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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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59 王都騒乱04 王都をさまようバディカーナ伯爵家の馬車02

(人名)

フロト  バディカーナ伯爵家の御者ぎょしゃ

ジェイス バディカーナ伯爵家の執事しつじ

サミエル バディカーナ伯爵家の護衛のリーダー。


< バディカーナ伯爵家の御者ぎょしゃフロト視点 >


交差点を左に曲がった。

次の交差点でもう一度左に曲がれば、予定していた道に戻れる。

視線の先の交差点に何も異常が見られなかったことにホッとした。


もう一度左に曲がり、予定していた道に入った。

この道は騎士団が警備しているはずだから、もう大丈夫だろう。

そう思うと安心する。

「気を抜くな。このあたりでは弓矢に警戒しろ。」

左隣に座る護衛のリーダーのサミエルさんがそう言い、手にしているたてを高くかまえた。

そうか。このあたりは高い建物が多い。少し遠くからでも矢が届くかもしれない。

矢にも警戒しながら、慎重に馬車を走らせた。


道のはしを歩いていた男が馬車の前に飛び出して来た。

!!

咄嗟とっさ手綱たづなを引いた。引いてしまった。

しまった!

「襲撃だ!」

サミエルさんが怒鳴どなるのとほぼ同時に、護衛の一人がその男に体ごと突っ込んで行った。

「こっちもだ!」、「右からも来たぞ!」

周囲から護衛たちの声が上がる。

どうすべきか悩んでいる内に馬が足をめ、馬車がまった。


こうなってしまっては私に出来る事は何も無い。

右隣に座る護衛が差し出してくれたたてかげに身をひそめる。

襲撃を受けたことはこれまでにも何度か有ったが、これに慣れるなんてことは無いのだろう。

心臓がバクバクする音を聞きながら、私はたてかげで体を小さくした。




< ある裏ギルド視点 >


馬車が近付いて来る。護衛がかこんでいる。

どちらの馬車なのかは分からないが、俺たちには関係無い。

依頼は『オークキングを持って来い。』なのだからな。


仲間に目で合図あいずする。『やるぞ。』と。

そして、馬車が予定していた場所までやって来るのを待つ。


だが、俺たちよりも先に仕掛けたギルドが現れた。

ここから少し離れた場所で馬車を襲い、護衛たちとやり合っている。

くっ。どうする? 『乗る』か? 『待つ』か?

あの位置なら、仲間の弓矢の射程範囲のはずだ。

場所は予定通りではないが、何とかなりそうだ。

こちらに背を向けている襲撃者と、それに対応している護衛の両方に射掛いかけて手傷てきずわせ、そこを一気に突破して馬車に張り付こう。

護衛の内側に入ってしまえば勝ったも同然なのだ。


予定通り、ず仲間に矢を射掛いかけさせる為に、『実行』の合図あいずを送る。

剣に手を掛け、仲間が矢を射掛いかけるのを待つ。

………が、矢が飛んで行く様子が無かった。

合図あいずを見逃したのか?

もう一度、『実行』の合図あいずを送り、矢が飛んで行くのを待つ。

それでも、やはり矢が飛んで行く様子は無かった。

まさか、既にらえられたのか?

もしそうなら、ここに居るのは危険だ。

即座に『散開』の合図あいずを出し、裏の道に向かって走る。


一度や二度の失敗は、当然、みだ。

何度でも仕掛けてやるとも。諦めたりなんてするものか。

次の襲撃予定地点での計画を頭の中で修正しながら走った。


裏の道に出る前に走るのをめ、通り掛かっただけの冒険者のフリをして裏の道に出る。

そこには、騎士団員が待ち構えていた。

「かかれ!」

アッという間に取り押さえられた。

「何をするんですか?!」

ただの冒険者のフリをして抗議する。

「言い訳は留置場でしろ!」

だが、俺を取り押さえた騎士団員は、そう言ってまるで取り合おうとはしなかった。

ロープでしばられ、連れて行かれる。

どれだけ抗議しても無視され、馬車にほうまれた。

馬車の中には、弓矢で攻撃するはずだった仲間たちが居た。

既にらえられていたのか…。


俺たちの後にも、さらにしばられた者たちが運ばれて来た。

グッタリしているその男たちは、先ほど襲撃していた者たちなのだろう。

そして走り出す馬車。

留置場に連れて行かれるのだろう。

くそう。

まだ襲撃していなかったんだから、襲撃していた奴らと一纏ひとまとめにされてさばかれるのは嫌だな。

馬車に揺られている間に、通用しそうな言い訳を考えておくことにしよう。




< バディカーナ伯爵家の御者フロト視点 >


しばらく斬り合う音と護衛たちの怒号どごうが続いた。

その間、私はたてかげに隠れて体を小さくしていた。


しばらくすると、「もう大丈夫です。」と隣で私を守ってくれていた護衛に声を掛けられた。

彼の持つたてかげから体を出してまわりを見る。

すると馬車の周囲には、襲撃者たちをしばりあげる、甲冑かっちゅうを身に着けた騎士団員たちの姿が見えた。

彼らの姿を見て安堵あんどする。

ふぅ。


襲撃を退しりぞけ、王宮に向けて馬車を出す。

何人かの護衛がここで脱落してしまったが、護衛のリーダーのサミエルさんが言うには想定の範囲内とのことだった。

私は、馬車のまわりをかこむ護衛たちに気をくばりながら馬車を走らせる。


このまま予定通りの道を行けるかと思ったが、前方で火の手が上がり、馬車が急停止したのが見えた。

騒然そうぜんとした様子で、甲冑かっちゅうを身に着けた騎士団員たちがあわただしく動いているのが見えた。

これは駄目か?

少し悩んで、私は左の道に馬車を進めた。



「困った…。」

馬車を走らせながら、思わずそうつぶやいてしまう。

渋滞を避けて馬車を走らせ続けているのだが、王宮に近付くどころか逆に遠ざかってしまう。

私はあせる。

だが、伯爵様を確実に時間までに王宮へお連れしてみせるとも。

馬車をめて『ここから先は歩いてください。』なんて、言えはしないのだ。

馬車で王宮まで送り届ける事が御者ぎょしゃの仕事なのだ!

伯爵様を歩かせたりなどしてなるものか!


だが、このままでは時間までに王宮に辿たどけないかもしれない。

何か良い方法を考えなければならないだろう。

執事のジェイスさんと護衛のリーダーのサミエルさんとも相談して、遠回とおまわりになるが、クラソー侯爵邸の方から王宮に向かうことにした。

そちらから王宮に向かえば、騎士団が道をふさいでいても、その者たちはこちらの陣営の者たちらしく、『バディカーナ伯爵家の馬車だと言えば通してもらえるはずだ。』とのことだった。

私は進路を変え、遠くなった王宮を横に見ながら馬車を西に走らせた。


王宮から離れていくと、道がいていて順調に走れた。

少し走ったら、目の前に道をふさぐ様につらなる馬車列が見えた。

く。こんな時に…。

通してくれる様に頼む前に、速度を落として近付いて馬車にえがかれている紋章もんしょうを確認する。

その紋章もんしょうは、ケメル公爵家のものだった。

困った。

公爵家の馬車列に指図さしずなど出来ないし、追い越す訳にもいかない。

そうなると進路は一つしかない。

王宮とは逆方向に向かうことになってしまうが、貴族社会では当然のことだ。

ずっと馬車と並走してきた護衛たちに疲れが見えるのが気掛きがかりだが、仕方が無いのだ。

むをず、私は馬車の進路を変える。王宮とは真逆まぎゃくの南に。

うんざりする様な声が並走する護衛たちから上がるが、仕方が無いのだ。


私は、彼らに気をくばりながら慎重に馬車を走らせる。


暗くなり始めた東の空に、あせる気持ちをおさえながら…。


御者ぎょしゃさん視点での王都の状況と、騎士団が意外と活躍していたりしてたお話でした。


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