63 外伝 王都のとある場所にて 裏ギルド『さきがけ』
裏ギルド『さきがけ』
この業界では中堅のギルド。
今回、複数の貴族から『オークキングを持って来い。』と依頼を受けている。
オークキングを手に入れたら報酬額が一番高かった依頼主に引き渡す予定でいる。
◇ ◇
馬車で襲撃予定地点に行ったら、騎士団員が何人も居た。
そのまま通り過ぎて、やり過ごした。
周辺を、そのまま馬車で走る。
やはり騎士団員を多く見掛ける。
困った。
これでは予定通りに襲撃するのは難しそうだ。
どうするか考えながら、襲撃予定地点の周辺をウロウロした。
標的のバディカーナ伯爵の馬車を見掛けた。
予想外の場所で。
どうして南に向かっているのかは分からないが、これは好機だ。
こんな場所で襲撃を予定しているギルドなんて居ないはずだからな。
舞い込んで来た幸運に感謝しながら襲撃することに決め、バディカーナ伯爵の馬車を追った。
不自然に何度も角を曲がるバディカーナ伯爵の馬車を追い、徐々に距離を詰めていく。
「止まれ!」
やっと近付いたところで、道の端から飛び出して来た騎士団員に停止を求められた。
くそっ。
馬に鞭を入れ、前に立ちふさがった騎士団員たちを蹴散らす。
ここで一気に仕掛ける!
そう思って、もう一度馬に鞭を入るが、ガガガガガ!と音を立てて馬車の速度が落ちた。
後ろを見ると、馬車の車輪に鉄棒が突き込まれていた。
無理やり停止させるつもりか?!
騎士団の強引なやり方に驚いた。
回転しない車輪を引きずり、馬車の速度が落ちる。
「ヤバイ! 逃げるぞ!」
すぐに仲間たちに声を掛け、馬車から飛び降りて脇道に飛び込んだ。
少し走ると、騎士団員たちは俺たちを追うのを諦めた。
担当するエリアが決まっているのかもしれないな。あちらこちらに騎士団員が居たしな。
逃げ切れた事には安堵したが、馬車を失ってしまった。
失敗したな。
まさか、あんな強引な手段を使ってくるとは思っていなかった。
馬車を失ってしまったので、『待ち伏せ』に方針を変える。
待ち伏せする場所を頭の中で考えながら王宮の方角に向かった。
小走りで移動していたら、目の前をバディカーナ伯爵の馬車が横切った。
ん? 何処へ向かっているんだ?
標的の馬車は王宮の方角には向かわずに、西へ走り去って行ったのだった。
仲間たちと相談する。
あの馬車を追うか? それとも待ち伏せするか?
相談した結果、待ち伏せすることにした。
待ち伏せて襲撃した方が成功する確率が高いからだ。
既に馬車を失って計画通りではなくなっている。だから、襲撃が成功する確率がより高い方法でいくことにした。
あの馬車が何処に向かったのかは分からないが、王宮に行くはずなのだしな。
さらに小走りで移動する。
その途中で、慌てて走って行く余所のギルドの連中を何度か見掛けた。
騎士団に追われているのかと思ったが、どうやらそういう訳ではない様だ。
どういうことだ?
標的の馬車を探し回っているのか?
先ほど見掛けた標的の馬車を思い出す。王宮とは違う方角へ走り去って行った馬車を。
囮の馬車を走らせているのだろうか?
でも、あの馬車には護衛たちが並走していた。
”護衛込み”で囮なのか?
勝負に賭かっている物を考えれば、それをするだけの価値は有るな。
囮の存在は厄介だが、簡単に見分ける方法なんて無いだろう。
見分けるのは諦めて、運に任せよう。
待ち伏せをする地点まで来た。
この近くでも、走り回る余所のギルドの連中を何度か見掛けた。
どうなっているんだ?
ここで待ち伏せをして、本当に上手くいくのだろうか?
俺は不安になった。
もう一度、仲間たちと相談する。
仲間たちも、ここまで来る途中で見た異常な状況に戸惑っていた。
余所のギルドの連中は、待ち伏せを諦めていた様に思えた。
彼らが待ち伏せを諦めるのも理解できる。
俺たちが二度見掛けた標的の馬車は、二度とも王宮には向かっていなかったのだしな。
標的の馬車は、本当に王宮に行こうとしているのだろうか?
その事にすら自信が持てなくなった。
どうすべきだろうか?
さらに仲間たちと話し合った。
話し合った結果、俺たちも馬車を追い掛ける事にした。
標的の馬車を探して、王都を走り回る。
だが、見付けられない。
それも当然だろう。
何処に居るのかも、何処に向かっているのかも分からないのだからな。
それでも俺たちは王都を走り回った。
駄目だ。
襲撃が上手くいく気がしない。
そう思ったが、足は止めない。
俺たちは王都を走り回る。
もう一度、幸運に巡り合う事に期待して。
気が付いたら、西の貴族街の近くまで来ていた。
ここからならクラソー侯爵邸が近いな。
標的を変えるか? クラソー侯爵の馬車に。
バディカーナ伯爵の馬車を襲える気がまったくしないしな。
依頼は『オークキングを持って来い。』だから、どちらから奪ってもいいのだしな。
そうしよう。
俺たちはクラソー侯爵邸の方向に向かった。
クラソー侯爵邸に向かっていると、護衛たちが並走している馬車がこちらに向かって来るのが見えた。
クラソー侯爵の馬車だ。よし、やるぞ!
場当たり的な襲撃だが、ここで仕掛ける!
散開して馬車が近付くのを待つ。
馬車が近付いて気が付いた。この馬車はバディカーナ伯爵の馬車だ!
どうしてこんな場所に?!
理由は分からなかったが、そんな事は関係無い。
馬車を襲って、オークキングを奪えばいいだけだ!
俺たちはバディカーナ伯爵の馬車に仕掛けた。
バディカーナ伯爵の馬車に仕掛けたが護衛たちに蹴散らされた。
万全な状態でもなかったし、計画なんてものも無かったしな。
早々に諦めて逃げた。
…依頼は失敗だ。
意気消沈して帰路に就く。
目の前の交差点を、護衛が並走している馬車が横切った。
クラソー侯爵の馬車だった。
疲れ切っていた俺たちには、その馬車が通り過ぎて行くのをただ眺めていることしか出来なかった。
疲れた体を引きずるようにして歩く。
アジトまでもう少しだ。
アジトに帰ってノンビリしたい。
そう思いながらダラダラ歩く。
角を曲がると、ここらでは見掛けない様な娘たちが歩いていた。
彼女たちに一瞬意識が向いたが、『早くアジトに帰ってノンビリしよう。』と思い、そのまま彼女たちとすれ違った。
「………。(ぼそっ)」
何か話し声が聞こえた気がしたが、気にせずにアジトに向かって歩く。
今日は本当に疲れたなー。
ドガッ! ドガッ!
「ぐはっ!」、「ぐふっ!」
?!
その音に慌てて振り返る。
振り返った先には、地面に倒れる仲間と左右に吹き飛ばされる仲間たち。
それと、こちらに向かって来る青い服を着た小柄な少女の姿が見えた。
何処から現れた?! 何者だ?!
一歩後ろに下がり、すぐにもう一歩後ろに下がる。が、青い服の少女がそれよりも速く踏み込み殴り掛かって来た。
ドガッ!
「ぐはっ!」
重いその一撃を受けて、俺は気を失った。
< 王都のとある場所にて。あるメイド視点 >
………ドサ
殴り飛ばされた最後の一人が地面に落ちた。
「やっぱり裏ギルドの『さきがけ』ですね。」
先に倒した男たちを確認していた、途中から合流してくれた裏ギルドに詳しい仲間がそう言ってくれた。
青いワンピースを着た通り魔さんが通り魔になってしまう事態は避けられた様だ。
その事に安堵した。
でも、やっぱり後続には仕事が無かったね。
ゴーサインが出ると同時に飛び出して行ったからね。皆で囲んでいたのに。
切り込み隊長さん、やる気が有り過ぎである。
それと、以前よりも手数が増えていたね。人数が多くてもまったく関係無かったし。
ケイトと練習した成果なのだろうか?
「ケイトに遊ばれ…ゲフンゲフン。ケイトに遊ばれまくっていた成果が出たねっ。」
仲間の一人が、言い直すフリをしながらまったく言い直さずに、そんな事を言った。
「「「うんうん。」」」
そして、その言葉に頷く私たち。
「フガーーーッ!」
そして、そんな私たちにご不満な様子を露にする、青いワンピースを着た通り魔さん。
グーにした両手をブンブンと上下に振る様子が可愛い過ぎである。(むはー)
「早く縛ってー。縛り終わったら、こいつらのアジトに行くよー。」
「「「はーい。」」」
縛って、担いで、私たちは彼らのアジトに向かった。
アジトに踏み込んだ。
人が飛ぶのを見るのは、今日、何度目かなぁ?(遠い目)
そして、ここでも後続には仕事は無かった。
やっぱり、切り込み隊長が強過ぎる。
もう、切り込み隊長だけ放流しとけばいいんじゃないかな?
それだけで裏ギルドが絶滅してしまいそうだ。(苦笑)
切り込み隊長が殴り倒した男たちをロープで縛って転がす。
外で倒して運んで来た男たちも、ここに転がしておく。
後は、騎士団にお任せだ。
「最後にまた予定外の仕事が入っちゃったけど、これでお終いにして帰るよー。」
「「「はーい。」」」
ふぅ。誰も怪我をせずに仕事が終わったね。
まぁ、全部一人が一撃で殴り倒していただけだったしね。
切り込み隊長が強過ぎである。
でも、そのお陰で仕事が楽だったね。(ニッコリ)
仕事を終えた私たちは、ノンビリと王宮に向かう。
もちろん、青いワンピースを着た通り魔さんを皆で囲みながら。
王都で裏ギルドの連中が右往左往している様子と、標的の馬車に馬車をぶつけて襲撃する裏ギルドが現れなかった理由を描いたお話でした。
またまた、クーリの通り魔っぷりが光って唸て轟き叫びました。(意味不明)
取り敢えずクーリを放流しておけばオチに使えるのです!(←開き直んなや!)
ごめんなさい。クーリをオチに使うのは今回で最後です。クーリはなっ。(←コイツ完全に開き直ってやがるぜ…)