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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十四章 異世界生活編09 魔術師の街の騒動 後編 <勝負>
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12 ナナシ、シルフィと一緒にダンジョンに行く01


ダンジョンに行くように頼まれてから三日後。

ダンジョンの入り口に来ました。

シルフィと二人で。


ここまで来るまでが長かった…。

一人でダーラムさんのところへ行くのなら楽だったんだけど、シルフィと一緒に行く事になってしまったので、その準備が色々と必要になってしまったからね。

一番時間が掛かったのは、シルフィのブーツを作る事だったかな。

ダンジョンに行く様なブーツなんて、シルフィは持っていなかったからね。

まぁ、ブーツだけでなく、服が一揃ひとそろい必要になったんですが。

俺のぶんもついでに作ってもらったので、全身おそろいです。ブーツも、冒険者っぽい服装も、ローブもね。(てへ)

作ってもらった物の数を改めて考えると、むしろ三日なら早いくらいだね。

きっと、靴屋さんとか被服部ひふくぶとかは、相当そうとう忙しかったことだろう。

採寸さいすんが無かった事は残念だった。(←何度目だよ)

他にも、王宮の厨房ちゅうぼうで料理を作ってもらったり、テーブルやイスやベッドなんかを用意してもらったり、ベッドが入る大きなテントを用意してもらったりした。

その大きなテントの組み立て方を教わっている時に『他にもトイレの分のテントも必要だなぁ。』と思ったら、【製作グループ】が『トイレを作っちゃいましょう。』とか『洗面所も欲しいですね。』とか言い出したので、トイレ用にまた蝶番ちょうつがいやらドアノブなどをメイドさんに頼む事になったりもした。

それにしても、王宮でこんなに蝶番ちょうつがいを頼む奴なんて今まで居なかっただろうね。(苦笑)

それと、前に大臣に用意してもらった本を既にダーラムさんに渡してしまっていたので、打ち合わせをする為にダーラムさんに会いに行ったついでにそれらを一旦回収したり、差し入れるお酒を市場に買いに行ったり、『市場に来たついでに食材を仕入れておきましょう。』とか【料理グループ】に言われて食材を沢山たくさん買わされたりと、本当に色々とやる事が有って、ここに来るまでで既にかなり疲れました。

一人で行くんだったら、特に何の準備も必要無く、コンビニに行くくらいの気楽さで行けたのにね。

秘密を守るのも大変です。

やれやれだね。



さて。

これからダンジョンに入ります。

入り口から入るのは初めてです。

既に攻略しているのにね。ダンジョンに入らない内に。

改めて言葉にしても、やっぱり意味不明です。

不思議ダネー。(何かを諦めた目)

気にしないのが一番よさそうだから、この件は心のたな仕舞しまっておきます。

気持ちを切り替え、俺の腕にべったりとしているシルフィと一緒にダンジョンに入ります。


ダンジョンに入った。

やや暗い、土の地面のとても広い空間が広がっている。

「「うわぁ。」」

二人して、そんな声を上げた。

初めて来たシルフィと同じ反応をしてしまうのはおかしいんだけど、シルフィはその事には気付いていないご様子です。

キョロキョロするシルフィを連れて、ダンジョンの中をサクサクと歩きます。


冒険者たちがゴブリンなんかと戦っているのが、ポツリポツリと見える。

それらをチラチラ見ながらサクサクと歩いて行く。

こちらに近付いて来そうなゴブリンなんかは転移魔法で遠くにポイッてしているので、戦闘になる事はありません。

それ以前に、【隠蔽いんぺい】とか【侵入不可】とか【人除ひとよけ】なんかの結界を張っているので、こちらに気付いて近寄って来る魔物も人も居ません。

気楽きらくなお散歩とたいして変わらないね。ダンジョンの中だけど。

少しお散歩気分を味わってから、下の階層に繋がる階段の近くまで転移魔法で移動して、二階層目に向かう。

階段を降りる時、壁とかを興味深そうにながめるシルフィと同じ反応をここでもしてしまいましたが、この件も心のたなに仕舞って、気にしない事にしました。



サクサクと進んで五階層目まで来た。

人があまり来なさそうな場所に転移魔法で移動して、ここで休憩する。

ゴーレムに、ソファーを出す場所の地面をならしてもらっている間に、【無限収納】からトイレを出して、トイレを済ませる。

ソファーとテーブルを出し、紅茶の入ったポットやらカップやらを出して、シルフィと一緒にお茶します。

興奮気味なシルフィと雑談などしながら、視界に入りそうな魔物たちは【多重思考さん】たちに転移魔法で遠くにポイッてしてもらう。

視界に入りそうな冒険者たちは【不可視】の結界でおおってしまい、これも視界に入らない様にしてもらう。

こうして、誰にも邪魔されずにのんびりとお茶を楽しみました。

『ダンジョンの中で何してるんだろうなー。』とか思わないでもないですが、気にしたら負けだと思います。

この件も、心のたなへ仕舞ってしまいます。



休憩を終えて片付けをして、出発です。

俺の腕にべったりとしているシルフィと一緒にのんびりと歩きます。

既に、気分はただのお散歩です。

「デートみたいですね。(ニッコリ)」

シルフィがそう言います。

シルフィの中では、腕を組んで歩いているこの状態は”デート”になる様です。

歩いている場所はダンジョンの中なのにね。

まぁ、どうでもいいか。

取り敢えず、「そだねー。」とシルフィに適当に返事をしつつ、のんびりと歩きます。


『あの四人組がこの階層に居ます。』

のんびりと歩いていたら、頭の中で【多重思考さん】にそう言われた。

そう言われたのだが、『あの四人組』とやらに思い当たる人たちがいない。

はて? 誰だろう?

王都でからんで来た冒険者とかかな?

『誰のことだろう?』と思い出そうとしていたら、『盗賊のところにとらわれていた少年四人組です。』と、教えてくれた。

ああ、あれか…。

王都に来る前に盗賊のところから助けた人たちの中に居た、冒険者の少年四人組だね。

元気にしていたみたいだね。

まぁ、(性格が)たくましい少年たちだったから、心配はしていなかったけど。

『心配していなかった』と言うよりは、『すっかり忘れていた』と言うか、『どうでもいい』って思っていただけですが。

その少年たちは、今、どういう状況なのかな?

『居ます。』としか言われなかったからきっと無事なんだろうけど、もうちょっと説明プリーズ。

『今は移動中ですね。特に怪我はしていない様です。』

そうか。それなら一安心。

まぁ、まだ浅い階層だからね。そうそう怪我はしないだろう。

彼らに付きまとわれても迷惑だから、関わらない様に転移魔法で追い越しました。



お散歩、時々【転移】で、サクサクとダンジョンの中を進みます。

そして、10階層のボス部屋の前まで来ました。

時間を調整しながら来たので、ボス部屋の前で待っている人は誰も居ません。

誰にも見られない内に、ササっとボス部屋を通過したいと思います。

普通にこの先の階層に行こうとするとボス部屋を通過しないといけないので、ちゃんとここを通って行きます。

ですが、シルフィにグロいものを見せたくないので、サクッと片付けてしまいます。

ササっとボス部屋に入った。

部屋の奥に現れつつあるボスモンスターを【不可視】の結界でおおい、【風刃ふうじん】できざんでサクッと倒しました。【多重思考さん】が。

シルフィが部屋の中をキョロキョロしています。

何が起きているのか理解できていないご様子ですが、どうでもいいのです。

現れた階段を降りて次の階層に向かいます。

ボスモンスターがどんな魔物だったのかすら分かりませんでしたが、どうでもいい事です。(ボスモンスターェ…。)



休憩と昼食をはさみつつ、サクサクと19階層まで来ました。

今日は、この階層でおとまりです。

人があまり来なさそうな場所に転移魔法で移動し、準備を始める。

ず、【無限収納】からトイレを出し、シルフィに使ってもらっている間に【多重思考さん】たちにお願いして、ソファーやらベッドやらを置く為に地面をならしてもらいます。

ゴーレムたちが地面の盛り上がった場所をツルハシやらスコップやらを使ってならしているのをながめていると、ゴーレムの後ろを『重いコンダラ』っぽいのが自走しているのが見えた。

…何だ? あれ。

休憩の時には居なかったと思うんだが…。

頭の中で【多重思考さん】に訊く。

『何あれ?』

『あれは、”重いコンダラ”型ゴーレムです。』

『あれもゴーレムかよっ。しかも『”重いコンダラ”型』って…。何でもアリかっ。』

『何でもアリです。(しれっ)』

そーかー、何でもアリなのかー。

前の世界で言うところの機械みたいなもんだもんなー。【製作グループ】の作るゴーレムたちはー。

『穴()けゴーレム』とか『旋盤せんばんゴーレム』なんて物も作っていたし。

でも、こんなヘンテコなゴーレムばかり作り出してしまっていいのかな?

視線の先でゴロゴロと転がっている”重いコンダラ”型ゴーレムは、ただ重そうな円筒形の物体が転がっている様にしか見えません。

『ゴーレムが動いている』と言うよりは『怪奇現象』っぽくて、何とも言えない気分になります。

そんな俺に【多重思考さん】がお気楽に言う。

『広い面積をならす時に使うと便利ですよ。道路工事なんかに使うとはかどりまくります。』

『やらないからねっ。道路工事なんて!』

やらないよね?

フラグではないと信じています。


地面をならし終わった一画いっかくに、ソファーが置かれた。

そのソファーに座って、引き続きゴーレムたちの作業をながめる。

一通ひととおり地面がならされた。

食事をする為のテーブルやイスが置かれ、別の場所ではゴーレムたちにより大きいテントが張られ、その中にベッドが置かれて、おとまりの準備が整った。

その様子に『うむうむ。』と、一人満足する。

ふと、『シルフィはどうしたのかな?』と思って、トイレの方を見た。

見ると、トイレの前で立ち尽くしているシルフィの姿がそこに在りました。

ダンジョンの中とは思えない異様な光景(←自分で言うな)に驚いていらっしゃるご様子です。

『ニーナだったら、きっと驚かなかっただろううなー。』とか、チラリと思った。

ニーナは色々と慣れていたからね。(←それは慣れてはいけないヤツです)


シルフィがフラフラとやって来て、俺の隣に座った。

そして、「さすがナナシさんですね…。」と、少し困惑こんわくにじませつつそう言いました。

シルフィも慣れつつあるご様子です。(←それは慣れてはいけないヤツです。(さっきぶり二回目))


少しの間、ソファーでくつろいだ。

シルフィが、何やら心の整理が出来ていらっしゃらないご様子でしたので。

きっと、心のたなに色々と仕舞い込んでいたのでしょう。(←他人事ひとごとみたいに言うな)

シルフィが落ち着いた後、テーブルに移動して夕食にします。

【無限収納】から王宮の厨房で作ってもらった料理を取り出して、二人で食べます。

味わいながら料理を食べていたら、ふと、『すっかり王宮の料理にも食べ慣れてきたなぁ。』とか、どうでもいい事を考えた。

ダンジョンで考える様な事ではないのですが、この場所にはツッコミきれない物ばかりが在るので、もうどうでもいいや。(何かを諦めた目)


夕食後。

テーブルを片付けて、ソファーの前に焚火たきびおこす。

焚火たきびながめて、二人でのんびりします。

焚火たきびながめていると、気分が落ち着くよね。

気分は、すっかりキャンプです。

一応、ダンジョンの中だという事は憶えているけど、もう本当に色々とどうでもいいのです。


しばらくのんびりした後、寝巻ねまきに着替えてベッドに入ります。

シルフィは俺にべったりと抱き着いて、『むふー。』とか言っています。

そんな、シルフィのいつもと同じご様子を見て、王宮に帰った後、ダンジョンの様子を訊かれたシルフィがどう答えるのか、少し心配になりました。

ダンジョンらしいことなんて、特に何もしていないからね。

ですが、もう色々とアレなので、本当にどうでもいいやー。

どうでもいい物は、すべて心のたなへ直行です。


今日だけで、心のたながかなりいっぱいになってしまった気がします。

こいつらは、このまま消し去ってしまいましょう。

『希望』が残っている訳でもないので、消し去ってしまっても誰も困らないのです。


心のたなをスッキリさせて、眠りに就きます。

おやすみなさい。

ぐぅ。


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