎらわしい事をしないでほしいです。(ドキドキ)

「………………。(ニマニマ)」

「………………。」

な、何か言い訳をしないといけない感じですね。

仕方がありません。

うなれ! 私の受け流しスキル!

「しょ…。ゴホン。そんな事、思っていませんよ。(ニッコリ)」

「………………。(ニマニマ)」

「………………。(ニコニコ)」

「………………。(ニマニマ)」

う、受け流しましたよね? 大丈夫ですよね?

大丈夫だと信じておきます。



翌日。

王宮から新しいメイドたちがやって来ました。

彼女たちの代表者と、私の新しい護衛だというメイドたちが、私の前にやって来て挨拶をします。

新しい護衛の一人は、私の良く知る人でした。

アナでした。

久しぶりに会う友人に喜びます。

「治癒魔法が使える護衛が居るといいでしょ。」

「ええ、そうね。アナが私の護衛になってくれると嬉しいわ。」

私は、心から喜びます。



アナとの再会を喜び、私が王宮に滞在していた時の出来事を話していたら、若い貴族のかたが私のもとおとずれました。

そして、言います。

「私の妻にし…」

ドカッ!!

ゴロゴロゴロ ガッ ドサッ

その若い貴族のかたは、最後まで言い終わらないうちに、アナに殴り飛ばされ廊下までころがって行き、壁にぶつかってたおしました。


「………………。」


そ、そういえば、アナもこんな感じだったわねー。(しろ


こうして今日も、私のもとおとずれたかたがメイドに殴り飛ばされ、意識が無いまま何処どこかへとはこばれて行ったのでした。

私はこの惨劇さんげきを、これからも見せ付けられるのでしょう。


アナはこちらに向き直って笑顔で話し掛けてくれています。ですが、私の耳を素通すどおりして、何を言っているのかまるで聞こえてきません。

アナの姿を視界におさめながら、私は、しろになった頭で思いました。


メイドさん怖い。と。(ガクブルガクブル)



(設定)

クララ視点の「どうして」シリーズの最終話です。


毎日の様に惨劇さんげきを生み出しているクララの護衛たちは、ケイト親衛隊の者たちです。

クララにケイトをあきらめさせる為に、メイドへの恐怖心をいだかせるのが彼女たちに与えられた任務でした。

それと、ガス抜きの意味もありました。以前、ケイトが懲罰房ちょうばつぼうに入れられたことを、まだ不満に思っている親衛隊員が居ましたので。


(アナ(=アンナ)の名前について)

『アナ』は魔術局に潜入調査するさいに名乗っていた偽名ぎめいですので、この後、クララに正体しょうたい(元々王宮のメイドで、その事を隠してグラアソの魔術局に居たこと)を明かして『アンナ』と呼んでもらうようになります。

ちなみに、アナがクララの元にやって来た時、メイド服を着たアナについてクララから何の言及げんきゅうも無かったのは、単に、再会を喜んでいたからです。精神的な疲れがまっていた所為せいでもあるのかもしれませんが。


(ウラバナシ)

当初、この話の最後に登場するメイドは、アンナではなくクーリの予定でした。

最後の場面で、クーリがゲストロ男爵(彼もここに出てくる予定でした)を殴り飛ばして天井にブチ当て、それを見たクララが『メイドさん怖い(ガクブルガクブル)』となる予定でした。

クーリのお人形さんの様な容姿やスペックは、その場面から作り上げたものでしたし、アンナも二回目以降の登場を考えていた訳ではありませんでした。

早い段階で考えていたお話は、話を書き進めている内に色々と変わってしまいますネー。

クーリは「フガーーッ」とか言ったり、通り魔をする様なではなかったのです。これには書いている人もビックリです。(てへ)


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