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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十五章 異世界生活編10 魔術師の街の騒動 終編 <勝負の後>
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18 魔術師ギルドのゴタゴタ02 事情聴取。そして…


< ギルドマスター視点 >


「はぁ…。」


執務室に来てイスに座ると思わず溜息ためいきが出た。今朝も。


ここ最近は、連日れんじつ幹部会が開かれている。

『製造』の後任を決める話し合いだ。

それと、『内務』を『財務』と『総務』とに分けて、幹部を一人増やすという話し合いも。


私が王都に行っている間にここに残っていた幹部たちは、私抜きで勝手に話を進めていた様だ。王都に向かう前にあれほど釘を刺しておいたというのにな。

だが、ギルドマスターである私が居ない場所で決められた事を、そう簡単に認める訳にはいかない。

『ギルドマスターなんて不要』などと思われてしまう訳にはいかないのだからな。

同じ【つち】の派閥である『内務』が取り込まれてしまっていて、その事が、より話し合いを難しくしてしまっている。

下手へたを打つと、私のギルドマスターの地位まで危なくなってしまうだろう。

くそう。

せめて、王都でグラストリィ公爵に会えて、彼のうしだてを得られていれば、ここまでの苦労をしなくても済んだものを…。

今更いまさらそんな事を言っても仕方が無いか。

自分の力で、何とかしなければな…。


幹部たちへの対応に悩んでいたら、来客を告げられた。

こういう忙しい時にやって来るのはいつも副領主(あの男)だったのだが、今回来ているのは衛兵隊長だと言う。

彼がここに来るのは珍しいな。

今は忙しいのだが、彼は我々がこの街で活動していくのに欠かせない重要な協力者だ。

追い返す訳にはいかないな。

私は応接室に向かうことにした。


応接室に入りソファーに座って簡単な挨拶あいさつをすると、衛兵隊長はすぐに本題に入った。

「副領主からの命令で事情聴取をしなければならなくなった。魔術局の局長の件だ。」

ん? どういうことだ?

副領主あいつは、私が『局長が組織のお金を持って街から逃げ出した。』と言っても信じずに、ずっと彼を局長の地位に据え置いたままでいた。とうとうあきらめて新しい局長を据える気になって当時の事を調べ直しているのか?

まぁ、既に魔術局から離れた我々には、まったく関係の無い話だな。

「局長一家の遺体が発見された。あんなところを掘り返した奴が居たらしい。」

「………………。」

バカな。

誰にも見付けられない様に決して浅くない場所に埋めたのだぞ。私も魔法を使って土を動かすのに協力してな。

一体いったい何処どこのどいつが、どんな理由であんなところを掘り返したというんだ。

くそっ。

気持ちを落ち着けてから、衛兵隊長に訊く。

「…それで、誰を事情聴取すると?」

「魔術師ギル(ここ)ドの幹部全員だ。あんたが一番疑われているからだ。『局長がお金を持って街から逃げ出した。』とか副領主に言ったらしいじゃないか。」

確かに、私が副領主あいつにそう言った。だが、当時の私は魔術局で局長に次ぐ地位にいたのだ。私が報告したのは別におかしな事ではないだろうに。

「心配するな、形だけだ。証拠など何も残ってないんだ。罰する事なんて不可能だ。」

彼にそう言われて安心した。

そうだな。証拠が無ければ罰せられたりはしない。

それに、犯行の状況が明らかにされて困るのは彼らも同じなのだ。

こちらの依頼通りに拉致らちを実行したのは彼らだし、遺体を埋める際にも人払いに協力してもらっていたのだ。

事情聴取が形だけのものになるのは当然だな。

副領主あいつの命令だから、彼も仕方なくしたがっているだけなのだろう。

ここは彼に協力しておくべきだろうな。


秘書に後の事を頼み、衛兵隊長と一緒に玄関に向かう。

玄関を出ると、護衛付きの豪華な馬車が停まっていて、彼と一緒に乗り込んだ。

ほう。なかなか良い馬車だな。私の馬車には少しおとるが。

「良い馬車だろ。貴族さま向けのヤツだ。こんな時でもなければ俺でも乗れない。」

「うむ。まぁまぁだな。」

そう返事をして、彼としばらく雑談している内に、私たちの乗った馬車は衛兵隊の敷地に入った。


部屋に通される。

応接間の様な立派な造りの部屋だ。

衛兵隊にもこの様な立派な部屋が在ったのだな。これも貴族向けに用意されているものなのだろう。

「まぁ、座ってくれ。今、お茶を持って来させる。」

「ああ。」

そう返事をしてソファーに腰掛ける。

ふむ。悪くない座り心地ごこちだ。

待遇たいぐうは良いな。

本当に”形だけの事情聴取”なのだろう。


「失礼します。」

メイドがワゴンを押しながら部屋に入って来た。

私の斜め後ろにワゴンをめ、上品な手つきで私の前にお茶を置く。

お茶の良い香りがただよってくる。良い茶葉を使っているのだろう。

この待遇は、まったく事情聴取らしくないな。

お茶を飲みながら雑談をするだけで終わってしまいそうだ。

まぁ、私は魔術師ギルドのギルドマスターなのだ。この待遇が当然だな。

うむうむ。


この待遇に満足した私は、衛兵隊長の前にお茶を置く上品な手つきを眺めながらお茶を一口飲む。

うむ。良いお茶だ。

カップをソーサーに戻し、ホッと一息ひといきいた。


ワゴンのところに戻ったメイドの気配を背後に感じながら、衛兵隊長に話し掛け…、ようとしたその時。

首元くびもとに何かがれたと思ったら、首を強く絞められた。

「ぐっ!?」

何が起きた?!

私は、体がりそうになるのに耐えながら、正面に座る衛兵隊長に助けを求めて片手を伸ばす。

が、彼は表情を強張こわばらせつつも、ただ静かに座っているだけだった。

その彼の様子を見てさっした。


ここで私を殺す気だ!


首を絞めているモノを両手でつかもうとする。

だが、スカーフの様なソレは首にしっかりとめり込んでいて、指先を差し込める隙間すきまなど作れない。

「ぐっ! うぐっ!」

足をバタつかせながら、首にしっかりとめり込んで絞め上げているソレに、指先を差し込もうとする。

だが、まったく指先を差し込めない。

「ふがっ ふぐっ」

いきが出来ない。

視界に入る天井が暗くなっていく。

くそっ! くそっ!

視界がどんどん暗くなっていく…。


そして…。


私は闇に飲み込まれた。



< 衛兵隊長視点 >


彼が体をグッタリとさせた。

その彼の背後から、メイドがゆっくりと立ち上がる。

いや、メイドにふんした隊員だ。

しかし、見事だったな。

彼女の暗殺の手際てぎわの良さに、少し寒気さむけがした。


彼女は私のそばまで歩いて来ると、私の前に置かれたままだったお茶を手に取り、美味おいしそうに飲んだ。

そして、「ふぅ。」と一息ひといきいてから、私に言う。

「もう一人を連れて来てください。それまでに準備は終わらせておきます。」

「…ああ。」

私はそう返事をした。

少しだけ声がにくかった。


歩きながらお茶を飲み干した彼女は、いたカップをワゴンの上に置くと、そのまま部屋から出て行った。

遺体を運び出す為に部下を呼びに行ったのだろう。


一人になった私は、天井を見上げながら考える。

強い権力を持つ貴族や戦闘力の高い冒険者たち。そんな彼らに我々が対抗する為に、魔術師ギルドと協力関係を築く判断をしたのは間違いではなかったはずだ。

これまでは上手うまくいっていたと思う。

だが、魔術師たちの評判がとても悪くなってしまった今、彼らに色々と便宜べんぎはかってきた我々に対しても明確な敵意を示す住人が増えてきてしまった。

もう、彼らとは手を切るべき時なのだ。

魔術師ギルドには、間も無く解散命令も出されることだしな。


彼らと手を切ることにした今、局長一家の殺害事件を利用できるのは都合が良い。

口封じも同時に出来るのだからな。

こんな時に局長一家の遺体が発見されたのは、我々にとっては幸運だったのかもしれない。

この幸運を利用して、局長一家の殺害に我々が協力していた事を知ってる者を始末しておこう。

この街の治安維持をになう我々は、彼らごときに道連みちづれにされる訳にはいかないのだ。


私は、二人目を迎えに行く為に立ち上がる。

そして、ひざが震えている事に気が付いた。

死体はこれまでにも何度も見ている。人が殺されるところも。

だが、暗殺が目の前で行われるのを見るのは久しぶりだった。

彼女の様な暗殺を任務とする隊員も我々の組織には必要だ。

治安維持は綺麗事きれいごとではないのだ。貴族の権力が強いこの国では尚更なおさらにな。


私は、そう自分に言い聞かせつつ部屋を出た。


協力者だった男の遺体を視界に入れない様にしながら。



(設定)

ギルドマスターを乗せた馬車に護衛が付いているのは、『衛兵が魔術師ギルドの者をとらえて護送している』ところを周囲の人たちに見てもらい、衛兵隊が魔術師ギルドと手を切った事を知ってもらう為です。一人ずつ馬車に乗せて護送しているのも、周囲の人たちの目に触れる機会を増やす為です。

この暗殺は衛兵隊長の指示によるもので、副領主から命令を受けたからではありません。副領主は処刑を命令するつもりでいますが、事情聴取の報告を受けてから命令する予定でした。

ここでも、ナナシの疫病神っぷりが光ってうなとどろさけびました。(やっぱり意味不明)


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