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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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35 勝負12 『魔術師の街』サイド 再戦01 出発 アンナ視点


グラアソという街の『魔術局』という魔術師たちの組織に潜入調査しています。


これもメイドの仕事じゃないんじゃないかなー。

これもメイドの仕事じゃないんじゃないかなー。


大事なことなので、今朝も二回言わずにはいられませんでした。



今朝も日課(=上司の顔を思い浮かべてブン殴る)を済ませ、自分の表情をムニムニとととのえてから魔術局に向かいます。

朝礼で、この街の領主がいどまれている”勝負”とやらに、魔術局からも人を派遣する事になったという話を聞かされました。

昨日、ここの人たちが話していた『魔術師ギルドの連中がオークどもに蹴散けちらされて帰って来たらしい。』なんていう噂話は、どうやら本当のことだったみたいです。

まぁ、私には関係無いことだけど。

拳闘術で戦う私では、体の大きなオークと戦うには相性が悪過ぎますからね。

いや、そもそも私はメイドなのですから、オークと戦う必要自体がありませんでしたね。

うんうん。そうそう。

『治癒魔術師を…。』とか聞こえた気がしましたが、私の気の所為せいです。

聞こえなかったことは、無かったことと同じなのです。ええ。

だから、私には何の関係も無いことなのです。うんうん。

クララが私の腕をガッシリとつかんで、何か言いたそうな表情で私をジッと見ていますが、その事も、もちろん私には何の関係も無いのです。………多分たぶん。(冷や汗)



二日後。

私は森の中を歩いています。

クララも一緒です。

他にも大勢おおぜいの人たちが居ます。

行先はオークの集落です。

オークの集落を殲滅して、オークキングの死体を持ち帰るんだそうです。

へぇーーーー。

………………。

………………。

どうしてこうなった!


そう思いますが、今更いまさらですね。既に、昨日から森の中に入っているんですから。

私がどう説得したところで、クララが参加してしまいそうだったので、仕方が無かったのです。(諦めた目)

私ではオークを倒す事は難しいけれど、クララを守りながら撤退したり、肉壁にくかべの怪我を治す事くらいは出来るでしょう。

仲良くなった彼女が、私の目の届かないところで危険な目に遭うのは嫌なので、仕方が無かったのです。

ええ。

そろそろ、私も諦めましょう。

で、す、がっ!

私に魔術局への潜入調査を指示した上司には、殺意っぽいものしか湧きません。

今、本物が目の前に現れたら、迷いなくブン殴っていることでしょう。

ええ。

ゲッヘッヘッヘッ。(真っ黒い笑顔)

「お嬢さn」バキ!!

ドサッ

おっと。

うっかり何かを殴ってしまいました。

でも、どうせクララに言い寄る害虫でしょうから、どうでもいいですね。

地面と熱い抱擁ほうようわしている害虫を無視して、私は歩きます。

きっと、森の養分ようぶんになってくれることでしょう。うむうむ。

「あー。ウチのナンパ野郎が申し訳ない。」

そう言いながら近付いて来た大きな男性が、森の養分になる予定だったナンパ野郎を肩にかつぎ上げました。

せっかくの森の養分なのに、何てことをしやがるのでしょう。

ローブを着た、その大きな男性をにらみつけます。(ジロリン)

「あー。これでも一応、ウチの大事(だいじ)な戦力なんでな。また何かしでかしたらぶちのめして構わないから、ここに置き去りにするのは勘弁かんべんしてくれ。」

「フン。」

私は気にせずに歩きます。

「あのスゲェな。(オッパイも。)」

「右ストレートが見事だったぞ。(オッパイの揺れも。)」

「治癒魔術師なのにな。」

「ウチのリーダーも見た目は魔術師っぽくないけどな。」

「聞こえてんぞ。」

後ろでゴチャゴチャ言っている野郎どもは無視します。

二人ほど、後で闇討やみうちしますが。ゲヘヘヘヘ。(真っ黒い笑顔)

闇討やみうちする方法を楽しく考えながら、私はクララと一緒に歩き続けます。



日没まで森の中を歩きました。

今日はここで野営です。

疲れ切っているクララを座らせて休ませます。

ブーツを脱がしてクララの足に【ヒール】を掛けてから、テントの設置や夕食の準備を手伝いました。


夕食を食べ終えてくつろいでいたところで、昼間ぶちのめしたナンパ野郎が近付いて来ました。

少し離れたところから、クララに向かって何やら寝言ねごとっぽいことを言っています。

クララはうつらうつらしていて何も聞いていないのですが、ナンパ野郎は気付いていない様です。

あそこまで行ってクソうざいナンパ野郎をぶちのめしてやりたいのですが、私がこの場所を退いてしまうと、クララがコロリンところがってしまいそうなので動く事が出来ません。

くそう。

取り敢えず、手近てぢかに投げられる物がないか探します。

ですが、見付かりません。

ちっ。

もう、ショートソードでいいや。

そう思って抜こうとしたら、クソうざいナンパ野郎は片手を上げて空を見上げながら「【ファイヤーアロー】。」と言って、ぶっ倒れました。

「………………。」

何がしたかったのかな?

まぁ、自分から森の養分になっていくスタイルは評価してあげなくもないですが。

静かになったので、いつの間にか寝ていたクララを背負ってテントに入り、一緒に寝ました。



翌日の早朝。

お花を摘みに行った帰りに、やりの練習をしている男性を見掛けました。

その姿を、何となくながめます。

彼の持っている槍は、やや短い物の様に思います。

オークと戦うのだから、もっと長い槍にすればいいのに。

そんな事を考えていたら、彼に気付かれました。

「おはよう。」

「おはようございます…。」

挨拶されたので、挨拶を返しました。

特に言葉をわす必要も無かったのですが、何となく先ほど気になった事を訊いてしまいました。

「オーク相手には、それだと短過みじかすぎない?」

「そうかもしれないが、これが使い慣れているからな。」

さらにお話をすると、冒険者になったばかりで、まだオークとは戦った事は無いんだそうです。

「冒険者になったばかりの割には、槍の扱いに慣れている様に見えるけど?」

それに、そこそこの年齢の様にも見えます。

「少し前まで、グシラグ(=西端の街)で衛兵えいへいをしていたからな。」

なるほど。それなら納得ですね。得物えもの短槍たんそうな事も、使い慣れている事も、そこそこの年齢の様に見える事も。

でも、衛兵から冒険者になるというのはおかしな気がします。

衛兵は安定した収入が見込めるのですからね。

私が不思議そうな顔をしていたからでしょうか? 彼が冒険者になった経緯いきさつを話してくれました。

何でも、上司をブン殴ってしまったので、衛兵を辞めて冒険者になったのだそうです。

『上司をブン殴って』というところに、とても親近感をおぼえます。(ニッコリ)

上司をどんな目に遭わせたのかが気になったので、話の先をうながします。(ワクテカワクテカ)

「前に地面が揺れた事があっただろう?」

ああ、ありましたね。初めての経験で驚きました。

でも、翌朝の朝礼でメイド長から『気にする必要はありません。』と言われてからは、すっかり忘れていました。

「あの時、街の南西の方角に煙が上がった様に見えてな。それを上司に報告したら調査に行かされたんだ。」

煙ですか? 少し興味が湧きます。

「見に行ったんだが、結局、何も見付けられなかったんだけどな。」

そうなんだ…。

でも、『地面が揺れる』のと『煙が上がる』のとは、関係が無い様な気がします。

爆発が起きて地面が揺れる事は有るかもしれませんが、あの時は東の端のグシククでも揺れたそうですし。

西の端のグシラグのさらに南西で何か起きても、東の端のグシククまで揺れたりはしないでしょう。

「で、街に戻って上司に『何もありませんでした。』って報告をしたんだが…。『調査に行った分の手当ては出せない。』って上司に言われてなぁ。(ガックリ)」

その時の事を思い出したのか、ガックリしながら彼は続けます。

「どうしてなのか、その理由を訊いたら、大臣から領主様に『調査は不要』と通達があったんだそうだ。で、領主様は『調査が不要なら調査の手当てあては出せないな。』って言ったらしい。」

うわぁ。クズな領主ですねぇ。

「さらに、上司がボソッと『ツケの支払いに回そうと思っていたのに…。』って言いやがってなぁ。」

「それでさっした。『コイツ、手当てあてをピンハネしていやがったな。』と。」

うわぁ。クズな上司ですねぇ。

「で。つい、ぶん殴っちまってな。(イイ笑顔)」

「それは仕方が無いですね。(イイ笑顔)」

それで、どんな感じにボコったんですかね?

期待しながら話の続きを待ちます。(ワクテカワクテカ)

「で。その日の内に街を出て、グラアソで冒険者になったんだ。」

「………そうですか。」

どんな感じにボコったのか具体的な話が聞けなくて残念です。(ガッカリ)


彼は話を変えて、私に訊きます。

「槍に興味が有るのか?」

「いえ、別に。私は治療要員ですし。」

そう言ったら、彼は意外そうな顔をしました。

「治療要員が、槍の長さを気にするのか?」

そう言われれば、確かに変ですね。


私は適当に誤魔化ごまかしながら、クララを起こす為にテントまで戻りました。


(ひとりごと)

西端の街の不運な衛兵さん、ここに再登場。

ナナシたちが新魔法披露で地面を揺らしちゃった事件での彼の話を描き忘れていたので、ここに入れました。

彼も不運ですが、ここに話を入れる為に彼に殴られることになってしまった上司も不運だよね。(←他人事ひとごとみたいに言うな)


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