47 勝負17 ソーンブル侯爵サイド02 オークの集落にて
(人名)
ソーンブル侯爵
今回の勝負を仕掛けた側の”首謀者”。
王都の屋敷に滞在し、情報収集したり指示を出したりしている。
バディカーナ伯爵
今回の勝負を仕掛けた側の”代表者”。
ソーンブル侯爵に代表者に祭り上げられた人。
バディカーナ伯爵領のグルバドから冒険者たちを送り出した後、王都の屋敷に来た。
毎日ナナシへの面会を果たすべく王宮に通っているが、門前払いされている。
また、冒険者たちがオークキングを持って来るのを王都で待っている。
依頼主のバディカーナ伯爵から、オークの集落の位置とオークキングの大きさの情報を貰っていた。
その情報の中で一番大きなオークキングが居る集落を殲滅したのだが…。
「おいおい。勘弁してくれよ…。」
オークどもを始末し終えた俺は、思わずそう呟いた。
オークの集落は殲滅した。
だが、肝心のオークキングが居なかったのだ。
これでは”依頼の達成”にはならないのかな?
依頼の内容は、『一番大きなオークキングを仕留め、その死体を持ち帰る。』だったしな。
オークキングを仕留める為には、オークの集落を殲滅しなければならない。
その為にオークの集落を殲滅したのに、オークキングが居なくて『依頼の達成にならない』なんていう、冗談じゃない事態になりそうだ。
本当に冗談じゃないよな。少なくない犠牲を出しているというのに。
この規模の集落なら、オークキングが居て当然だと俺は思う。
それに、依頼主から貰った情報には、このオークの集落に居るオークキングの大きさまで記載されていたのだ。居ると思って当然だ。
だから、このオークの集落を殲滅したのだ。オークキングの姿は未確認のままだったが。
オークキングは居るはずだった。
これではまるで…。
『オークキングだけが消え去った』みたいじゃないか。
オークの死体が散乱する光景を前に、どうしたらこんな不思議な状況になるのかを考えた。
こんな、まるでオークキングだけがこの場から消え去ったかの様な状況に。
………もしかして、転移魔法か?
…そうか。
転移魔法か。なるほど。
それならば可能だろう。
転移魔法でオークキングだけを連れ去れば、こんなおかしな状況になるだろう。
むしろ、それ以外に方法が有るとは思えないな。
と、いうことは…。
”あの公爵さま”が、この勝負の相手側に居るのか。
ふむ。
それならば、この勝負に勝てる訳が無いし、これ以上、危険を冒して依頼に付き合ってやる価値も無いな。
オークの集落は殲滅した。
オークキングを仕留めることは出来なかったが、それは、『居なかったから仕留められなかった』だけで、俺たちに出来る事はちゃんとやったのだ。
オークキングの情報は依頼主から貰った物なのだから言い訳は立つし、非難される謂れも無いな。
”依頼の達成”にはならないかもしれないが、こちらに非が有る訳ではないのだから、ペナルティを受けることにはならないだろう。
よし。
魔石を回収したら、持てるだけの肉を持って撤収しよう。
魔石の回収と犠牲者の埋葬を指示し、B級以上のパーティーリーダーたちを集めて、彼らに言う。
「魔石を回収し、オークを捌いて、休憩をとったら撤収する。」
彼らは無言で頷く。
彼らも、『自分たちが出来る事はやった。』、『オークキングを仕留められなかったのは依頼主から貰った情報が間違っていたからだ。』、『だから、依頼の失敗は俺たちの責任ではない。』と思っているのだろう。当然だな。うむ。
だが、お目付け役として付いて来た男は、俺たちとは意見が違う様だ。
「えっ?! 何を言っている! まだオークキングを仕留めていないだろうが!」
やれやれ。その目で何を見ていたのだか…。
「ここには居なかっただろう? 居ないものはどうしようもないぞ。」
俺はそう言ってやる。居ないものはどうしようもないのだからな。
「撤収など認めん! 他のオークの集落へ行くぞ!」
やれやれ。本当に困った奴だ。
「無理だ。今残っている我々の戦力では、オークキングの居る集落の殲滅なんて出来ん。撤収するしかない。」
「まだ大勢残っているではないか!」
「これだけの戦力が残っているのはオークキングが居なかったからだ。残っている戦力ではオークキングの居る集落の殲滅なんて出来ん。撤収だ。」
まだ何かを言いまくる、お目付け役の男。
だが、話を聞いてやる理由なんか無い。出来ないものは出来ないのだからな。
だから、誰も奴の話なんか聞いちゃあいない。
そんな中、パーティーリーダーの一人が言う。
「なぁ。近くにオークキングが居るんじゃねぇか? この規模の集落でオークキングが居ないなんておかしいぞ。」
「確かにおかしいな。」、「そうだな。」、「そうだ、そうだ。」
同意する声が上がる中、さらに別の者が言う。
「それと、オークジェネラルの様子がおかしかったぞ。何かを探している様な素振りを見せていた。それに、オークたちを指揮することもなくブチギレた様に襲い掛かってきたしな。」
ああ。確かにオークジェネラルたちは、そんな感じだったな。
「オークキングが逃げ出したんじゃないか? だからオークジェネラルたちの様子がおかしかったんだ。ここに留まってオークキングを探そうぜ。」
そんな事を言うが、オークキングが集落から逃げ出したりするか? そんな話は聞いたことが無いぞ。
「ほお。」、「それはいいな。」、「そうしようぜ。」、「オークキングも一匹だけなら、そう手こずらないだろう。」
だが、そう言って、乗り気の者が多かった。
そして、そいつらの表情は、妙に笑顔だった。
…なるほど。オークキングを探すフリをしながらここに留まって、”肉祭り”ってことか。
それなら、お目付け役の男を説得することも出来そうだし、他のオークの集落に行かされるよりもずっといい。
よし。それでいこう。(ニヤリ)
俺は、お目付け役の男に言う。
「どうやら、オークキングだけ逃げ出した様だ。ここに留まって、オークキングを探し出して仕留めることにしようと思う。勝負の勝利をより確実にする為には、ここのオークキングを狩っておくべきだしな。そうだろう?」
「そ、そうしろ! 探し出して仕留めるんだ! ここのオークキングが一番大きいんだからな!」
よし。(ニヤリ)
早速、パーティーごとに担当する範囲を話し合って決めた。大事な、料理を担当する順番もな。
すぐに話をまとめ、それぞれが準備を始める。
皆、笑顔だった。
お目付け役の男も。
さて。
”散歩”で腹を空かしてから、”肉祭り”だ!
翌々日の朝。
俺たちは、オークの集落から撤収した。
”肉祭り”で肉を食べまくって、皆、上機嫌だった。
一人だけ、青い顔をしている奴が居たけどな。
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