20 魔術師ギルドのゴタゴタ04end 魔術師ギルド消滅
< ”『総務』になる予定だった女性”視点 >
魔術師ギルドの正面玄関に鍵を掛けます。
そして最後に一度建物を見上げてから、私は領主様の屋敷に向かって歩き出しました。
この数日間は多忙を極めました。
ですが、後は、この鍵を副領主様に渡せば、私の仕事は終わりです。
まさか私が、魔術師ギルドの終焉を見届ける最後の一人になってしまうとは…。
衛兵隊から兄の遺体を引き取り葬儀を終えてギルドに戻ると、魔術師ギルドの幹部の方々は自分の派閥の者たちを率いて街から出て行ってしまっていました。
幹部二人が亡くなった【土】の派閥は、ちょうどケメルで土属性の魔術師たちを募集していた事もあり、ほとんどの者がケメルに向かった様です。
この街の残ることを選んだ人たちは魔術局に向かった様でしたが、すべての人が受け入れてもらえた訳ではなかった様です。
そう言えば、魔道具を作っていた人たちは何処へ向かったのでしょうか?
誰も彼らの話をしていなかった気がするのは、どうしてなのでしょう?
まぁ、あの人たちなら、きっと何処ででも生きていけるのでしょう。魔道具を作ってさえいれば、それだけで幸せな人たちですし。
私は、どうしましょうか?
一先ず王都へ行き、そこでノンビリしてから考えましょうか。すっかり疲れ果ててしまいましたし。
領主様の屋敷で副領主様に会い、最後の鍵を渡します。
これで、魔術師ギルドのすべての施設の引き渡しが終わりました。
「ご苦労様。大変だったね。」
副領主様は、そう言って労ってくださいます。
「ありがとうございます。」
私は、そうお礼を言って頭を下げます。
元商人の副領主様には交渉で理不尽な要求をされることもなく、本当に助かりました。
「しかし、本当によかったのかね? すべての施設を無償で引き渡してもらって。」
「ええ。お金をいただいても既に街を出て行ってしまった方たちに渡すのは大変ですし、大金を持ってあちこち移動したくはありませんから。」
そんな事をすれば、『盗賊に襲われて死ぬ』という不幸な未来しか想像できません。
大金なんて受け取りたくないので、これでいいのです。ええ。
領主様の屋敷を辞し、すべての仕事をやり終えた私は、家に戻ります。
そして、今度は自分の家を引き払います。
どうもお世話になりました。
大家さん、お元気で。
さて。
王都に向かいますか。
王都に向かう乗合馬車に乗り込みます。
お尻の下にクッションを敷いて、これで準備万端です。
私が座ると、少ししてから馬車が走り出しました。私が最後の乗客だった様ですね。
馬車が門を潜り、街の外に出ました。
街の外の街道は整備が行き届いておらず馬車が揺れると聞いていたのですが、私の予想に反して馬車はまったく揺れませんでした。
むしろ、街の中を走っていた時の方が揺れていた気がします。
あれれ? 一体、どういうことなのでしょうか?
周りを見回すと、他の乗客の方たちも驚いている様に見えました。
一番前に座る人が御者さんに話し掛けています。
漏れ聞こえてくる話によると、つい先日、あっと言う間に王都までの街道が綺麗に整備されたのだそうです。
すごいですね。
国の”やる気”を感じます。
これまでずっと魔法一筋だったので気にしていなかったのですが、この国って意外と良い国だったのかもしれませんね。
そもそも、良い国でないと、魔法一筋では生きていけませんでしたね。
今更ながらそんな事に思い至った私は、王都に行くのが少し楽しみになってきました。
上機嫌になって流れる景色を楽しみます。
そうしていたら、街道のすぐ近くに花束が置かれているのが見えました。
盗賊にでも襲われてしまったのでしょうか?
でも、まだ街のすぐ近くなのですから、盗賊の訳がありませんね。
きっと、馬車の事故か何かなのでしょう。
私はその花束を見詰めながら、心の中で冥福を祈りました。
ふと、亡くしたばかりの兄の事を思い出した私は、視線を馬車の後ろへ向けます。
そして、遠ざかっていくグラアソの街の外壁を、見えなくなるまで眺め続けたのでした。
( 魔術師たちのその後 )
『人事』
風属性の魔術師。
ダンジョンの在る街へ行き、冒険者となる。
風属性の魔術師たちを主力とするパーティーを複数率いて活躍する。
『製造』
火属性の魔術師。
【火】の者たちに忘れられ、一人、グラアソに取り残される。
後にダンジョンの在る街へ向かうも、その後、行方不明に。
トラヴィス
前の『人事』で王都の支部長。【火】と【風】の二属性使い。
ギルドで監禁されていたところを【火】の者たちに救出され、彼らと共にダンジョンの在る街へ向かう。
その後、彼らと行動を別にし、行方不明に。
ザイル
火属性の魔術師。
魔術師たちのリーダーとして二度のオークキング討伐に参加。
二度目のオークキング討伐から帰還しギルドで討伐失敗の報告をした後、その日の内に、討伐失敗の責任を押し付けられるのを嫌ってグラアソから逃亡。
グラム王国を離れ、マロニヨル王国を経てクライス王国に流れ着くと、そこで漁師たちに受け入れられる。
その後、本格的に漁師となり大成し、クライス王国で幸せな余生を送る。
ジール
火属性の元魔術師でナンパ野郎。
二度目のオークキング討伐にザイルに誘われて参加。敗走の切っ掛けを作った一人。
グラアソに帰還した事を目撃されるも、その後、行方不明に。
グラアソの何処かの金持ちの夫人に囲われているという噂も。