44 勝負16 『魔術師の街』サイド 再戦05end メイド隊隊長視点
私たちは、敗走する『魔術師の街』側の者たちを監視していた。
クラソー侯爵の娘クララの危機に、その者が突然現れてオークを倒した。
メイド服を来たその者は…。
『『鉄壁』のケイト』だった。
何故、ケイトがここに?!
決まっている。
何かが起きたのだ。
『『鉄壁』のケイト』を派遣しなければならない様な”何か”が。
私は、ケイトの方へ向かって歩いて行く。
そのケイトは、メイド服を着ている。
きっと、急に”何か”が起きた所為で着替える時間が…。いや、ケイトの事だから、そもそも着替える気が無かったのかもしれないな。
歩きながらそんな事を考えていたのだが、ケイトが帯剣していない事に気付いて、慌ててケイトが倒したオークの様子を確認しに走る。
ケイトが倒したオークにはまだ息があったので、短剣でトドメを刺した。
ふぅ。
さて。
ケイトを急いで派遣しなければならない様な”何か”が起きた様だが、一体、何が起きたのだろうか?
近くにオークの気配がないか、念の為、探りながらケイトに近付く。
事情を訊こうとケイトに声を掛けようとしたのだが、そこでちょっと躊躇う。
ケイトが立ち上がらせた領主の娘の表情が、”恋する乙女”の様だったから。
またか…。
ケイトの周囲では割とよく有る、いつものアレだ。
困ったな。
ちょっと声を掛け辛い。
恨まれるのも、馬に蹴られるのもイヤだからな。
状況的には刃物で刺される可能性が一番高いのかな? 彼女はオークキングの討伐に参加していたのだから、短剣ぐらいは持っているだろう。
………………。
ケイトから事情を訊くのは後にして、先に仲間たちを集めておくか。
私は、周囲に居るはずの仲間たちにハンドサインを送る。『状況変更。集合。』と。
取り敢えず、仲間たちが集まるのを待とう…。
ほどなく、仲間たちが集まった。
仲間の一人に、倒れている同僚(多分)の世話を頼んでから、ケイトに近付く。
近付き過ぎない様に慎重に距離を測りながら、ケイトに声を掛ける。
「ケイト、こっちはどうすればいい?」
「彼女を守りながら、グラアソまで帰るよー。」
「分かった。で、何が起きてこうなった?」
「さぁ?」
「…そうか。」
何も聞かされていないんだな。
まぁ、ケイトだしな。
私は、領主の娘に挨拶し、彼女を護衛しながらグラアソに向かうことを説明した。
それと、彼女と一緒に居て、先ほどまでオークと戦っていた女性について、「気を失っているが打撲程度で無事だ。」と伝えると、ホッとした様な泣き出しそうな表情をした。余程心配していたのだろう。
領主の娘に怪我は無さそうだったので、早速、移動することにする。オークが現れる恐れが有るからな。
気絶している同僚(多分)は仲間の一人に背負ってもらい、私たちは真南に向かう。
きっと、迎えの馬車を寄越してくれるだろうから、最短距離で森を抜けるのが、一番早く街に帰れる方法だろう。
今の状況がよく分からないままな事に少し不安が有るが、その事は諦めよう。
迎えの者たちと合流すれば誰かが教えてくれるだろう。同僚(多分)についてもな。
そんな事を考えながら、私たちは真南に向かって森の中を歩きだした。
森の中を少し歩いたところで、後ろを歩くケイトたちの足音が止んだ。
振り返ると、ケイトの隣にナナシ様が居た。
なるほど。
ケイトを領主の娘のところに連れて来たのは、ナナシ様だったのか。
つまり、『ナナシ様に協力を頼まなければならないほどの”何か”が起きた。』ということだ。
気を引き締めて、彼女をグラアソまで送り届けなければならないな。
ナナシ様は、ケイトに何かを手渡して、すぐに姿を消した。
ケイトは、ナナシ様から受け取った物を領主の娘に渡そうとする。
少し会話をした後、ケイトがソレを領主の娘の首に掛けた。
ナナシ様から手渡された物は、ネックレスだった様だ。
領主の娘が再びケイトの腕を掴む。”恋する乙女”の様な笑顔で。
その事に、遠くない未来に必ず起こる問題を想像してしまうが、それは私の仕事ではないから気にしないでおこう。うん。
余計な事は考えずに、彼女をグラアソまで無事に送り届けよう。
それが、今の私たちの仕事だからな。
私たちは移動を再開し、真南に向かって森の中を歩いた。
短かったので今日更新。次回更新は6/3です。
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