22 ダーラム家、再興
(人名など)
ダーラム
建国王グラムと共に国を作った功労者。
この大陸に一つしかないダンジョンのダンジョンマスター。
ダンジョン攻略後、ダンジョンマスターにさせられた。
建国王グラム
ダーラムと共に今のグラム王国(当時:北西の国)を作った。
兵を率いてダンジョン攻略を目指すも、攻略中に命を落とした。
クラソー侯爵
王都の西隣の領地の領主。クララの母。
バディカーナ伯爵に、爵位と領地を賭けた勝負を挑まれた。
王妃様がクララにオークキングを譲り、そのお陰で勝負に勝利した。
バディカーナ伯爵
ソーンブル侯爵に代表者に祭り上げられ、クラソー侯爵に勝負を挑むことになった。
勝負に負けて、爵位と領地を失うことになった。
バディカーナ家は、最初に興された四家の一つ。(他の三つはケメル家、ククラス家、グノス家(すでに消滅))
シタハノ伯爵
バディカーナ伯爵がクラソー侯爵に勝負を挑んだ際、クラソー侯爵が勝利した際の報酬が釣り合わなかった為に彼も爵位と領地を賭けることになった。
勝負に負けて、爵位と領地を失うことになった。
ゲストロ男爵
勝負の際、クラソー侯爵に協力を申し出た『協力者』の一人。
クラソー侯爵陣営が『協力者』の名簿を期限までに大臣に提出することが出来なかった際、他の『協力者』たちから来るであろう苦情への対応を依頼された。
その”対応”によって、他の『協力者』たちからは恨まれることになった。
その依頼の報酬の一つが、クラソー侯爵が勝負に勝った際に得られるシタハノ伯爵領であった為、勝負の結果、領主になることになった。
旧グラスプ公爵家
かつて在った公爵家。国一番の情報網を持っていた。
王女シルフィの結婚相手に異を唱え、ナナシと勝負をすることになってしまった。
勝負をすることに決ったその当日に、国一番だった情報網は崩壊。勝負にも負けて爵位と領地を失った。
旧グラスプ公爵領は、今はグラストリィ公爵領に名前が変わっている。
バディカーナ伯爵がクラソー侯爵に挑んだあの勝負が、クラソー侯爵の勝利で決着してから10日後。
グラム王国王宮の玉座の間には、国中から貴族たちが集められていた。
先日の勝負では爵位や領地が賭けられていた。その勝負の結果を受けて、国王から新たな爵位と領地を下賜する為の式典が今から開かれるのだ。
国王の御前に呼ばれ、膝を突き頭を垂れるクラソー侯爵。
国王からクラソー侯爵に、クラソー”伯爵”として現バディカーナ伯爵領を治めるように告げられると、列席する貴族たちから驚きの声が上がった。
勝負に勝ったクラソー”侯爵”が、”伯爵”に降格になったのだ。貴族たちが驚いたのも当然であった。
だが、勝負が行われることになったそもそもの発端が、クラソー侯爵の治める街グラアソが引き起こしたポーションの価格高騰であった事に思い至ると、次第に驚きの声は小さくなっていった。
また、クラソー侯爵の実父であるケメル公爵も、娘の伯爵への降格に納得している様子だったので、そのざわめきはすぐに収まることになったのだった。
クラソー”伯爵”が御前から下がると、次に、ゲストロ男爵が御前に呼ばれた。
ゲストロ男爵が呼ばれた事に、ざわめきが起こった。
ざわめきが収まらぬ中、国王の御前で膝を突き頭を垂れるゲストロ男爵に、国王の口から現シタハノ伯爵領が与えられる事が告げられると、大きなどよめきが起きた。
その大きなどよめきの中には少なくない怨嗟の声が混ざっていたのだが、それが掻き消されるほどの大きなどよめきであった。
騒然とする雰囲気の中、ゲストロ男爵が御前から下がると、列席する貴族たちの興味はクラソー侯爵領の新しい領主へと移った。
王都の西隣のクラソー侯爵領。その新しい領主となるのは、一体、誰なのか?
これから御前に呼ばれるであろう者についてささやき合う声が、いたるところから聞こえた。
そんな中、先日の勝負の場に居合わせた者たちの脳裏には、あの場に王妃様と一緒に居た者の姿が思い浮かんでいたのだった。
列席する貴族たちが注目する中。
クラソー侯爵領の新しい領主となる者が御前に呼ばれるその前に、大臣から話があった。
それは、建国の功労者であるダーラムについての話だった。
ダーラム。
その者の名は、この場に居る貴族たちはもちろん知っていた。
建国王グラムの友人にして、共にこの国を作り上げた建国の功労者として。
また…。
建国王グラムをダンジョン攻略中に殺害して逃亡した、裏切者として。
大臣が列席している貴族たちに問い掛ける。
今はもう消滅してしまっているダーラム家。それが、いつ創設されたのかを。
その答えを大臣自身が告げる。
ダーラム家が創設されたのは、ダンジョンが攻略されてから15年後のことだった。と。
そして。
もし、ダーラムが建国王グラムをダンジョン攻略中に殺害したのならば、ダーラム家が創設される事など無かっただろう。と。
貴族たちの口から驚きと戸惑いの声が上がった。
大臣の話は続く。
建国王グラムがダンジョンで命を落としてから数十年後に、突然、『ダーラムが建国王グラムをダンジョン攻略中に殺害した。』という噂話が出て来たことを。
その後、ごく短い期間に、ダーラム家の者たちが全員王宮から去っていったこと。
また、王宮にはダンジョン攻略時の記録が残っていて、その中に、ダーラムの裏切りについて語った証言が一つも無かったどころか、それを匂わす様な証言すら無かったこと。また、何者かによって、この記録の存在が意図的に隠されていたこと。
そして、旧グラスプ公爵家とバディカーナ伯爵家から提供された当時の記録の中から、ダーラムに汚名を着せることによって、ダーラム家の者たちを王宮から排斥する事を企んだ者たちの存在が明らかになったこと。
それが、この国の最初期に興された四家の一つで、すでに消滅しているグノス家の者であったこと。
そう話した大臣が、口調をやや強いものに変えて非難する。
貴族たちの醜い権力闘争により建国の功労者であるダーラムに汚名が着せられた結果、ダーラム家の者たちだけでなく魔術師たちも王宮の要職から一掃されてしまったこと。それだけでなく、魔術師を当主とする貴族家が一つ残らず消滅してしまったこと。
そして、その権力闘争によって作り上げられた虚像の悪影響は現在まで続いていて、多くの貴族が魔術師を不当に下に見て、無用な軋轢を生んでいる。と。
玉座の間が静まり返る中、大臣の後を国王が引き継いで、言う。
「貴族たちの愚かで醜い権力闘争によって、罪なき者たちが謂れなき非難を受けた。彼らの中には国を捨てざるを得なかった者も居たと聞いている。その様な事態を防げなかった事をグラム王国国王として、ここに謝罪する。」
国王の謝罪に、玉座の間がどよめいた。
「そして!」
国王がそう言って続ける。
「グラム王国国王の名において、ここに、建国王グラム殺害の汚名を着せられたダーラム殿の名誉の回復と、消滅したダーラム家の再興を宣言する!」
国王のその宣言に、列席していた貴族たちは慌てながらも恭しく頭を垂れたのだった。
こうして、ここに、ダーラムの名誉回復がなされた。
だが、『ダーラム家の再興』とは?
その事をささやき合う貴族たちの耳に、大臣の大きな声が響いた。
「クララ・クラソー殿! 御前へ!」
「はい!」
若い女性の声が玉座の間に響く。
列席する貴族たちの注目を集める中、若い女性が御前に歩み出る。
国王の御前で膝を突き頭を垂れたその女性に、国王が告げる。
「クララ・クラソー、そなたがクラソー侯爵家を継ぐことを認める。同時に、ダーラム殿の子孫であるそなたに、再興する家名『ダーラム』を与える。これより、クララ・ダーラムを名乗り、現クラソー侯爵領を治めよ。」
「はっ。」
若い新たな領主の誕生とダーラム家の再興に拍手が巻き起こった。
ダーラムの名誉回復がなされた、この日。
こうして、ダーラム家が再興され、クラソー侯爵領は新しい領主を迎え『ダーラム侯爵領』へと名前を変えることになったのだった。
若い新たな領主の誕生とダーラム家の再興に玉座の間が沸き、式典が終わった。
祝福する雰囲気の中、国王が退場しようとした、その時。一人の男が御前にまろび出た。
「お待ちください!」
そう言って国王を引き留めたのは、ゲストロ男爵であった。
膝を突いたゲストロ男爵は、国王を見上げながら言う。
「私はこの度、陛下のご威光をもちまして現シタハノ伯爵領の領主の任を賜りました。ですが、新しい爵位に言及がございませんでした。領主はすべて伯爵以上。私の新しい爵位はどうなっているのでございましょうか? 新しく領主となったダーラム殿が侯爵であるので私もそれと同様である思いますが、陛下よりそのお言葉をいただきたく存じます。」
一瞬の静寂の後。
大きな罵声がゲストロ男爵に浴びせられた。
「無礼者が!」、「何と厚かましい!」、「何様のつもりか!」
それらの罵声が止む気配をまったく見せない中、国王に代わって大臣がゲストロ男爵に言う。
「今の領主たちは、確かに皆、伯爵位以上をお持ちです。ですが、『領主を伯爵以上とする』というルールが在る訳でありません。それにダーラム侯爵は、母親であるクラソー侯爵から爵位と領地を継いだのです。ただそれだけのこと。そこに何もおかしなことなどありません。」
「あの様な若い女性が侯爵なのに、同じ領主である私が男爵なんておかしいではないですか! むしろ、私が侯爵であるべきなのです!」
おかしな男のおかしな主張に、再び大きな罵声が浴びせられた。
ゲストロ男爵に罵声が浴びせられる中、大臣がゲストロ男爵に訊く。
「…親の爵位を継ぐ者が若い場合には、男爵にすべきだと?」
大臣の口から発せられたその言葉は、この玉座の間に不思議とよく響いた様に感じられた。
「私の方が侯爵にふさわ「お前は黙れ!」」
ゲストロ男爵が何かを言い切る前に、そう言って組み付いて来た男に引き倒され、引きずられていく。
「お前も引っ張れ。」、「早く囲め。」、「壁を作れ、隙間を塞ぐんだ。」
ゲストロ男爵は、何人もの男たちの手によって引き戻され、囲まれ、姿が見えなくなった。
騒然とする中、国王も大臣も『どうしたものか?』と、その場で立ち尽くす。
すると、ゲストロ男爵が消えた人垣の向こうから声が上がった。
「失礼いたしました。自分に与えられた重責を果たします。グラム王国万歳。」
「「「………………。」」」
それは、どう聞いてもゲストロ男爵の声ではなかった。
だが、大臣は、『今のはゲストロ男爵の声だった』とする事で、この場を収めることにした。
大臣は国王に退場を促し、王妃様と王女様に続いて、自身も玉座の間を後にしたのだった。
引き倒され囲まれたゲストロ男爵は、若い貴族たちにボコボコにされた。
『後継ぎが若いから』なんて理由で爵位を下げられる様な事態を、このおかしな男に引き起こされては堪らない。そう思った、この式典への列席を許されていた上位貴族の後継ぎたちは、国王におかしな事を言い放ったこのおかしな男を放置しておけなかったのだ。
だが、ここは『玉座の間』である。
その様な暴力行為が許されるはずもなく、彼らは騎士たちによって取り押さえられたのだった。
このゲストロ男爵が引き起こした騒動は、『ダーラムの名誉回復』と『ダーラム家の再興』を最高の雰囲気で行おうと、その演出に携わっていた者たちを激怒させたのだった。
その結果…。
翌日もこの玉座の間に集められた貴族たちは、ゲストロ男爵に下された処罰を聞かされて溜飲を下げることになるのだった。
(ひとりごと)
珍しく、苦手な”神の視点”で書いたお話でした。
次話で、ゲストロ男爵が即落ちします。




