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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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13 ナナシ、シルフィと一緒にダンジョンに行く02end


目が覚めた。

『知らない天井だ…。』

取り敢えず、”お約束”をこなしておきます。(うむうむ)

見上げた天井がテントの天井っぽかったので、ダンジョンに来ていた事をすぐに思い出した。


昨日からダンジョンに来ている。シルフィと一緒に。

持ち込んだベッドで快適に寝られたので、ダンジョンの中に居るとは思えません。

いつもと同様にシルフィが俺にべったりと抱き着いているし、時々『でへへへ。』とか『むふふふ。』とか言っているしね。

そんな、絶賛ぜっさん平常運転中なシルフィは放っておいて、この後の予定を考えます。


この後は、朝食を食べて、ダンジョンの中を適当に歩いて、ダーラムさんに回収してもらって、ダーラムさんと一緒に昼食を摂る予定になっている。

何も問題は無いな。

うっかり、お布団の誘惑に負けてしまって二度寝してしまいそうなのが、一番の問題の様な気がします。

ダンジョンの中でそんな心配をする人なんて、普通は居ないよね。

ベッドを持ち込んで来ている時点で、とっくに”普通”ではありませんが。

この件は、早速さっそく、心のたな仕舞しまっておきます。


起きる前に、寝ている間に何も問題が無かったか【多重思考さん】に確認する。

『一度、冒険者が気付かずに結界に近付いて来た事がありました。』

ほう。

それはどうしたのかな?

『立小便をしようとしたので、ピンポイントでアレしました。』

『『ピンポイントで』って、”何処どこ”に”なに”をしたのっ?!』

訊くのが怖いんですがっ!

『ナニを『もういい!』』

【多重思考さん】のセリフをさえぎった。

その先を聞かされるのが怖かったから。

詳しい内容を聞かされるのは怖いから訊かないけど、その後どうしたのかは、一応確認しておこう。

あまり、いや、かなり聞きたくないけど。

『…その後、どうしたの?』

『【ハイヒール】を掛けて、この場所がバレない様に【転移】で移動させておきました。』

治療したのならいいかな…。

【ヒール】でなく【ハイヒール】だった事に少しは思うところが無い訳ではありませんが、全部まとめて心のたなに直行です。


朝っぱらから少し疲れてしまったね。

このままベッドの中に居ると、マジで二度寝してしまいそうなので起きることにします。

俺に抱き着いて『デヘヘ』っているシルフィをがしつつ起こし、俺はトイレに向かいました。



朝食を済ませ、色々な物を【無限収納】に仕舞って、今日もお散歩します。ダンジョンの中を。

シルフィは、ニコニコ顔で俺の腕にべったりと抱き着いています。

そろそろ、何をしにダンジョンに来たのか忘れていそうです。(苦笑)


20階層へ降り、サクッとボス部屋まで行き、ここでもサクッとボスモンスターを始末します。

全部【多重思考さん】たちにしてもらったので、俺はただシルフィと一緒に立っていただけです。

楽ちんだね。

顔をポカーンとさせているシルフィを連れて、サクサクと次の階層に向かいます。(ボスモンスターェ…。)



途中で休憩をしながら、30階層まで降りて来た。

新しい階層で『さぁ、お散歩だ。』と、気持ちを切り替えつつお気楽に歩き始めたら、シルフィに言われた。

「…ナナシさん。とても早くないですか?」

「……………。」

そう言われれば、そうだね。

全50階層のこのダンジョンの、半分以上の深さまで来ちゃったからね。

早過ぎだよね。

「えーっと…。前回来て、階段の位置を知っていたからデスヨ。」

それっぽく聞こえそうな理由を言ってみた。

「…それなら納得ですね。」

納得してくれた様です。

ちょっとあせりました。(ふぅ)

気を取り直して、お散歩を再開します。



しばらくこの階層を歩いた。

そろそろ、お昼ご飯の時間だ。

歩きながら、空中に向かって言う。

「そろそろ、お昼ご飯かな?(棒読み)」

「そうですね。」

シルフィがそう返事をした時。

まわりの景色けしきが変わった。



ダーラムさんの居る部屋に転送された。

あらかじめ、ダーラムさんと打ち合わせをしていた通りです。

お昼ご飯を一緒に摂ることにしていたのでね。

今回は【転移】ではなく、ダンジョンの機能を使ってここに転送してもらいました。

【転移】でここにようとすると、その前に自分の体に【フライ】を掛けたり結界でおおう必要が有ったりして、めんどくさいのでね。

それはそれとして。

突然の出来事にシルフィが固まっている様子が、つかまれている腕を通して伝わって来ます。

固まっているシルフィに何の問題も無い事をアピールする為に、俺はダーラムさんに気楽きらく挨拶あいさつする。

「こんにちはー、ダーラムさん。」

「こんにちは。ナナシさん。」

ダーラムさんと気楽きらく挨拶あいさつした後、シルフィをダーラムさんに紹介する。

「このが妻のシルフィです。」

「初めまして、シルフィさん。ダーラムです。」

「は、初めまして…。シルフィ…で…す?」

シルフィは、そう挨拶あいさつを返しました。

でも、まだ状況に戸惑とまどっているご様子です。最後、疑問形になっちゃってるし。(苦笑)

やっぱりシルフィは、ダンジョンに何をしに来ていたのか忘れてしまっていた様ですね。

決して、シルフィに詳しい説明をしていなかった俺の所為せいではないはずです。

ちょっとは反省しなくもないけど、『気を抜き過ぎていたシルフィが悪い。』と、主張させていただきたいと思います。


王様から預かって来た手紙をダーラムさんに手渡す。

イスをすすめられたので座り、ダーラムさんが手紙を読み終わるのを待つ。

シルフィが、ダーラムさんから見えない場所で俺の足をポカポカと叩いていますが、俺は何も悪くないと思います。


「お手紙拝見(はいけん)いたしました。ご丁寧ていねいにありがとうございます。もしもの時は気にせずに霊薬れいやくをお使いくださいね、まだ有りますので。」

「お心遣こころづかいありがとうございます。陛下に代わり心よりお礼申し上げます。」

シルフィがそう返答した。

『おお、姫様っぽい。』とかちょっと思っけど、姫様だったね。

うっかり、忘れてなんてイマセンヨ?

王様の名代みょうだいとしてのつとめをたし、おまし顔で座るお姫様が、またダーラムさんから見えない場所で俺の足をポカポカとお叩きあそばされています。

『姫様っぽい。』とか思った事がバレたんですかね?

でも、どうして分かるんですかねぇ。

不思議だね。



お昼ご飯です。

テーブルの上に【無限収納】から料理を出していきます。皿ごと。

王宮の厨房ちゅうぼうで作ってもらった料理は、湯気ゆげを立てていて、とても美味おいしそうです。

【無限収納】さまさまだね。

「王宮の厨房ちゅうぼうで作ってもらった料理です。お召し上がりください。」

「ありがとうございます。王宮の料理なんて、とても楽しみです。」

そう笑顔で言って食べ始めるダーラムさん。

思わず、その様子をながめてしまう。

ダーラムさんは、グラム王国の建国にたずさわっていたおかただからね。

思うところがありそうだよね。

「とても美味しいです。(ニッコリ)」

一口食べたダーラムさんが、メッチャ良い笑顔でそう言った。

お気に召してもらえたみたいで、こちらも嬉しくなるね。

俺とシルフィも食べ始め、とてもなごやかなお食事となりました。



食後のお茶を楽しんだ後。

シルフィが、『ダーラム家』について、ダーラムさんに話し始めた。

「ダーラム様が行方不明になられた後、ご子息しそくが成人された時に『ダーラム家』が創設されました。」

「ご子息しそくは二代目国王につかえ、天寿てんじゅまっとうなさいました。」

「そのご子孫たちも国につかえていたのですが、いつの間にか王宮を去り、ダーラム家も無くなっていました。記録が残っていない為、詳しい事情は分かっていないのですが、どうやら権力闘争的なもので排除されてしまった様です。」

「今、大臣がそのあたりの経緯いきさつを調べておりますので、分かり次第しだい、またおうかがさせていただきます。」

そうなのか。

俺も初耳はつみみです。

まぁ俺は、この国の昔の出来事どころか、今のこの国の事にも興味が無いからね。(←おい)

「ありがとうございます。息子が天寿てんじゅまっとうした事が知れただけでも十分です。」

「その子孫たちの事にしても、今となっては随分ずいぶんと昔の話ですし、特に気にしていませんのでお気になさらず。」

ダーラムさんは、シルフィにそう言った。

既に息子さんが亡くなってから100年以上()っているし、会った事も無いその子孫については、あまり思ところは無いのかもしれないね。

あるいは、長い年月がってしまった事で、そういった感情が薄れてしまったとか…。

そんな事を考えて、俺はすこし悲しく感じた。


「お二人をご案内したい場所があるのですが、どうでしょうか?」

ダーラムさんにそう訊かれた。

ほう。それはどんな場所なんだろう?

俺がそんな事を考えている内に、シルフィが「ぜひ、お願いいたします。」と返事した。

沈んだ雰囲気を変えたかったのかもしれないね。

そんな空気を無視して、俺は、そこがどんな場所なのかを想像しながらワクワクしていますが。

ダーラムさんが席を立ったので、俺たちも席を立つ。

「じゃあ、お連れしますね。」

ダーラムさんがそう言うと、すぐにまわりの景色けしきが変わった。


ダーラムさんに連れて来られた場所は、俺たちが歩いたところと同様に薄暗くて広い空間だった。

どうやら、特別な空間とかではなく、ダンジョン内の何処どこかの階層に連れて来られたみたいだ。

ただ、俺とシルフィが歩いたところとは違い、ここには白い小さな花が一面に咲いていた。

「こちらです。」

そう言って歩き出したダーラムさんの後を、俺とシルフィは付いて行く。

ダーラムさんの向かう先には、こんもりと土が盛られているものが見える。

その上には縦長たてながの石らしき物がえられていて、その様子は、何となくおはかの様にも見えた。

ダーラムさんはその手前で立ち止まり、こちらに振り返って言う。

「ここが、グラムが亡くなった場所です。」

「!」

シルフィが息を飲む様子を感じた。

シルフィは、数歩進んでからひざを突き、手を組んで祈りを捧げた。

その様子に神聖なものを感じて、少しの間見入(みい)ってしまう。

慌てて俺も、シルフィにならって隣でひざを突き、祈りを捧げた。


祈りを終えて立ち上がったシルフィは、ダーラムさんに礼を言う。

「ありがとうございます。ここで祈りを捧げられた事を嬉しく思います。グラム王家の者として心から感謝いたします。」

感極かんきわまった様子で、ダーラムさんにそう言ったシルフィ。

その後ろで俺は、『そう言えば、シルフィはどうして俺に付いて来たんだったっけ?』と、そんなどうでもいい事を考えたのだった。(←いい場面が台無しだよ!)



元の部屋に戻り、お茶をする。

俺は、あの場所についてダーラムさんに訊く。冒険者たちに荒らされてしまうのが心配だったので。

「あの場所には結界が張ってあるので大丈夫です。それにあの場所へは、ダンジョンマスターである私しか行けませんから何の心配もありません。私もあの場所を冒険者たちに荒らされたくはないですからね。」

「次にダンジョンに来る時は、絶対にお父様も連れて来ます!(フンスッ)」

そう力強く言う、シルフィ。

さっきまでのお姫様っぽさが吹き飛んでしまっています。

心を揺さぶられて、地が出てしまったみたいです。

そんなシルフィに、ダーラムさんは笑顔で「楽しみしています。」と言った。

ダーラムさんは、シルフィのことを気に入ってくれたみたいだね。

その事を俺も嬉しく思う。

ダーラムさんがシルフィのことを気に入ったからと言っても、その事を俺が不快に思ったりなんてしませんよー。

俺はシルフィに愛されているので。(←ノロケかっ)


さて。

そろそろおいとましますかね。

その前に、ダーラムさんに渡さなければならない物を、忘れずに渡さないとね。

本とかお酒とかね。

残っている料理は、今は渡さない。

時々ダーラムさんに料理を振舞っているらしい【料理グループ】にお任せすることにしたので。

どうやらダーラムさんに料理を振舞って、その反応を見るのを楽しみにしているみたいです。

俺が王宮で食事をしている為、【料理グループ】が料理を作っても食べる人が居ないからね。

餌付えづけっぽい。』とか思わなくもないけど、当のダーラムさんが喜んでくれているそうだから、それでいいよね。

本とお酒をテーブルの上に出して、ダーラムさんに渡す。

お酒の方に、強い関心を示している事が丸わかりです。

まぁ、本の方は、一度渡している物だからね。

それだけが理由ではなさそうな雰囲気が、少しだけ気掛かりではありますがっ。


これで、ここでやる事はすべて終わったね。

「ぢゃあ、今回はこれで失礼しますね。」

「はい。今回はシルフィさんにお会いできて嬉しかったです。」

「私もダーラム様にお会いできて光栄でした。次は陛下と一緒におうかがいいたします。」

「次回、会える日を楽しみにしています。」

そう笑顔で言ったダーラムさんと別れ、ダンジョンの出口に転送してもらった。


ダンジョンの出口に来た。

目の前に、突然、明るい街中まちなか景色けしきが現れた事に、少し驚く。

ここは、ボス部屋に現れる転移魔法陣で飛ばされる、ダンジョンの出口のはずだ。多分たぶん

ここを利用するのも初めてだから、実はよく分かっていません。(てへ)

あとつかえるといけないので、取り敢えず、この場を離れよう。

少し離れて振り返ると、出口から少し離れた場所に、昨日入ったダンジョンの入り口が見えた。

自分の居る場所が分かって、安心した。

ふぅ。


「それぢゃあ、これからかくに行くよ。」

シルフィにそう言うと、『へ?』って顔をした。

シルフィへの説明は後回しにして、俺はサッサとかくに【転移】した。


かくに来た。

シルフィがここに来るのは二回目だね。

いまだに『へ?』って顔をしているシルフィに説明する。

「何日かここで過ごすよ。あまり容易よういにダーラムさんに会いに行けると分かってしまうのはよくないから。」

「たった二日でダーラムさんのところに行けると分かってしまったら、霊薬れいやくを欲しがる人が殺到さっとうしかねないからね。だから、何日かここで過ごします。いいね?」

「はい…。」

何だか反応がにぶいシルフィです。

ちゃんと理解してくれているのか不安になります。

まぁ、王宮に帰るまで何日か有るから、その間にまた口止めすることにしよう。


さっきまでダーラムさんのところでお茶していたので、ここでまたお茶をする訳にもいかない。

このかくで何日か過ごすことになるのだから、このかくの中をシルフィに見せることにしよう。

「このかくの中を案内するね。」


そう言って俺は、シルフィを連れてかくの中を歩き始めた。


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