30 シルフィ、ナナシの凄さを理解する02 太陽の位置を動かす?
< シルフィ視点 >
ネコを撫でてイマス。(ナデナデ)
こうしていると落ち着キマス。(ナデナデ)
昨夜は、ナナシさんの凄さをハッキリと認識することになりました。
元からナナシさんは凄い方だとは思っていましたが、私の認識では不十分だった様です。
ナナシさんの凄さは、私の想像や常識を大分超えていました。
ホントウニ、ナナシサンハスゴイデスネ。(呆然)
「昼食は景色の良いところで食べようか。」
そうナナシさんに言われました。
もう、そんな時間ですか…。
朝食を食べた後、ずっとネコを撫でていたような気がシマス。(ナデナデ)
『景色の良いところ』と言われて、ふと、昨日見た花畑が思い浮かびます。
あの花畑は素晴らしかったですね。
きっと今日も、素晴らしい景色のところへ連れて行ってくれるのでしょう。
そうして、ナナシさんが連れて来てくれた場所は…。
私の想像を超えた素晴らしい景色でした。
私たちは崖の上に立っています。
目の前には、赤い空の下に、紺碧の海が広がっています。
ただそれだけの景色です。
なのに、心を奪われます。
本当に素晴らしい景色です。
海は初めて見ます。
話には聞いていましたが、これ程の大量の水が目の前に在るなんて信じられません。
水平線の向こうまでずっと水が在ると言われても、想像する事すら出来ません。
ただただ言葉を失います。
崖の上に用意されたテーブルで美味しい昼食をいただきました。
食後にソファーでお茶を飲みます。
海を眺めながら。
ネコを撫でながら。(ナデナデ)
ええ。
ネコを撫でながら。(ナデナデ)
こうしていると、とても落ち着きマス。(ナデナデ)
そろそろ落ち着いてきましたので、ずっと不思議に思っていた事をナナシさんに訊くことにしましょう。
「ナナシさん。」
「何かな?」
「ここは何処ですか?」
「ここはね、王都から西にずーっと行ってー…。」
はい。
「海を渡ってー…。」
はい?
「隣の大陸をさらに西に進んだところだね。」
は?
「………………。」
「………………。」
「…う、海を渡った先に大陸が在るなんて話は、初めて聞きましたっ。」
「あー、そうなんだ。」
私はとんでもない事だと思ったのですが、ナナシさんは何でもない事の様に言います。
この差は何なのでしょうか?
ナナシさんは魔法で何処へでも行けるからなのでしょうか?
心を落ち着ける為にこの大陸についてナナシさんに訊くと、この大陸には人は住んでいないのだそうです。
また、動物もあまり居ないみたいです。
この様な場所が海の向こうに在ったんデスネ。
他の気になった事についてもナナシさんに訊こうと思います。
ずっと気になっていましたので。
海よりも、この場所よりも。
「ナナシさん、太陽の位置がおかしい気がするんですが…。」
先ほど食べたのは昼食です。
太陽は真上近くにないといけないはずなのに、かなり低い位置に在ります。
まるで、朝日が登ったばかりの様に。
少し前まで朝焼けの様な空の色でしたし。
どういうことなのでしょうか?
もしかして…。
私は、思い付いたことをナナシさんに訊きます。
「ナナシさんは、太陽の位置を動かせるんですか?」
「ぶふぉっ!」
ナナシさんは、変な声を上げて噴き出しました。
「そんな事は………。してないよ。」
ナナシさんが太陽の位置を動かした訳ではないようです。
ですが、やろうと思えば出来るのでしょうね。
ええ。
サスガ、ナナシサンデスネ。(遠い目)
「地面が巨大な球形をしている事は知ってる?」
「………………。」
ナナシさんが、何かおかしな事を言っています。
どう返答したらよいのか分からず、ただ、ネコを撫で続けます。(ナデナデ)
「水平線を見ると丸くなっているんだけど、分かるかな?」
そう言ってナナシさんは、水平線を指差します。
ナナシさんが指差した先に視線を向け、水平線を見ます。
…少しだけ丸くなっている様に見えなくもない気がします。
ですが、そうなると『水面が曲がっている』という事になってしまいませんか?
それはおかしいですよね? 水面は平らなのですから。
ええ。
水面が曲がったりしたら、おかしいですよね?
私は、そう目で訴えます。上手く声が出ませんでしたので。
「この話は、日を改めて説明するね。」
『日を改めて説明する』ということは、水面が曲がる事は確定なのでしょうか?
今日も、ナナシさんは私の想像を超えていますね。
私は、ナナシさんに頷いて返答しました。また、上手く声が出ませんでしたので。
ホントウニ、ナナシサンハスゴイデスネ。(遠い目)
私は、膝の上に乗せたネコを撫でまくりました。(ナデナデナデナデ)
< ナナシ視点 >
「ナナシさんは、太陽の位置を動かせるんですか?」
「ぶふぉっ!」
シルフィにそんな事を言われて、思わず噴き出した。
「そんな事は………。」
そこまで言って少し考える。『何か方法が有るかも?』と、チラッと考えちゃったから。
だから、「出来ないよ。」ではなく、「してないよ。」って答えてしまった。
間違った事は言ってないけど、変な誤解をされちゃうと困るかな?
この星が自転している事とか、説明した方がいいかもね。
でも、どう言って説明したらいいのかな?
シルフィが、星についてどの程度の知識を持っているのか知らないから、分からないよね。
ちょっと訊いてみよう。
「地面が巨大な球形をしている事は知ってる?」
「………………。」
シルフィは知らなかった様だ。
「水平線を見ると丸くなっているんだけど、分かるかな?」
そう言って、水平線を指差す。
地面が巨大な球形で、自転していて、自分の居る位置によって太陽の位置が違って見える事を説明しようと思ったのだが、シルフィはよく分かっていないご様子です。
シルフィに理解してもらえる様に説明するには、地球儀とか太陽の模型とかが必要になるかな?
それと、どう説明したら理解してもらえるのかを検討する時間も必要になりそうだ。
ここでは説明できないね。
「この話は、日を改めて説明するね。」
そう言って、この話は先送りしました。
無言で頷いたシルフィが、生気の無い目でネコを撫でまくっているのが、少し心配です。
隠れ家に帰って来ました。
今日は、もう何もしないでソファーでのんびりしようと思います。
生気の無い目でネコを撫でているシルフィが少し心配だったので。
『先ほどの、太陽の位置を動かす方法についてですが…。』
ソファーでのんびりしていたら、頭の中で【多重思考さん】にそう言われた。
そして身構える。
嫌な予感がしたので。
【多重思考さん】がこれから言う話がおかしな方向に行かない様に、頭の中で言っておく。釘を刺す意味で。
『動かせないよね?』
俺も『何か方法が有るかも?』と、チラッと考えちゃったけど、まさか、本当に出来ちゃったりしないよね?
でも、出来るとしてもやらないからね。
どんな影響が出るか想像が付かないからね。
『太陽の中心に【ゲート(入り口)】を作って、何処かに【ゲート(出口)】を作れば…。』
そう言って、【多重思考さん】が説明を始める。
まさか、本当に太陽を動かす方法が有るのか?
でも、やらないからね。
出来るとしても、絶対にやらないからね。
『…太陽の中身が【ゲート】を通って押し出され、【ゲート】からドビュー!ってトコロテンの様に出てくると思います。』
その様子を頭の中で想像する。
『そのドビュー!って出たトコロテンの先端が、やがてクルリンと丸まる時が来ると思います。』
ふむ。
『そうなったら、その場所でトコロテンが糸こんにゃくの様に纏まって、やがて、その場所に太陽が再構築されそうに思います。そうなれば、『太陽を動かした』ことになりますよね。核融合を起こすまでに何万年とか掛かるかもしれませんが。』
『………………。』
『………………。』
何だか、出来ちゃいそうな気がシナイデモナイデスネ。(呆然)
念の為、【多重思考さん】に釘を刺す。
『やるなよ。絶対にやるなよ。』
『………なるほど。』
『『なるほど。』ぢゃないよっ、『なるほど。』ぢゃ! そう言われると怖いわ! 絶対にやるなよ! フリぢゃないからな! 絶対にやるなよ! フリぢゃないぞ!』
『ハイハイ。』
『本当にやるなよ!! 絶対にやるなよ!! 本当にフリぢゃないからな!!』
『ワカッテマスヨ。』
『全然信用できねぇ!! 本当にやるなよ! 絶対にやるなよ! 本当にフリぢゃないからな!』
この後、【多重思考さん】にシッカリと釘を刺すのに、大分疲れました。




