07 エイラ襲来01
(人名)
エイラ
被服部所属の人。ナナシの作るペンギン型ゴーレムの製造責任者。
本来の仕事は、ケイトの専属としてメイド服の改良をすること。
ミリィ
被服部所属の人。下っ端。
エイラのお手伝いをしている。ペンギン型ゴーレムの販売担当。
クーリ
ナナシの護衛。お人形さんの様にかわいい。
最強格の一人で『重撃』の二つ名持ち。
< ナナシ視点 >
隠れ家に新しく作ったお風呂場を見に行って、王宮の部屋に戻って来た。
ケイティさんに、ペンキと在庫を使い果たしたガラスを頼んだりした後、少し落ち込んだ気分でお茶を飲んでいたら、こちらに向かって来る被服部のエイラさんとミリィさんの姿に気が付いた。
俺は、クーリに待機を指示する。『NO、ポイ捨て!』なので。
尊い犠牲となったニーナとカーティーさんに思いを馳せながら(←死んだみたいに言うな)、俺はノンビリとお茶を飲みながら二人が来るのを待ちました。
コココン
バタン
「ペンギン型ゴーレムの骨格をくれー!」
エイラさんは、ドアを開けて部屋に入って来るなりそう言った。
そんなエイラさんに、俺は溜息を吐きます。
はぁ。
『ペンギン型ゴーレムの骨格をくれー!』か…。
きっと、先日、被服部に行ったついでに渡したペンギン型ゴーレムの骨格をすべて仕上げてしまったのだろう。
でも、仕上げたところで、そんなに急にはハケないよね?
この後、ネコ型ゴーレムの方に注文が移っていくと思って、あれで終わりになるかもしれないと思ったから渡したんだけどなぁ。
エイラさんと、エイラさんの斜め後ろでペコペコと頭を下げ続けているミリィさんにソファーを勧め、座ってもらう。
エイラさんが何か言おうとするのを手で制して、ミリィさんに訊く。
「どうして急に?」
エイラさんの行動に、何だか”突然”感があるからね。
「先日、”上”から『ナナシ様関連の物はすべて、試作品も含めて国からお金を出します。』と、改めて念を押す様にそんな事を言われたんです。」
「ふむ。」
「それを聞いたエイラさんが『ペンギン型ゴーレムが作り放題! 国のお金で!』と大喜びしまして…。受け取っていたペンギン型ゴーレムの骨格をすべて仕上げたら急いでここへ…。本当に申し訳ありません。」
そう言って頭を下げるミリィさんだが、それってミリィさんが謝る事ぢゃないよね。
「さぁ、早くペンギン型ゴーレムの骨格を! 有るだけ全部! 無いのも全部! 王宮をペンギン型ゴーレムでいっぱいにするから!」
「しないでください。(キッパリ)」
ペンギン型ゴーレムでいっぱいになった王宮って、どんな王宮だよっ。
「せっかく国がお金を出してくれるのよ! 今やらなくて、いつやるのよ!」
そう言われて、ふと、脳裏に『今でしょ。』って言葉が浮かんでしまいましたが、さすがに口に出したりはしませんよー。ちょっと危なかったけど。(苦笑)
「王宮をペンギン型ゴーレムでいっぱいにしちゃダメでしょうが…。さすがにそんな事をする為に国がお金を出す訳が無いぢゃないですか。」
「作ってしまえば、こっちのものよ!(断言)」
ダメだこの人。話が通じやがらねぇ…。
エイラさんの隣でペコペコと頭を下げているミリィさんが可哀想になってくるね。
「とにかく、王宮をいっぱいにする程の大量のペンギン型ゴーレムの骨格なんて、作りませんよ。」
「ええーっ?!」
そんなに意外か?
君は俺のことを何だと思っているのかな? おかしな物を作りまくる変な人かな?
…意外と否定できない気がしちゃったのは、何故なんだぜ?
「それに、王宮をいっぱいにする為にどれだけの数が必要になると思ってるんですか? それだけの毛皮を集めるのだって難しいんぢゃないですか? 何の毛皮を使っているのかは知りませんが絶滅しちゃいますよ。」
「むむむむ。」
俺は、そんな事を偉そうに言ったみた。
森のゴブリンの絶滅は食い止めたので、俺がこんな事を言ってもセーフのはずです。
セーフだよね?
そう自己弁護をしていたら、ふと、脳裏にあの毛皮の持ち主さんの絶滅を防ぐ良い案を思い付いた。
俺は、クーリをチラリと見る。
そして考える。
『クーリにペンギンの格好をさせたらカワイイだろうなぁ。』と。
王宮のメイドさんたちにペンギンの格好をさせれば、エイラさんの『王宮をペンギン型ゴーレムでいっぱいにする。』という欲求を満足させられるだろう。
その服を布で作れば、あの毛皮の持ち主さんの絶滅を防げるし、何より、俺と無関係なところで話が進むのがいいよね!
それに、メイドさんたちにペンギンの格好をさせるのがダメとなった時、メイドさんたちがそんな格好で歩いていたら目立つから、きっと被害が大きくなり過ぎる前に誰かが止めてくれるはずだ。
よし。これでいこう。
俺には何の損も無いしな。(ニヤリ)
俺は、「むむむむ。」とか言って考え込んでいるエイラさんに、今、思い付いたことを説明したのだった。
「ふむふむ。ほうほう。」
俺の話を聞いたエイラさんは、そう言って考え込む。
エイラさんの隣に座るミリィさんが『止めてくださいよぉー。何で焚き付けてるんですかー。』って感じの目で俺を見ています。
俺は、ミリィさんから目を逸らします。(←逸らすなや)
「それでいくわ!」
そう言って立ち上がったエイラさん。
それでいく様です。
さっさと部屋を出て行ってしまったエイラさんと、恨みがましい目で俺を見るミリィさん。
「止めてくださいよぉー。何で焚き付けてるんですかー。何で焚き付けてるんですかー。」
「いやぁ…、つい?」
「はぁ…。いえ、そもそもこちらで止めなければいけない問題でした。すみません。」
「いえいえ。こちらこそ、すみません。」
素直に謝る。
被害を拡大させた自覚は有るしな。俺が巻き込まれない様にしつつ。(←こいつ最低だ)
「はぁ…。せめて、ケイトさんで被害が留まる様に、部長に止めてもらいます。」
溜息混じりに、そう言うミリィさん。
何気にケイトが巻き込まる事が確定しているっぽいのは、どうしてなのかな?
それと、結局、君もエイラさんを止めるのを他人に投げる気でいるよねっ。
まぁ、ミリィさんにエイラさんを止められないのは分かるけどね。
ちょっとエイラさんに訊きたい事と頼みたい事が有ったんだが、既に居ないので、代わりにミリィさんに訊く。
「そう言えば、ネコ型ゴーレムの試作品はどうなっているんですかね?」
ネコ型ゴーレムの骨格をエイラさんに渡してから何日か経ったけど、それっきりになってしまっているからね。
「あれは、エイラさんが仕上げたところをメイド長が持って行かれました。メイド長が『自分がテストします。』って言って。」
そうなんだ。待ちきれなかったのかな?
どれだけ楽しみにしていたんですかね? メイド長はっ。
まぁ、後からメイド長にダメ出しされるよりは、先にチェックしてもらった方がいいだろう。
「それぢゃあ、メイド長のところから戻って来て修正したら、販売をお願いね。」
「はい。お任せください。」
「それと、作ってもらいたい物が有るんで、相談させて。」
そう言って、お風呂場の玄関と、男湯と女湯の入り口に掛ける暖簾について、ミリィさんと相談する。
『白抜きの手法がこの世界には無いかもしれない。』とか思って心配していたんだけど、ちゃんと有りました。
お陰で、新しいお風呂場の”銭湯化”が、さらに進んでしまいます。(苦笑)
暖簾の大きさや色、それと白抜きする文字を紙に描いて渡したりして、ミリィさんにお願いしました。
よろしくお願いします。




