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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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55 外伝 王都のとある場所にて 裏ギルド『暁のカラス』


裏ギルド『あかつきのカラス』

他のギルドから独立した者が立ち上げた、まだ新しいギルド。

今回、クラソー侯爵側の貴族から『相手からオークキングを奪って来い。』と依頼を受けている。


   ◇      ◇


「相手のお貴族さん(バディカーナ伯爵)は、オークキングを狩るのに失敗したらしいですぜ。」


部下の一人が、そんな情報を持って来た。

だからといって、情報をそのまま鵜呑うのみにするのは三流のやることだ。

だまい”がこの業界の常識だからな。

『その情報をこちらに流すことで利益を上げる者が居る。』と、そう考えて裏を読み、裏の裏まで読み切ってから行動しなければならない。

それが”一流”というものだ。うむ。

それが出来ない奴は、いつまでっても三流のままだ。

いや、違うか。

『いつまでっても三流のまま』なんて奴は居やしない。

そんな奴はすぐに消えてしまうのだからな。

この業界は、生き延びる事さえ難しい業界なのだ。


俺は、こんな小さなギルドのマスターで終わる様な男ではない。

今回の仕事を成功させて、やがてはこの業界のトップにまでのぼめてやる。


「この情報は正しいんでしょうか?」

その情報を持って来た部下が、俺にそんな事を訊く。

正しいのか分からない情報なんて持って来るなよ…。

そう呆れながら、俺はそいつに言う。

「その情報が正しいかどうか確認してから持って来い。」

「いえ、どうやってそれを確認したらいいのか分からなくて。で、この情報は正しいんですかね?」

そんな事を俺に訊くなよ…。

俺に分かる訳が…、げふんげふん。俺が知っている訳がないだろ。少しは自分の頭を使え。

ギルドのマスターは、持ち込まれた情報から作戦を考えて実行させるのが仕事なんだよ。

「はぁ…。」

使えない部下に溜息ためいきが出た。


情報を正しく判断してくれる優秀な参謀役が俺に居てくれればなぁ。

そうすれば、俺だってすぐに一流の仲間入りが出来るのだ。

こんな小さなギルドのマスターではなく。な。

そう思って、俺は理想の部下の姿を想像する。

俺の為に安い給料で働いてくれて、頭脳は超一流。

俺の代わりに作戦を考えてくれて、俺はただ指示を出すだけですべての作戦が大成功。

そして、俺の手腕しゅわんを称賛して俺を立ててくれて、俺が称賛されるのをかげからながめているだけで満足してくれる。

そんな、『俺の考える理想の部下』の姿を脳裏のうりに思い浮かべた。

うむうむ。

………居ない者のことを考えてても仕方が無いな。

居る者を上手うまく使って、仕事を成功させなければならないのだ。



俺は部下たちを全員集めて、皆に訊く。

「『相手の貴族さんがオークキングを狩るのに失敗した。』という情報が有るのだが、これは正しい情報なのだろうか?」

「「「「「………………。」」」」」

「………………。」

「「「「「………………。」」」」」

おい。

誰か何か言えよ。


「マスターは、どうお考えで?」

部下の一人が、そんな事を俺に訊きやがった。

コイツには、後で”部下のあるべき姿”というやつを教えてやらないといけないな。

でも。困ったな。

何て言おうかな?

「………………。」

「「「「「………………。」」」」」

嫌な沈黙を消し去る為に、何とか意見を絞り出す。

「…お、俺の意見を言う前にぃ、お、おまえたちの意見を訊かしぇてくれ。」

くそっ。変な事を俺に訊きやがるから、おかしな声が出ちまったじゃねぇかっ。

「「「「「………………。」」」」」

「………………。」

「「「「「………………。」」」」」

おい。

誰か何か言えよ。

「「「「「………………。」」」」」

「………………。」

「「「「「………………。」」」」」

おいっ。


嫌な沈黙に耐え切れず、一人ずつ意見を訊いた。

だが、誰も何も言わない。

やっと、最後の奴が意見を言う。

「…この情報が正しいのかを判断する為に、…さらに情報を集めてはどうでしょうか?」

うむ。

妥当だとうな意見だな。

複数の情報を集めることで情報の正しさを確認するのは当然のことだからな。

うむ。

他に意見も出なかったので、その意見を採用し部下たちに情報収集を指示した。

部下たちは、元気にアジトを飛び出して行った。

彼らは無口むくちだが、やる時はやるのだ。

たよりがいのある部下たちに、一人この場に残った俺は満足したのだった。

うむうむ。



情報を集める為に元気に飛び出して行った俺の部下たち。

今日は仕事の当日なのだが、あれから一人も帰って来ていない。

………………。

見捨てられた訳じゃないよな?

俺は、やがてこの業界のトップにまでのぼめる男なのだしな。

………………。

………………。

………き、きっと彼らの分の給料を使って、俺に相応ふさわしい優秀な参謀役をやとえってことなのだろう。

うむ。

きっと彼らは、俺の為に身を引いてくれたのだ。

そうだとも。

俺の思っていたものとは違うが、これも”部下のあるべき姿”の一つなのだろう。

うむ。


仕方が無い。

今日の仕事は、俺一人でやろう。

情報が心許こころもとないが、今回の仕事で動いているのは俺たちだけではないのだ。

他のギルドの奴らの動きをコッソリと監視して、美味おいしいところだけいただくとしよう。

この業界は弱肉強食だ。

強くかしこい者が美味おいしいところだけいただいても、問題になんてならないのだからな。

それどころか、俺の優秀さをアピールすることになるだろう。

優秀なこの俺の名を広く知らしめる絶好の機会だな。

うむ。そうしよう。

今日の仕事をキッチリと最高の形で終わらせて、明日から優秀な参謀役を探すことにしよう。

そうすれば、この俺に相応ふさわしい優秀な奴が向こうから来てくれるだろう。

楽しみだな。

ふっふっふっ。


よし。

まだ時間は早いが、ちょっと現場の下見したみに行こう。

オークキングを奪い、依頼主の元へ届けるまでを、すべて俺一人でやらなければならないのだからな。

他のギルドの連中をアッと驚かせる、優秀な俺にしか思い付けない華麗で見事な逃走ルートを見付け出すことにしよう。

優秀なこの俺の名を広く知らしめる絶好の機会なのだからな。

ふっふっふっ。


アジトから出て、シケた裏道に出た。

そろそろ見慣れてきてしまったこの道だが、この俺に相応ふさわしい場所には見えないな。

今回の仕事を成功させて、もっといい場所に引っ越そう。

そう決意を新たにして歩き出そうとしたところで、ここらの裏道では見掛けない少女たちがこちらに歩いて来るのが見えた。

先頭を歩く小柄でお人形の様な少女と、その姉と友人たちみたいな集団だ。

場違ばちがいなその集団に、思わず見入みいってしまう。

その場で立ち尽くしていたら、先頭を歩いていた少女がぐに俺に向かって歩いて来た。

ふっ。

俺の様な優秀な人間は、無意識の内に人をけてしまうからな。

この稼業ではまったく役に立たない無駄な才能だが、俺の優秀さがそうさせてしまうのだから仕方が無い。

ふっ。やれやれだぜ。

その、青いワンピースを着たお人形の様な少女は、俺のすぐそばまで来ると…。

いきなり俺に殴り掛かって来た。


ドガッ!


「ぐはっ!」


その姿からは想像できない、とても強烈な一撃だった。

俺は、訳が分からぬまま意識を失った。




(数日後の話)

俺たちのギルドが受けていた依頼は失敗した。

俺が意識を失っていた間に。


………こういう事もある。

これまでも、上手うまくいかなかった事なんていくらでもあったしな。

心機一転し再出発する為に、優秀な参謀役を探すことにしよう。

そう思ったのだが、優秀な参謀役を探すのは一時中断することにした。

今は、再び会うことが出来た部下たちとよろこびをかちっている。

俺は今、彼らと再び会うことが出来て、心からよろこんでいるのだ。


俺は、彼らと一緒に再出発する。

俺は、小さなギルドのマスターで終わる様な男ではないのだ。

俺は、この業界のトップにまでのぼめる男なのだ。

そうとも。

俺は、この業界のトップを目指して再出発するのだ!

相変わらず無口むくちなこの部下たちと一緒にな!

そうとも。


………この留置場から出してもらえたら。な。



クーリの被害者、一人目のお話でした。


(設定)

(部下たちの行動について)

ギルドを離脱して、別のギルドに再就職していました。

そのギルドの一員として今回の仕事に参加していたのですが、彼らもつかまりました。


(ギルド名『あかつきのカラス』について)

闇夜やみよまぎれるカラスは、裏ギルドの名前にこのまれてよく使われている。

その”カラス”に『俺が新しい時代を作ってやるぜ!』という意気込みで”あかつきの”を付けた。

だが、そんな意図いととは裏腹うらはらに、早朝にカラスが残飯をあさっている様子をイメージされて、他のギルドの者たちからは馬鹿にされてしまっています。

そのネーミングセンスの無さは、まるで何処かの誰かの様です。…泣いてなんかいませんよ?


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