06 ナナシ、新しいお風呂場を見に行く
今朝も、シルフィがクリスティーナさんに持ち去られて行くのを見送った。
すっかり見慣れた光景です。(無心)
それはそれとして。
さて、今日は何をしようかな?
そう言えば、新しいお風呂場を見に行くのを忘れていたね。
今、暇だから、ちょっと見に行ってみるかな。
そう思い付いた俺は、ケイティさんに一言断ってから、隠れ家に転移した。
隠れ家のいつもの居間に転移して来て、お風呂場に向かって歩く。
廊下からお風呂場の建物に向かう引き戸を開けると、前まではお風呂場の建物に続く短い廊下が在ったのだが、そこには下りの階段が在った。
階段を降りると、屋根付きの通路の先に、銭湯の玄関っぽいものが見える。
懐かしいものを感じると同時に、暖簾が無いから”お休み”みたいな感じに見えてしまう事を少し残念に思う。
気にしなければいいだけの話なんだけど、何となく不満だ。
やっぱり、暖簾は欲しいかな?
後で、エイラさんかミリィさんにお願いして暖簾を作ってもらうことにしよう。
玄関に掛ける暖簾と、男湯と女湯の入り口にそれぞれ掛ける暖簾のデザインを脳裏に思い描きながら、『文字を白抜きする手法って、この世界に有るのかなぁ。』なんて事を考えつつ玄関に入った。
玄関に入ると、左右の壁に鍵付きの下駄箱が在り、その先に入り口が見える。
久しぶりに見る銭湯の造りと、これも久しぶりに見る、手の平サイズの木の板で出来た下駄箱の鍵に懐かしさを感じます。
うむうむ。さすが【多重思考さん】たちだね。
妙なこだわりを発揮してくれます。(苦笑)
靴を脱いで上がり、せっかくだから靴を下駄箱に入れて鍵を掛ける。
『10』と書かれた木の板を片手に持ち、引き戸をカラカラと開けて中に入る。
別に『こっちが女湯かな?』とか考えてナイデスヨ?(←ダウト)
入ったところが脱衣所で、奥がお風呂場で、横の壁には脱いだ服を入れる棚が在る。
この造りだと、玄関の横の辺りに庭が在るのかな?
庭が在ると思われる方へ行くと、ガラスの引き戸の向こうに広い縁側が在り、その先が庭になっている様だった。
縁側に出ると、イスが置かれていた。
ここでイスに座って、庭を見ながら涼むのだろう。
縁側の縁まで行って、木の塀で囲まれた小さい庭を見下ろす。
草木が植えられた小さい庭には瓢箪型の小さい池が在って、魚が泳いでいた。
そう言えば、『色の付いた魚を探していた。』とか、『フナっぽい黒い魚が池で泳いでいる。』とか言っていたね。
池の中を黒い魚が泳いでいる様子を少し眺めてから中に戻り、お風呂場に向かう。
ガラスの引き戸を開けてお風呂場に入る。
おや?
見慣れない浴槽の配置に少し戸惑う。
奥に浴槽が在るものだと思っていたのだが、両側の壁際にやや細長い浴槽が在った。
どうして、こんな配置なんだろう?
この新しいお風呂場にも設置してある”ライオンさん”を見ながら首を傾げる。
すると、頭の中で【多重思考さん】が説明してくれた。
『カランを配置しないので、体を洗う時は浴槽の脇で桶でお湯を汲んで洗うことになります。その場合、こういう配置にした方が空間が無駄にならないと思ってこうしました。』
ふむ。なるほどなるほど。
それならば、この配置にも納得だね。
全体を眺めて『ふむふむ。』と満足する。
そして、奥の壁に描かれている、『窓越しに見える富士山』っぽい絵を見る。
やっぱり、銭湯には富士山だよねっ。お風呂場だけど。
でも、その絵は普通に描かれているのではなく、モザイク画で描かれたものの様だ。
そう言えば、ペンキなんかは持っていなかったね。
有る物を使って描いた結果、こうなったのだろう。
どんな風に描かれているのか気になったので、近付いて見てみる。
どうやら色の付いたガラスを壁に埋め込んで、富士山のある風景を描いた様だ。
『予定には無かったのですが、建物が出来上がったら何だか物足りなくて…。使える素材がガラスしかなかったので、金属粉を混ぜて色ガラスを作り、銀を薄く貼った壁に貼り付けました。素材が十分になかったので壁一面に描く事が出来ず、こうなりました。』
それで、窓枠っぽい物で囲んで『窓から見える風景』っぽくしてあるんだね。
『隣は、素材が無かったので木の棒を壁に埋め込んで『富士山』と書いてあります。』
「手抜き過ぎんだろ!」
『ペンキがほしいなぁ。ペンキがほしいなぁ。』
「はい。はい。」
帰ったら、ケイティさんにペンキを頼むことにしよう。
最後に、隅に積まれていた桶やイスを確認する。
桶の底に『ケ○リン』の文字があるのは当然だよね。うむうむ。
それらに満足して、お風呂場から出た。
お風呂場から出て棚の一角を見ると、ケイティさんに頼んで用意してもらったバスタオルやバスローブがハンガーに掛けられている。
それと、ドライヤーっぽい、初めて見る物が置かれていた。
ドライヤーっぽい物を手に持ち、スイッチらしき部分を親指でスライドさせる。
ブホーー
温風が出た。
ふむ。【製作グループ】が作ってくれたみたいだね。
でも、前にドライヤーを作ろうとした時には、ダメ出しされてなかったっけ? そんな記憶が有るんだけど…。
『あの時は、メイドさんたちへのゴマスリとして作ろうとしたのですが、『魔石が品薄になっている状況なので沢山作る事が出来ない』という理由で製作を諦めました。割と空気が乾燥していてそれほど必要でもなかったこともありましたし。ですが、このお風呂場で使う程度の数ならば、何の問題もありません。』
ふむ。
前にシルフィにお風呂に入ってもらった時に、体から水分を取り除く目的で使ってもらった『洗濯物を乾燥させる魔道具』は、ドアを閉めてから使わないといけなかったり、扱いに注意が必要だったからね。
バスタオルとドライヤーが有るのなら、その方が全然いいよね。
棚には他にも、これもケイティさんに頼んで用意してもらった石鹸が、底の浅い升っぽい入れ物に入れられて積んであったり、折り畳たまれたタオルも置いてあったりする。
それらを見て満足しながら、隣の庭を見に行く事にする。
確か、『枯山水の庭を作った。』とか言っていたはずだからね。
その庭を作る為に、また新しいグループを作って白い石を探し回ったとか言っていたしなっ。
白い石だけでなく色付きの石も集めてくれていたら、『富士山』と文字で書かれる様な事態にはならなかったかもしれないのだが、それは今はいいや。色付きの石で『富士山』と文字で書かれていた可能性もあるしなっ。
【多重思考さん】なら、ウケ狙いでやりそうだなっ。
玄関を出て隣に回ろうと思い、玄関に向かう。
が、その途中で、壁に隣に行く為のドアが付いている事に気が付いた。
そうだね。銭湯にはここにドアが在ったよね。決して開ける事の出来ない禁断のドアがね。(開けたら事案です)
せっかく在るのだから、ここを通って行こう。ここを通る機会なんてまず無いしね。
何となくドキドキしてしまったが、他に誰かが入っているという訳もなく、しかも、今居るこちら側が女湯になる予定なんだから、ここに居ること自体にこそドキドキすべきだったね。
微妙な気持ちになりながら”禁断のドア”を潜って、隣に行く。
隣に行って、ふと、気が付いた。
銭湯っぽい造りの所為でまったく違和感が無くて気付かなかったんだけど、どうして番台が在るのかな?
入浴料を取る訳ぢゃないから、番台は必要無いよね?
そう疑問に思っていたら、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
『男のロマンですから。(キッパリ)』
そーかー。”男のロマン”かー。
”男のロマン”なら仕方が無いねっ。(←おい)
番台の存在にドキドキワクワクしてしまったが、この番台に座る機会は無いだろう。
銭湯も番台も無いこの世界では、いきなりコレが受け入れられる訳が無いからねー。
俺が死ぬ未来しか見えません。(断言)
これは封印確定です。
ですが、一度座ってみたことは、言うまでもありません。(キリッ)
番台から降りて、庭を見に行く。
縁側の縁に立って、木の塀で囲まれた小さい庭を見下ろす。
ふむ。
確かに枯山水の庭だ。
庭全体に白い石が敷き詰められ、大きめの石を何個か配置してその周りに苔っぽい草が敷いてある。
そして、もちろん庭全体に敷き詰められた白い石には波を表す線が刻まれている。
だけど、何か、しっくりこない。
これは、素人が作ったからなのかな?
どうにも微妙な感じがします。(苦笑)
シンプルだから、見栄えを良くするのが難しいのかな? それとも、石の配置のセンス?
【多重思考さん】たちのセンスは、俺のセンスでもあるので、『センスが無い。』と認めるのにはちょっと抵抗がある。(←現実を見ろや)
きっと、広さが十分でない所為ダナッ。センスの問題ではなくてっ。
そういう事にしておきます。(←おい)
もう少し何とかしてくれる様に【作庭グループ】にお願いしてから、『富士山』を見に行く。何となくね。
『富士山』を見る。
うん。『富士山』だ。
それ以外にコメントのしようなんて無かったよっ。
帰ったら、ケイティさんにペンキを頼もう。
改めてそう心に決めて、俺は少し落ち込んだ気分で王宮に帰りました。
ナナシの日常パート。そして、”男のロマン”の回でした。(←おい)
それと、『『10』と書かれた木の板を片手に持ち…』の『10』は、ピエール・ガスリー選手のF1初優勝記念です。
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