12 ナナシ、畑を作る
今日は隣街に来た。あの『魔術師の街』だ。
先日、王妃様から頼まれた畑を作る為にね。
街のすぐ近くで荒野に向かって立つ俺の背後には、ギャラリーが200人くらい居ます。
俺が集めてくれる様に、やんわりとお願いしたからです。
この『魔術師の街』の魔術師たちの評判は、前に俺がこの街に来た時よりもさらに悪くなってしまっている。その悪くなった魔術師たちの評判を少しでも改善させる為に、俺が彼らに魔法が役に立つところを見せようと思ってね。
先ず、土の中から小石を取り除く。【分離】魔法さんで。
ザザザザザザザザーーーッ
ザザザザザザザザーーーッ
耕す予定の場所を【目玉】を使って上空から見ながら【分離】魔法さんを二回に分けて発動すると、小石の山が40個くらい出来た。
ギャラリーがビックリしている様子が背後から伝わってきます。
俺もビックリしています。小石が多過ぎて。
畑を作る依頼が俺のところに来る訳だねー。
それはそれとして。
次に、土を耕す。【風刃】で。
ズバババババババーーーッ
広い範囲に土埃が舞う。
ズバババババババーーーッ
耕している場所を奥へと移動させ、さらに横にも移動させる。
それに伴い、土埃が舞う場所も移動して行く。
土を耕し終え、舞った土埃を【ウィンド】で吹き飛ばす。
土埃を吹き飛ばすと、目の前には耕されて色の変わった地面が広がっていた。
背後で「すごい!」と言う声がいくつか上がる。
その声に満足感を覚えながら後ろを振り返ると、ギャラリーのほとんどは『ポカーーン』としていました。
あれ?
ギャラリーの反応は、俺が期待していたのとは少し違っていました。
何か失敗したかな?
でも、だからと言ってやり直す訳にもいかない。
…どうしよう?
尚も「すごい!」とか声を上げてくれる人が何人か居るんだけど、何だか”サクラ”っぽい様に感じるね。
誰かが気を回して手配してくれていたのかな? 王妃様も、悪くなっている魔術師の評判を改善しようとしてくれているみたいだったしね。
でも、そのサクラっぽい人たちも徐々に無口になってしまっていった。
何か…、その…。ごめんなさい。
静まり返る”微妙な空気”の中。
その静けさに耐えきれなくなった俺は、作業が終わった事を告げて、逃げる様に王宮の部屋に【転移】で帰りました。
とほほーい。
翌日。
俺はもう一度、畑を作った場所に来ています。
今日は井戸を掘ります。
畑で作物を育てるのには水が必要不可欠だからね。
別に、昨日のあの”微妙な空気”の所為で、井戸を掘るのを忘れて逃げ帰ってしまった訳ではありません。計画通りです。
畑を作るのが予定よりも早く終わっただけで、計画通りなのです。ええ。
今日はギャラリーは居ない。役人が二人いるだけだ。
穴掘りなんて、見ていて面白いものでもないからね。
別に、昨日の出来事がトラウマになっている訳ではありませんよー。ホントダヨ?(ビクビク)
同行してくれている役人の一人に井戸を掘る場所を指示してもらい、早速、土を【転移】で退かして地下水脈まで穴を掘る。
掘った穴の側面を【結合】で固め、掘った穴の縁に腰の高さまで土を盛って、これも【結合】で固める。
これで井戸の完成だ。
次に、出来上がった井戸に”手押しポンプ”を設置する。
ポンプ一式は、予め【製作グループ】にお願いして作っておいてもらった。
王妃様からの依頼にはポンプは含まれていなかったんだけど、作ってみたかったので。
先ず、井戸の底まで届く長い石で作られたパイプを中に入れる。このパイプの中を通して水を汲み上げることになる。
次に、井戸にフタをする様に板を渡して、そのフタの上に手押しポンプを設置する。
手押しポンプは、ハンドルを上下させることでパイプの中に差し込まれた板が上下に動き、それによって水を汲み上げる仕組みになっている。
パイプの中で上下に動く板には穴が明けられていて、その穴を塞ぐように板が蝶番で取り付けられている。
蝶番で取り付けられた板がパカパカ動くようになっている為、板に明けられた穴を通った水は下に戻ることなくパイプの中に溜まり続け、ポンプのハンドルを何度も上げ下げしている内に水がダバァと出てくるという簡単な構造だ。
呼び水を入れてハンドルを上下にカシャカシャする。
何度かカシャカシャすると、水がダバァと出た。
やったね。
大して時間も掛からずに、”手押しポンプ付きの井戸”が一つ完成した。
役人たちはポカーーンとしていましたが、昨日の一件でもう慣れたので、どうでもいいのです。(でも、半泣き)
この後もサクサクといくつも井戸を掘り、手押しポンプを設置した。
役人たちの”ポカーーン”度がさらに増して、今日も”微妙な空気”になりました。
フ、フシギダネー。(やっぱり、半泣き)
そんな”微妙な空気”の中。
俺は作業が終わった事を告げて、逃げる様に王宮の部屋に【転移】で帰りました。
とほほーい。(昨日ぶり二回目)
王宮の部屋に戻って、ソファーでグッタリしています。
おかしい。
魔術師の評判を良くする為にやっているのに、その手応えがまるで無い。
みんなポカーーンとしてしまっていたしなっ。
でも、隣街でやった事は、実際、大した事をしているので、きっと後から評価が付いて来るのだろう。
付いて来るよね?
大丈夫だと信じたいと思います。
(ひとこと)
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大した数字ではないかもしれませんが嬉しいです。
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