25 ナナシ、シルフィに隠れ家を案内する
ダンジョンマスターのダーラムさんのところへ行く用事を済ませ、シルフィを連れて隠れ家にやって来たナナシ。
ダーラムさんに会いに行く用事が二日で済んでしまうのは早過ぎるので、何日か隠れ家で過ごす事にした。
取り敢えず、シルフィにこの隠れ家の中を見せることにしたナナシだった。
ダンジョンでの用事を済ませた俺とシルフィは、今、隠れ家の居間兼応接間に居る。
ここを、転移して来る場所に指定しているからね。
この居間兼応接間は、前にシルフィを連れて来た事が有るから案内は省略して、シルフィを連れて、奥に在る寝室に向かう。
「ここが寝室ね。本来は来客用の寝室だけど、ここに居る時はこの寝室を使ってる。」
そう言ってドアを開け、中をシルフィに見せる。
部屋の中は、ベッドが二つとサイドテーブルが有るだけだ。
シンプルだね。
”ベスト”かどうかはしらんけど。
そういえば、この寝室は前に一度見せていたかな?
シルフィが危険な状態(笑)に陥っているところを助けてここに連れて来た時に、一緒に居た娘をここに寝かせたんだったね。すっかり忘れてました。
ドアを閉め、他の部屋を案内しに行こうとしたら、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】に訊かれた。
『ベッドを、昨夜使った物に入れ替えますか?』
ああ、そうか。
きっとシルフィは一緒に寝たがるだろうから、そうした方がいいね。
『それぢゃあ、お願い。』
頭の中で【多重思考さん】に頼んで、案内を続ける。
居間兼応接間を横断して部屋を出たところには、洗面所とトイレが在る。
左側に洗面所が在り、右側のドアがトイレだ。
「ここが洗面所とトイレでー…。」
そう言いながら歩き…。
「ここが玄関ね。」
と、玄関までまとめて説明する。
「もっとも、玄関が在っても、誰かが訪ねて来るなんて事は無いんだけどね。」
誰かが訪ねて来る事も無く、ここへの出入りはほとんど【転移】で行っているので、『無くても良かったかも。』と思わなくもない玄関です。(苦笑)
玄関から廊下に入り、南側の建物に向かう。
「この廊下で隣の建物に繋がってるんだ。」
シルフィにそう説明しつつ、廊下を突き当りまで歩き、引き戸を開ける。
「ここのドアは、こうやって横にズラして開け閉めするんだ。」
そうシルフィに説明するが、そういえば、王宮にはこんなドアは無かった気がするね。
引き戸を開けた先の建物は、床が少し高くなっている。
ここから先は、靴を脱ぐ事にしているので、その境という意味でね。
「こちらの建物は、ここで靴を脱ぐ事になっているんだ。」
そうは言ったものの、今はブーツを履いているから、すぐには脱げなかったね。
【無限収納】からイスを出してシルフィを座らせ、ブーツを脱いでもらう。
それと、昨夜テントの中で使っていたサンダルも出して、一度それに履き替えてもらおう。
シルフィの隣にもう一つイスを出して、俺もブーツを履き替えます。
ブーツとイスを【無限収納】に仕舞い、改めて隣の建物に行く。
一段高くなっているところでサンダルを脱いでスリッパに履き替えた。
こちらの建物に入ってすぐの場所は、キッチンだ。
「ここがキッチンね。何も無いけど。」
キッチンではあるけれど、ここには竈もコンロも無く、蛇口の無い洗い場には水を入れておく甕も無い。
そして、何も入っていない棚と、何も置かれていない作業台が在るだけです。
キッチンと言われても、いまいちよく分からない部屋です。
シルフィも不思議そうな表情をしていらっしゃいます。(苦笑)
そんなシルフィに説明(=言い訳)する。
「食器とかは魔法で収納してるし、水も魔法で出すし、加熱する時は鍋やフライパンを直接発熱させるんで、キッチンには何もないんだ。」
完璧な説明なんですが、思わず、『キッチンとは?』と言いたくなる様なキッチンです。(苦笑)
改めて考えると、『無くても良かったかも。』と思わなくもないですね。(玄関に続いて二つ目)
でも、揚げ物をすると油が跳ねるから、キッチンは必要だよね。うん。
そう思ったけど、『それは結界を張れば済んぢゃうよね。』と気が付いて、思わず遠くを見詰めてしまいました。
気を取り直してっ。
物が無い割に説明が長くなったキッチン(笑)を通って、隣の部屋に向かう。
「ここでスリッパを脱いでね。」
この先は、”寛ぎの裸足スペース”なので。
そう言って、部屋の手前でスリッパを脱いでもらって、中に入った。
この部屋は、『畳っぽいもの(=畳表の代わりに革を張ったもの)』を敷き詰めて掘りごたつを置いただけの部屋だ。
「ここは居間。ゴロゴロしたり、こたつに入ってのんびりする部屋だよ。」
この部屋の南側はガラス戸になっていて明るく、ガラス戸の向こうは縁側だ。
暖かそうな縁側の誘惑を振り切り、先に奥の部屋に案内する。
この部屋も、『畳っぽいもの』を敷き詰めただけの部屋だ。
「この部屋は、寝室の予定の部屋。ベッドは置かずに直に布団を敷く予定で、今は何も置いてない。」
ここは本当に何も無い部屋です。
『畳っぽいもの』を作る前から使っている客間のベッドだけで足りてしまっているので。
来客なんて来ないからね。
居間に戻り、縁側へ向かいます。
ガラス戸を横にズラして、シルフィと一緒に縁側に出た。
「この廊下は『縁側』って言って、日向ぼっこに最適な快適空間なんだよ。」
完璧な説明だね。うむうむ。
「この突き当たりはトイレね。こちらの建物とあちらの建物にトイレが一つずつ在るから。」
そう説明して、この暖かい縁側から、シルフィと二人で外の景色を眺めました。
まぁ、”外の景色”と言っても、ただの森なんですがね。
『これで全部説明したかな。』と思ったのが、まだお風呂場があったね。
お風呂場に行こう。
「もう一つの建物を案内するね。」
シルフィにそう言って、縁側から居間に戻る。
居間からキッチンを通って、廊下に出る。
サンダルを履いて、廊下を少し歩くと右側に引き戸が在る。
その引き戸を開けて先に進みます。
短い廊下の突き当たりにドアが在り、その向こうがお風呂場の建物だ。
ドアを開けて建物に入ると、少し進んだ先から下り階段になっている。
他の建物は、湿気対策として床を高くして作られているので、この建物とは高さがかなり違うので。
直角に曲がった階段を降りたところが脱衣所だ。
『ここが服を脱ぐ場所で…。』とシルフィに説明しようとしたのだが、この国にお風呂って無かったよね。
いきなり『服を脱ぐ場所』なんて言ったら、驚かれちゃうよね。(苦笑)
どうやって説明しよう?
先にお風呂の説明をしないと駄目かな? 駄目だよね。
脱衣所の説明を飛ばして、ガラス戸を開けてお風呂場に入る。
「ここはお風呂だよ。」
「オフロ?」
やっぱり知らない様です。
「ここにお湯を入れて、服を脱いだ状態でお湯に浸かるの。気持ちいいよ。」
「………。」
石で作られた浴槽を指差しながらそう説明をしたのだが、シルフィはよく分かっていないご様子です。
「隣の部屋は服を脱ぐ場所で、こっちで体を洗って、お湯に浸かるの。とっても気持ちがいいんだよ。」
「…へぇー。」
シルフィの反応が薄いです。よく分かってないんだね。
でも、今は、まぁいいや。
この隠れ家に居る間に、お風呂の素晴らしさを教えてあげましょう。
むふふふ。(←怪しい笑み。お巡りさん、こいつです。)
最初の居間兼応接間に戻って、隠れ家の案内を終えました。
何日間か、この隠れ家で、シルフィと二人でのんびりします。
シルフィと一緒にソファーに座って寛ぎ、俺はこれからの何日間のスケジュールを考えるのでした。




