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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十五章 異世界生活編10 魔術師の街の騒動 終編 <勝負の後>
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03 魔術師ギルドのゴタゴタ01


< 『人事じんじ』視点 >


オークの集落の殲滅に派遣して帰って来た者たちから話を聞き、それを報告書にまとめ終わった。

まとめ終わったそれは、次の幹部会で報告する。俺が。

俺は『人事じんじ』なんだがなぁ…。


二度目の派遣をする際に、派遣する者たちにの中に『魔術師でない者』がまぎんでしまわない様に『人事じんじ』である俺が中心となって調べた。その流れで俺が報告することになってしまった。

派遣した者たちのリーダーが【火】のザイルだったんだから、【火】の奴らがやれよ。


オークの集落を殲滅しオークキングを討伐する為に派遣した者たちは、今回もオークの集落に辿たどく前に撤退する事になったそうだ。

しかも、また我々が派遣した魔術師たちから逃げ出した者が出て、それを見た冒険者たちも逃げ出して、森の中をバラバラになって逃げることになったんだそうだ。


こんな内容を幹部会で報告しなければならないなんてな。

俺は『人事じんじ』だというのに。

まったく。



幹部会が開かれる当日の昼。

同席させようと思っていたザイルと連絡がつかなかったので、たまたま見掛けた【火】の奴に訊く。

「ザイルと連絡がつかないんだが、奴が何処どこに居るか知らないか?」

「あー。奴のことだから、ヤケ酒でも呑んで何処どこかで酔い潰れているのでは?」

そう言われて、ザイルが酔い潰れて大イビキをかいている様子が頭の中に思い浮かんだ。

なるほど。確かに奴ならありそうだ。

ザイルを同席させるのはあきらめるか。



夕方。

幹部会を開く、いつもの会議室に向かう。

会議室に入ると、どうやら俺が最後だった様で、王都から帰って来たばかりのはずのギルドマスターも既に席に着いていた。

俺が席に着くと、ギルドマスターが立ち上がって笑顔で言う。

「昨夜の勝負は、この街の領主(クラソー侯爵)が勝った。」

「「「えっ?」」」

何人かが驚きの声を上げた。

俺も驚いた。

派遣した者たちからは、『オークの集落にさえ辿たどけなかった。』と聞かされていたのだからな。


「? では、報告を頼む。」

ギルドマスターは、困惑を少し混ぜた笑顔で俺に言って、席に座った。


そんなギルドマスターの様子に、俺も困惑する。

我々が派遣した者たちがオークキングを討伐できなかったのに、勝負には勝った様だ。

ならば、王都に行っていたギルドマスターがグラストリィ公爵に依頼してオークキングを討伐させたのではないのか?

どういう事なんだ?


俺は、戸惑とまどいながら立ち上がる。

「あー、オークキングの討伐に派遣した奴らから聞いた話を報告する。」

そう一言ひとこと言ってから、報告を始める。

「オークキングの討伐は失敗した。今回もオークの集落に辿たどく前に撤退する事になったそうだ。」

「えっ?」

今度はギルドマスターが驚いた声を上げた。

やはり、ギルドマスターは、俺たちがオークキングを討伐したと思い込んでいた様だ。

と、なると、ギルドマスターがグラストリィ公爵に頼んでオークキングを討伐させた訳でもないのか…。

一体いったい、どうなっているんだ?

どうして勝負に勝てたのか疑問に思ったが、それは今は後回あとまわしにして、俺は報告を続ける。

「えーっと、さらに悪いしらせなんだが、今回のオークキングの討伐も、我々が派遣した者たちから逃げ出した者が出て、それを切っ掛けにして冒険者たちも逃げ出したんだそうだ。」

表情をけわしくして黙り込むギルドマスターを横目よこめに、さらに続ける。

「今回は撤退する時にまとめる者が居なかった様で、みんなバラバラになって森の中を逃げたんだそうだ。その所為せいか派遣した者たちの半分近くが帰って来ていない。」

幹部たちの溜息ためいきが聞こえる中、俺は「あとは、報告書を読んでくれ。」と言って、報告を終わらせた。


「…オークキングは、一体いったい誰が?」

幹部の一人が、戸惑とまどった様な声でそう言った。

幹部たち全員の視線がギルドマスターに集まるが、ギルドマスターもそれを知らない様子だった。


「…その内、副領主が何か言ってくるだろう。」

ギルドマスターがそう言って、この話を終わらせた。


「では、王都の支部長についての報告を。」

ギルドマスターがそう言って、次の話に移る。

「はい。」

『販売』の幹部が返事をして立ち上がり、王都の支部長を尋問じんもんした結果の報告を始める。

「前の『人事じんじ』だった王都の支部長ですが、彼は、容疑である『『魔術師でない者』を魔術師ギルドに入れて水増しし、功績を大きく見せようとした』件について否定しました。そして、『魔術師でない者』がギルドに居た事は多少は把握していたそうなのですが、その事について『魔術師だった者が魔法を使えなくなった様に感じた。』と言っていました。」

その言葉に幹部たちがざわつく。

まぁ、当然だろう。

『魔術師だった者が魔法を使えなくなった。』なんて言われても信じられる訳がない。

『販売』が報告を続ける。

「また、領主からの依頼であるオークキングの討伐の邪魔をする様に外部の人間から何かを依頼されたり、買収されたりした事実は無いそうです。」

まぁ、それはどうでもいいだろう。

領主と冒険者ギルドに納得してもらえそうな言い訳として使えればいいだけだからな。


幹部の一人が『販売』に訊く。

「彼は、突然『人事じんじ』をめると言い出して王都へ行くことになったのだが、その事については?」

「その事については、『不正を疑われると思って他の街に行く事を考えて、新しい支部を作ることを提案した。』とのことでした。」

まぁ、そんな疑いを掛けられれば厳しく非難されていただろう。幹部から引きずり降ろす好機なのだからな。

派閥同士が勢力拡大をきそい合っているんだ。非難をかわす方法を色々と考えて当然だ。

『魔術師だった者が魔法を使えなくなった。』なんて事を言い出せば、『保身ほしんの為におかしな事を言っている。』と言われて、厳しく非難されるのが目に見えている。

そんな事を言える訳も、調査をする訳にもいかないのだから、『バレない内に他の街に逃げる。』という選択もアリだろう。

後任の『人事じんじ』になった俺にとっては、いい迷惑でしかないが。


しかし、『魔術師だった者が魔法を使えなくなった様に感じた。』とのことだが、そんな事が本当にるのだろうか?

それが本当の事だとしたら、大変な事なんだがな。


幹部の一人が俺に訊く。

「『魔術師でない者』がギルドにまぎんでいないか調べていたよな? どのくらいの人数が居たんだ?」

「『魔術師でない者』の人数はまだ分からない。そういう奴らは鑑定をしようとすると逃げやがるからな。ギルドに所属する者全員に声を掛けて鑑定をして『魔術師』の人数をかぞえ終わらないと、『魔術師でない者』の人数は出て来そうにねぇな。」

「全員の鑑定が終わるのはいつ頃だ?」

ギルドマスターが俺に訊く。

「まだしばらく掛かる。【鑑定】を使える者が少なくて、1日に10人から15人くらいしか鑑定できていないからな。」

そうギルドマスターに答えて、俺は彼に報告する事が有ったことを思い出した。

「それと、【鑑定】を使える者について報告だ。」

ギルドマスターにそう言ってから続ける。

「王都の支部を臨時休業にしてこちらに帰って来た者たちの中に、アテにしていた【鑑定】を使える者が一人も居なかった。どうやら、王都のトリス商会にみずから売り込みに行って、そちらに再就職しちまったみたいだ。」

言外げんがいに『あんた王都で何やったんだよ。』というふくみを持たせながら、ギルドマスターに言った。

ギルドマスターは少し考えてから俺に訊く。

「取り返せるか?」

「いやあ、無理だろう。」

俺は肩をすくめながらそう言って、続ける。

「トリス商会は昔から魔道具をあつかっている。【鑑定】を使える者の重要性は良く知っているはずだから、そう簡単には返してくれねぇだろうな。それに、トリス商会はダンジョンの在る街の商会とも強い繋がりが有ったはずだ。下手へたに機嫌をそこなう様なことをすると、後で大きな影響が出ちまうかもしれない。取り返すのはあきらめた方がいいんじゃねぇか。」

「…分かった。残念だが居ない者をどうこう言っても仕方が無いな。引き続き、『魔術師でない者』の洗い出しを頼む。」

「ああ、分かった。」



幹部会が終わった。


ギルドマスターが王都に行って不在の間にコッソリと決めていた事が有ったのだが、どうやら、それは後日にする様だ。

きっと、ギルドマスターと同じ【土】の派閥の『内務』が話をつけてくれるのだろう。

まぁ、その話は【風】の俺には関係無いな。俺たち【風】の狙いは『製造』の後任だしな。


俺は、『魔術師でない者』の洗い出しをしなければならないが、『製造』の後任を決める話し合いも始まる。

しばらくは忙しくなるな。

そう思うと気が滅入めいる。

はぁ。


一つ溜息ためいきいてから、俺は自分の執務室に向かったのだった。


(設定)

(魔術師ギルドについて)

グラアソに在る魔術師たちの組織。

ギルドとは名乗っているが、この組織の構造は普通の会社とほぼ同じである。

魔術師を雇用して給料を払い、ポーションや魔道具などを作って販売して収入を得ている。


(勝負当日前後のギルドマスターの行動)

勝負の当日まで、ナナシにオークキングの討伐を依頼する為に王都にとどまっていました。

王宮に毎日通うも、ナナシとの面会は、結局、かないませんでした。

勝負の結果は、当日の夜に情報屋で情報を買って知った。

勝負の翌朝に王都をち、昼過ぎにグラアソに帰って来て、夕方に幹部会。なかなかのハードスケジュールでした。

さらに、翌日からは『製造』の後任を決める派閥同士の戦いが始まります。

『製造』の派閥である【火】が激しく抵抗する事が予想されるので、きっと大変でしょう。

がんばれー。(←まったく心がもっていない言葉だけの応援)


(魔術師ギルドの幹部の役職と、現在の幹部の所属派閥)

ギルドマスター:【土】

『製造』:【火】(退任させる事が既に確定済み。後任は未定)

『販売』:【水】

『人事』:【風】

『内務(財務+総務)』:【土】(分割する事と新任の幹部がコッソリと内定済み)

『渉外』:【風】


『販売』の幹部が王都の支部長の尋問じんもんを担当したのは、王都の支部長(【火】と【風】の二属性使い)ともギルドマスター(【土】)とも違う【水】の派閥だったからです。


(『魔術師でない者』を見付け出す方法について)

初めは、鑑定をして『魔術師でない者』を見付け出そうとしていました。

鑑定をしようとすると逃げ出す者がいたので、鑑定に応じてくれる者のMP(Magic Point)の値を調べて『魔術師』であることを確認することになりました。

この日の幹部会の後、『『魔術師』を見付けるのなら、魔法を使ってもらえばいいじゃねぇか!』と、そちらの方が鑑定をするよりも早く済むことに気が付いたのですが、『製造』の後任を決めるゴタゴタの所為せいで、それを実行に移すまでにはいたらないのでした。


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