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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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38 勝負14 『魔術師の街』サイド 再戦03 敗走 アンナ視点


オークキングの討伐は失敗しました。


魔術師が二人逃げ出した事をけに、冒険者たちが逃げ出して。

私はクララの手を引いて、全力で森の中を走ります。


「どうして…。」

そんなクララの声が聞こえてきました。

ですが、クララのその疑問に答えようにも、私にもサッパリ分かりません。

それに、何に対しての『どうして…。』なのかも。

だけど今は、オークから逃げ切るのが先決です。

私はクララの手を引いて、全力で森の中を走ります。



冒険者たちや魔術師たちに次々と追い抜かれました。

彼らは、「ふざけやがって!」とか「やってられるか!」とか「どうなっているんだよ!」とか言いながら走り去って行きました。冒険者たちも魔術師たちも。

どうして、こんな事になったのでしょう?

オークとの戦いは優勢に進められていたのに。

それなのに、魔術師がたった二人逃げ出しただけで総崩そうくずれになりました。

訳が分かりません。

「どうして…。」

私も、無意識のうちにそうつぶやいていました。



しばらく走りました。

大勢おおぜいの冒険者たちや魔術師たちに追い抜かれましたが、オークには追い付かれていません。

このまま逃げ切れればいいのだけれど…。

またしばらく走ったら、ケインさんに追い抜かれました。

彼の護衛の人たちは居ませんでした。

オークたちを足止あしどめする為に戦っているのでしょう。少し後ろで戦闘音がしますから。

私はクララの手を引いて走ります。

前だけを見て。全力で。



足音が後ろから近付いて来ます。

足音の間隔が長い気がします。

…オークかもしれない。

その足音はまだ小さい。

『余裕がある内に距離を見ておこう。』と思い、振り返りました。

やはりオークでした。

オークが一体、追って来ています。

だけど、まだ距離が有る。大丈夫だ。…多分たぶん

私はクララの手を引いて走ります。

かなり疲れている様に見える彼女を気遣いながら。

それでも全力で。


前を走っていたケインさんがころんだのが見えました。

起き上がろうとあわてています。

こちらを振り返ったケインさんが、恐怖で顔をゆがめるのが見えました。

オークが、私たちの後ろから追って来ているからでしょう。

今の私には、ケインさんにかまっていられるほどの余裕なんて有りません。

それに、私はクララを守る為に来ているのです。

クララの手を引きながら、私はケインさんの横を走り抜けました。

ケインさんはすぐに立ち上がった様で、私たちの少し後ろを走って来ています。

叫び声を上げながら。



「きゃっ!」

そんな声がして、グンと手を引っ張られました。

振り返ると、クララがころんでいました。

いや、ころばされたみたいです。

ケインさんがクララの服から手をはなすのが見えたから。

ぶちのめしたい衝動に駆られますが、今はそれよりも先にクララです。

クララを立ち上がらせようとしている間に、ケインさんは私たちの横を走り抜けて行きました。


「立って!」

クララにそう言いますが、立ち上がってくれる様子は有りません。

どこか怪我をしたのかもしれません。

「【ヒール】、【ヒール】、【ヒール】。」

取り敢えず、クララが怪我をしていそうなところに【ヒール】を掛けました。

オークがこちらに向かって来ます。

私は、ショートソードを抜いてオークに向かって行きます。

クララを逃がす時間を稼ぐ為に。

ショートソードをかまえながら、背後に居るクララに向かって言います。

「逃げて!」

だが、クララは立ち上がろうとしてくれません。

くっ。

とにかく今は、時間を稼ぐ!


目の前まで来たオークが腕を振るってくる。

その腕を払う様にショートソードで斬り付ける。

オークの腕に浅い傷が出来た。

ほとんど切れていない様だ。

でも、いい。

とにかく今は、時間を稼ぐのだ!

オークをクララに近付かせない様に気を付けながら、オークの腕に斬り付ける。

全神経を集中して。


オークと戦うのは初めてだ。

勝てる気がしない。

剣術は得意じゃないから。

そもそも、メイドだし。

そもそも、メイドだし。

ええ。

メイドなのに、どうしてこんなところでオークと戦っているのでしょう?

ふと、そんな事を考えてしまいましたが、今はそれは後回あとまわしです。

メイドにだって、時間を稼ぐことくらいは出来るはず。…多分たぶん

とにかく今は、時間を稼ぐ!

そして、機会を見付けてクララと一緒に逃げる!

今の私に出来る事はそれしかない!


オークは、ちまちま斬り付けて来る私に怒ったのか、体当たりを仕掛けて来ました。

それを横に飛んでける。

が、れずにはじばされました。

くそう。

素早く体勢を立て直して、オークを見る。

オークは私を見失みうしなった様で、あたりを見回みまわしています。

そして、クララに気付きました。

クララの方に行こうとするオークに、斜め後ろから斬り掛かる。

オークの足に浅くない傷を付ける事が出来た。

オークが腕を振りながらこちらを向く。

その腕をかわして、後ろに下がる。

オークは、こちらに向かって歩いて来る。

それに合わせて、私も後ろに下がる

よし。

このままクララから引き離そう。

ショートソードで切り掛かるフリをしながら、さらに後ろに下がります。

オークが、さらにこちらに向かって来る。

クララとの距離がどんどん開いていく。

その事にホッとした。


ホッとしたのがいけなかったのでしょう。

何かに足を引っ掛けて、尻餅しりもちをついた。

あわてて立ち上がろうとしたら、足がすべった。

ヤバッ!

オークが振り下ろしてきた腕はギリギリでかわせた。

だが、その後に来た、払う様に振られた腕はかわせなかった。

ドカッ!

私はオークが振った腕にはじばさた。

そして…。


視界が真っ暗になりました。


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