14 勝負01 『魔術師の街』サイド 出発
(登場人物)
初出の名前がやや多いので、主な登場人物についてここに書いておきます。
ケイン
クラソー侯爵の秘書で恋人。
今回の”勝負”の指揮をクラソー侯爵から任されている。
ゴース
雇われた冒険者たちのリーダー
ザイル
雇われた魔術師たちのリーダー
キース
ケインの部下
< ケイン視点 >
いよいよ今日から”勝負”が始まる。
私は、クラソー侯爵邸で冒険者たちのリーダーであるゴースと会い、これからの打ち合わせをする。
「ギルドマスターからオークの集落についての情報を貰った。ここグラアソから北西に3日ほど行った場所にオークキングが居る集落が在るそうだ。」
この情報は有り難い。私兵たちが情報を持ち帰れなかったからな。
3日の距離か…。思っていたよりも遠かったのだな。私兵たちが情報を持ち帰れなかった訳だ。
だが、ただ『オークキングを狩る』だけでは勝負に勝てるのか分からない。
相手側よりも、より大きなオークキングを狩らなければ勝負には勝てないのだからな。
「その集落に居るオークキングの大きさは?」
「”勝負”とやらに勝てる大きさなのかは分からない。相手が有ることだしな。だが、有望だとは思う。王都より西側には、あまり優秀な冒険者が居ないからな。」
そう言って少し自虐的に笑いながらゴースは話を続ける。
「こちらでオークキングを討伐したなんて話は、俺が冒険者になってから一度も聞いていない。オークキングが居るのなら、きっと大きく成長しているだろう。」
なるほど。
それに、ここから北西の位置にオークの集落が在るのなら、相手側よりも我々の方が距離が近い。
早く動いて、確実に狩ってしまうことにしよう。
「戦力は十分なのか?」
「ああ。前回の勝負の時とは違って今回は魔術師たちが大勢参加すると聞いているからな。『余裕だ。』って、ギルドマスターは言っていたぜ。」
そうか。それなら安心だな。
「部隊の指揮を任せたい。魔術師たちにはしっかりと後方から支援するように言っておく。」
「ああ、いいぜ。あいつらの下ではやりたくないからな。」
送り出す部隊の見送りと、魔術師たちのリーダーとも話をする為に屋敷を出た。
屋敷の前には、冒険者たちと魔術師たちが集まっている。
ローブを着た体の大きな男がこちらに近付いて来た。
「リーダーのザイルだ。俺たちに任せておけばオークごとき蹴散らしてやる。安心しな。」
大きな体と大きな態度でそう言った。
「ケインだ。こちらは冒険者たちのリーダーのゴース。部隊の指揮を執ってもらう。」
そう言ってゴースを紹介すると、ザイルの表情が変わった。
「…なに?」
「ゴースには部隊の指揮を執ってもらう。彼の指示に従ってくれ。」
「主力は我々だろうが! 俺が指揮を執る!」
「ああ?! 何言ってんだ、てめぇ!」
そう言って前に出ようとするゴースを手で制しながら、ザイルに言う。
「戦闘では冒険者たちが前衛で戦い、魔術師たちが後方から支援するのだろう。主力は冒険者たちなのだから彼らの中から指揮する者を指名するのは当然の事だろう?」
「何故、我々が冒険者の指示を聞かねばならんのだ! ふざけるな!」
そう言い放つザイルの態度に驚いた。
こちらは当たり前の事しか言っていないのだからな。
ザイルは『ふざけるな!』と言ったが、ふざけているのはザイルの方だろうに。
魔術師は、本当に頭のおかしな奴らだ。
ザイルを説得するが、まったくこちらの話を聞かない。
ゴースとザイルは、互いに「何故、あいつらの指示を聞かねばならないんだ! ふざけるな!」と言って、まったく話が纏まりそうにない。
いきなり、これか…。
これほどまでに冒険者たちと魔術師たちの仲が悪いとは思っていなかった。
これは想定外だ。
しかし、魔術師たちは、前衛を務める冒険者たちが居なければ能力を発揮できないというのに、どうしてこれほどの態度が取れるのだろう?
頭のおかしい奴らだと思ってはいたが、ここまで頭がおかしいとは思っていなかった。
この状態の彼らを、このまま行かせる訳にはいかない。
どちらも好き勝手に行動してしまうだろう。
そうなれば、オークの集落を殲滅させるどころではない。
協力させ、連携してオークどもに当たらなければ、オークの集落を殲滅させる事など出来ないだろうからな。
仕方が無い。
私が同行して、指揮を執らなければならないな。
尚も言い争う二人の間に割って入り、二人に言う。
「私が同行して指揮を執る! どちらも私の指示に従う様に!」
「「!」」
二人が何か言う前に、さらに言う。
「準備をして来る! 少し待て!」
二人を引き離してから屋敷に戻る。
どうしてこうなったんだ。クソッ。
腹を立てながら玄関に向かうと、後ろから「てめぇの所為で、依頼主に迷惑かけてんぞ。」、「何を他人の所為にしていやがる! てめぇがおかしな事を言うからだろうが!」なんて声が聞こえた。
もう一度、二人の元に戻り、二人に言う。
「ゴース、冒険者たちを連れて西門の前で待っていてくれ。ザイルたち魔術師たちはここで待て。」
「分かった。」
「ああ。」
ゴースが冒険者たちの元に向かうのを確認し、ザイルにもう一度ここで待つように言ってから、私は準備をする為に屋敷に戻った。
私兵三人に護衛兼荷物持ちとして同行する事を指示し、四人分の荷物の用意を頼む。
留守にしている間の事を考えながら、私は彼女の元に向かった。
ソファーでのんびりとお茶を楽しんでいた彼女に近付いて言う。
「奴らに同行しなければならなくなった。」
不機嫌な声になってしまうのは仕方が無い。
「どうしてあなたが?」
そう訊いてきた彼女に、思わず先ほどのやり取りの話をしてしまいそうになったが、それは思い留まる。聞かされて気分の良いものではないからな。
「…何の心配もいらない。オークキングを確実に狩って帰って来る。」
彼女にキスして、もう一度「何も心配いらない。」と言ってから、彼女の元を離れた。
呼び出した部下のキースと話しながら、廊下を歩く。
「オークキングを狩りに行く連中に同行しなければならなくなった。後を任せる。」
「…かしこまりました。」
キースは、驚いてはいるが無駄な事は言わずに、そう返事をした。
そんなキースに重要な仕事を任せる。
「勝負への協力者の名簿は、期日までに確実に大臣に提出する様に。王都の屋敷の方へ協力の申し出をする者も居るはずだから、向こうの執事には、向こうで名簿を作って大臣に提出させる様に伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
「協力者の届け出を怠ってしまったら、後でひどく揉めることになる。確実に間違い無く期日までに大臣に提出する様に。」
「はい。確実に、間違い無く、期日までに、大臣の元へ届け出ます。」
確認する様にキースはそう言った。
うむ。
私兵三人と合流して、玄関を出る。
「お気を付けて。」
「後を頼む。」
キースにそう返事をして、屋敷の前に屯している魔術師たちの元に向かう。
魔術師たちに声を掛け、西門に向かう。
西門までの間にザイルと話すが、「至高の存在である我々が、冒険者ごときの指示など聞けるか!」と、まったく聞く耳を持たなかった。
『至高の存在』とか言う割には、雇い主の指示通りに屋敷の前で待っていたのだがな。
御大層な事を言う割には”線引き”がおかしい気がするが、その事を指摘してへそを曲げられても面倒だ。
一応、雇い主の言う事を聞いてくれているのだから、それでいいだろう。
うっかり忘れていた”あの件”について、ザイルに訊く。
「グラストリィ公爵は?」
「これだけの人数が居るのだ。必要無い。」
「…そうか。」
自信満々に言うのだ。『グラストリィ公爵に協力を要請するまでもない。』という自負があるのだろう。
それに、変に地位の高い者に来られても、扱いに困るしな。
既に、想定外の問題が起きているのだ。
これ以上、気を遣う事が増えるのは勘弁してほしい。だから、居なくて幸いだ。
グラストリィ公爵については、頭の中から消し去った。
ザイルには、冒険者たちと揉め事を起こさないようにさらに念を押しておいた。
西門の前で冒険者たちと合流した。
彼らを引き連れて門を出て、我々は街道を西に向かった。




