38 勝負14 『魔術師の街』サイド 再戦03 敗走 アンナ視点
オークキングの討伐は失敗しました。
魔術師が二人逃げ出した事を切っ掛けに、冒険者たちが逃げ出して。
私はクララの手を引いて、全力で森の中を走ります。
「どうして…。」
そんなクララの声が聞こえてきました。
ですが、クララのその疑問に答えようにも、私にもサッパリ分かりません。
それに、何に対しての『どうして…。』なのかも。
だけど今は、オークから逃げ切るのが先決です。
私はクララの手を引いて、全力で森の中を走ります。
冒険者たちや魔術師たちに次々と追い抜かれました。
彼らは、「ふざけやがって!」とか「やってられるか!」とか「どうなっているんだよ!」とか言いながら走り去って行きました。冒険者たちも魔術師たちも。
どうして、こんな事になったのでしょう?
オークとの戦いは優勢に進められていたのに。
それなのに、魔術師がたった二人逃げ出しただけで総崩れになりました。
訳が分かりません。
「どうして…。」
私も、無意識の内にそう呟いていました。
しばらく走りました。
大勢の冒険者たちや魔術師たちに追い抜かれましたが、オークには追い付かれていません。
このまま逃げ切れればいいのだけれど…。
またしばらく走ったら、ケインさんに追い抜かれました。
彼の護衛の人たちは居ませんでした。
オークたちを足止めする為に戦っているのでしょう。少し後ろで戦闘音がしますから。
私はクララの手を引いて走ります。
前だけを見て。全力で。
足音が後ろから近付いて来ます。
足音の間隔が長い気がします。
…オークかもしれない。
その足音はまだ小さい。
『余裕がある内に距離を見ておこう。』と思い、振り返りました。
やはりオークでした。
オークが一体、追って来ています。
だけど、まだ距離が有る。大丈夫だ。…多分。
私はクララの手を引いて走ります。
かなり疲れている様に見える彼女を気遣いながら。
それでも全力で。
前を走っていたケインさんが転んだのが見えました。
起き上がろうと慌てています。
こちらを振り返ったケインさんが、恐怖で顔を歪めるのが見えました。
オークが、私たちの後ろから追って来ているからでしょう。
今の私には、ケインさんに構っていられるほどの余裕なんて有りません。
それに、私はクララを守る為に来ているのです。
クララの手を引きながら、私はケインさんの横を走り抜けました。
ケインさんはすぐに立ち上がった様で、私たちの少し後ろを走って来ています。
叫び声を上げながら。
「きゃっ!」
そんな声がして、グンと手を引っ張られました。
振り返ると、クララが転んでいました。
いや、転ばされたみたいです。
ケインさんがクララの服から手を放すのが見えたから。
ぶちのめしたい衝動に駆られますが、今はそれよりも先にクララです。
クララを立ち上がらせようとしている間に、ケインさんは私たちの横を走り抜けて行きました。
「立って!」
クララにそう言いますが、立ち上がってくれる様子は有りません。
どこか怪我をしたのかもしれません。
「【ヒール】、【ヒール】、【ヒール】。」
取り敢えず、クララが怪我をしていそうなところに【ヒール】を掛けました。
オークがこちらに向かって来ます。
私は、ショートソードを抜いてオークに向かって行きます。
クララを逃がす時間を稼ぐ為に。
ショートソードを構えながら、背後に居るクララに向かって言います。
「逃げて!」
だが、クララは立ち上がろうとしてくれません。
くっ。
とにかく今は、時間を稼ぐ!
目の前まで来たオークが腕を振るってくる。
その腕を払う様にショートソードで斬り付ける。
オークの腕に浅い傷が出来た。
ほとんど切れていない様だ。
でも、いい。
とにかく今は、時間を稼ぐのだ!
オークをクララに近付かせない様に気を付けながら、オークの腕に斬り付ける。
全神経を集中して。
オークと戦うのは初めてだ。
勝てる気がしない。
剣術は得意じゃないから。
そもそも、メイドだし。
そもそも、メイドだし。
ええ。
メイドなのに、どうしてこんなところでオークと戦っているのでしょう?
ふと、そんな事を考えてしまいましたが、今はそれは後回しです。
メイドにだって、時間を稼ぐことくらいは出来るはず。…多分。
とにかく今は、時間を稼ぐ!
そして、機会を見付けてクララと一緒に逃げる!
今の私に出来る事はそれしかない!
オークは、ちまちま斬り付けて来る私に怒ったのか、体当たりを仕掛けて来ました。
それを横に飛んで避ける。
が、避け切れずに弾き飛ばされました。
くそう。
素早く体勢を立て直して、オークを見る。
オークは私を見失った様で、辺りを見回しています。
そして、クララに気付きました。
クララの方に行こうとするオークに、斜め後ろから斬り掛かる。
オークの足に浅くない傷を付ける事が出来た。
オークが腕を振りながらこちらを向く。
その腕を躱して、後ろに下がる。
オークは、こちらに向かって歩いて来る。
それに合わせて、私も後ろに下がる
よし。
このままクララから引き離そう。
ショートソードで切り掛かるフリをしながら、さらに後ろに下がります。
オークが、さらにこちらに向かって来る。
クララとの距離がどんどん開いていく。
その事にホッとした。
ホッとしたのがいけなかったのでしょう。
何かに足を引っ掛けて、尻餅をついた。
慌てて立ち上がろうとしたら、足が滑った。
ヤバッ!
オークが振り下ろしてきた腕はギリギリで躱せた。
だが、その後に来た、払う様に振られた腕は躱せなかった。
ドカッ!
私はオークが振った腕に弾き飛ばさた。
そして…。
視界が真っ暗になりました。




