08 ナナシ、冷蔵庫を作…ろうとするも、ドリンクサーバーでお茶を濁す
部屋にやって来たエイラさんを上手くあしらって追い返し、ミリィさんに暖簾の製作をお願いした。
ミリィさんが帰って行くのを見送り、俺は一息吐く。
ふぅ。
そして、全力でソファーでダラーーッとします。
「ダラーー。」(←思わず口に出してしまう変な奴がここに居ます)
”全力ダラーーッ”を満喫していたら、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
『お風呂場の”銭湯化”に足りない物を見付けました。』
いや、別にあのお風呂場を銭湯に近付ける気なんて、それほど無いんだけどね。既に色々やらかしているけど。
お風呂場を男湯と女湯に分けようとした結果、今の銭湯っぽい造りになってしまっただけなんですよー。ええ。
実物を見ると、銭湯にしか見えませんがっ。
それはそれとして。
取り敢えず、【多重思考さん】たちがおかしな事をやらかさない様に、釘を刺しておく。
『体重計は作らないからね。』
『当たり前です。死にたいのDEATHか?』
そこまで言うか?!
でも、体重計を作る気が無い事には安心した。
”見える地雷”だからね。(←そこまで言うか?!)
他に銭湯に置かれていた物って何が有ったっけかなぁ。
銭湯の風景を思い出しながら、【多重思考さん】が言うところの『銭湯化に足りない物』とやらを考える。
『ぢゃあ、マッサージチェア?』
『それはアリかもしれませんね。ゴーレムで作れば一発です。』
ゴーレムで作れば一発なのか…。
もう、『ゴーレム=機械』って感じだね。
何でも出来すぎだろ、ゴーレム。
その内、マッサージチェアから変形して空を飛んで、食材の買い出しをしてくるなんて事までやりだしそうだ。
『なるほど。』
『『なるほど。』ぢゃねぇよっ、『なるほど。』ぢゃあ。やるなよ! 絶対にやるなよ!』
『分かってます。分かってます。』
『絶対、分かってないだろっ!』
この後、しっかりと釘を刺すのに疲れ果てました。(グッタリ)
ソファーにグッタリと身を沈め、改めて【多重思考さん】が言うところの『銭湯化に足りない物』とやらを考える。
でも、体重計でもマッサージチェアでもないとなると…。
他に何か有ったっけ?
『ヒントは、『手は腰。』です。』
ああ、あれか。
『なるほど。お風呂上がりに飲む、冷たい飲み物か。』
確かに銭湯には付き物だよね。お風呂場には必要無いけど。(←何となく意地になって、お風呂場だと言い張っています)
でも、どうしようかなぁ。
お風呂場には必要無いように思うけど、置いてあってもいいのかなぁ。
うーむ。
!
そうだ!
冷たい飲み物を置いて、『その代金を徴収する』という明確な理由が有れば、番台に俺が居てもいいよね!(超笑顔)
『どれだけ死にたいんですか…。(呆れ)』
【多重思考さん】に呆れられてしまった。
おかしいなぁ。千年に一度レベルの名案だと思ったんだけどね。
”男のロマン”が実現に向けて大きな一歩を踏み出したと思ったんだけど、【多重思考さん】にガッツリと釘を刺されてこの名案は廃案と相成りました。『男のロマン=死』の図式が完成されるのと同時に。
その所為で、番台の完全封印までもが決定されてしまいました。(ガックリ)
でも、番台の撤去までは認めませんよ?(←この往生際の悪さよ)
おかしな流れで番台の完全封印が決定してしまったが、それはそれとして。
冷たい飲み物を置いておこうとすると、飲み物を冷やしておく冷蔵庫が必要になるね。
【氷属性魔法】が在るから、その中に何か都合の良い魔法が有るだろう。
箱を作って、その中に結界を張って熱の出入りを無くした状態で冷やせば、魔力消費を抑えながら長時間冷やしておけそうだね。
簡単に出来そうだよね。
頭の中で軽く構造を考えていたら、【多重思考さん】に言われた。
『箱の中を異空間化しておけば、より、魔力消費を抑えられると思います。異空間は魔力が豊富な様なので、魔法陣だけで魔力を賄える気がします。』
ほう。
魔法陣だけで魔力を賄うことが出来れば魔晶石が必要無くなるので、それで済むのなら有り難いね。
次に考えないといけないのは、飲み物を入れる容器か。
容器の寸法が分からないと、冷蔵庫の内部の寸法を決められないからね。
頭の中で、牛乳瓶の様な容器を想像する。
でも、そういう容器って、この国に有るのかな?
有りそうな気もするし、無さそうな気もするね。
『ちょっと調べてみますね。』
【多重思考さん】が調べてくれる様なので、結果が出るまで休憩だね。
ソファーに身を沈めてリラックスします。
「ダラーー。」(←思わず口に出してしまう変な奴がここに居ます。さっきぶり二回目)
本日二度目の”全力ダラーーッ”を心から満喫していたら、お茶の時間になった。
部屋に来たシルフィと一緒にお茶していると、シルフィが俺に言う。
「今日の昼食は、またご一緒できません。(しおしお)」
また、来客かな? まぁ、そういう事もあるよね。
「うん。分かった。」
そうシルフィに返事しながら、『ぢゃあ、隠れ家に行って物作りをしよう。』と考える。前みたいに、顔がニヤつかない様に気を付けながらね。
お茶の時間を終えて、シルフィがクリスティーナさんに持ち去られて行くのを見送る。(無心)
ケイティさんに、隠れ家に行く事と、『昼食はいらないけど、おやつは食べる。』なんて事を伝えてから、俺は隠れ家にササッと転移しました。
隠れ家に来た。
取り敢えず、南側の建物に移動して、居間のこたつでダラーーッとする。
「ダラーー。」(←思わず口に出してしまう変な奴がここに居ます。本日三回目)
こたつでしばらくダラーーッとしていたら、【多重思考さん】から報告が来た。
『牛乳瓶の様な飲み物を入れる容器は無いみたいですね。飲み物を入れる瓶でワインボトルよりも小さい物は見当たりませんでした。』
『そうか…。それぢゃあ、瓶から作らないといけないね。』
手を腰に当てながらグイッとやる為にはね。(←それ、そんなに重要か?)
『瓶から作るとなると、寸法だけでなく、蓋の構造や、その作り方も含めて検討しなければなりませんね。』
…結構な大事になっちゃったね。『冷たい飲み物をお風呂場に置こう。』と思っただけなのにね。
サクッと作って、『早速今夜、シルフィにお披露目しよう。』なんていう訳にはいかなさそうだ。
今日は、ドリンクサーバー的な物でも作って、お茶を濁しておこうかな?
『冷蔵庫』に使う魔法の確認もしてみたいし、ドリンクサーバー的な物をちょっと作ってみますかね。
ドリンクサーバーに近い物は、前に一度作ったことがある。
この隠れ家の洗面所の壁に取り付けてある『水を出す魔道具』をね。
今回は使い方や使う魔法が違うけど、構造はほとんどそのまま使えるだろう。テーブルの上に置いて使える様に、足を生やないといけないけど。
ガワの製作を【製作グループ】に頼み、その後、これも【製作グループ】が行っている瓶の仕様を決める脳内会議に参加する。
蓋はガラス製のねじ込むタイプにすることに決め、瓶と蓋を作る為のそれぞれの”型”の詳細な検討を始めたところで、ドリンクサーバーのガワが完成したようだ。
よし。俺はドリンクサーバーの方を完成させてしまおう。
こたつから出て『工房』に転移し、作業台の上に置かれたドリンクサーバーを見る。
蓋付きの立方体の木の箱に三本の足が生えていて、箱の下部に蛇口が付いている。
必要な機能のみを取り付けたシンプルな構造です。
まぁ、そもそも『冷蔵庫に使う魔法をこれで試してみる。』という意味も有るんだし、これでいいよね。
蓋を開けて中を覗き込み、【異空間作製】の魔法を掛ける。
異空間化した内部に、【断熱】の結界を張る魔法陣を貼り付け、出力を弱く抑えた【コールド】を常時発動させる魔法陣も貼り付ける。
これだけで良かったんだっけ?
いいはずだよね。うん。
【クリーン】を掛けてから、【クリエイトウォーター】で1リットルほどの水を作って中に入れておく。
よし。
このまましばらく置いておいて、ちゃんと冷えるか確認しよう。
ドリンクサーバーを【無限収納】に仕舞い、隠れ家に転移で戻る。
が、出た場所は、潮の香りがする街の外だった。
あれ?
『食材の買い出しをお願いします。昼食を作らないといけませんので。(しれっ)』
頭の中で【多重思考さん】にそう言われた。しれっと。
「いやいや、前に買い出しした分が、まだ、たっぷりと残っているよね?」
『せっかく、王宮の外に出たのですから。(しれっ)』
聞く耳を持っちゃいねぇ。
これは、買い出しをしないと王宮に帰れない流れだね。
はぁ。
俺は諦めて、言われるままに市場で食材を買い込みました。
やれやれ。
【料理グループ】が作ってくれた昼食を食べ終え、食器を片付けたテーブルの上に、午前中に試作したドリンクサーバーを置く。
そろそろ、中に入れた水も冷えている頃だろう。
コップも【無限収納】から取り出して、ドリンクサーバーの下部に取り付けられている蛇口を操作して水を出す。
が、水が出てこなかった。
あれ? 凍っちゃったのかな?
蓋を開けて中を確認するが、水が凍っていた訳ではなかった。
あれれ?
蛇口を何度か開け閉めするが、水は出てこなかった。
あれれぇー?
何がいけなかったのかな? 結界かな?
でも、結界は【断熱】しか掛けなかったよな? 水の流れを阻害する訳がないよね。
このドリンクサーバーに掛けた魔法を、もう一度思い出す。
【異空間作製】と【断熱】と【コールド】だけだったよな?
そこで気が付いた。
そうか、【異空間作製】か。
箱の中は異空間なんだから、蛇口を操作しても水が出る訳がなかったね。
当たり前のところで失敗しちゃってたぢゃん。
ガックリするね。
はぁ。
溜息が出た。
まぁ、どうやって水を出すのかは後で考えることにして、先に水が冷えているか確認しよう。
中に入っている水をコップですくい、飲む。
ちゃんと冷えていた。
よし。冷やすのは上手くいったみたいだね。
もう一口、冷たい水を飲んで満足してから、蛇口から水を出す方法を考える。
水を溜めている異空間と蛇口とを繋ぐとしたら【ゲート】だな。
【ゲート】を常時発動させておきたいけど、魔法陣によって周囲から集める魔力だけで足りるのかな?
『蛇口の口径くらいの小さな【ゲート】なら、それほど多くの魔力を消費しないでしょう。きっと大丈夫だと思いますよ。』
【多重思考さん】にそう言われたので、一度それで試してみよう。
その為の試作だしね。
サクッと【ゲート】の魔法陣を貼り付けて、ドリンクサーバーの底と蛇口との間を繋ぐ。
改めて、ドリンクサーバーの蛇口を操作して水を出してみる。
今度はちゃんと出た。
やったね。
コップに溜まった冷たい水をグイッと飲み、俺は満足しました。
うむうむ。
『ドリンクサーバー』、完成、ですっ。
この日の夜。
シルフィを誘ってお風呂へ行きました。
新しいお風呂場もドライヤーも、お風呂上がりに飲んだ冷たいリンゴジュースも、シルフィに喜んでもらえました。
やったね。
でも、うっかりしてドリンクサーバーをもう一つ作るのを忘れてしまったので、俺はお風呂上がりに冷たいリンゴジュースを飲むことが出来ませんでした。(しおしお)
(設定)
(『前みたいに、顔がニヤつかない様に気を付けながらね。』って?)
この数日前に、シルフィとクララが昼食を一緒に摂ったことがあって、朝食の際にその事を知らされた時に『隠れ家に行って二度寝をしてしまうのもいいかもしれないね。(ニマニマ)』とか考えて顔がニヤついたのを、シルフィに誤解されそうになったことがありました。




