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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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29 シルフィ、ナナシの凄さを理解する01 魔法の使い方で


< シルフィ視点 >


ナナシさんに連れられて、ナナシさんが作られた畑と花畑はなばたけを見に行きました。


荒野では、魔法を使って畑を作る様子を見せてもらいました。

小石をのぞく事も、畑をたがやす事も、ナナシさんは簡単に魔法でしてしまいました。

また、森をひらいて、綺麗で大きな花畑はなばたけをいつの間にか作っていました。

さすが、ナナシさんですね。

かなり驚きましたが。


ナナシさんのかくに帰って来ました。

ナナシさんがれてくれたお茶を飲んでくつろぎます。

少しのんびりしてから、私はナナシさんに訊きます。

「ナナシさん、あの大きな花畑はなばたけって、何時いつの間に作ったのですか?」

「えーっと………。」

ナナシさんは、そう言って少し考えた後。

「少しずつ、コツコツとデスヨ。(汗)」と、言いました。

ナナシさんはそう言いましたが、ナナシさんはほとんど王宮に居たはずです。

食事の時間もお茶の時間も、私と一緒に居たのですからね。

それなのに、どうして森の中にあれ程の大きさの花畑はなばたけが作れたのでしょうか?

『少しずつ、コツコツと』と言われても理解できません。

もう少し詳しく訊こうとしたら、ナナシさんが言います。

「そろそろ昼食の用意をシナイトネ。(棒)」

昼食には、まだ少し早い気がします。今朝は起きた時間が遅かったので。

でも、『昼食の用意』って言いましたね。

王宮を離れてからの最近の食事は、王宮の厨房ちゅうぼうで作ってもらった料理をテーブルに並べるだけでしたので、『用意』と言うほどのものは必要ありませんでした。

ですので、『昼食の用意』と言われて、少し不思議に思いました。

私が不思議に思っていると、ナナシさんに訊かれました。

「カツって食べたこと有る?」

「『カツ』…、ですか?」

聞いた事も無い気がします。

ナナシさんに訊きます。

「『カツ』って、どんな料理ですか?」

「肉にころもを付けて油で揚げた料理だよ。」

食べた事は無さそうですね。

「食べた事は無いですね。それと、『コロモ』って何ですか?」

「うーん。言葉で説明しても伝わらなさそうだから、お昼に食べよう。これから作るね。俺も食べたいし。(笑顔)」

笑顔でそう言ったナナシさんは、立ち上がって歩いて行きます。

きっと、キッチンに行くのでしょう。

ナナシさんが料理をする様子を見てみたいと思ったので、ナナシさんの後を付いて行きます。


履物はきものえて、キッチンに上がります。

「やるぞー。(ニコニコ)」

キッチンのはしに立ったナナシさんが笑顔でそう言います。

ですが、その立ち位置では料理なんて出来なくないですか?

ナナシさんは、まるで料理人たちを監督する料理長の様な感じで、キッチンのはしに立っているだけです。

私は、そんなナナシさんの横に並んで立ち、戸惑とまどいながらナナシさんの顔を見上げます。

カシャシャン

そんな音が聞こえたので音がした方を見ると、流し台の横の作業台に四角い金属製の皿が三枚置かれました。

ナナシさんが魔法で出したのでしょう。

そのまま見ていると、四角い金属製の皿の一つに白い粉が入れられました。

その隣の皿には、玉子がポトリと落とされました。

…宙に浮いた玉子から中身だけがポトリと落ちた様に見えましたが、中身だけ転移魔法で取り出したのでしょうか?

そんな事に、転移魔法という希少で高度な魔法を使うなんて…。

そう思いましたが、ナナシさんですからねぇ…。

何とも言えない気持ちで、皿の上に出された玉子を見ていると、玉子の黄身きみが急に大きくふくらんだ様に見えました。

その、ひらに乗るくらいの大きさの黄色い球体は、微妙に色を変えている様に見えます。

多分たぶん、あの球体の内側で玉子がかき混ぜられているのでしょう。

その黄色い球体はすぐに姿を消し、皿の上には黄色い液体が残りました。

やはり、玉子をかき混ぜていた様です。

でも、それって、普通はフォークなどを使ってする事ではないでしょうか?

そう思いましたが、ナナシさんですからねぇ…。

三個目の四角い金属製の皿には、つぶあらい、少し茶色い粉が入れられました。

あの粉は何でしょうか?

説明を期待して、ナナシさんの顔を見上げます。

「用意が出来たら、肉に小麦粉を付けてー…。」

そう言って、ナナシさんが説明を始めたので、あの少し茶色い粉の正体については後で訊くことにします。

ナナシさんの説明に耳をかたむけながら、視線を先ほどの金属製の皿に戻すと、宙に浮かぶ金属製の器具でままれたお肉が、最初の皿の白い粉に付けられています。

先ほどナナシさんが『小麦粉』と言っていたので、あの白い粉は小麦粉だった様です。私が知っている小麦粉は、あれほど白くはなかった気がしますが。

「次に、たまごを付けてー…。」

両面に小麦粉を付けられたお肉が、隣の皿に入ったたまごひたされます。

これも両面です。

「そうしたらパン粉を付けてー…。」

三個目の皿の中身は『パン粉』だった様です。

パン粉の上に先ほどのお肉が置かれ、その上にパン粉が掛けられました。

そして、何かに上からギュッと押え付けられた様に見えました。

「それを、もう一枚やってー…。」

もう一枚のお肉が同じ工程をて、同じ物が二枚出来上がりました。

「これを、油で揚げます。」

ナナシさんがそう言うと、パン粉とパン粉まみれのお肉が乗った金属製の皿が、フワフワと浮いた状態でキッチンの奥に向かいます。

金属製の皿から、金属製の器具でまみ上げられたパン粉まみれのお肉が、なべに入れられます。

ジュワー

そんな音が聞こえてきます。

いつの間にか置かれていたあのなべの中には、ねっせられた油が入っていたみたいです。

ジュワー

もう一枚のお肉もなべに入れられ、もう一度音がしました。

『ジュー』とか『パチパチ』とかいう音が聞こえてきます。

それと、宙に浮いている、先ほど肉をまみ上げていた器具が開いたり閉じたりするカチカチという音も。

妙に人間くさい動きをしています。あの器具を手に持つ人の姿が見える様です。(苦笑)

「一度、ひっくり返して…。」

ナナシさんがそう言うと、宙に浮いてカチカチと音を立てていた器具がなべの中のお肉をまんで裏返うらがえしました。

ジュワー ジュワー

また、そんな音が聞こえてきます。

そして、再びカチカチという音も。(苦笑)


少し待ち…。

なべの中からお肉がまみ上げられ、宙に現れた石の板の上に置かれました。

その石の板はフワフワとこちらに来て、作業台の上に置かれました。

いつの間にか、四角い金属製の皿は片付けられていました。

「これを切るよー。」

スパパパパ スパパパパ

ナナシさんがそう言うと、『スパパパ』と軽い音がして、石の板の上に置かれていたお肉が切られました。

「これをお皿の上に乗せてー…。」

細く切った野菜がられているお皿が作業台の上に現れ、そこに切られたお肉が移されます。フワフワと宙に浮いて。

「これにソースを掛けてー…。」

宙に現れたビンから、これも宙に現れた大きめのスプーンにソースがそそがれ、それがお肉に掛けられました。

「これで、オークカツの完成だよー。(笑顔)」

そう、ナナシさんは笑顔で料理の完成をげました。

ですが…。

ナナシさんは立ったままで何もしませんでしたね…。

ナナシさんは何もしなかったのに料理が完成しました。私の目の前で。

「………………。」

「ぢゃあ、居間に戻って昼食にしようか。」

「………………。」

私は、ただうなずいて、ナナシさんの後を付いて居間に戻りました。


ナナシさんが作った料理は、オークの肉を使った『オークカツ』というのだそうです。

美味おいしかったです。

ええ。

とても美味おいしかったです。


とても美味おいしかったのですが、何だか疲れてしまいました。

ただ料理をしているところを見ていただけでしたのに…。

いえ、あれを『料理をしているところ』と言ってしまっていいのでしょうか?

よく分かりませんね。

なんて言っていいのかも、何をしていたのかも。(遠い目)

そんな事を考えて、私は思わずつぶやきます。

今までに何度も言っていた、その言葉を。

「さすが、ナナシさんですね。(呆然)」



昼食を食べた後。

私は、のんびりとひざの上に乗せたネコをでながら過ごしました。

とても疲れてしまいましたので。(ナデナデ)

ええ。

とても疲れてしまいましたので。(ナデナデ)

そのままずっと、ネコをでながらごしました。



いつもの様に夕食を済ませた後。

私はソファーでくつろぎながら、ひざの上に乗せたネコをナデナデします。

とても落ち着きます。(ナデナデ)

ええ。

とても落ち着きます。(ナデナデ)


「そろそろお風呂に入って。」

ナナシさんに、そう言われました。

もう、そんな時間でしたか。

ひたすらネコをナデナデしていたので、気が付きませんでした。(ナデナデ)


「お風呂場に新しく魔道具を設置したから、その説明をするね。」

そう言ったナナシさんに手を引かれて、私はお風呂場に向かいます。


浴槽よくそうのところまで来ました。

見ると、浴槽よくそうの中には、昨日には無かった暖炉だんろ煙突えんとつみたいな物と、それに取り付けられた大きなネコの顔の彫像ちょうぞうが在りました。

そのネコの彫像ちょうぞうの口からはお湯が出ています。

どうして、ネコの口からお湯が出ているのでしょうか?

そう疑問に思っている私に、ナナシさんが言います。

「これはね、お湯の温度を調節する為の魔道具。『熱く。』って言うとあの下からお湯が横方向に出てグルグルとお湯が攪拌かくはんされるんだよ。お湯の温度を下げたい時は『ぬるく。』って言ってね。」

「はぁ…。」

「それぢゃあ、ゆっくりしてね。」

そう言って、ナナシさんは居間に戻って行きました。


お風呂を堪能たんのうします。

「ふわぁーー。」

思わず、そんな声が出ます。

お風呂は本当に気持ちがいいですねー。

お風呂の気持ち良さに身を任せ、のんびりとします。


ふと、大きなネコの顔の彫像ちょうぞうが視界に入りました。

ジッと見ます。

ネコの顔に見えます。そして、その口からはお湯が出ています。

でも、どうしてネコなのでしょうか?

ネコに似た何かの魔物の彫像ちょうぞうなのでしょうか? 普通のネコよりも立派な感じがしますし。

でも、水を吐き出すネコに似た魔物なんて居ましたでしょうか?

よく分かりませんね。

後で、ナナシさんに訊きましょう。

私は、気持ちのいいお風呂を、のんびりと堪能たんのうしました。


お風呂から上がって居間に戻ると、入れ替わりにナナシさんがお風呂に向かいました。

ソファーに座り、ひざの上に乗せたネコをでながら、ナナシさんが置いていってくれたみかんジュースを飲んで、まったりとします。

王宮に居る時と違って、すっごくのんびり出来ますね。

こんなにのんびりしてしまうと、王宮に帰りたくなくなってしまいます。

そんな事を考えている事をお母様に知られたら、怒られてしまいますが。

クリスティーナも怒っているかもしれませんね。机の上に書類を積み上げながら。

白紙の紙を混ぜて、仕事が沢山たくさん溜まっている様に見せ掛けていそうです。クリスティーナのことですから。

積み上がっているであろう書類の山を想像すると、さらに王宮に帰りたくなくなりますね。

うん。

もっと、ここでのんびりしていましょう。

ええ。

そんな事を考えながら、ひざの上に乗せたネコをでまくりました。(ナデナデ)


ナナシさんが戻って来ました。

そして、立ったままみかんジュースをゴクゴクと飲んでいます。

手を腰を当てた、そのやたらと堂々とした飲みっぷりには、一体いったい、どのような意味があるのでしょうか?

その堂々とした飲みっぷりに、何だか笑いが込み上がってきます。(ふふふ)


それはそれとして。

お風呂場の魔道具のネコの彫像ちょうぞうについて、ナナシさんに訊きます。

「ナナシさん。お風呂場に新しく作られた魔道具なんですけど、どうしてネコなんですか?」

「えーっと…。」

私の質問に、ナナシさんは少し考え…。

「…そう言えば、お湯とは何の関係も無かったね。」

と、自分でも驚いている様な感じで言いました。

「それじゃあ、どうしてネコを?」

「えーっと、前にあんな感じの物を見た事が有ったから…、だね。でも、ネコとお湯には何の関係も無かったね。」

そう言ったナナシさんは、「どうしてなんだろう?」と言って、首をかしげています。

ナナシさん自身も、よく分かっていなかったみたいです。


しばらく考えていたナナシさんが考えるのを諦めた様なので、もう一つの訊きたかった事を訊きます。

「ナナシさん、あの魔道具は、いつ作ったのですか?」

「昨日の夜。」

「『昨日の夜。』って…。」

アッサリとした返答がナナシさんから返って来たのですが、その返答に私は戸惑とまどいます。

昨夜は、ナナシさんがお風呂から戻って来てからすぐにベッドに入りましたので。

ベッドに入ってから朝まで、私はずっとナナシさんに抱き着いていたはずです。

あの様な大きな魔道具を作れたはずがありません。

おかしいですよね。

そう、私が不思議に思っていると、ふと、ある可能性に気が付きました。

私は、その可能性について、ナナシさんに訊きます。

「もしかして…、ベッドの中に居ながら、あの魔道具を作ったのですか?」

「えーっと………。そんな感じ?」

『そんな感じ?』とナナシさんは微妙な言い方をしましたが、そんな事は可能なのでしょうか?

ふと、今日の出来事の中に、よく考えるとおかしかったことが有った事を思い出します。

「もしかして、別の場所に居るネコを転移魔法で連れて来ることが出来たり?」

「出来るねぇ。」

ナナシさんのその返答を聞いて、さらに訊きます。

「それじゃあ、ここに居ながらでもキッチンで料理が出来たり?」

「出来るねぇ。」

「王宮に居ながら、花畑はなばたけを作ることも出来てしまったり?」

「出来るねぇ。」

「王宮に居ながら、オークキングを倒したり?」

「あー、やったねぇ。」

「………………。」

「………………。」

「………サスガ、ナナシサンデスネ。(呆然)」


私の口から思わず出たその声は…。


なんだか、自分の声ではない様な感じがしました。(呆然)


(設定)

『四角い金属製の皿』とは、『金属製のバット(容器のほう)』の事です。

また、肉をまみ上げるのに使われている『金属製の器具』は、『トング』の事です。

シルフィは、『バット』も『トング』も知らなかったのです。

どちらも金物屋で売られている一般的な品物で、王宮の厨房ちゅうぼうや、おやつを作っている部署などでも使われています。

ですが、この様に料理をしている時に使われる器具などは、王女様であるシルフィには目にする機会が無かった為、知らなかったのです。

ちなみに、野球で使うほうの『バット』はこの世界には在りません。(当たり前だね)


(今回の、このお話は)

「さすが、ナナシさんですね。(笑顔)」

と、よく分からずにそう言っていたシルフィが、ナナシの能力の凄さを認識して…。

「サスガ、ナナシサンデスネ。(呆然)」

と、なった。そんな、『何周遅れだよ!』って言いたくなるようなお話でした。

そんなお話が、あと二話続きます。


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