26 ナナシ、ネコ型ゴーレムを試作する
シルフィに、何日間か過ごすことになるこの隠れ家の中を案内して、居間兼応接間に戻った。
ソファーで寛ぎながら、これからのスケジュールを考えた後、俺は、メイド長に頼まれた事に取り掛かることにした。
メイド長に頼まれたのは、ネコ型ゴーレムの試作だ。
ダンジョンに行くように頼まれたあの日。
俺の部屋を出て行く王様と王妃様と大臣に続いてメイド長も部屋を出て行く…、と思ったら、メイド長はドアのところでススッと後戻りしてドアを閉め、俺のところにやって来て頼みごとをしたのだった。
『ネコ型ゴーレムを作ってもらえないかしら?』と。
ネコ型ゴーレムは、前に一度、作ってみたことがある。
だけど、上手く歩かせることが出来なかったので、ペンギン型ゴーレムを作ることにしたのだった。
その後、特にやる気も起きなかったので、ネコ型ゴーレムを作ろうとは思っていなかった。
でも、メイド長に頼まれた時に、『ダンジョンに行っている間、ヒマでしょう。(ニッコリ)』なんて言われちゃったら、断れないよね。
ダンジョンに行っていてヒマになる訳が無いのに、メイド長はどこまで把握しているんですかね?
まぁ、それをメイド長に訊いたところで、素直に答えてはくれないだろう。
また何かの交渉のネタに使われてしまいそうで、少し…、いや、かなり心配です。
それはそれとして。
ぢゃあ、ネコ型ゴーレムを作ってみますかね。
最初にやる事は、木を削ってネコの骨格を作る事かな?
そう思ったら、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】に言われた。
『試作品は既に出来上がっています。』
ほう。
メイド長に頼まれてから数日経っているから、その間に作ってくれていたみたいだね。
【無限収納】から出されて、ソファーに座る俺の足元に置かれたソレを見る。
木で作られたネコの骨格だ。
バラバラにならずにちゃんと自立しているところを見ると、既にゴーレムになっているみたいだ。
頭の中で【多重思考さん】が説明してくれるのを聞くと、『歩くプログラム』と『障害物を避けるプログラム』が既に組み込まれているそうなので、早速歩かせてみよう。
「歩け。」
そう言うと、ネコ型ゴーレム(の骨格)は歩き出した。
カシャ カシャ カシャ カシャ
俺の隣に座るシルフィの前を通り過ぎ、そのまま壁に向かって歩いて行く。
俺はネコ型ゴーレムに近付いて、歩く様子をじっくりと眺める。
足の運び方などに注視するが、歩き方に違和感は無い。
以前、俺が作ろうとした時は上手く歩かせられなかったので、ちょっとだけ嫉妬してしまいます。
頭の中で【製作グループ】の誰かがドヤ顔をしている様な気がして、少しだけイラッとします。(苦笑)
カシャカシャと歩くネコ型ゴーレム(の骨格)が壁に近付く。
それを見て、『最初に作ったネコ型ゴーレムは壁にブチ当たったんだよなぁ。』と、上手く方向転換が出来なくて壁にぶつかって傷を付けた事を思い出した。
壁に近付いて行くネコ型ゴーレムをジッと見る。
ネコ型ゴーレムは、壁の手前で体を左に曲げながら足を出す方向を微妙に変えて方向転換して、壁から離れる様に歩いて行く。
うーむ。
全身を使って滑らかに方向転換した様に見えたね。
俺が最初に作ったネコ型ゴーレムとは雲泥の差です。
本当にいい動きをします。
頭の中で感じる”ドヤ顔”度がさらに上がった気がしてイラッとしますがっ。(苦笑)
ネコ型ゴーレムをそのまま歩かせて、じっくりと観察しました。
しばらくの間、ネコ型ゴーレム(の骨格)が歩くのを眺めた。
ふむ。
もうこれでいいんぢゃね?
そう言いたくなる、見事な完成度です。
頭の中で感じる”ドヤ顔”度がMAXになっている気がして鬱陶しいです。
正直、何も見なかったことにして【無限収納】に放り込んでやりたくなります。(←おい)
…冗談デスヨ?(←かなり怪しい)
この見事なゴーレムを作り上げた【製作グループ】を褒めてあげた方がいいんだろうね。
少しだけ嫉妬しながら、頭の中で褒める。
『とても良い出来だね。ここまでプログラムを仕上げるのは大変だったんぢゃない?』
『我々【ネコグループ】が頑張りました。(フンスッ)』
そう胸を張るかの様なイメージが頭の中に浮かびます。
でも、ちょっと待とうか。
『【ネコグループ】って、なに?』
初めて聞くグループ名です。
いつの間にか新しいグループが作られていた様だね。これまでにも何度か有りましたがっ。
『ネコのお世話をしているグループです。』
『………。』
『………。』
あれ? 説明終わり?
もっと説明プリーズ。
『【ネコグループ】は、この国の全ての街でネコのお世話をしています。怪我や病気を治療したり、エサを与えたり、飼ってくれそうな家にネコを送り込んだりしています。』
『いつの間にそんな事を…。それと、『飼ってくれそうな家に送り込む』って、『ぬこぬこネットワーク(NNN)』かよ!』
俺のツッコミを無視して続ける。
『そんな我々の今の最大の関心事は、メイド長の家に送り込む三匹目の選定です。』
『何やってんの?! ホントに何やってんの?! それと、既に二匹送り込んでんのかよっ! ホントに何やってんだよっ!』
そう、頭の中でツッコみます。
全力でツッコんだのは、久しぶりな気がします。
それはそれとして。
気を取り直して、ゴーレムに話を戻します。
『このネコ型ゴーレムの動きは、ネコの動きを観察してプログラムを作り上げたのかな?』
『そうです。【目玉】を使ってネコを観察しまくって、プログラムを作り上げました。(フンスッ)』
その様子を想像すると、『質の悪いストーカーかよ!』と言いたくなりますが、ツッコミはもう品切れです。
ネコ型ゴーレムを歩かせるプログラムの完成度は素晴らしいものです。
でも、ネコ型ゴーレムを完成させるには、骨格を綿で包んだり、毛皮を被せたりしないといけないので、被服部に頼まないといけないので、王宮に帰らないと完成させることが出来ないね。
今は完成させられないが、隠れ家に居る間に出来る範囲で仕上げておこう。
ネコ型ゴーレム用に新たに作らなければならないプログラムって、今確認した『歩くプログラム』の他に何か有るかな?
そう思ったら、頭の中で【製作グループ】の誰かが教えてくれた。
『他には、『座る』、『寝転ぶ』、『長く伸びる』、『ジャンプする』、『ネコパンチする』などのプログラムが必要になると思い、これらを既に作り終えています。(フンスッ)』
意外と多かったね。
確かにこれらは、ペンギン型ゴーレムのプログラムをそのまま流用する事は出来なさそうだね。
でも、『ネコパンチする』なんてプログラムまで作ったのかよ…。
『頑張って作りました。(フンスッ)』
そう、胸を張るかのように言いますが、『頑張る対象はそれでいいのか?』とかいう気持ちにもなります。
『ですが、ネコパンチするタイミングをランダムにする訳にもいかない気がしますので、実装するのは難しい気がします。』
そだねー。どういう条件でネコパンチするように設定したらいいのかなんて分からないよねー。(苦笑)
そう言われて、『ジャンプはどういうタイミングでするのかな?』とか、『どのくらいの高さのジャンプをするのかな?』とかが気になったので、訊く。
『そこんところどうなのー?』(←訊き方が雑です)
『ジャンプをするタイミングは、ちょうどいい高さとポジションの条件が揃った時に、10%の確率でジャンプします。』
なんだそりゃ。
『それはそれでどうなの?』って思うけど、乱発しなさそうだからそれでいいかな?
『それと、ジャンプする高さは40cmくらいです。』
もっと高くまでジャンプ出来そう気がするけど、そのくらいでいいか。
ジャンプしてテーブルの上に飛び乗る様子を想像したら、新たに気になる事に気付いたので訊く。
『ジャンプする先の障害物の有無とかは、どうやって判断するの?』
『その判断はしません。そもそもネコも判断していませんので。』
そだねー。判断してないよねー。
無駄にリアルだね。(苦笑)
テーブルに飛び乗ったネコが花瓶なんかを倒す様子が容易に想像できてしまうよっ。
だけど、ネコだしなー。
それでいいよね。
『ネコパンチ』と『ジャンプ』はそれでいいね。
さっき言われた、『座る』、『寝転ぶ』、『長く伸びる』はどうするのかな? 『待機モード』でも作るのかな?
『既に在る『ぬいぐるみモード』に組み込みましょう。』
ほう。
ペンギン型ゴーレムの『ぬいぐるみモード』は、ただ動作を止めるだけだったね。
『歩行モード』のままだと抱きかかえた時にジタバタしてしまうから、その対策の為に作ったモードだったね。ニーナとケイトはまったく使っていなかったけどなっ。
ネコ型ゴーレムの場合は、『ぬいぐるみモード』に切り替えた時にランダムでいくつかの姿勢を取る様にしよう。座ったり、寝転んだりね。
【ネコグループ】と相談して、ネコ型ゴーレムの『ぬいぐるみモード』は以下の様になった。
「ぬいぐるみモード。」のワードで『ぬいぐるみモード』に移行する。
その場で姿勢を維持した状態で脱力して、抱きかかえられるのを待つ。
10秒経っても抱きかかえられなかった場合は、その場で、ランダムで次のいずれかの姿勢をとる。
『香箱座り』、『寝転ぶ』、『ニャンモナイト』、『うつ伏せで長く伸びる』、『 開き<レア>』。
うむうむ。
これで良さそうだね。(満足)
他に新たに作らないといけないプログラムって、何か有るのかな?
あ。鳴き声はどうしよう?
ペンギン型ゴーレムは、『キュウ』とか『クウ』とか鳴かせたけど、『にゃあ』とか鳴かせられるのかな?
ペンギン型ゴーレムの場合はクチバシを振動させて音を出したけど、それと思じ方法では『にゃあ』とかいう音は出せない気がするな。
『にゃあ』と鳴き声を出す為には、その音を発生させる仕組みを別に用意しないといけなくなるのかな?
色々と試作をしてみないといけなさそうだ。
これは【製作グループ】に丸投げかな?
そうしよう。
よろしく。(←相変わらず丸投げが雑です)
他には…。
尻尾はどうしようかな?
感情を表す為に動かす?
でも、ゴーレムのプログラムに『尻尾』なんて項目は有るのかな? そもそも、尻尾の生えたゴーレムって居るのか?
ふと、頭の中に、〇ジラの様な姿をしたゴーレムが思い浮かんだが、そんな姿をしたゴーレムなんて居ないんぢゃないかな。
そんなことを考えていたら、頭の中で言われた。
『『尻尾を動かすプログラム』も作成済みです。杖を作った時のプログラムが流用できましたので。』
杖?
頭の中に思い浮かべていた〇ジラの様なゴーレムを消して、前に作った杖型ゴーレムを思い出す。
ああ、あの二本目の杖か…。
そう言われてみれば、ネコの尻尾みたいな動きをしていたね。うにょうにょと。杖なのに。(苦笑)
『尻尾を動かすプログラム』も作成済みなのは分かった。
でも、どういう条件で、どういう動きをさせたらいいのかな?
ネコを飼った事が無いから分からないや。
『我々にお任せください。我々の持つ膨大なデータで見事に再現してみせましょう。』
今の声は、きっと【ネコグループ】の中の誰かだろう。
彼らに任せた方が、良いものが出来上がりそうだね。
質の悪いストーカーみたいだったからね。(苦笑)
ぢゃあ、それは【ネコグループ】に頼もう。
よろしく。(←やっぱり丸投げが雑です)
これで、ネコ型ゴーレムの完成が見えてきたね。
【ネコグループ】の活躍(笑)が光ってね。
あとは、『『にゃあ』と鳴かす方法』と『尻尾を動かす条件』を【製作グループ】と【ネコグループ】に検討してもらって、実装して確認すれば、ここで出来る事はお終いだね。
そして、王宮に帰った後で、被服部のエイラさんに協力してもらって、仕上げてもらいましょう。
うむうむ。
完成の目途が立ったので、満足しました。
そういえば、シルフィをほったらかしにしてしまっていたね。ネコ型ゴーレムに意識を集中し過ぎて。
冷や汗を掻きながら様子を窺ってみたら、シルフィはネコと戯れていました。
【ネコグループ】がここに連れて来たのでしょう。
いつの間にか、部屋の中を何匹もネコがウロウロしています。
ですが、シルフィがニコニコしているから、それでいいや。
部屋の中を歩くネコを眺めながら、のんびりとしました。
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