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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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67 クラソー侯爵邸襲撃事件01 クアル子爵の企み

(人名など)

クアル子爵

切れ者を自認。グラアソのクラソー侯爵邸を襲撃し制圧すべく、私兵と雇った裏ギルドの連中を派遣中。


クラソー侯爵

王都の西隣の領地の領主。

今回、バディカーナ伯爵に勝負を挑まれたが、王宮サイドの手助けにより勝利した。


グラアソ

クラソー侯爵領に在る街の名前。『魔術師の街』をうたっている。


副領主

クラソー侯爵の夫。クララの父。

グラアソのクラソー侯爵邸でお留守番中。


(勝負の少し前。夕方の王宮の一室にて。)


< クアル子爵視点 >


おろかな…。(フッ)」


通された王宮の一室。

その窓から王都の空をながめていた私は、黒い煙がいくつも上がっている様子を見て、思わずそうつぶやいた。


オークキングを奪い合うなど、三流のやること。

それでバディカーナ伯爵に恩を売って満足するなんて、『私はその程度の頭しか持ち合わせていません。』と公言こうげんしている様なものだ。

どうせ恩を売るのならもっと大きな相手。国に売るべきだろうに。


勝負にばかり注目して、その後で何が起こるのかを見通みとおせぬおろものどもがおろかなことをしている。

まぁ、おろものどもには、それがお似合にあいだな。

すべてが終わった後…。

私の智謀ちぼうを見たおろものどもが、どの様な顔をするのか見物みものだな。フッフッフッ。


今回の勝負、クラソー侯爵が負けるのは明白めいはくだ。国がそう望んでいるのだからな。

私はもう一度、煙の上がる王都の空をながめる。

おろものどもは、一体いったい誰がこの王都を支配してると思っているのだろうか?

この王都で何かしようとしたところで、自分たちが望むような結果が得られる訳など無いだろうに。

支配が盤石ばんじゃくだからこそ、王都での妨害行為がルールで禁止されていないのだ。

その程度のこと、脳味噌が少しでも在れば気付いて当然だろうに…。


そして、勝負に負けたクラソー侯爵が、すんなりと領地をわたす訳が無い。

勝負を仕掛けられた被害者なのだからな。

この勝負を認めた国に対しても不満をあらわにして抵抗するだろう。

グラアソに籠城ろうじょうすることによって。


クラソー侯爵がグラアソに籠城ろうじょうする。

そうなれば、父親のケメル公爵はそれを支援するだろう。

それどころか、ケメル公爵にその気が有れば、西に意識が行っているその機にじょうじて一気に王都を攻め落とす可能性だって在る。

以前はケメル家の兄弟で王都の東西を抑えていたのだ。”その時”を想定したそなえが在って当然なのだ。

きっと籠城ろうじょうは成功する。

ケメル公爵以外にも、協力を期待できる貴族たちが多く居る様だしな。

もし、籠城ろうじょう長引ながびくことになればソーンブル侯爵も動くだろう。

そうなれば内戦だ。国が大きく乱れることになる。

グラム王国がその様な事態におちいれば、ケイニル王国が攻めてくるのは明白だ。

国は、クラソー侯爵に譲歩じょうほしてでも早期に問題を解決せねばならなくなるのだ。

グラアソでの籠城ろうじょうは必ず成功する。

クラソー侯爵がそれをしない訳が無いのだ。


だが、そうはさせんぞ。

この私、クアル様がな。


クラソー侯爵がグラアソに戻るその前に、グラアソのクラソー侯爵邸を制圧してしまうのだ。皆の意識が王都に向いているその間にな。

今のクラソー侯爵邸は守りが手薄てうすだ。

勝負で私兵たちにも被害が出ている様だし、侯爵に同行して王都に来ている者だって居るのだ。

手薄てうすになっているクラソー侯爵邸を制圧し、籠城ろうじょうすべく戻ってきたクラソー侯爵をらえる。その後、籠城ろうじょうを自演し、私がグラアソを解放してこの国を内戦の危機から救うのだ。

我がクアル子爵家のはたがグラアソの空に堂々とひるがえる様子が、あざやかに脳裏に浮かんだ。

うむうむ。


グラアソを解放すれば、私は国の危機を救った英雄だ。

私の智謀ちぼうがあらゆる言葉で称賛され、褒美ほうびにクラソー侯爵領をもらえるだろう。『賢者クアル以上に、クラソー侯爵領をおさめるのに相応ふさしい者などるまい。』なんて陛下に言われてな。

うむうむ。

そして、もちろん爵位も上がるな。

もしかすると、二段階上がるなんて事もなくはないな。

賢者クアル侯爵か…。

うむうむ。

うむうむ!


今回、勝負を仕掛けてくれたバディカーナ伯爵には感謝しなければならないな。

勝負に勝ちながらクラソー侯爵領を手に入れられないことには同情しないでもないが、それは私と彼の頭の出来できの差だ。

私がクラソー侯爵領をおさめた方が国の利益になる事は間違いないのだ。

国の為に今回の勝負を仕掛けたバディカーナ伯爵だ。きっと私を祝福してくれるだろう。そうに違いない。


ハッハッハッハッ。




(王宮で勝負が行われる頃。グラアソのクラソー侯爵邸にて。)


< 副領主視点 >


お茶がれられている様子をながめている。

洗練せんれんされた美しい所作しょさだ。

そのわざまなびとろうと凝視ぎょうししているメイドの目には、真剣さと共にうっとりとした様子も見える。

メイドがうっとりとしてしまうのも理解できるな。

本当に美しい所作しょさなのだからな。


コンコン

「失礼します。」

ノックの後、ドアが開きメイドが姿を現した。

メイドは、ドアのところで立ち止まったまま言う。

「メイド長、お客様がいらっしゃいました。それと、もう一組ひとくみお越しになられます。お茶のご用意をしておりますので移動願います。」

そのメイドは一息ひといきにそう言うと、「失礼します。」とことわって、あわただしく去って行った。

…私は一つも返事をしていないのだがな。

随分ずいぶんあわただしいものだ。

そう私があきれていると、メイド長が言う。

「せっかくお茶をれたばかりですが移動いたしましょう。お客様をお迎えしなければなりませんので。」


メイド長に先導せんどうされて廊下を歩く。

部屋に居たメイドたちも引き連れて。

彼女たちも連れて来た理由は分からない。だが、メイド長に連れて来られた場所の様子は、それ以上に訳が分からなかった。

どうして私は、従業員用の食堂に連れて来られたんだ? 来客があるのではなかったのか?

それと、どうしてここには、こんなに大勢おおぜいの従業員たちが集まっているんだ?

これでは、屋敷の従業員のほぼ全員がここに集まってしまっていないか?

訳が分からない状況に戸惑とまどい立ち尽くしていた私に、メイド長が言う。

「取り敢えず、お掛けください。お客様の対応は私たちでいたしますので。」

『お掛けください。』とは言われたものの、訳が分からない状況に立ち尽くしてしまう。

そんな私に彼女は一歩近付き、声を小さくして言う。

「この屋敷が襲撃を受けました。もう一組ひとくみ来るそうですが私の部下たちで対応します。すぐに終わらせますのでご安心を。」

襲撃?! この領主の屋敷を?!

聞かされたその内容に驚いた。

だが、メイド長はそんな私におかまいなしに、襲撃のことなどまったく気にしていないかの様に気楽きらくに言った。

「お掛けください。もう一度、お茶をおれいたしますね。(ニッコリ)」

「………………。」

『襲撃』という異常事態の発生をげられたはずなのだが、それを私にげたメイド長の言動げんどうの不自然さに頭が混乱してしまう。

私はその場に立ち尽くしたまま、「ああ。」とだけ彼女に返事をした。


彼女…。


今日の午後からこの屋敷を訪れている、王宮のメイド長(●●●●●●●)に。


(設定)

(王都での妨害行為がルールで禁止されていないのは、支配が盤石ばんじゃくだから?)

クアル子爵はそう考えている様ですが、そういう訳ではありません。

妨害行為を禁止にすると、『妨害をされた』、『いや、していない』でめてしまって、いつまでも決着がつかない恐れが有るので迂闊うかつに禁止に出来ないのです。

前回の勝負の時に、妨害行為を禁止にする場所をメイドさんたちの目が在る王宮内のみにして、今回のルールが作られた際にもそれにならった結果、こうなっただけです。


(なんで王宮のメイド長がグラアソのクラソー侯爵邸に居るの?)

勝負にかかわれず、王宮で一人だけひましていたメイド長。

クララを護衛するメイドをクラソー侯爵邸に常駐させる準備の為に、部下を引き連れてグラアソのクラソー侯爵邸を訪れていました。

メイド長がこの屋敷でする仕事は、メイドの詰所、おやつ作り専用の調理場、武器を隠しておく場所の改造、ほんのり暖かくなる板の設置場所などなどの打ち合わせです。

メイド長の護衛たちの他、装備製作部のメイドたちも引き連れて、グラアソまで来ていました。

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