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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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46 外伝 クララ・クラソー救出に派遣された部隊のお話

クララ・クラソーを救出する為に、馬車で王都からグラアソに向かっているメイドたち。

その馬車の中では、何人かが頭をかかえていた。


「こんな事になって自分に跳ね返ってくるなんて!」


そんな事を言っているのは、【異空間トレー】を知ってやり過ぎてしまったメイドたちだ。


普段は給仕きゅうじの仕事なんてしていないのに、【異空間トレー】に紅茶を乗せて廊下を歩いていた。

そして、両手がふさがっているメイドさんに不埒ふらちな行いをしてくる貴族のボンボンたちを廊下で返り討ちにして、スカッとしていた。

その行為がめぐめぐって、こんな事になって彼女たち自身に跳ね返って来ていたのだった。


「でもさー、警備でただ巡回じゅんかいするだけってのはひまなんだよねー。だから、つい。ねー。」

「あー。警備の日は暇だよねー。それよりは訓練をしたいよねー。」

「そうそう。」

「(ケイト様の)親衛隊に所属している身としては、もっと訓練に時間を掛けたいのよねー。それが出来ないのなら廊下での実戦もむをないと思うの。ゴミ処理もはかどるし。」

「うんうん。」

「実戦ならクーリに頼めばいいよ。今、ナナシ様が居なくてひましてるから。」

「どうして、よりによってクーリをすすめるのか。(苦笑)」

「あの子、手加減を知らないじゃん。死ねるよ。」

先立さきだつ隊員に敬礼! ビシッ!」

「やめて! 先立さきだたないから! あと、口で『ビシッ!』って言うのもやめて!」

「大丈夫。ニーナは生き残った。」

「でも、ニーナじゃん。」

「ニーナの、『他の人とは何か違う』感は異常。」

「ニーナはきっと『変人』わくなんだよ。」

「「「「うんうん。」」」」

「でもさぁ、何であのトレー使用禁止になってないの? 今日も廊下に居たよ。」

「あのトレーを禁止にしない代わりに、ナナシ様が王宮に居ないんでしょ。面会希望者を『ナナシ様はダンジョンに行っていて不在』って言って門前払もんぜんばらいにする為に。」

「…ああ。なるほど。」

「ってかさ。あんた、今日、廊下をウロウロしてた訳じゃないわよね?」

「え? 何で?」

「「「「………………。」」」」

「いやいや、待機たいき中はダメに決まっているでしょ! 何の為の待機たいきよ!」

「…あ。」

「「「「………………。」」」」

「いえいえ、今日はやってないデスヨ。ホントニ。」

「「「「………………。(ジーッ)」」」」

「やめて! そんな目で見ないで! そんな『生贄いけにえはコイツにしよう。』みたいな目で見ないで!」

「「「「ソンナコトカンガエテナイヨ。」」」」

「絶対ウソだー!」


そんな感じで、馬車の中の何人かが少しにぎやかでした。

ちなみに、この部隊の隊長カーティーは、馬車の屋根の上でノンビリとお茶を飲んでいました。



< カーティー視点 >


グラアソに急ぐ馬車の上。

今回も魔道具で姿と気配を消して馬車の屋根の上に座っています。

ですが、今回はいつもとは違い、ナナシ様に作っていただいた『異空間座布団(ざぶとん)』の上に座っています。

急いでいる為に激しく揺れている馬車ですが、『異空間座布団(ざぶとん)』のおかげでまったく揺れていません。

お尻が痛くならないどころか、ノンビリとお茶も飲めます。

ナナシ様、ありがとうございます。



グラアソの街に着きました。

馬車の屋根の上でノンビリとお茶を飲んでいるだけで。

ナナシ様に作っていただいた『異空間座布団(ざぶとん)』は、本当に素晴らしいですね。

お尻がまったく痛くならなかっただけにとどまらず、ノンビリとお茶も楽しめましたし。

ナナシ様、本当にありがとうございました。


街の中に入った馬車は、街中まちなかで出せる最大限の速度で拠点に向かいます。

商会に偽装した拠点の倉庫に馬車ごと入り、馬車から降ります。

ここは天井が少し低いですね。帰ったら改善要求を出しましょう。

ちょっと危なかったので。(ドキドキバクバク)

仲間たちを連れて、情報をもらう為に商会長(通称)に会いに行きます。

自然と早歩はやあるきになってしまうのは仕方がありません。保護対象を早急そうきゅうに発見して安全を確保してあげなければならないのですから。

商会長(通称)の執務室のドアをノックして中に入り、手短てみじかに言います。

「商会長、情報を。」

「ご苦労様。王宮から鳩が届いています。『生存確認。待機。』です。」

『生存確認』と聞かされてホッとしました。それと、『待機』という命令にも。

『待機』ということは、『既に誰かがそばに付いていて安全が確保されている。』という意味なのでしょうから。

最悪の事態は既に回避されていた様で、安堵あんどします。

仲間たちもホッとしています。

今回の件で厳しく処罰されるのを恐れていたのでしょう。


明日までの休息を指示されて、私たちはこの拠点でダラダラと過ごすことになりました。

まだ現場の状況が詳しく分かっていないので、お酒を飲む事は禁止されてしまいました。

チッ。



翌朝。

王都から仲間がやって来ました。

全員で、現場の詳しい状況と新たな指示を聞きます。

「クララ・クラソーは、ケイトたちに守られてグラアソ(ここ)に向かっています。おそらく最短距離で森を抜けるでしょう。馬車で迎えに行ってクラソー侯爵邸までお連れしてください。」

「了解。」

また移動です。今度は、隣街となりまちのグシラグのさらに西まで。

馬車を一台追加して、私たちは西に向けて出発しました。


昼過ぎ。

街道かいどうわきに馬車をめ、全員で手分てわけして森を監視しています。

一人が声を上げました。

「居ました。メイド服が一人居ます。あれがケイトでしょう。」

「全員、馬車に乗れ。回収に向かう。」

彼女たちを迎えに、さらに西に向けて馬車を走らせました。

街道を歩いていたクララ・クラソーたちの一行を拾い、私たちはグラアソに引き返します。


クララ・クラソーは、怪我も無く無事でした。

その事に心から安堵あんどしました。

そのクララ・クラソーですが、ずっとケイトにべったりしています。

割とよく有る、いつものアレです。

その様子に、クララ・クラソーに同行していた”あちらの隊長”も苦笑いをしています。

帰ってから報告する事が一つ増えてしまっていますが、それは”あっち”に任せておきましょう。ええ。

ですから、『お前が報告しろ。』ってハンドサインを送るのはやめてくださいねー。

私の任務は、クララ・クラソーをクラソー侯爵邸まで連れて帰ることですからねー。

『健闘を祈る。』

疲れるくらい、ハンドサインを応酬おうしゅうしました。


夜。

グラアソまで戻って来ました。

衛兵えいへいに話が通してあったみたいで、すぐに門を開けてもらえました。

門をくぐり、クラソー侯爵邸まで馬車を走らせ、玄関前でクララ・クラソーたちを降ろします。

クララ・クラソーを無事に連れて帰ることが出来て、安堵あんどします。

ふぅ。

後は、拠点に戻って一泊し、明日王宮に帰って報告すれば、すべての任務が完了です。

上機嫌で、馬車を拠点に向かわせるように指示を出します。

チラリと見えた車庫に停められている馬車に、グラム王家の紋章が付いていた様に見えた気がしましたが、きっと気の所為せいですね。ええ。

今夜は飲みに行こう。(ニコニコ)


拠点に戻り、商会長(通称)に報告しました。

飲みに行こうとしたら、明日の任務を告げられました。

「明日、クララ・クラソーを王宮にお招きするそうです。それに先行せんこうして、”掃除そうじ”をお願いします。」

「………はい。」

くっ。今夜は飲みに行けないな。

くそう! 盗賊たちめ!

仕方なく、この日はふて寝しました。

くそう。



翌日の昼過ぎの王都。

一台の馬車が王都の西門にやって来た。

御者ぎょしゃが、衛兵えいへいに盗賊の討伐の報告をする。

報告を受けた衛兵えいへいは、御者ぎょしゃが苦笑いしている事を少し不思議に思ったが、そのまま馬車を通した。

盗賊たちを、飲みに行けなかった八つ当たりで討伐した人が屋根の上でふて寝している事なんて、彼らが気が付く訳が無かった。


(ひとりごと)

所謂いわゆる『神様の視点』ってやつでお話を書くのが苦手です。

何故なぜなのかは自分でもよく分かりませんが。

今回のお話は、最初は全部『神様の視点』で書いてみたのですが、書き直して、後半のみ『カーティー視点』になりました。

冒頭の部分では、カーティーは馬車の屋根の上でノンビリとお茶をしばきやがっていたので、『カーティー視点』に出来なかったのです。(苦笑)


(『今回の件で厳しく処罰されるのを恐れていたのでしょう。』って?)

これは、ナナシ不在の原因を作った、廊下で貴族のボンボンたちをぶちのめしていた件です。

ちなみに、ナナシが王宮に帰って来たことは、ケイトが護衛に付いている事を知った事で、気が付いています。


(盗賊の討伐について)

『ナレ死』で済ませましたが、内容は↓な感じです。

少し遅めの時間にグラアソを出発。人が多い時間帯は盗賊は出て来ないので。

道に丸太を置いて馬車をめさせ、盗賊登場。

だが、カーティー無双で殲滅される。(←ここでも『ナレ死』ぢゃん!)

盗賊たちの死体は道端みちばたに埋めて目印めじるしを置き、衛兵えいへいに報告。です。

彼女たちの少し後に、クララ・クラソーを乗せた王家の紋章を付けた馬車が王都に入りました。

ちなみに、討伐された盗賊たちは、以前、クラソー侯爵家の馬車を襲った若い冒険者たちです。

冒険者ギルドからも人が出されていましたが、発見するまでにいたらず、彼女たちに先を越されました。


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