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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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17 勝負04 頭を抱える冒険者ギルドのギルドマスター

(地名や登場人物など)

クラソー侯爵領

 王都の西隣の領地。この領地に在る街の名はグラアソ。

 グラアソは魔術師を大勢おおぜい集めて『魔術師の街』をうたっている。

 『魔術師の街』が高騰したポーションの販売で大儲けをしていると思われて”勝負”を挑まれた。

ゴース

 オークキングの討伐(≒オークの集落の殲滅)に参加した冒険者たちのリーダー。


< グラアソの冒険者ギルドのギルドマスター視点 >


クラソー侯爵家の馬車が襲われたらしい。


その調査は衛兵の仕事なのだが、人手が足りないらしく冒険者ギルドに手伝いの依頼が出された。

気になったので、私はギルド職員を一人ひとり同行させることにした。



帰って来たギルド職員から話を聞く。

「三人殺されていました。現場には遺体も馬車も馬もそのまま残されていました。それと丸太も。やっている事は盗賊のソレでしたが、どう見ても盗賊の仕業しわざではありませんね。」

「そうか…。ご苦労だった。」

ねんため口止くちどめをしてから職員を下がらせ、一人になって考える。

まさか、また若い冒険者たちが盗賊まがいの事を仕出しでかしたのだろうか?

現場の状況を考えると、その可能性が高そうだ。

少し前に、『問題を起こしていた若い冒険者たちを始末した。』と、王都のギルドマスターから連絡があったばかりなのにな。

らしが居たのか?

いや、そうだとしたら、こんな目立つ事はしないな。

そうなると、別口べつくちか…。

…まぁ、どちらでもいいか。

実際に動くのは王都の連中だ。

王都のギルドマスターに連絡を入れておけばいいだろう。

私は、ギルドシステムを使って、王都のギルドマスターにこの件を伝えた。


犯人たちの情報を集める良い方法がないか考えてみる。

王都へと繋がる街道で起きた事件なのだからな。

実際に対処するのは王都の連中だとしても、この問題が長引ながびけば街に悪い影響が出てしまう。出来るだけ早く解決されるのが望ましいのだからな。

若い冒険者たちから話を聞いてみるか?

若い冒険者たちの間で噂が広まっていたりするかもしれないからな。

それに、ギルドマスターである私が若い冒険者たちの動向に興味を持っていると思われるだけでも、抑止効果が有るかもしれないしな。

うむ。そうしよう。


受付の者を一人呼んで、このギルドに出入りしている若い冒険者たちについて訊いた。

すると、昨日この街に来たばかりの若い冒険者たちのパーティーがあるらしい。

その者たちの事を訊いてみる。

「王都から来たそうで、『この街では仕事が沢山たくさん有るみたいで嬉しいです。』と言って、喜んでいましたよ。」

今は、この街から多くの冒険者が出払っているからな。

彼らが、引き受ける者が居なくなってしまった依頼をこなしてくれているのなら、こちらとしてもがたい。

その者たちに会って、少し話をしてみるか。

この街に来たばかりなら、顔合わせも出来てちょうどいいしな。

そうしよう。

「一度、その者たちと顔合わせをしておきたい。ギルドに来たら私のところに連れて来てくれ。」

「はい。分かりました。」

受付の者に頼んで、私はいつもの仕事に戻った。



彼らとは、その日のうちに会う事が出来た。

依頼をこなして戻って来たところを受付の者が捕まえて、私のところへ連れて来てくれた。

彼らは、ギルドマスターの執務室に連れて来られた事に緊張している様だ。

彼らに挨拶あいさつし、「この街に定住してくれると助かる。」なんて話をすると、彼らは素直に喜んだ。

その様子は、ごく普通の若者たちにしか見えなかった。

困っている事がないか訊くと、「ポーションが高い事と、こっちでも森にゴブリンが少ないらしくて、十分に稼げなさそうで不安に思っています。」と言われた。

困っている事は、みな同じだな。

何とかしてやりたい気持ちは有るが、その問題を解決できる手段なんて、ただのギルドマスターである私の手元には無い。

私は、苦笑にがわらいしながら、彼らにそう白状はくじょうするしかなかった。


緊張がほぐれてきた彼らに、あの件を訊く。

「若い冒険者たちの一部に、盗賊まがいの事を仕出しでかしている者が居るみたいなのだが、何か知っている事はないか?」

「「「「「!」」」」」

彼らが、また緊張したのが分かった。

この執務室に連れて来られた時よりも、さらに緊張している様に見える。

この状態はマズイな。何も話を聞けなくなってしまう。

「別にお前たちのことを疑っている訳ではないんだ。ただ、誘われたり、噂を聞いたり、そんな事が有ったりしないか話を聞きたくてな。」

そう言って、少しでも緊張をほぐそうとする。

だが、彼らは何も言おうとしない。

その様子は、彼らのリーダーが何か言うのを、他の者たちが待っているかの様に感じた。

…何か知っているな。

何を知っているのかは分からないが、何かを知っていて、どう答えようか考えている様だ。

「…こ、…声を掛けられた事は有る。」

ほお。

「声を掛けられたのは、いつ頃?」

「この街に来る時に。道で。」

「そいつの名前は知っているか?」

「いえ。知らな…、知りません。」

「そいつの特徴は何かないか?」

「…生意気なまいきな…、生意気なまいきなそうな顔をしていました。」

「そうか…。」

こいつらは何か知っていそうだ。

泳がせておくか?

それがいいかもしれんな。再び、接触してくる可能性も有るしな。

泳がせる事に決めたが、一応、おどしておく。おかしな事を仕出しでかさないように。

「ギルドに所属している者に盗賊の様な事をされてはギルドが困る。信用されなくなったら仕事の依頼が来なくなってしまうからな。だから、そういう奴らはひそかに処分されている。また声を掛けてくるかもしれないが、その時はギルドの職員に必ずしらせてくれ。」

「…はい。」

「今日はありがとう。」

そう礼を言って、彼らを丁重ていちょうに帰した。



さて。

彼らをどうするかな?

監視をずっと付けておけるほど、人員に余裕が有る訳ではない。

釘を刺したし、行動を注視しておけばいいか。

おかしなことを仕出しでかさなければ、それでいいのだしな。

取り敢えず、それでいいだろう。

一応、王都のギルドマスターには伝えておこう。

私は、再びギルドシステムを使って、王都のギルドマスターにこの追加情報を伝えたのだった。



翌朝。

朝の慌ただしい時間に、冒険者が一人、執務室に駆けこんで来た。

只事ただごとでない様子の彼から話を聞く。

疲れ切っていた彼から話を聞いた私は…。

私の想定を越える事態が森で起きた事を知って、頭を抱えることになった。


領主からの依頼でオークの集落の殲滅に向かっていた冒険者たちと魔術師たち。

彼らは、オークの集落の近くでオークどもと戦い始めたそうだ。

そして、戦い始めてすぐに、魔術師たちの多くが逃げ出したらしい。

その魔術師たちの裏切り行為によって、冒険者たちは苦しい戦闘を余儀よぎなくされたそうだ。

彼は、戦闘の途中で離脱してここまで来たので、その先の事は何も知らない。

だが、大きな被害が出ていたとしてもおかしくない状況だ。

彼から聞かされたその事態は、私の想定を大きく越えるものだった。


私は、彼らがオークキングの討伐を失敗する様に仕向けていた。

この依頼に、実力のおとる冒険者たちをてがったり、斥候せっこうに特別な任務を与えたりして。

今回の”勝負”で『魔術師の街』が負けるように仕向けるのは、この国のギルドマスター全員の総意だった。

冒険者ギルドの行動によって貴族たちの行う”勝負”の結果を左右できる事を確認する、とても重要な仕事だったのだ。

だからといって、冒険者たちに大きな被害が出てしまっては、我々冒険者ギルドとしても困る。

だから、斥候せっこうに特別な任務を与えてオークどもとの戦いを長引ながびかせる事で、魔術師たちが魔力切れを心配する程度まで疲弊ひへいさせて、オークキングの討伐を諦めさせる事を私は目論もくろんでいた。

だが、魔術師たちの多くが逃げ出した事で、冒険者たちが予想外の苦戦をいられる状況におちいってしまった。

その事はもちろん大問題なのだが、魔術師たちの裏切り行為によってこの後に起こるであろう事態もまた大問題だ。


『魔術師の街』がこの”勝負”に負けた後。

ポーションの価格高騰(こうとう)元凶げんきょうである魔術師ギルドを解体させるように、冒険者ギルドは働き掛ける予定だった。

魔術師ギルドを解体させればポーションの問題が解決に向かうだけでなく、冒険者と魔術師の関係が以前の状態に戻っていくだろうと思っていた。

『冒険者のパーティーには魔術師が必要不可欠』だと、冒険者たちも気付かされていたのだからな。

それなのに、冒険者たちと魔術師たちの関係をさらに悪化させる様な大事件が起こってしまった。

どうして、そんなことになった?

どうして、魔術師たちは逃げ出したんだ?!

くそう。

私は、起こってしまった想定外の事態に、ただ頭を抱えることしかできなかった。



その翌日。

オークの集落の殲滅に派遣していた冒険者たちが、へとへとになって帰って来た。

ギルド内で魔術師たちへの不満をぶちまけてあらぶるゴースを、職員に手伝ってもらいながら執務室まで引っ張って来た。

ソファーをすすめるも、いまだに立ったまま不満をぶちまけまくるゴース。

どうにもならなかったので、取り敢えず不満をぶちまけさせて、聞き取れるだけの情報を書き留めた。


たっぷりとわめいて落ち着いたゴースをソファーに座らせ、書き留めた内容を一つずつゴースに訊いて、森で起きた事を確認した。

ゴースの話によると…。

40人いた魔術師たちの内の30人が、オークとの戦闘が始まってすぐに逃げ出した。

援護の魔法の数が少なかったので、魔術師たちの半数以上は何もしていなかった様に感じた。

魔術師たちが逃げ出した事に気付いてすぐにオークの集落の殲滅を断念し、撤退した。

魔術師たちのリーダーは、『何で奴らが逃げ出したのか、まったく分からない。』と言っていた。

撤退の途中で12人が犠牲になり、生還した者の中にも重症者が数名居る。

「『勝手に撤退するな!』と領主の秘書のケインが文句を言っていたが、知ったことか!」

との事だった。

最後のやつは、後で文句を言われそうだな。

ゴースから「斥候せっこうの質が悪い!」と文句を言われたが、「オークに追われて気が動転どうてんしたんだろう。」、「前回の勝負で優秀な斥候せっこうが犠牲になった所為せいだ。」と言って、誤魔化ごまかした。

ゴースは、他にも私に色々と文句を言ってきたが、森で起きた事を知ることが出来たので、ねぎらって帰した。


静かになった執務室で考える。

魔術師ギルドには文句を言わねばならないな。

それとハイポーションを要求しよう。彼らの所為せいで出た怪我人だし、回復させてやらないと、また来るであろう領主からの依頼を受けさせる冒険者が足りなくなる恐れがあるからな。

冒険者が足らなくなって困るのは魔術師たちの方だ。

ハイポーションを寄越す事くらい、こばんだりはしないだろう。


今回は、オークの集落の殲滅を断念して撤退することになった。目論見もくろみ通りだったとは言えないが。

だが、勝負の期日までにはまだ日数が残っている。

もう一度行くように、また領主から依頼が来るのだろう。

まだ、彼らが必要としているオークキングを討伐できていないのだからな。

そして、今回の事で文句を言って来るのだろうな。

こちらの所為せいにして、タダで冒険者を派遣させる為に。

そう思うと、うんざりするな。


魔術師たちが役立たずだと判明した以上、オークキングの討伐に冒険者たちを派遣したくはない。

いたずらに犠牲者を出すだけの結果になりかねないのだからな。

今回は、戦闘が始まってすぐに撤退することになったから、かなりの人数の冒険者たちが生還した。だが、次もそうだとは限らない。

前回の勝負では、全滅しているのだからな。

『魔術師ギルドを信用できない。』と言えば、派遣させずに済むかな?

その程度の理由が貴族に通じる訳が無い。もう一度派遣することになるな。

次は、そう簡単には撤退させてもらえないだろう。

依頼主にはあとが無いし、魔術師たちは汚名おめいそそがなければならないのだからな。

どうしたものかな…。

うーむ。

………そうだ。

次は、死んでも困らない者たちを派遣しよう。

素行そこうの悪い冒険者なんて、いくらでも居るのだからな。

依頼に失敗したとしても、魔術師たちの所為せいに出来るのだ。

この機会に掃除そうじしてしまおう。

うん。そうだな。

そうしよう。


それと、あの若者たちのパーティーも派遣しよう。

怪しい者たちだし、領主の娘に接近しているという話もあるしな。

しばらくは泳がしておきたかったのだが、泳がしていた者たちが領主の娘を相手に問題でも起こしたらさすがにマズイ。

ほとんど”クロ”なのだから、この機会に死んでくれた方が助かるというものだ。

よし。


私は、そう方針を決めると、近隣の街のギルドマスターに連絡を取った。

彼らも喜んで冒険者を派遣してくれるだろう。

彼らだって、素行そこうの悪い冒険者なんて、いくらでも抱えているだろうしな。

それに…。

最初から彼らも共犯者なのだしな。

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