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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十五章 異世界生活編10 魔術師の街の騒動 終編 <勝負の後>
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25 ナナシ、ネコ型ゴーレムを改良する01 メイド長からの要望。からの…


< ケイティ視点 >


朝食後のお茶を楽しまれる姫様とナナシ様。

そのお二人の向こうの窓際まどぎわでは、今日からナナシ様の護衛に復帰したケイトがひかえています。

イイ笑顔で。

ジタバタするペンギン型ゴーレムを両腕で抱きかかえて、それはもうイイ笑顔で。


ケイトには既に注意をしました。

ですが、改める気などまったく無い様です。

そもそも、ケイトと私とでは所属が違いますし、私の部下という訳でもないのですから、ケイトが私の指示にしたがわなければならない理由は有りません。

それに、この部屋のあるじであるナナシ様も特に気にしていらっしゃらないご様子ですので、私にはどうすることも出来ません。

ですが、このままこの状態を放置して、何か不測の事態が起こってしまっては困ります。

メイド長からケイトに注意していただくしかないでしょう。


ナナシ様が外出されました。

ちょうどいいですね。

私は、メイド長からケイトに注意していただくべく、メイド長の執務室に向かいました。


執務室に入り、メイド長の前に立って、言います。

「ナナシ様の護衛に今日から復帰したケイトなのですが、ペンギン型ゴーレムを…。」

そこまで言って、思わず言葉がまりました。

メイド長が、白くてフワフワしたモノを抱いていましたので。

「………………。」

「………………。」

メイド長は私から微妙に視線をズラし、目を合わそうとしてくれません。

そんなメイド長を見て、私はさっしました。

『あ。これは、メイド長に言っても駄目なやつだ…。』と。


私は無言で一礼いちれいし、ナナシ様のお部屋に戻ったのでした。



< ナナシ視点 >


【多重思考さん】に急に頼まれた魚の買い出しを終えて、俺は王宮の部屋に帰って来た。

ケイティさんに脱いだローブを渡し、ソファーに座って一息ひといきく。

ふぅ。


一息ひといきいた俺は、窓の方にチラリと視線を向ける。

窓際まどぎわには、今日からクーリに代わって俺の護衛に復帰したケイトがひかえています。

イイ笑顔で。

ジタバタするペンギン型ゴーレムを両腕で抱きかかえて、とってもイイ笑顔で窓際まどぎわひかえています。

久しぶりに見る光景だねー。

『ジタバタするペンギン型ゴーレムが可哀想かわいそうに見える。』とか、『『歩行モード』ぢゃなくて『ぬいぐるみモード』にしろよ。』とか、『その為に『ぬいぐるみモード』を作ったんだよっ。』とか、言いたい事が色々とあるんだけど、ケイトには何を言っても無駄なので、そのまま放置しておきます。

現実をあるがままに受け入れるしかないのです。(←そんな大袈裟おおげさな話ではありません)



現実をあるがままに受け入れて遠い目をしていたら、部屋にメイド長がやって来た。

白くてフワフワしたモノを抱いたメイド長は、俺の向かいのソファーに腰を下ろすと、抱いていたソレを俺に差し出しながら言う。

「頼まれていた評価が終わりましたので、おかえししますね。」

メイド長は、何故なぜか、やや大きな声でそう言って、抱いていた白くてフワフワしたモノを俺に手渡す。

受け取ったソレを見て、これがネコ型ゴーレム試作一号機だという事に気が付いた。

そういえば、完成した状態のネコ型ゴーレムを見るのは、これが初めてだったね。

ゴーレムの骨格を被服部ひふくぶのエイラさんに渡して、その後、エイラさんが完成させたネコ型ゴーレムをメイド長が持ち去って行ってしまったと聞かされたっきり、そのままになっていたね。

それと、何気なにげに俺が評価を依頼したふうになってるけど、メイド長が勝手に持ち去って行ったんですよね? エイラさんのところから。(苦笑)

まぁ、元々(もともと)ネコ型ゴーレムを作るのはメイド長から依頼された事だったし、後でダメ出しをされるよりは先にチェックしてもらった方がいいから、その事を指摘したりはしないけどねー。


「そして、これが改善してほしいと思った事を書き出した要望書です。」

そう言って、紙のたばをテーブルの上に置くメイド長。

…意外と多くね?

テーブルの上に置かれた紙のたばに少しビビりながら、手に取って目を通す。


『液体(かん)りない。』


列挙れっきょされた項目の一番最初にそう書かれていた。

液体(かん)りない…。

そーかー、液体(かん)りないのかー。

…これって、ネコ型ゴーレムに対する要望だったよね?

ゴーレムに対する要望としては前代未聞ぜんだいみもんなんぢゃないですかね?


一発目から思わず遠い目になってしまったが、気を取り直してさらに読み進める。

『肉球をもっとプニプニに。』

『ペロペロしてほしいのでした必須ひっす。でも、ザラザラはひかに。』

『鳴き声を出すようにしてほしい。それと、状況に応じて鳴き声を変えるようにしてほしい。』

『表情を変化させて。』

『ポンポンしたひざの上に飛び乗ってほしい。』

『時々はカーテンによじ登ってほしい。』

などなど。

まぁ、納得できる内容かな。ちょっと変な要望も混ざってたけど。

でも、書かれている要望の多種多様さとその量に眩暈めまいおぼえた。


そういえば、この要望の中にも有った『鳴き声を出す』は、以前、【製作グループ】に検討を頼んだ後、そのままになっちゃっていたね。

毛皮をかぶせてもらった後に組み込もうと思っていたのと、ダンジョンから王宮に帰って来た後に色々な事を頼まれて忙しかった所為せいで、すっかり忘れちゃってたね。今も王都内で絶賛ぜっさん道路工事中だしな。(苦笑)

その鳴き声を出す仕組みは口の中に入れるつもりだったんだけど、したを実装しなければならなくなると、何処どこか別の場所に組み込まないといけなくなるね。

それと、したを動かす仕組みの検討もしないといけなくなるし、それを組み込むのだって大変そうだ。

結構な手間が掛かりそうだね。

すべての要望にこたえるのはむずかしそうなんだけど、メイド長は何処どこまでやれば満足してくれるのかな?

想像以上に大変な事になっちゃってない?

どうすべ?(クラクラッ)


『ふっ。我々【ネコグループ】にお任せください。』

眩暈めまいおぼえてクラクラッとしていたら、頭の中でそう言われた。

そうか、【ネコグループ】か…。

ネコのことは【ネコグループ】が詳しい。ネコ型ゴーレムを上手うまく歩かせるのにも【ネコグループ】が協力していたんだしね。

【ネコグループ】に任せちゃおうかな? やる気になってるみたいだし。

うん。そうしよう。

『ぢゃあ、お願いね。(クラクラッ)』

『はい。お任せください。』


いまだに眩暈めまいおさまらない俺は、【ネコグループ】に対応を任せることにした。

早速さっそく、メイド長と交渉を始めるらしいので、俺の体の操作をすべて【ネコグループ】に引き渡す。

メイド長との交渉の間、俺はたかみの見物けんぶつです。【目玉めだま】を通して、文字通り少し高い位置から。



【ネコグループ】の誰かが操作している『俺』が、メイド長に言う。

「要望は分かりました。ですが、これらをすべて反映はんえいさせる事は出来ません。」

俺は、程々(ほどほど)のところに着地してくれる事を願いながら、二人が話し合う様子を【目玉】を通してぼんやりとながめます。


「ネコ様は至高の存在であり神聖不可侵な存在なのです。ネコ型ゴーレムをネコ様に近付け過ぎるのは、ネコ様に対する冒涜ぼうとくなのです。」

ん?

「その不遜ふそんおこないは、やがて、ネコ神様のいかりにれることになるのです。」

………。

「ネコ神様のいかりにれた愚者ぐしゃたちは、一人一人に個別の言語を与えられ、他人との会話が出来なくなり人間から動物にてるのです。」

…なんか、『バベルの塔』てきな話をし始めたぞ。

「動物にてた愚者ぐしゃたちは、それぞれの言葉でネコ神様に慈悲じひい、ひたすらネコ神様に謝罪の言葉をささげるだけの存在にててしまうのです。」

………。

「その様な事態をまねいてしまわない様に、我々は不遜ふそんおこないをけ、日々、ありとあらゆる言葉でネコ様を称賛しお世話し続けなければならないです。」


俺は今、何を見せ付けられているのかな?

宗教が誕生する瞬間かな?


ネコ型ゴーレムに対する要望の話をしてたんぢゃなかったの?

ネコ型ゴーレムに対する要望の話をしてたんぢゃなかったのっ?!

何だか、あっと言う間に、俺が責任を取り切れない事態にまで発展してしまっていませんかっ!?

それと、メイド長が目をキラッキラさせてる気がするんですがっ!


現実をあるがままに受け入れるにしても、限度ってものがあるんですよっ!!



宗教が誕生する瞬間を目撃してしまった俺は、何だか海が見たくなった。

俺は、その場面を見ていた【目玉】をコッソリと海に転移させた。


俺は、【目玉】を通して海をながめます。

あー、海はイイネー。


逃亡と現実逃避ですが、何か?



一時間くらい、心を無にして海をながめ続けた。


そうしていたら【多重思考さん】に呼ばれた。

どうやら、話が終わった様だ。

話だけでなく、唐突とうとつに始まってしまった宗教も終わってくれていればいいなぁー。

でも、きっとそんな事はないよねー。

でも、是非ぜひともあの宗教には、終わっていてほしい。


俺の精神の安定の為になっ!


あの部屋の状況が分からないのでちょくで体に戻るのはひかえて、海をながめていた【目玉】を王宮の部屋に転移させた。

【目玉】を通して状況を見ると、メイド長がひざの上につぼを置いてイイ笑顔でソファーに座っているのが見えた。

…あのつぼは何なのかな?

【多重思考さん】に訊くのが何となく怖くて、訊くべきかどうしようかなやむ。

そうしているうちに、【ネコグループ】の誰からしき人(?)が頭の中で言う。

『あれは、ネコ様をまねせる『幸運のつぼ』です。』

不安に思っていた通り、あやしげな代物しろものでした。

『購入者の元には、何処どこからともかくネコ様が現れます。』

『いや、それって【ネコグループ】が購入者の元にネコを送り届けているだけだよね?』

『ネコ様をお迎えしたがっている人の元に、ただつぼを買うだけでネコ様が現れるのです。我々は、ネコ様をお迎えしたがっている人を探す手間てまはぶけ、さらに収益しゅうえきも見込めます。Win-Winです。また、それだけでなく、ネコ神様の存在を強く感じることにもなるでしょう。』

ネコ神様…。それに収益しゅうえきって…。

つぼの他にも『招き猫』も商品展開する予定です。金運上昇や集客への効果をうたって。『招き猫』は、この大陸で最初のキャラクターグッズとして大流行間違いなしです。近い将来、『招き猫』はこの国を代表する商品になって外貨獲得に大きく貢献するでしょう。』

『話がえらく進んでるな! 突っ走りすぎだろ!』

『責任者はメイド長。『これで引退後も安泰あんたいね。』って喜んでましたよ。』

しかも、メイド長を抱き込んでやがるし。

『この宗教なら勝つる!』

『宗教言うな! あと、誰に勝つつもりなんだよ?!』

俺が海をながめている間に何があったんだよ?!

ネコ型ゴーレムに対する要望の話をしてたんぢゃなかったのかよっ。

まったく、おかしな事をしやがって…。

『『おかしな事』とは失礼ですね。ちゃんとつぼは銀貨10枚で売れましたよ。』

『なに、メイド長にあやしげな物を売りつけてんだよ!』

『効果抜群の『約束された勝利のつぼ』ですよ?』

『そのカラクリは購入者の元にネコを送り届けてるだけぢゃんかよっ。それと、まだメイド長のところにネコを届けるつもりなのかよっ。』

『誰も損していないのですから、いいじゃないですかー。』

『それはそうなのかもしれないけどさー。』

本体ほんたいさん(=俺のこと)も買います? つぼ。』

『いらねぇよ。』


もう、ツッコミが追い付かねぇよ!


『『液体(かん)りない』件については、ゴーレムの骨格の接続強度を下げずに、姿勢を保持する時の強度だけ下げる事で対応する予定です。』

あ。そういった話も、ちゃんとしていたのね。

『『ネコ様に近付け過ぎる要望』と『ネコ様より良くなってしまう要望』は、すべて却下しました。不遜ふそんですので。』

不遜ふそんって…。』

『ネコ様はゴーレムごときに代替だいたいできる存在でも、ゴーレムごときにおとる存在でもないのです。至高の存在なのです。孤高で神聖不可侵な存在なのです。いくら手が掛かろうとも感謝しながらお世話させていただく事が下僕げぼくの幸せなのです。』


そういう話は、もういいです。



ネコ型ゴーレムの改良でやらなければならない事は、かなり減った様だ。

その事は良かったのだが、頭痛のたねが増えたね。

むしろ、その”頭痛のたね”の方が大問題だよねっ! 宗教っぽかったしなっ!


ただネコ型ゴーレムを作る事を依頼されただけだったのに、どうしてこうなっちゃったんだよ…。(呆然)


体を【多重思考さん】たちに任せた時って、いつもろくな事にならねぇなっ。


どうしよう?



(設定)

< ネコ型ゴーレム三原則 >

『ネコ様に近付け過ぎない』

 (鳴くのも舐めるのも禁止。肉球の触感を再現しない)

『ネコ様よりすぐれた物にしない』

 (『ネコ型ゴーレムの方がいい』なんて思われない様に配慮しなければならない)

『ネコ様をおとしめない』

 (容姿や動作をみにくくしない)


【ネコグループ】が考え、メイド長に伝えた『ネコ型ゴーレム三原則』です。

これによって、ネコ型ゴーレムの改良内容がかなり減りました。


(『ケイトと私とでは所属が違いますし』のケイティのセリフについて)

共に『メイド1部』所属ですが、所属する課が違っています。

ケイトは護衛や警備がメインの1課。ケイティはメイド業がメインの2課の所属です。

ケイトがペンギン型ゴーレムを持ち歩いている件については、そのペンギン型ゴーレムがナナシの所有物となっている為、口出くちだししにくくなっているのです。ちなみにこれはニーナの入れ知恵です。


(『体を【多重思考さん】たちに任せた時って、いつもろくな事にならねぇなっ』のナナシのセリフについて)

前回は、結婚式の少し後に両腕を切断されてましたネー。

でも、ろくな事にならなかったのはその2回くらいで、勉強させられていた時や結婚式の時などは、かなり助かっています。ナナシが忘れているだけです。


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