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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十五章 異世界生活編10 魔術師の街の騒動 終編 <勝負の後>
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21 外伝 元魔術師バロル。勝負の結果を知って、慌ててグラアソに戻る


馬車が進む先に街の外壁が見えてきた。


俺は、あの勝負に領主が勝利したと聞いて、グラアソの街に戻って来たのだった。



俺は二度のオークキング討伐に参加した。報酬とタダで食えるメシが目当てだったが。

あの時は、本当に散々(さんざん)な目にった。

おろかな冒険者どもは至高の存在である我々魔術師さまを守るのが仕事だというのに、オークどもの前から勝手に逃げ出した。

特に二度目の時は、至高の存在である我々をほうってバラバラになって逃げ出しおって…。

かげで、付いて行くのに要らぬ苦労をさせられた。

合流してやって至高の存在たる魔術師さまの護衛をさせてやっているというのに、あろうことか、自分たちの腰抜けっぷりを棚に上げて至高の存在である我々魔術師さまに責任を押し付けて非難しだした。

俺様が、上に立つ者として広い心で街までの護衛をすることで許してやろうとしたのに、何が不満なのか、怒り出して斬り掛かってくる者まで出る始末。

あのおろものどもには本当にあきれさせられた。

あの様なおろかな冒険者どもが一緒では、オークどもに苦戦して撤退を余儀よぎなくされたのも当然だな。


おろかな冒険者どもの所為せいとは言え、領主からの依頼に失敗してしまった。

そのままグラアソに帰るのは危険だと思った俺は、王都まで逃げ…、いや、王都にまで来てやったのだった。

数日間、王都の近くの森で薬草採取をしておおいに街に貢献してやっていたら、あの勝負にあの街の領主が勝ったという話を聞いた。

オークキングの討伐に向かった時は、おろかな冒険者どもの所為せいでオークの集落に辿たどく前に撤退を余儀よぎなくされた。

だが、俺はオークキングの討伐に参加したのだ。

勝利に貢献し街を救った英雄様として迎え入れるのが当然だな。

誰がオークキングを討伐したのかは知らないが。


俺は、すぐにグラアソに戻ることにした。

こんな、つまらん街で草取りなどしていられるかっ!

グラアソに戻れば、俺は街を救った英雄様だ。きっと英雄様に相応ふさわしい生活をさせてくれるだろう。

それに、街の住人たちも英雄様の帰還を待ち望んでいるだろうしな。

彼らの為にも急いで帰ってやらねばならないなっ。

はっはっはっはっはっ!


俺は、乗合のりあい馬車に乗ってグラアソに向かった。

街を救った英雄様なのだから迎えの馬車を寄越よこすのがすじというものなのだが、おろかな愚民ぐみんどもにそこまで期待するのはこくな話だろう。

きっと、住人総出(そうで)で盛大に出迎えてくれるだろうから、それで満足してやろうではないか。俺様は心が広いからな。

はっはっはっ。



馬車を降りる。

街を救った英雄様である俺は、グラアソの街に帰って来た。

街を救った英雄様を住人総出(そうで)で盛大に出迎えるべきだというのに、そんな様子は何処どこにも見られない。

まったく、これだからおろかな愚民ぐみんどもはっ!

やはり早急そうきゅうに、至高の存在である我々魔術師さまがおろかな愚民ぐみんどもをみちびいていく、正しい世界にしてやらねばならない様だな。


ずは、魔術師ギルドへ行って報酬を受け取るとするか。

俺は、街を救った英雄様なのだ。

膨大な報酬が用意されていることだろう。

受け取るのが楽しみだな。

だが、あまり喜び過ぎるのも格好が悪い。サラリと受け取って立ち去ることにしよう。

金貨が重過ぎて、苦労するかもしれないがなっ。

はっはっはっ。


ギルドに入り、いつも給料を受け取っている窓口へ行く。

だが、その窓口は閉まっていた。

扉をガンガンと叩く。

街を救った英雄様が報酬を受け取りに来てやったぞ。

早くよこせ。


しばらく扉を叩いていたら、警備員たちがやって来た。

ちょうどいい。彼らにここを開けさせよう。

事情を説明し、すみやかに扉を開ける様に指示した。


ギルドの外にほうされた。


何故なぜだ!!

「俺様は、この街を救った英雄様なのだぞ!」

そう言ったのだが、彼らはまるで聞く耳を持たない。

くそう。

体が大きく力が強いだけで頭がカラッポのおろものどもめ!

しかし、俺は至高の存在たる魔術師さまなのだ。上に立つ者として寛大かんだいな心で接してやろう。奴らにも何か事情があってのことなのだろうしな。

そう思った俺は、今日のところは奴らの顔を立ててやることにした。

明日は必ず報酬を受け取るがな。


俺はギルドをあとにして、久しぶりの我が家に向かった。



翌朝。

いつも給料を受け取っている窓口に行くと、昨日の警備員たちが居た。

うむ。お仕事ご苦労。


ギルドの外にほうされた。


何故なぜだ!!

「俺は、自分が受け取るべき報酬を受け取りに来ただけだろうが!」

そう言ったのだが、彼らは今日も聞く耳を持たない。

くそう。

体が大きく力が強いだけで頭がカラッポのおろものどもめ!


だが、俺はあきらめんぞ。


俺は、ギルドにやって来る人が多くなる時間まで待ち、人混ひとごみにまぎれてギルドに入った。

すると、ギルドの中では大騒ぎになっていた。

ん? 何かあったのか?

…さては、昨日、この街を救った英雄様が帰って来たというのに、住人総出(そうで)で出迎えなかったことに気付いて、この大騒ぎになったのだな。

うむうむ。

だが、そこまで気にしなくてもいいぞ。

その配慮を、報酬の支払いに向けてくれさえすればな。


それにしては様子が変だな。

この街を救った英雄様がここに居るというのに、誰も気にしている様子が無い。

おかしいな。

一体いったい、どうなっているんだ?

この不可解な状況を確認する為に、俺は周囲の様子に耳を傾けることにした。


大騒ぎしている奴らの話を聞くと、どうやら、魔術局の局長一家が殺害されていた事が判明し、ギルドマスターと幹部の一人が殺害を自供した後、留置場で自殺したらしい。

そして、魔術師ギルドには国から解散命令が出されたのだそうだ。


なに? 解散命令だと?!

こうしてはおれん。早く報酬を受け取らねば!

あわてて、いつも給料を受け取っている窓口へ行く。


ギルドの外にほうされた。


くそう!!


俺は、再び人混ひとごみにまぎれてギルドに入り、人だかりがしているところにまぎれて様子をうかがう。

この人だかりは、掲示板けいじばんを見ながら話し合っている者たちが集まっている様で、色々な話が聞こえてくる。

どうやら、各街かくまちで魔術師を求めている様で、どの街に移住するのが良いのか話し合っているみたいだ。

彼らは、魔術師ギルドが解散させられたら、この街から離れるつもりでいる様だ。

彼らの中では、ダンジョンの在る街やケメルが人気の様だった。


各街かくまちで魔術師を求めているのか…。

だが、今の俺は魔法を使えなくなってしまっている。

魔術師を求めているところに行ったら、すぐにその事がバレてしまうだろう。


いやいや。何を考えているんだ、俺は。

俺は、この街を救った英雄様ではないか。

この街で俺は、英雄様に相応ふさわしい生活を送れるはずだ。そのはずだとも。

…俺が想像していたのとは、少し状況がおかしくはあるが。


「この『魔術師の街』が変わる訳がない。魔術師ギルドが無くなったりするものか! 俺はこの街に残るぜ!」


そんな声が聞こえた。

それと、彼に賛同さんどうする声も。

どうやら、魔術師ギルドが解散させられる事を信じずに、この街に残ろうとする者も居る様だ。


そうだ。

彼らを魔術局に勧誘かんゆうしよう。

10人勧誘(かんゆう)すれば、俺は魔術局に戻れるんだしな。


俺様が受け取るべき報酬を渡すまいとするおろかで忌々(いまいま)しい警備員ども。奴らの所為せいで生活費が尽きかけているのだ。

お金を得る次善じぜんさくも考えておいた方がいいだろう。

それに、魔術局に戻れば、俺は魔術師の地位を取り戻せるのだしな。

よし。彼らを魔術局に勧誘かんゆうしよう。


俺は、さっきの声を上げていた男や、彼に賛同さんどうしている者たちに声を掛ける。

「魔術師ギルドはどうなるか分からない。それよりも、俺と一緒に魔術局に戻ろうぜ。俺には魔術局にツテがある。俺に任せろ。だが、先着10人だけだぞ。」

そう言うと、俺のまわりに人が集まって来た。

ふっ。しばらく留守にしていたとは言え、俺様の人望も捨てたものではないな。

いや、俺はこの街を救った英雄様なのだから、これくらいは当然のことだったな。

はっはっはっ。


俺は彼らを引き連れて、早速さっそく、魔術局に向かった。

これで、俺は魔術局に戻れる。

そして、俺は魔術師の地位を取り戻すのだ!

ふっふっふっ。


魔術局に来て受付で話をすると、すぐに面接をしてくれることになった。

会議室らしき部屋に通されてそこで待っていると、一人ずつ面接に連れて行かれた。

俺も別室に連れて行かれる。

俺の面接をするのは、以前、俺に魔術師の勧誘かんゆうを依頼した男だった。

彼なら話が早い。俺は彼に言う。

「依頼通りに10人の魔術師を連れて来たぞ。これで、今日から俺も魔術局の一員だ。早速さっそく、報酬の話をしようじゃないか。」

俺はこの街を救った英雄様なのだ。その英雄様が魔術局に所属してやるのだから報酬が高額になるのは当然だ。

どのくらいの金額になるのか楽しみだなっ。

はっはっはっ。


「あなたが領主様の依頼でオークキングの討伐に参加していた事を魔術局は把握しています。」

うむうむっ。魔術局はこの街の役所の一つなのだから把握していて当然だなっ。

話が早くて助かる。それで、俺の報酬はいくらなんだ?

「そして、オークとの戦闘中に逃げ出したということも。」

「………………。」

いや、それでも勝負には勝ったのだろう?

勝負に勝ったのだから、俺様がこの街を救った英雄様だという事実には何も間違いは無いな。うむうむ。

「領主様からの依頼を受けたにも関わらず、それを放棄ほうきして逃亡した者を我々魔術局が受け入れることはありません。お引き取りください。」

「なっ…。」

なんだと! 受け入れないだと!

「何をバカなことを! 勝負には勝ったのだろうがっ! 勝利に貢献こうけんしたのだから文句を言われる筋合すじあいなど無いぞ!」

「は? あなたこそ何をバカなことを言っているのですか? あなた方は勝利に何の貢献こうけんもしていません。そもそも、オークキングを持ち帰って来るどころか逃亡してるじゃないですか。そうでしょう?」

「そ、それは…。だが、勝負には勝っているではないかっ! 誰がオークキングを討伐して持ち帰って来たのかは知らないが、討伐に向かった俺たち以外の誰が討伐したと言うんだ! おかしな事を言うな!」

「あなたこそおかしな事を言わないでください。依頼を放棄ほうきして逃亡したあなた方は一切いっさい勝利に貢献こうけんしていません。詳細は私も把握していませんが、何でも、王妃様の伝手つてでオークキングを手に入れて勝負に勝ったのだそうですよ。」

「………………。」

そう言われて言葉が出なかった。

俺は、勝負に勝ったと聞いて、オークキングを討伐しに向かった我々の誰かがオークキングを持ち帰ったのだと思っていた。

だが、そうではなかったのか…。

それじゃあ俺は、この街を救った英雄様ではないのか?

脳裏に、オークの集落に向かっていた時の光景が思い浮かんだ。

『オークどもを蹴散らしてやるぜ。』なんて言って、意気揚々(いきようよう)と森の中を歩いていたその光景を。

「………そんなバカな。」

無意識に、そんな言葉が俺の口からこぼちた。


「領主様からの依頼を受けたにも関わらず、それを放棄ほうきして逃亡した者を我々魔術局が受け入れることはありません。お引き取りください。」

もう一度、彼にそう言われた。

「………………。」

俺の口からは、もう何も言葉が出てこなかった。


俺は無言で席を立ち、ガッカリしながら家に帰った。



何日間か、家で何もせずに過ごした。

今日は、何となく外に出て、何となくギルドに行ってみた。

すると、長い行列が出来ているのが見えた。

その行列に近付き、何の行列なのか訊くと、給料を受け取る為の行列だと言う。

急いで俺も、その行列の最後尾に並んだ。


今日は報酬を受け取れそうだ。

そう喜んだのだが、あの勝負の勝利に魔術師ギルドは何も貢献こうけんしていなかったのだったな…。

この街を救った英雄様に対する報酬なんて、そもそも存在していなかったのだ。

そう思いガッカリしていると、周囲から魔術師ギルドが解散する事が決まったかの様な会話が聞こえて来た。

そうか…、そんな話もあったな。

この行列は、最後の給料を受け取る為のものだったのだな…。


魔術師ギルドは間も無く解散になり、魔術局にも受け入れてもらえなかった。

この先、俺はどうなるんだろうな…。


長時間待たされて、やっと俺の順番になった。

小さな革袋を受け取ると、長時間待たされて殺気立ってきた行列からすぐに離れた。


離れた場所で革袋の中身を確かめると、銀貨が一枚と銅貨が数枚入っているだけだった。

あまりの少なさにカッとなったのだが、そう言えば、ポーション作りのノルマをまったく果たしていないのだったな。

ノルマをまったく果たしていないのだ。文句を言ったところでろくに相手をしてもらえないだろう。

そんな事をすれば、きっとまた警備員に外にほうされてしまう。


俺は、今日もガッカリしながら家に帰った。


家に帰ると、ドアの下に手紙が差し込まれていた。

ソファーに腰掛けてから読むと、街の優遇措置が無くなり、家賃が値上げされるとのことだった。

………………。

ろくに収入も無いのに、家賃が値上げされるのか…。

俺は、この街で暮らしていくことが出来るのか? 薬草採取くらいしか出来る事がないというのに。

しかも、この街の近くの森には薬草がほとんどえてないのだ。既に採り尽くされてしまっていて。

まだ王都の近くの森の方がマシだろう。王都に居た時には、冒険者が多かったのか森で魔物に出くわす事が無かったのだしな。

優遇措置が無くなるのなら、この街に居るよりは王都の方がマシだろう。

よし。王都へ行くことにしよう。


でも、荷造りは明日からでいいな。

何もやる気が出ない俺は、ベッドに入って寝た。



王都へ行くことを決めてから何日か後。

家を引き払った俺は、王都に向かう乗合のりあい馬車に乗り込んだ。

一番前に座り、出発するのを待つ。

出発間際(まぎわ)、一番後ろに最後に乗り込んだ女性が尻の下にクッションを敷くのをチラリと見て、『俺もクッションを用意しておくんだった。』と少し後悔した。


馬車が動き始めた。

街中まちなかをガラガラと走り、門をくぐって街の外に出た。

この街に戻って来る時にも通ったデコボコな街道を思い出して、俺はうんざりする。

だが、どういう訳か馬車はまったく揺れなかった。これなら、街の中の方が揺れがひどかったくらいだ。

どうなっているんだ? この街に戻って来た時は、こんな風ではなかったぞ?

不思議に思い、すぐ近くに居る御者ぎょしゃに声を掛けて、話を聞く。

御者ぎょしゃが言うには、つい先日、あっと言う間に王都までの街道が綺麗に整備されたんだそうだ。

そして、「私は見ていませんが、夜中にゴーレムを使って工事をしていたなんてうわさもありますよ。」なんて事も言う。

はぁ? ゴーレム?

至高の存在である我々魔術師さまが、夜中にゴーレムを使って道路工事なんてする訳がないだろうに。

それに、あっと言う間に王都までの街道を綺麗に整備するとしたら、何十人もの魔術師が必要になるんだぞ。

まったく、おかしな事を言う御者ぎょしゃだ。

その程度の常識すら持ち合わせていないとはな。


やはり、至高の存在である我々魔術師さまがおろかな愚民ぐみんどもをみちびいていくのが、正しい世界のかたなのだ。

そうでなくてはならないのだ。

俺は御者ぎょしゃと話して、そう、おもいをあらたにしたのだった。


いずれ、俺は魔術師の地位を取り戻す。

そして、至高の存在である我々魔術師さまがおろかな愚民ぐみんどもをみちびいていく、正しい世界を作るのだ。


俺は、至高の存在たる魔術師さまなのだからな。


…現実がどうであろうとも。


(裏話)

書いていて一番楽しいのは、このバロルかもしれません。見直している内に、どんどん話が長くなってしまいましたし。

話が長くなってしまった所為せいで、前の話と一緒にできずに分けることになってしまいました。前の話がみじかかったのは、このバロルの所為せいです。(←ひど責任転嫁せきにんてんかを見た!)

バロルは、この話が最後の登場になると思います。多分たぶん

しくはないけど、しい人を亡くしてしまったものだ。(←死んでません)

そう言えば、この章も随分と長くなってしまいました。

前の章が長くなり過ぎたので、急遽きゅうきょ、この章を追加したはずだったのに。

おまけに、この章の主役(のはず)のクララがなかなか出てこないしなっ!!

書いている人自身、どうしてこうなってしまったのか分かりません。(←それはアカンやつやで)

次の話からクララが出てきます。この章も終盤なので。

ちゃんと出てきますよ? だ、大丈夫です。(←自分に言い聞かせています)

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