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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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58 王都騒乱03 王都をさまようバディカーナ伯爵家の馬車01


< バディカーナ伯爵家の御者ぎょしゃフロト視点 >


「この道も駄目か…。」


そうつぶやきながら、私は心の中であせる。

どの道へ行っても馬車が渋滞していて。


裏ギルドの者たちによって道をふさがれる事は、当初から想定していた。

馬車の前に障害物を置いてめさせてから襲撃するのが、馬車を襲撃するさい常套じょうとう手段なのだから。

きっとこの渋滞は、裏ギルドの連中が引き起こしているのだろう。馬車をめさせる為に。

交差点で馬車同士の事故が起きていたり、馬車が横転していたり、さらには積み荷が炎上している馬車なんてものまであった。

やり過ぎだろう。

それらに加えて、今日は騎士団も道をふさいる。

それらの所為せいで、王都のいたるところで渋滞してしまっていて、本当にひどい状況になってしまっている。


襲撃されるおそれがあるので、なるべく馬車をめたくない。

そう思って馬車をめない様に渋滞をけ続けた結果、王宮からかなり遠ざかってしまった。

予定していた道に何とか戻そうとしているのだが、どうにも上手うまくいかず、私はあせる。

何とかしなければ。

いや、何とかしてみせる。

御者ぎょしゃである私の仕事は、伯爵様を無事に王宮まで送り届けることなのだ。

伯爵様を確実に時間までに王宮へお連れしてみせるとも。


私は、馬車をめてしまわない様に注意しながら、通れる道を探しながら馬車を走らせ続けた。




< ある裏ギルド視点 >


標的ひょうてきの馬車を見たか?!」


騎士団の連中から別々に逃げて、偶然ぐうぜん合流できた部下の一人に訊いた。

「はい、一本いっぽん向こうの道を、西に向かって行くのを見ました。」

そうか。

今日の俺にはツキが有る様だ。


襲撃を予定していた地点で標的ひょうてきを待ち構えていたら、いつの間にか騎士団の連中にかこまれそうになっていた。

くそう! 今日くらい仕事をサボれよ!

そう心の中で文句を言ったが、あわてて逃げる以外に、俺たちに出来る事なんて無かった。


失敗したと思ったのだが、逃げている途中で、俺は標的ひょうてきらしき馬車を見掛けた。予想外の場所で。

合流できた部下にねんために訊いてみたら、俺よりもハッキリと見ていた様だった。

あのままあの場所で待っていたら、襲撃の機会なんて無かっただろう。

そう考えると、今日の俺にはツキが有る様だ。


「馬車を追いますか? それとも第二地点へ?」

部下が訊いてくる。

「第二地点だ。仲間と合流するぞ。」

今日の騎士団の連中は仕事をし過ぎだ。『今日だけで一年分の仕事をするつもりなのか?』とか言ってやりたくなるくらいに。

そんな状況だから、他のギルドの連中も苦戦していることだろう。

一度態勢を立て直す時間ぐらい有るはずだ。

「いくぞ。」

俺たちは第二地点に向かって走った。

俺たちが仕掛けるまで標的ひょうてきが無事である事を祈りながら。


あのかどを曲がれば、あと少しだ。

少しホッとする。

ホッとした俺の目の前に、そのかどから数人の少女たちが現れた。

退け!』と怒鳴どなる前に、彼女たちは道をけてくれた。

顔がアレだと、こういう時に助かる。自分で言うのもアレだが。

俺は少しだけ方向を変えて、そのけてくれたところに向かう。

が、何故なぜか先頭を歩いていた青い服の少女が俺の前にフラリとやって来た。

?!

立ち止まろうか、手で退けようか考えたその瞬間、素早く踏み込んできたその少女にぶん殴られた。


ドガッ!


「ぐはっ!」


経験した事が無いほどの強烈な一撃を受けた俺は、訳が分からぬまま殴り飛ばされた。

空が見えた。綺麗な空が。

意識を失う前に、綺麗な空をさえぎる、誰かの背中を見た気がした。




< 王都のとある場所にて。あるメイド視点 >


………ドサ …ドサ


飛んでいたソレらが地面に落ちた。


えーーっと…。

何て言ったらいいのかな? 『ナイス、とお。』?


私たちは、取り敢えずリーダーを見る。この場の責任者だし。

「「「………………。」」」

「………こ、これはどこかのギルドの誰かサンダネー。」

そんな困った事を困った様な声で言うリーダー。

『これって”通り魔事件”なんじゃないかなー。”仕事”で処理しちゃっていいのかなー。』

そんな事を思いながら、無言でリーダーを見詰め続ける私たち。

「「「………………。」」」

「………し、しばって目印を付けて、ココに置いて行きマショウ。そうすれば騎士団の人が調べてクレルヨ。ウン。」

リーダーは、しばってころがして騎士団に押し付けることにした様だ。

『それでいいの? 』と思わなくもなかったけど、顔をらせているリーダーを見たら、これ以上追及するのは可哀想かわいそうな気がした。


”どこかのギルドの誰かサン”たちをロープしばり始めたリーダーから視線をらし、青いワンピースを着た通り魔さんをイジることにした。

「クーリ。コレ誰?」

「………どこかのギルドの…、誰か…、サン?」

首をかしげながらそんな供述きょうじゅつをする、通り魔さん。

「「「………………。」」」

その犯人の供述きょうじゅつに、無言になる私たち。

「………顔がアレだった…、し?」

今度は反対側に首をかしげながら釈明しゃくめいをする、通り魔さん。

でも、顔がアレなのは関係無いよね? 確かにアレだったけどさ。

「今回もよく飛んダネー。(呆然)」

「見事な通り魔っぷりダッタネー。(呆然)」

仲間たちがそんな事を言っている。呆然とした感じで。

「ーーーーーーッ!」

そんな仲間たちに、通り魔さんは声にならない抗議の声を上げる。グーにした両手をブンブンと上下に振りながら。

なに?! このカワイイ生き物?!(むはー)


「サァ、次、行くワヨー。(棒)」

あわれな被害者をしばり終えたリーダーが、私たちにそう言ってサッサと歩き出した。

その背中には、『過去を振り返る気は無い。』という明確な意思が見えた。

『背中で語る。』って、こういう事を言うのかな?

ただ単に、地面にころがされたあわれな被害者を視界に入れたくないだけな気もするけど。


私たちは、リーダーの後を追う。

皆で、青いワンピースの通り魔さんをかこむようにして。



御者ぎょしゃさん視点での王都の状況と、騎士団が頑張っていたお話。

それと、クーリのとおっぷりが光ってうなったお話でした。(←おい)

『取り敢えずクーリを放流しておけばオチに使える。』なんて思ってないデスヨ?(キョドキョド)


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