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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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22 勝負09 頭を抱えるクラソー侯爵陣営02end 冒険者ギルドと魔術師ギルドへの対応

(登場人物)

ケイン

 クラソー侯爵の秘書で恋人。

 今回の”勝負”の指揮をクラソー侯爵から任されている。

 オークキングの討伐に急遽同行することになった。

 冒険者たちも魔術師たちも勝手に撤退してしまい、オークキングの討伐を断念しなければならなかった。

レオルク

 魔術師ギルドの幹部の一人。『製造』の幹部。火属性魔法の使い手。

ゴース

 オークキングの討伐(≒オークの集落の殲滅)に参加した冒険者たちのリーダー。



< ケイン視点 >


貴族たちへの対応をゲストロ男爵に任せた翌朝。

冒険者ギルドと魔術師ギルドのギルドマスターをクラソー侯爵邸に呼び出した。


魔術師ギルドのギルドマスターは不在との事で、代わりに魔術師ギルドの幹部の一人だというレオルクと名乗る男が来た。

このレオルクという男。名前を名乗り、『不在のギルドマスターに代わり、魔術師ギルドの代表として来た。』と告げると、訊いてもいない事をベラベラとしゃべり出した。

「ギルドマスターは王都へ行っている。先日のオークの集落の殲滅に、魔術師ギルドが『魔術師でない者』たちを派遣させる様に仕組しくんだ王都の支部長をとらえる為だ。だが、王都の支部長が悪い訳じゃないんだ。彼は買収されていたんだ。今回の勝負をいどんで来た者たちに! その所為せいで前回は失敗したんだ。勝負をいどんで来た者たちの所為せいで! 奴らの所為せいで! 前回の失敗は奴らの所為せいだ!」

レオルクの言った内容には驚いたが、納得もする。

確かに奴らのやりそうな事だ。

レオルクは我々の反応などおかまいなしに、さらに続ける。

「先日、醜態しゅうたいさらしたのは『魔術師でない者』たちだ。奴らは魔術師なんかじゃないんだ! 今度は大丈夫だ。有能な魔術師たちを派遣する。奴らの手口てぐちは我々があばいたんだ! だから前回の様な事にはならないんだ! 今度は間違い無くオークどもを蹴散けちらしてくれる! オークキングを確実に討伐するぞ! 我々魔術師の本当の力を見せ付けてやるぞ!」

「………………。」

「………………。」

レオルクのいきおいに呆気あっけにとられる。

「…意気込いきごみが有るのは分かった。」

取り敢えず、そう言っておく。うるさくてたまららないからな。

だが、魔術師たちを信用する事なんて出来るはずがない。

最初からまともな魔術師を派遣していれば済んだ話だし、魔術師ギルドがおかしな連中を派遣した事実は変わらないのだから。

そして、前回の失敗の原因が、おかしな連中を派遣した魔術師ギルドにある事もな。

何もせずに逃げ出したおかしな連中の所為せいで、残された私たちは森の中をオークどもに追われながら撤退させられる羽目はめになったのだ。

信用する事も許す事も出来ん。

私はレオルクに言う。我々がこの勝負に勝つ為に。

「魔術師ギルドの言う事をそのまま信じる事など出来ん。グラストリィ公爵にオークキングを狩るように依頼しろ。」

我々が直接グラストリィ公爵に頼むことはしたくない。だから、魔術師ギルドからグラストリィ公爵に依頼させる。

王家に借りを作ったと思われてしまうと、あの大臣に何を要求させられるか分かったものではないし、グラストリィ公爵の力で勝負に勝ってもクラソー侯爵(かのじょ)は喜ばないのだからな。

だが、魔術師ギルドからグラストリィ公爵に依頼させれば、『魔術師ギルドが勝手にやった事だ。』と言い訳が立つからな。

レオルクが言う。

「それも、王都に行っているギルドマスターがする予定になっている。」

彼らも彼らで動いていた様だ。

このまま勝負に負ければ、魔術師ギルドには極めて大きな汚点が残るのだからな。

その汚点で、魔術師ギルドが存続し続ける事さえ難しくなるかもしれないのだ。

彼らも、勝負に勝って先日の醜態しゅうたいを少しでも目立たなくしなければならないのだから、グラストリィ公爵に依頼するのも当然の行動だな。


魔術師ギルドの責任を厳しく追及しようと思っていたのだが、この男の所為せい気勢きせいがれてしまった。

今から改めて追及しようという気持ちにはならないな…。

次は冒険者ギルドと話をする事にしよう。



冒険者ギルドのギルドマスターに言う。

「ゴースが勝手に撤退を指示した。これは依頼の放棄ほうきだろう。どういう事なんだ?」

依頼内容は、オークキングを狩って死体を持ち帰る事だったのだ。

オークどもとの戦闘が始まってすぐに多くの魔術師たちが逃げ出したとはいえ、その場にはまだ大勢おおぜいの冒険者たちがほぼ無傷の状態で残っていたのだ。『依頼を放棄ほうきした』と糾弾きゅうだんして当然だ。

冒険者ギルドのギルドマスターが言う。

「魔術師ギルドが用意した者たちが逃げ出した所為せいです。そもそも、魔術師が多く居るという前提ぜんていの上で作戦を立ててそろえた者たちです。その前提ぜんていくずれた以上、彼らが撤退を選択するのは仕方が無いことです。」

そう言って、さらに続ける。

「むしろ、ゴースが撤退する判断をすみやかにくだしたからこそ、大勢おおぜいの者たちが生還できたと思っております。前提ぜんていくずれたまま戦闘を続けていたら、前回の勝負の時の様に全滅していたでしょう。ゴースは正しい判断をしました。」

むむ。ゴースの判断が無ければ、私も今ここに居なかったとでも言いたいのか?

私は、冒険者たちの別のミスを指摘する。

斥候せっこうがミスをして、オークどもを引き連れて来たが?」

「前回の勝負で優秀な斥候せっこうたちを失ったからです。文句でしたら前回の勝負を引き起こした元公爵へお願いいたします。元公爵が王都のギルドマスターを巻き込んだ所為せいで優秀な斥候せっこうたちを始め、王都のギルマスターまで失う深刻な事態になりました。我々冒険者ギルドはとても大きな損害をこうむったのです。貴族の方々には大変迷惑をしております。」

ギルマスターは表情を変えることなく、貴族たちへ責任を転嫁てんかした。

そんなギルマスターに少しあきれながら言う。

「勝負は国王陛下が認めていることだ。それに我々は勝負を仕掛けられたがわだ。勝負を仕掛けられなければ、そもそも依頼もしていない。」

私は、そう反論しながらも…。

この勝負を受けることに決めた判断がそもそも失敗だった可能性が頭をよぎったのだった。


この勝負は、クラソー侯爵(かのじょ)の為になると思ったからこそ、私は受けることにしたのだ。

だが、これほど苦労することになるとは思ってもみなかった。

魔術師たちを過大評価していたのは、私の方だったのだろうか?

シタハノ伯爵領まで報酬に付いて来た事に喜んでしまって、判断を誤ったのか?

…いや、今更いまさらだな。勝負は既に始まっているのだ。

我々は、仕掛けられたこの勝負に勝たなければならないのだ。

そうとも。

勝負に勝つんだ。

オークキングを狩ってな。


決意をあらたにする私に、冒険者ギルドのギルドマスターが言う。

「次は人数を増やします。魔術師たちを信用できませんので。それと報酬の増額をお願いいたします。」

ん? 報酬の増額?

道中どうちゅう、魔術師たちが、冒険者たちよりも倍以上の報酬をもらっていた事をらしていたと聞いています。その上での魔術師たちのあの醜態しゅうたいです。むしろ、魔術師たちの倍以上の報酬を冒険者たちが受け取るのが当然でしょう。そうでなければ誰も納得しません。前回と同じ報酬で『あんな魔術師たち』と一緒にオークの集落の殲滅に向かえだなんて言っても、冒険者が集まる訳がありませんよ。」

うーむ。確かにな。

確かにそうなのだが、は魔術師ギルドにあるのだ。その報酬を我々が支払うのはおかしいだろう。

それに、道中どうちゅうで言わなくともよい報酬の話をらしたのは魔術師たちなのだ。

その所為せいで報酬を引き上げざるを得なくなったのなら、その責任は、当然、魔術師ギルドがうべきだ。

魔術師ギルドのレオルクに言う。

「冒険者たちへの報酬は、魔術師ギルドが支払え。何もせずに逃げた『魔術師でない者』たちの分の10日分の報酬を既に支払っているのだ。それも、冒険者よりも倍以上高い報酬を『ただ付いて来ただけで何もしなかった者たち』にな。そんな者たちを魔術師ギルドが派遣した所為せいで。既に支払っている報酬で十分に足りるだろう。」

レオルクは、「いや、そんな…。」とか言って反論の言葉を探しているが、私は、そんなレオルクに言う。

「それに、魔術師ギルドが派遣した『ただ付いて来ただけで何もしなかった者たち』が逃げ出した所為せいでオークキングを狩れなかったばかりか、私も命を落とすところだったのだぞ。その分の迷惑料まで考えれば、むしろ参加費を請求すべきかもしれんな。」

「参加費…?」

我々が”魔術師抜き”でオークキングを狩りに行く可能性が有る事に気付いて、レオルクは「いや、魔術師ギルドは」とかあわてて言う。

そんな彼に、さらに冒険者ギルドのギルドマスターが言う。

「報酬は先払いでくれ。勝負に勝っても、魔術師ギルドが存続できるか分からないのだからな。冒険者たちからの信用は既に無いし、魔術師たちの前回の醜態しゅうたい所為せいでこちらには死者も出ているのだ。彼らの遺族や仲間たちが、いかに魔術師が信用できない者たちなのかを話すのをめることなんて出来ないぞ。信用を失ったギルドが存続し続けるのは大変なことだぞ。」

オロオロするレオルクに、さらにギルドマスターが続ける。

「それと、ハイポーションをくれ。魔術師ギルドの醜態しゅうたい所為せいで出た怪我人だ、魔術師ギルドが責任を取れ。それに、治してやらないと冒険者が足りなくなる恐れもあるからな。それとも、”冒険者抜き”で行くか? こちらはそれでもかまわないぞ。」

「ぐぬぬぬ。」

そううなるレオルク。

魔術師が参加できない事も、冒険者が参加しない事も、どちらでも魔術師ギルドは困るのだ。

魔術師ギルドが大きな汚点を目立たない様にする為には、オークキングを狩る戦いに参加していないといけないのだからな。

仮に魔術師たちが活躍してオークキングを狩ったとしても、魔術師ギルドが存続し続けることが出来るのかは、また別問題だがな。

「…私の一存いちぞんでは決められない。」

そう言ったレオルクに私が言う。

「我々には時間が無い。こちらの条件が呑めないのならば”魔術師抜き”でやるだけだ。」

「いや、次は大丈夫だ! 醜態しゅうたいさらしたりしない! 確実に役に立つ!」

「信用できるかっ。最初からそうしておけば良かっただけの話だ!」

「ぐぬぬぬ。」

再びそううなるレオルクに、さらに言う。

「報酬の支払いは今日中に終えろ。いいな? 支払えなければ魔術師ギルドの建物を差し押さえる。」

「ええっ?!」

「魔術師ギルドが支払うべきものを支払うだけだ。それと今日中に支払いを終える為だ。我々には時間が無いのだからな。今日中に支払いを終えろ。異論は認めん。」

少し「ぐぬぬぬ。」とうなったレオルクは、小さな声で「………分かった。」と言った。


この後も少し必要な話し合いをして、最後に、重要な事を二人に言う。

「次も私が同行して指揮をする。それぞれリーダーには、どちらも私の指示に従うように徹底させろ。今度は勝手に逃げることは許さん。いいな?」

「はい。」

「はい…。」


報酬の話をこの場で続ける二人を残し、私は執務室に戻った。

オークキングを狩りに行く時に同行させる護衛を選んで、彼らに準備を頼んだ。

一息ひといき入れ、お茶を飲みながら、他にやるべき事を考える。

そして、魔術局にも依頼を出すことを思い付いた。

雇用主である領主の危機なのだ。魔術局にも手伝わせよう。

オークキングを狩る様な荒事あらごとに向いた者が居ないという話は前に聞いていたので、前回は依頼をしなかった。魔術師ギルドが妙にやる気だったしな。

だが、魔術局に役に立つ者がまったく居ないということも無いだろう。治癒魔術師を派遣してくれれば冒険者たちの助けになるだろうしな。

怪我人を回復させながら戦うことが出来れば、その分、オークキングを狩る確率が上がる事は間違い無いだろう。

どうも魔術師ギルドの連中は、オークどもを蹴散けちらす事しか頭にないみたいだからな。

そんな魔術師たちに期待するのは危険だ。冒険者たちが確実にオークキングを狩れる様に治癒魔術師を連れて行くべきだろう。

そうだな。そうしよう。

魔術局への依頼に部下を行かせて、私は他にやるべき事がないか考える。


次に私は、前回の反省をまえて、その対策を考えることにした。

前回の一番の失敗は大勢おおぜいの魔術師たちが逃げ出した事だった。

それについての対策は、冒険者ギルドが派遣する冒険者の人数を増やすそうだから、それでいいだろう。

その他の失敗は…。

斥候せっこうがオークどもを引き連れて戻って来た件があったな。

その所為せいで、オークの集落の手前で戦闘が始まってしまい、オークキングを狩るどころか姿を見る事さえ出来なかった。

『あのまま戦い続けていたら、オークキングの前に辿たどいた時には、オークキングを倒すだけの余力なんて残らない。無駄死にするだけだ。』と、撤退している途中でゴースに言われた。

その時は『言い訳をするな!』とゴースに言ったのだが、ゴースの判断が正しかったのかもしれない。

だが、逆に斥候せっこうに失敗させて、オークどもを引き連れて行かせれば、集落に居るオークどもの数を減らせるのではないだろうか?

うむ。いいかもしれないな。

そうする為にはどうすればいいのだろうか?

真っ直ぐにオークの集落に向かってはダメだな。進路を大きく曲げればいけるか?

オークの集落のかなり手前で斥候せっこうを出して、その後に進路を大きく曲げればよさそうだな。

よし。それでいこう。

そう決めて、もう二人、オークの集落への道案内役に私兵を追加で連れて行くことにした。


冒険者ギルドのギルドマスターと魔術師ギルドのレオルクが執務室にやって来た。

「報酬の話がだいたいまとまりました。差し押さえの相談をさせて下さい。」

そう冒険者ギルドのギルドマスターが言う。

…そうか。支払いきれなかったか。

二人から話を聞くと、魔術師ギルドの持つ寮の一棟ひとむねを差し押さえることになる様だ。

ああ、逃げ出した者たちの分が必要無くなるからか。

差し押さえた分の代金をその場で算出し、その7割ほどの金額を冒険者ギルドのギルドマスターに支払った。

これで報酬の話は解決だ。

それぞれのギルドに帰る二人に、私は改めて念を押す。

「それぞれリーダーには、どちらも私の指示に従う様に徹底させろ。確実にな。いいな?」

「はい。」

「はい…。」

二人が執務室から出て行くのを見送った。

そして、私は気合いを入れ直す。

よし。明日から再戦に向かうぞ。

次は、確実にオークキングを狩るのだ!


彼女の為に!


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