24 勝負11 ソーンブル侯爵サイド01 出発前
少し時間を遡って、勝負が始まった頃の、ソーンブル侯爵サイドのお話です。
(出てくる人名)
ソーンブル侯爵
今回の勝負を仕掛けた側の”首謀者”。
王都の屋敷に滞在し、情報収集したり指示を出したりしている。
バディカーナ伯爵
今回の勝負を仕掛けた側の”代表者”。
ソーンブル侯爵に代表者に祭り上げられた人。
現在、バディカーナ伯爵領のグルバドにて、冒険者たちを集めて待機中。
グラストリィ公爵
ナナシのことです。
< ソーンブル侯爵視点 >
「オークの集落を探しに向かわせた者たちは、まだ帰って来ておりません。」
執事からそう報告を受けたワシは、イラつきながら言う。
「どうなっておる? 遅いではないかっ。」
「申し訳ございません。おそらく、オークキングの大きさを確認するのに手こずっているものだと思われます。」
うーむ。
今回の勝負も、討伐したオークキングの大きさを競うのだから、オークキングの大きさの情報も重要だ。オークの集落の位置だけでなく。な。
オークキングがウロウロしている訳が無いのだから、その大きさを確認する事が容易ではないことは理解しているのだが…。
前もってオークの集落を探しに向かわせていたので、余裕を持って討伐に向かわせる事が出来ると思っておったのだが、思っていたほど上手くコトが運んでくれぬな…。
むむむ。
いや、落ち着こう。
我々は、相手側には無い”切り札”を持っているのだ。焦る必要など無い。
そう思い、気持ちを落ち着けてから執事に訊く。
「”あの男”への依頼はどうなっておる?」
「その件なのですが…。」
執事は、少し戸惑った様な声で言う。
「依頼をしに王宮に向かわれた方々は、どなたもお会いになれなかった様でございます。」
「なに? どういうことだ?」
「面会を断られているとのことです。男爵家の当主であっても断られているそうです。」
「無礼な! 何様のつもりなのだあの男は! 平民の分際で!」
公爵という高い爵位を得て思い上がったか! これだから平民は!
今回の勝負にワシが関わっていると思われる訳にはいかぬから今は会えぬが、いずれ貴族というものについて教育してやらねばならぬな。
「いかがいたしましょうか?」
うーむ。
この家の者を会いに行かせる訳にはもちろんいかぬが、オークキングの討伐に向かわせる冒険者たちの準備をしているバディカーナ伯爵にも行かせる訳にもいかぬしな。
誰を行かせたものか…。
…いや、冒険者たちを送り出せば、バディカーナ伯爵の手が空くな。
”あの男”は転移魔法が使えるのだ。冒険者たちを送り出した後でバディカーナ伯爵を王都に呼び寄せても、十分に間に合う。
うむ。
「バディカーナ伯爵に、冒険者たちを送り出したら王都に来るように伝えろ。」
「かしこまりました。」
領地持ちの伯爵家の当主との面会を断ったりは流石に出来ぬだろう。バディカーナ家は古くからある家なのだしな。
常識を知らぬ思い上がった平民だが、周りの者たちが諫めるだろう。
翌日の午前。
ワシの部屋を訪れた執事から、小声で来客を告げられた。
面会を求めて来たのは、先日、仕事を依頼した”裏の仕事”をしている組織の男とのことだ。
奴らには相手側の妨害を依頼したが、まだ”勝負”は始まったばかりだ。
と、なると、報酬を吊り上げる為に来たのだろう。
そんなものに応じる気などさらさら無い。キッパリと断ってやろう。
応接室に行くと、先日会ったばかりの男がソファーに座っていた。
のんびりとお茶を飲むその男を見て『やれやれ』と思いながら、ワシは奴の正面に座った。
内容の無い、つまらぬ雑談をしてから奴が本題に入る。
「オークの集落の位置とオークキングの大きさの情報を買いませんか?」
ふ。何だ、そんな事か。
「既に調査に向かわせておる。そろそろ帰って来るだろう。買う必要など無い。」
そう言って、ワシはキッパリと断った。
だが、奴は表情を変えずに言う。
「ですが、その者たちが無事に帰って来られるとは限らないのではないですか?」
「………。」
ワシは奴の表情を見ながら考える。
まさか、コイツらに捕まっていたりするのか?
…有り得るな。
コイツらからすれば、情報を売るのに邪魔なだけの存在なのだしな。
捕まっているどころか、殺されていたとしてもおかしくはない。
断れば、まだ生きているかもしれぬ有能な情報収集要員たちを失ってしまいかねん。それに、奴らには相手側の妨害に力を振るってほしいのだ。
今、奴らとの関係がギクシャクするのはマズイか…。
ぐぬぬ。
イヤなところを上手く突きおって。
まったく、腹が立つ。
くそう。
だが、止むを得んか。
有能な情報収集要員たちを失ってしまったり、相手側の妨害で手を抜かれるのも困るしな。
不愉快ではあるが、金で済ませられるものなら金で済ますべきだろう。
有能な情報収集要員たちを失うことに比べれば、それほど大きな損にはならぬだろうしな。納得することなど出来ないが。
それに、オークキングを討伐して持ち帰っても、オークキングを入れた【マジックバッグ】を奪われたら勝負には負けてしまうのだ。
妨害が王宮内でしか禁止されていないこの勝負のルールでは、王都に入ってから王宮に行くまでが本当の勝負と言える。
そして、王都で【マジックバッグ】を奪いに来るのは、相手側に雇われた”裏の仕事”をする組織の者たちなのだ。それに対抗する為には、こちらも”裏の仕事”をする組織に頼らざるを得ない。
今、奴らとの関係がギクシャクするのはマズイ。
その事を知った上で、こちらの足元を見おって。
くそう。
執事に支払いを指示し、ワシは応接室を出た。
コイツの顔など見ていたくなどないわ!
執事が部屋に地図を持ってやって来た。
それを受け取り、机の上で広げて見る。
地図には、オークの集落の位置とオークキングの大きさが書かれている。
それと、その場所に向かうのに必要になる目印なども。
ふむ。
ワシが思っていたよりも、まともな情報だったな。
金になると思って、前もって調べていたのだろう。
この内容ならば、支払った金も無駄ではなかったかもしれぬな。
執事に、この地図の写しを作成してバディカーナ伯爵の元に届けさせる様に指示をした。
夕方。
執事から報告を受けた。
「グラストリィ公爵は王宮に不在とのことです。」
「なに? あの男は王宮を離れて何処へ行ったのだ?」
「グラストリィ公爵は、ダンジョンに向かったとのことです。」
「なに?! ダンジョンだと?!」
「はい。」
「いつ戻って来る?」
「いつお帰りになるのかは、分からないとのことです。」
「くそっ。」
それでは、オークキングの討伐を依頼できないではないか!
こんな時にダンジョンになど行きおって!
王宮の連中も、どうして止めんのだ! 王女の夫だろうに!
我々の邪魔をするつもりなのか?! 王宮の連中は!
くそう!
しかし、どういうことなのだ?
我々は、ポーションの価格が高騰している問題を解決させる為に動いておるのだぞ。建前だけだが。
それなのに、何故、国がその邪魔をする?
それに、邪魔をするのなら、何故、勝負を認めたのだ?
どういうことなのだ? 国は何を考えている?
まさか、今回の勝負のルールで”前例”を作る事が目的だったのか?
グラアソは、その為のただのエサだったのか?
…いや、そんなはずはないな。
ポーションの価格が高騰して大勢の者たちが困っているのだ。
国がそんな事をする訳が無いし、大臣も認めぬだろう。
それなのに…。
一体、どういうことなのだ?
まるで分からぬ。
執事を下がらせ、一人になってさらに考える。
今回の勝負には、何か不自然なものを感じる。
まるで、誰かにのせられているかの様だ。
だが、誰が、何を目的としているのだ?
それがさっぱり分からぬ。
うぬぬぬ。
翌朝。
「オークの集落を探しに向かわせた者たちが帰って来ました。」
そう言った執事が、さらに続ける。
「『街の近くまで帰って来たところで何者かに捕えられた。』と言っておりました。」
「そうか…。」
やはり、奴らに捕まっていたのか。
くそう。
だが、すでに金を支払ってしまっている。彼らが無事に解放されたことを喜ぼう。
もちろん、このままで済ます気など無いがな。
執事が差し出した地図を受け取る。
が、執事は何か言いたげな表情をしている。
まさか…。
受け取った地図を机の上に広げて見る。
オークの集落の位置とオークキングの大きさが書かれている。
それと、その場所に向かうのに必要になる目印なども。
その内容は…。
昨日、奴らから買った地図とまったく同じだった。
くそう!
奴らは、我々の情報収集要員を捕らえて情報を聞き出したのか!
そして、その情報を売り付けやがった! このワシに!!
この情報は、元々我々の物ではないか!
「くそう!! コケにしおって!!」
今に見ていろ!
この勝負が終わったら、ひねりつぶしてやるぞ!!
徹底的にな!!
(お知らせ)
一日遅れの更新になりました。どうにも筆が進まなくて。
次回の更新は4/6の予定です。この章の最後までは3日おきの更新でいけると思います。
思いの外、お話が長くなってしまい、「前編」「後編」では収まり切らずに「その後」の章を書くことになってしまいますがっ。
ストックは有りませんが、頑張ります。




